The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「思ったとおりだ!」

ロンが空中にパンチをかませた。

「君はいつだってちゃんと乗り切るのさ」

「無罪で当然なのよ」

ハリーが厨房に入ってきたときは、心配で卒倒しそうだったハーマイオニーが、今度は震える手で目頭を押さえながら言った。

「あなたには何の罪もなかったんだから。なーんにも!
早くサクヤに知らせなくっちゃ。これくらいは手紙に書いても大丈夫なはずだし――」

ハーマイオニーは羽根ペンと羊皮紙を取りに厨房を出て行った。

「僕が許されるって思っていたわりには、みんなずいぶんほっとしてるみたいだけど」

ハリーがにっこりした。
ウィーズリーおばさんはエプロンで顔を拭っていたし、フレッド、ジョージ、ジニーは戦いの踊りのような仕種をしながら歌っていた。

ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……

「たくさんだ!やめなさい!」

ウィーズリーおじさんは怒鳴りながらも笑っていた。

「ところでシリウス、ルシウス・マルフォイが魔法省にいた――」

「なにぃ?」

シリウスが鋭い声を出した。

ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……

「3人とも、静かにせんか!
そうなんだ。地下9階でファッジと話しているのを、私たちが目撃した。
それから2人は大臣室に行った。ダンブルドアに知らせておかないと」

「そのとおりだ」

シリウスが言った。

「知らせておく。心配するな」

「さあ、私は出かけないと。
ベスナル・グリーンで逆流トイレが私を待っている。
モリー、帰りが遅くなるよ。トンクスに代わってあげるからね。
ただ、キングズリーが夕食に寄るかもしれない――」

ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……

「いい加減になさい――フレッド――ジョージ――ジニー!」

おじさんが厨房を出ていくと、おばさんが言った。

「ハリー、さあ、座ってちょうだい。何かお昼を食べなさいな。
朝はほとんど食べていないんだから」

ロンと、戻ってきたハーマイオニーがハリーの向かい側に掛けた。
ハリーがグリモールド・プレイスに到着したとき以来、こんなに幸せそうな顔を見せたのは初めてだ。
ハーマイオニーが嬉々として尋問の結果を書きだしたのを眺めながら、ハリーも、ルシウス・マルフォイとの出会いで少し萎んでいた有頂天な安堵感がまた盛り上がってきた。
陰気な屋敷が、急に暖かく、歓迎しているように感じられた。
騒ぎを聞きつけて、様子を探りに厨房に豚鼻を突っ込んだクリーチャーでさえ、いつもより醜くないように思えた。

「もち、ダンブルドアが君の味方に現れたら、やつらは君を有罪にできっこないさ」

マッシュポテトをみんなの皿に山盛りに取り分けながら、ロンがうれしそうに言った。

「うん、ダンブルドアのおかげで僕が有利になった」

ハリーが言った。
ここでもし、「僕に話しかけてほしかったのに。せめて僕を見てくれるだけでも」なんて言えば、とても恩知らずだし、子どもっぽく聞こえるだろうと思った。
そう考えたとき、額の傷痕が焼けるように痛み、ハリーはパッと手で覆った。

「どうしたの?」

顔を上げていたハーマイオニーが驚いたように聞いた。

「傷が」

ハリーは口ごもった。

「でも、なんでもない……いまじゃ、しょっちゅうだから……」

他には誰も何も気づかない。
誰も彼もが、ハリーの九死に一生を喜びながら、食べ物を取り分けているところだった。
フレッド、ジョージ、ジニーはまだ歌っていた。
ハーマイオニーは少し心配そうだったが、何も言えないでいるうちに、ロンがうれしそうに言った。

「ダンブルドアはきっと今晩来るよ。ほら、みんなとお祝いするのにさ」

「ロン、いらっしゃれないと思いますよ」

ウィーズリーおばさんが巨大なローストチキンの皿をハリーの前に置きながら言った。

「いまはとってもお忙しいんだから」

ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……

お黙り!

