The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
夏休みの終わりが近づくと、ハリーはホグワーツのことを、ますます頻繁に思い出すようになっていた。
早くサクヤとハグリッドに会いたい。
クィディッチをしたい。
薬草学の温室に行くのに、野菜畑をのんびり横切るのもいい。
この埃っぽい黴だらけの屋敷を離れられるだけでも大歓迎だ。
ここでは、戸棚の半分にまだ閂が掛かっているし、クリーチャーが、通りがかりの者に暗がりからゼイゼイと悪態をつくし。
もっとも、シリウスに聞こえるところではこんなことは何も言わないように、ハリーは気遣った。
事実、反ヴォルデモート運動の本部で生活していても、とくにおもしろおかしいわけではなかった。
経験してみるまでは、ハリーにはそれがわからなかった。
騎士団のメンバーが定期的に出入りして、食事をしていくときもあれば、ときにはほんの数分間のひそひそ話だけのこともあった。
しかし、ウィーズリーおばさんが、ハリーや他の子どもたちの耳には、本物の耳にも「伸び耳」にも届かないようにしていた。
誰も彼も、シリウスでさえも、ここに到着した夜に聞いたこと以外は、ハリーは知る必要がないと考えているかのようだった。
夏休み最後の日、ハリーは自分の寝室の洋箪笥の上を掃いて、ヘドウィグの糞を掃除していた。
そこへロンが、封筒を2通持って入ってきた。
「教科書のリストが届いたぜ」
ロンが椅子を踏み台にして立っているハリーに、封筒を1通投げてよこした。
「遅かったよな。忘れられたかと思ったよ。
普通はもっと早く来るんだけど……」
ハリーは最後の糞をゴミ袋に掃き入れ、それをロンの頭越しに投げて、隅の紙クズ籠に入れた。
籠は袋を飲み込んでゲプッと言った。
ハリーは手紙を開いた。
羊皮紙が2枚入っていて、1枚はいつものように9月1日に学期が始まるというお知らせ、もう1枚は新学期に必要な本が書いてある。
「新しい教科書は2冊だけだ」
ハリーは読み上げた。
「ミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集・五学年用』とウィルバート・スリンクハード著『防衛術の理論』だ」
バシッ。フレッドとジョージがハリーのすぐ脇に「姿現わし」した。
もうハリーも慣れっこになっていたので、椅子から落ちることもなかった。
「スリンクハードの本を指定したのは誰かって、2人で考えてたんだ」
フレッドがごくあたりまえの調子で言った。
「なぜって、それは、ダンブルドアが『闇の魔術に対する防衛術』の先生を見つけたことを意味するからな」
ジョージが言った。
「やっとこさだな」
フレッドが言った。
「どういうこと?」
椅子から跳び下りて2人のそばに立ち、ハリーが聞いた。
「うん、2,3週間前、親父とお袋が話してるのを『伸び耳』で聞いたんだが」
フレッドが話した。
「2人が言うにはだね、ダンブルドアが今年は先生探しにとても苦労してたらしい」
「この4年間に起こったことを考えりゃ、それも当然だよな?」
ジョージが言った。
「1人は辞めさせられ、1人は死んで、1人は記憶がなくなり、1人は9ヵ月もトランク詰め」
ハリーが指折り数えて言った。
「うん、君たちの言うとおりだな」
「ロン、どうかしたか?」
フレッドが聞いた。ロンは答えなかった。
ハリーが振り返ると、ロンは口を少し開けて、ホグワーツからの手紙をじっと見つめ、身動きせずに突っ立っていた。
「いったいどうした?」
フレッドが焦れったそうに言うと、ロンの後ろに回り込み、肩越しに羊皮紙を読んだ。フレッドの口もぱっくり開いた。
「監督生?」
目を丸くして手紙を見つめ、フレッドが言った。
「
監督生?」
ジョージが飛び出して、ロンがもう片方の手に持っている封筒を引っつかみ、逆さにした。
中から赤と金の何かがジョージの手のひらに落ちるのをハリーは見た。
「まさか」
ジョージが声をひそめた。
「間違いだろ」
フレッドがロンの握っている手紙を引ったくり、透かし模様を確かめるかのように光にかざして見た。
「正気でロンを監督生にするやつぁいないぜ」
双子の頭が同時に動いて、2人ともハリーをじっと見つめた。
「君が本命だと思ってた」
フレッドが、まるでハリーがみんなを騙したのだろうという調子だった。
「ダンブルドアは
絶対君を選ぶと思った」
ジョージが怒ったように言った。
「三校対抗試合に優勝したし!」
フレッドが言った。
「ぶっ飛んだことがいろいろあったのが、マイナスになったかもな」
ジョージがフレッドに言った。
「そうだな」
フレッドが考えるように言った。
「うん、相棒、君はあんまりいろいろトラブルを起こしすぎたぜ。
まあ、少なくともご両人のうち1人は、何がより大切かわかってたってこった」
フレッドが大股でハリーに近づき、背中をバンと叩いた。
一方ロンには軽蔑したような目つきをした。
「
監督生……ロニー坊やが、監督生」
「おうおう、ママがむかつくぜ」
ジョージは、監督生のバッジが自分を汚すかのようにロンに突っ返し、呻くように言った。
ロンはまだひと言も口をきいていなかったが、バッジを受け取り、一瞬それを見つめた。
それから、本物かどうか確かめてくれとでも言うように、無言でハリーに差し出した。
ハリーはバッジを手にした。
グリフィンドールのライオンのシンボルの上に、大きく「P」の文字が書かれている。
これと同じようなバッジがパーシーの胸にあったのを、ハリーは、ホグワーツでの最初の日に見ていた。
ドアが勢いよく開いた。
ハーマイオニーが頬を紅潮させ、髪をなびかせて猛烈な勢いで入ってきた。手に封筒を持っている。
「ねえ――もらった――?」
ハーマイオニーはハリーが手にしたバッジを見て、歓声をあげた。
「そうだと思った!」
興奮して、自分の封筒をひらひら振りながら、ハーマイオニーが言った。
「私もなのよ、ハリー!よろしくね!」
「違うんだ」
ハリーはバッジをロンの手に押しつけながら、急いで言った。
「ロンだよ。僕じゃない」
「だれ――え?」
「ロンが監督生。僕じゃない」
ハリーが言った。
「
ロン?」
ハーマイオニーの口があんぐり開いた。
「でも……確かなの?だって――」
ロンが挑むような表情でハーマイオニーを見たので、ハーマイオニーは赤くなった。
「手紙に書いてあるのは僕の名前だ」
ロンが言った。
「私……」
ハーマイオニーは当惑しきった顔をした。
「私……えーと……わーっ!ロン、おめでとう!ほんとに――」
「予想外だった」
ジョージが頷いた。
「違うわ」
ハーマイオニーはますます赤くなった。
「ううん、そうじゃない……ロンはいろんなことを……ロンは本当に……」
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