The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
後ろのドアが前よりもう少し広めに開き、ウィーズリーおばさんが、洗濯し立てのローブを山のように抱えて後ろ向きに入ってきた。
「ジニーが、教科書リストがやっと届いたって言ってたわ」
おばさんはベッドのほうに洗濯物を運び、ローブを2つの山に選り分けながら、みんなの封筒にぐるりと目を走らせた。
「みんな、封筒を私にちょうだい。
あなたたちが荷造りしている間に、ダイアゴン横丁で教科書を買ってきてあげましょう。
ロン、あなたのパジャマも買わなきゃ。全部20cm近く短くなっちゃって。
おまえったら、なんて背が伸びるのが早いの……どんな色がいい?」
「赤と金にすればいい。バッジに似合う」
ジョージがニヤニヤした。
「何に似合うって?」
ウィーズリーおばさんは、栗色のソックスを丸めてロンの洗濯物の山に載せながら、気にも止めずに聞き返した。
「バッジだよ」
いやなことは早くすませてしまおうという雰囲気でフレッドが言った。
「新品ピッカピカの素敵な
監督生バッジさ」
フレッドの言葉が、パジャマのことでいっぱいのおばさんの頭を貫くのにちょっと時間がかかった。
「ロンの……でも……ロン、まさかおまえ……?」
ロンがバッジを掲げた。
ウィーズリーおばさんは、ハーマイオニーと同じような悲鳴をあげた。
「信じられない!信じられないわ!
ああ、ロン、なんてすばらしい!監督生!
これで子どもたち全員だわ!」
「俺とフレッドはなんなんだよ。お隣さんかい?」
おばさんがジョージを押し退け、末息子を抱き締めたとき、ジョージがふて腐れて言った。
「お父さまがお聞きになったら!
ロン、母さんは鼻が高いわ。なんて素敵な知らせでしょう。
おまえもビルやパーシーのように、首席になるかもしれないわ。これが第一歩よ!
ああ、こんな心配事だらけのときに、なんていいことが!
母さんはうれしいわ。ああ、
ロニーちゃん――」
おばさんの後ろで、フレッドとジョージがオエッと吐くまねをしていたが、おばさんはさっぱり気づかず、ロンの首にしっかり両腕を回して顔中にキスしていた。
ロンの顔はバッジよりも鮮やかな赤に染まった。
「ママ……やめて……ママ、落ち着いてよ……」
ロンは母親を押し退けようとしながら、モゴモゴ言った。
おばさんはロンを放すと、息を弾ませた。
「さあ、何にしましょう?
パーシーにはふくろうをあげたわ。でもおまえはもう1羽持ってるしね」
「な、何のこと?」
ロンは自分の耳がとても信じられないという顔をした。
「ご褒美をあげなくちゃ!」
ウィーズリーおばさんがかわいくて堪らないように言った。
「素敵な新しいドレスローブなんかどうかしら?」
「僕たちがもう買ってやったよ」
そんな気前のいいことをしたのを心から後悔しているという顔で、フレッドが無念そうに言った。
「じゃ、新しい大鍋かな。チャーリーのお古は錆びて穴が空いてきたし。
それとも、新しいネズミなんか。スキャバーズのことかわいがっていたし――」
「ママ」
ロンが期待を込めて聞いた。
「新しい箒、だめ?」
ウィーズリーおばさんの顔が少し曇った。箒は高価なのだ。
「そんなに高級じゃなくていい!」
ロンが急いでつけ足した。
「ただ――ただ、一度ぐらい新しいのが……」
おばさんはちょっと迷っていたが、にっこりした。
「
もちろんいいですとも……さあ、箒も買うとなると、もう行かなくちゃ。
みんな、またあとでね……ロニー坊やが監督生!みんな、ちゃんとトランクに詰めるんですよ……監督生……ああ、私、どうしていいやら!」
おばさんはロンの頬にもう一度キスして、大きく鼻を啜り、興奮して部屋を出ていった。
フレッドとジョージが顔を見合わせた。
「僕たちも君にキスしなくていいかい、ロン?」
フレッドがいかにも心配そうな作り声で言った。
「跪いてお辞儀してもいいぜ」
ジョージが言った。
「バカ、やめろよ」
ロンが2人を睨んだ。
「さもないと?」
フレッドの顔に、悪戯っぽいニヤリが広がった。
「罰則を与えるかい?」
「やらせてみたいねぇ」
ジョージが鼻先で笑った。
「気をつけないと、ロンは本当にそうできるんだから!」
ハーマイオニーが怒ったように言った。
フレッドとジョージはゲラゲラ笑い出し、ロンは「やめてくれよ、ハーマイオニー」とモゴモゴ言った。
「ジョージ、俺たち、今後気をつけないとな」
フレッドが震えるふりをした。
「この2人が我々にうるさくつきまとうとなると……」
「ああ、我らが規則破りの日々もついに終わりか」
ジョージが頭を振り振り言った。
そして大きな
バシッという音とともに、2人は「姿くらまし」した。
「あの二人ったら!」
ハーマイオニーが天井を睨んで怒ったように言った。
天井を通して、今度は上の部屋から、フレッドとジョージが大笑いしているのが聞こえてきた。
「あの2人のことは、ロン、気にしないのよ。妬っかんでるだけなんだから!」
「そうじゃないと思うな」
ロンも天井を見上げながら、違うよという顔をした。
「あの2人、監督生になるのはアホだけだって、いつも言ってた……でも」
ロンはうれしそうにしゃべり続けた。
「あの2人は新しい箒を持ったことなんかないんだから!
