The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




屈んだままで耳を澄ませていた。
壁の絵のない絵が、また冷やかし笑いする声と、隅のクズ籠がふくろうの糞をコホッと吐き出す音しか聞こえなくなった。
ハリーは身体を起こして振り返った。
ハーマイオニーとヘドウィグはもういなかった。
ハリーはゆっくりとベッドに戻り、腰掛けて、見るともなく洋箪笥の足下を見た。

5年生になると監督生が選ばれることを、ハリーはすっかり忘れていた。
退学になるかもしれないと心配するあまり、バッジが何人かの生徒に送られてくることを考える余裕はなかった。
もし、そのことをハリーが覚えていたなら……そのことを考えたとしたなら何を期待しただろうか?

こんなはずじゃない。
頭の中で、正直な声が小声で言った。
ハリーは顔をしかめ、両手で顔を覆った。自分に嘘はつけない。
監督生のバッジが誰かに送られてくると知っていたら、自分のところに来ると期待したはずだ。ロンのところじゃない。
僕はドラコ・マルフォイとおんなじ威張り屋なんだろうか?
自分が他のみんなより優れていると思っているんだろうか?
本当に僕は、ロンより優れていると考えているんだろうか?

違う、と小さな声が抵抗した。
本当に違うのか?
ハリーは恐る恐る自分の心をまさぐった。

「僕はクィディッチではより優れている」

声が言った。

「だけど、僕は、ほかのことでは何も優れてはいない」

それは絶対間違いないと、ハリーは思った。
自分はどの科目でもロンより優れてはいない。
だけど、それ以外では?
ハリー、サクヤ、ロン、ハーマイオニーの4人で、ホグワーツ入学以来、いろいろ冒険をした。
退学よりもっと危険な目にも遭った。

そう、ロンもハーマイオニーもたいてい僕やサクヤと一緒だった。
ハリーの頭の中の声が言った。

だけど、いつも一緒だったわけじゃない。
ハリーは自分に言い返した。
あの2人がクィレルと戦ったわけじゃない。
リドルやバジリスクと戦いもしなかった。
シリウスが逃亡したあの晩、吸魂鬼たちを追い払ったのもあの2人じゃない。
ヴォルデモートが蘇ったあの晩、2人は僕と一緒に墓場にいたわけじゃない……。

こんな扱いは不当だという思いが込み上げてきた。
ここに到着した晩に突き上げてきた思いと同じだった。
僕たちのほうが絶対いろいろやってきた。
ハリーは煮えくり返る思いだった。2人よりも僕とサクヤのほうがいろいろ成し遂げたんだ!

だけど、たぶん、小さな公平な声が言った。
たぶんダンブルドアは、幾多の危険な状況に首を突っ込んだからといって、それで監督生を選ぶわけじゃない……ほかの理由で選ぶのかもしれない……ロンは僕の持っていない何かを持っていて、ハーマイオニーはサクヤの持っていない何かを持っていて……。

ハリーは目を開け、指の間から洋箪笥の猫足形の脚を見つめ、フレッドの言ったことを思い出していた。

「正気でロンを監督生にするやつぁいないぜ……」

ハリーはプッと吹き出した。
そのすぐあとで自分がいやになった。
監督生バッジをくれと、ロンがダンブルドアに頼んだわけじゃない。ロンが悪いわけじゃない。
ロンの一番の親友の僕が、自分がバッジをもらえなかったからと言って拗ねたりするのか?
双子と一緒になって、ロンの背後で笑うのか?
ロンが初めて何かひとつハリーに勝ったというのに、その気持ちに水を注す気か?
サクヤはきっと、ハーマイオニーがバッジをもらったことを、心の底から喜び、祝ったに違いないのに?
ハリーには確信があった。

ちょうどそのとき、階段を戻ってくるロンの足音が聞こえた。
ハリーは立ち上がって眼鏡を掛け直し、顔に笑いを貼りつけた。
ロンがドアから弾むように入ってきた。

「ちょうど間に合った!」

ロンがうれしそうに言った。

「できればクリーンスイープを買うってさ」

「かっこいい」

ハリーが言った。
自分の声が変に上ずっていないのでほっとした。

「おい――ロン――おめでとっ」

ロンの顔から笑いが消えていった。

「僕だなんて、考えたことなかった!」

ロンが首を振り振り言った。

「僕、君だと思ってた!」

「いーや、僕はあんまりいろいろトラブルを起こしすぎた」

ハリーはフレッドの言葉を繰り返した。

「うん」

ロンが言った。

「うん、そうだな……でもサクヤとハーマイオニーなら、どっちが選ばれるか分からなかったな。
ハーマイオニーだったか……僕と、ハーマイオニーか……さあ、荷造りしちまおうぜ、な?」