ウィーズリーおばさんが吠えた。


数日が経ち、ハリーは、このグリモールド・プレイス12番地に、自分がホグワーツに帰ることを心底喜んではいない人間がいることに気づかないわけにはいかなかった。
シリウスは、最初にこの知らせを聞いたとき、ハリーの手を握り、みんなと同じようににっこりして、うれしそうな様子を見事に演じて見せた。
しかし、まもなくシリウスは、以前よりも塞ぎ込み、不機嫌になり、ハリーとさえも、あまり話さなくなった。
そして、母親が昔使っていた部屋に、ますます長い時間バックビークと一緒に閉じこもるようになった。

数日後、ロン、ハーマイオニーと4階の敵だらけの戸棚を擦りながら、2人に自分の気持ちの一端を打ち明けた。

「自分を責めることはないわ!」

ハーマイオニーが厳しく言った。

「あなたはホグワーツに帰るべきだし、シリウスはそれを知ってるわ。
個人的に言わせてもらうと、シリウスはわがままよ」

「それはちょっときついぜ、ハーマイオニー」

指にこびりついた黴をこそげ取ろうと躍起になって、顔をしかめながらロンが言った。

君だって、この屋敷に独りぼっちで、釘づけになってたくないだろう」

「今本当に独りぼっちなのは誰?ホグワーツに釘付けになってるサクヤじゃなくって?
ハリーの無罪の結果を、手紙で受け取るだけなんて――返信じゃすごく喜んでくれてはいたけれど、分かち合えなくて複雑なはずよ」

ハーマイオニーが言った。

「それに比べればシリウスは独りぼっちじゃないわ。
ここは『不死鳥の騎士団』の本部じゃない?シリウスは高望みして、ハリーがここに来て一緒に住めばいいと思ったのよ」

「そうじゃないと思うよ」

ハリーが雑巾を絞りながら言った。

「僕がそうしてもいいかって聞いたとき、シリウスははっきり答えなかったんだ」

「自分であんまり期待しちゃいけないと思ったんだわ」

ハーマイオニーは明晰だった。

「それに、きっと少し罪悪感を感じたのよ。
だって、心のどこかで、あなたが退学になればいいって願っていたと思うの。
そうすれば2人とも追放された者同士になれるから」

「やめろよ!」

ハリーとロンが同時に言った。
しかし、ハーマイオニーは肩をすくめただけだった。

「いいわよ。だけど、私、時々ロンのママが正しいと思うの。
シリウスはねえ、ハリー、あなたがあなたなのか、それともあなたのお父さんなのか、時々混乱してるわ」

「じゃ、君は、シリウスが少しおかしいって言うのか?」

ハリーが熱くなった。

「違うわ、ただ、シリウスは長い間独りぼっちで寂しかったと思うだけ」

ハーマイオニーがさらりと言いきった。

このときウィーズリーおばさんが、3人の背後から部屋に入ってきた。

「まだ終わらないの?」

おばさんは戸棚に首を突っ込んだ。

「休んだらどうかって言いにきたのかと思ったよ!」

ロンが苦々しげに言った。

「この屋敷に来てから、僕たちがどんなに大量の黴を処理したか、ご存知ですかね?」

「あなたたちは騎士団の役に立ちたいと、とても熱心でしたね」

おばさんが言った。

「この本部を住める状態にすることで、お役目が果たせるのですよ」

「屋敷しもべみたいな気分だ」

ロンがブスブス言った。

「さあ、しもべ妖精がどんなにひどい暮らしをしているか、やっとわかったようだから、もう少し『SPEW』に熱心になってくれるでしょ!」

おばさんが3人に任せて出ていったあと、ハーマイオニーが期待を込めて言った。

「ねえ、もしかしたら、お掃除ばかりしていることがどんなにひどいかを、みんなに体験させるのも悪くないかもね――グリフィンドールの談話室を磨き上げるスポンサーつきのイベントをやって、収益はすべて『SPEW』に入ることにして。
意識も高まるし、基金も貯まるわ」

「僕、君が『反吐』のことを言わなくなるためのスポンサーになるよ」

ロンは、ハリーにしか聞こえないようにイライラと呟いた。



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