ママと一緒に行って選べるといいのに……ニンバスは絶対買えないだろうけど、新型のクリーンスイープが出てるんだ。
あれだといいな……うん、僕、ママのところに行って、クリーンスイープがいいって言ってくる。ママに知らせておいたほうが……」
ロンが部屋を飛び出し、ハリーとハーマイオニーだけが取り残された。
なぜか、ハリーは、ハーマイオニーのほうを見たくなかった。
ベッドに向かい、おばさんが置いていってくれた清潔なローブの山を抱え、トランクのほうに歩いた。
「ハリー?」
ハーマイオニーがためらいがちに声をかけた。
「おめでとう、ハーマイオニー」
元気すぎて、自分の声ではないようだった。
「よかったね。監督生。すばらしいよ」
ハリーは目を逸らしたまま言った。
「ありがとう」
ハーマイオニーが言った。
「あー――ハリー――ヘドウィグを借りてもいいかしら?
パパとママに知らせたいの。喜ぶと思うわ――だって、
監督生っていうのは、あの2人にもわかることだから」
「うん、いいよ。使ってよ!」
ハリーの声は、また恐ろしいほど元気一杯で、いつものハリーの声ではなかった。
「サクヤにも知らせてあげるといい――自分のことのように喜んでくれるよきっと!」
僕と違って――ハリーは心の中でそう続けたが、ハーマイオニーからは曖昧な声が聞こえるだけだった。
ハリーがちらっと彼女を見ると、顔をしかめ、言うか言うまいか迷っている様子だった。
「もう知ってるのよ、私が監督生に選ばれたっていうこと……。
サクヤ、お城から出られなくなって、独りぼっちで――もちろんそれだけの理由じゃないけど――すごく落ち込んでて。ひどかったのよ。
見かねたダンブルドアが元気を出させようと、あの手この手を尽くしてくださったの。
そのうちの1つとして、私が監督生に選ばれたことをみんなより少しだけ早めに教えてもらって、サクヤと一緒にお祝いしたの――」
「そうだったんだ」
ハリーはトランクに屈み込み、一番底にローブを置き、何かを探すふりをした。
複雑な気持ちだった。
シリウスがこの屋敷に閉じ込められているように、サクヤもホグワーツから出られない。
シリウスの塞ぎ込みようを目の前で見てきたハリーには、サクヤの想像も易かった。シリウスを元気づけるためならなんだってやってやりたいとハリーが思うように、ハーマイオニーも彼女に対してそうなのだろう。
心から同情する気持ちとは裏腹に――苛立ちもした。ダンブルドアに対してだ。
僕のことは一瞥もしてくれないのに、サクヤには手を尽くしたと言うじゃないか。
ダンブルドアのハリーに対する態度を、サクヤにも同じようにとっているなら、こんなに腹が立ったりしなかったのかもしれないが……。
「――でも、実際にこうしてバッジが届いて、私もようやく実感が湧いてきたわ。
ヘドウィグ、使わせてもらうわね――」
ハーマイオニーは洋箪笥のほうに行き、ヘドウィグを呼んだ。
しばらく経って、ドアが閉まる音がした。
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