なんとも奇妙なことに、ここに到着して以来、2人の持ち物が勝手に散らばってしまったようだった。
屋敷のあちこちから、本やら持ち物やらを掻き集めて学校用のトランクに戻すのに、ほとんど午後一杯かかった。
ロンが監督生バッジを持ってそわそわしているのに、ハリーは気づいた。
はじめは自分のベッド脇のテーブルの上に置き、それからジーンズのポケットに入れ、またそれを取り出して、黒の上で赤色が映えるかどうか確かめるかのように、畳んだロープの上に置いた。
フレッドとジョージがやってきて、「永久粘着術」でバッジをロンの額に貼りつけてやろうかと申し出たとき、ロンはやっと、バッジを栗色のソックスにそっと包んでトランクに入れ、鍵を掛けた。

ウィーズリーおばさんは6時ごろに、教科書をどっさり抱えてダイアゴン横丁から帰ってきた。
厚い渋紙に包まれた長い包みを、ロンが待ちきれないように呻き声をあげて奪い取った。

「いまは包みを開けないで。みんなが夕食に来ますからね。
さあ、下に来てちょうだい」

おばさんが言った。
しかし、おばさんの姿が見えなくなるや否や、ロンは夢中で包み紙を破り、満面恍惚の表情で、新品の箒を隅から隅まで舐めるように眺めた。

地下には、夕食のご馳走がぎっしりのテーブルの上に、ウィーズリーおばさんが掲げた真紅の横断幕があった。

おめでとう
ロン、ハーマイオニー
新しい監督生


おばさんは、ハリーの見るかぎり、この夏休み一番の上機嫌だった。

「テーブルに着いて食べるのじゃなくて、立食パーティーはどうかと思って」

ハリー、ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージ、ジニーが厨房に入ると、おばさんが言った。

「お父さまもビルも来ますよ、ロン。
2人にふくろうを送ったら、それはそれは大喜びだったわ」

おばさんはにっこりした。フレッドはやれやれという顔をした。
シリウス、ルーピン、トンクス、キングズリー・シャックルボルトはもう来ていたし、マッド-アイ・ムーディも、ハリーがバタービールを手に取って間もなく、コツッコツッと現れた。

「まあ、アラスター、いらしてよかったわ」

マッド-アイが旅行用マントを肩から振り落とすように脱ぐと、ウィーズリーおばさんが朗らかに言った。

「ずっと前から、お願いしたいことがあったの――客間の書き物机を見て、中に何がいるか教えてくださらない?
とんでもないものが入っているといけないと思って、開けなかったの」

「引き受けた、モリー……」

ムーディの鮮やかな明るいブルーの目が、ぐるりと上を向き、厨房の天井を通過してその上を凝視した。

「客間……っと」

マッド-アイが唸り、瞳孔が細くなった。

「隅の机か?うん、なるほど……。
ああ、まね妖怪だな……モリー、わしが上に行って片づけようか?」

「いえ、いえ、あとで私がやりますよ」

ウィーズリーおばさんがにっこりした。

「お飲み物でもどうぞ。実はちょっとしたお祝いなの」

おばさんは真紅の横断幕を示した。

「兄弟で4番目の監督生よ!」

おばさんは、ロンの髪をくしゃくしゃっと撫でながら、うれしそうに言った。

「監督生、む?」

ムーディが唸った。
普通の目がロンに向き、魔法の目はぐるりと回って頭の横を見た。
ハリーはその目が自分を見ているような落ち着かない気分になって、シリウスとルーピンのほうに移動した。

「うむ。めでたい」

ムーディは普通の目でロンをじろじろ見たまま言った。

「権威ある者は常にトラブルを引き寄せる。
しかし、ダンブルドアはおまえが大概の呪いに耐えることができると考えたのだろうて。
さもなくば、おまえを任命したりはせんからな……」

ロンはそういう考え方を聞いてぎょっとした顔をしたが、そのとき父親と長兄が到着したので、何も答えずにすんだ。
ウィーズリーおばさんは上機嫌で、2人がマンダンガスを連れてきたのに文句も言わなかった。
マンダンガスは長いオーバーを着ていて、それがあちこち変なところで奇妙に膨らんでいた。
オーバーを脱いでムーディの旅行マントのところに掛けたらどうかという申し出を、マンダンガスは断った。




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