The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「ドローレス・ジェーン・アンブリッジ上級次官に発言を許す」

ファッジが言った。
魔女が、女の子のように甲高い声で、ひらひらと話しだしたのには、ハリーはびっくり仰天した。
ゲロゲロというしわがれ声だろうと思っていたのだ。

「わたくし、きっと誤解してますわね、ダンブルドア先生」

顔はニタニタ笑っていたが、魔女の大きな丸い目は冷ややかだった。

「愚かにもわたくし、ほんの一瞬ですけど、まるで先生が、魔法省が命令してこの男の子を襲わせた!そうおっしゃってるように聞こえましたの」

魔女は冴えた金属音で笑った。
ハリーは頭の後ろの毛がぞっと逆立つような気がした。
ウィゼンガモットの裁判官も数人、一緒に笑った。その誰もが、別におもしろいと思っているわけではないのは明白だった。

「吸魂鬼が魔法省からしか命令を受けないことが確かだとなれば、そして、1週間前、2人の吸魂鬼がハリーといとこを襲ったことが確かだとなれば、論理的には、魔法省の誰かが、襲うように命令したということになるじゃろう」

ダンブルドアが礼儀正しく述べた。

「もちろん、この2人の吸魂鬼が魔法省の制御できない者だったという可能性は――」

「魔法省の統制外にある吸魂鬼はいない!」

ファッジは真っ赤になって噛みついた。
ダンブルドアは軽く頭を下げた。

「それなれば、魔法省は、必ずや徹底的な調査をなさることでしょう。
2人の吸魂鬼がなぜアズカバンからあれほど遠くにいたのか、なぜ承認も受けず襲撃したのか」

「魔法省が何をするかしないかは、ダンブルドア、あなたが決めることではない」

ファッジがまた噛みついた。
今度は、バーノン叔父さんも感服するような赤紫色の顔だ。

「もちろんじゃ」

ダンブルドアは穏やかに言った。

「わしはただ、この件は必ずや調査がなされるものと信頼しておると述べたまでじゃ」

ダンブルドアはマダム・ボーンズをちらりと見た。
マダム・ボーンズは片眼鏡を掛け直し、少し顔をしかめてダンブルドアをじっと見返した。

「各位に改めて申し上げる。
これら吸魂鬼が、もし本当にこの少年のでっち上げでないとしたならだが、その行動は本件の審理事項ではない!」

ファッジが言った。

「本法廷の事件は、ハリー・ポッターの尋問であり、『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』の違反事件である!」

「もちろんじゃ」

ダンブルドアが言った。

「しかし、路地に吸魂鬼が存在したということは、本件において非常に関連性が高い。
法令第7条によれば、例外的状況においては、マグルの前で魔法を使うことが可能であり、その例外的状況に含まれる事態とは、魔法使いもしくは魔女自身の生命を脅かされ、もしくはそのときに存在するその他の魔法使い、魔女もしくはマグルの生命――」

「第7条は熟知している。よけいなことだ!」

ファッジが唸った。

「もちろんじゃ」

ダンブルドアは恭しく言った。

「それなれば、我々は同意見となる。
ハリーが守護霊の呪文を行使した状況は、この条項に述べられるごとく、まさに例外的状況の範疇に属するわけじゃな?」

「吸魂鬼がいたとすればだ。ありえんが」

「目撃者の証言をお聞きになりましたな」

ダンブルドアが口を挟んだ。

「もし証言の信憑性をお疑いなら、再度召喚し喚問なさるがよい。証人に異存はないはずじゃ」

「私は――それは――否だ」

ファッジは目の前の羊皮紙を掻き回しながら、猛り狂った。

「それは――私は、本件を今日中に終わらせたいのだ。ダンブルドア!」

「しかし、重大な誤審を避けんとすれば、大臣は、当然、何度でも証人喚問をなさることを厭わぬはずじゃ」

ダンブルドアが言った。

「重大な誤審、まさか!」

ファッジはあらんかぎりの声を振り絞った。

「この少年が、学校外であからさまに魔法を不正使用して、それをごまかすのに何度でっち上げ話をしたか、数え上げたことがあるかね?3年前の浮遊術事件を忘れたわけではあるまいが――」

「あれは僕じゃない。屋敷しもべ妖精だった!」

ハリーが言った。

そーれ、聞いたか?

ファッジが吠えて、派手な動作でハリーを指した。

「しもべ妖精!マグルの家で!どうだ」

「問題の屋敷しもべ妖精は、現在ホグワーツ校に雇われておる」

ダンブルドアが言った。

「ご要望とあらば、すぐにでもここに召喚し、証言させることができる」

「私は――否――しもべ妖精の話など聞いている暇はない!
とにかく、それだけではない――自分の叔母を膨らませた!言語道断!」

ファッジは叫ぶとともに、挙で裁判官のデスクをバンと叩き、インク瓶を引っくり返した。

「そして、大臣はご厚情をもって、その件は追及しないことになさった。
たしか、最良の魔法使いでさえ、自分の感情を常に抑えることはできないと認められた上でのことと、推定申し上げるが」

ダンブルドアは静かに言った。
ファッジはノートに引っかかったインクを拭き取ろうとしていた。

「さらに、私はまだ、この少年が学校で何をやらかしたかに触れていない」

「しかし、魔法省はホグワーツの生徒の学校における不品行について、罰する権限をお持ちではありませんな。
学校におけるハリーの態度は、本件とは無関係じゃ」

ダンブルドアの言葉は相変わらずだったが、いまや言葉の裏に、冷ややかさが漂っていた。

「おっほー!」

ファッジが言った。

「学校で何をやろうと、魔法省は関係ないと?そうですかな?」

「コーネリウス、魔法省には、ホグワーツの生徒を退学にする権限はない。8月2日の夜に、念を押したはずじゃ」

ダンブルドアが言った。

「さらに、罪状が黒とはっきり証明されるまでは、杖を取り上げる権限もない。これも、7月1日にも8月2日の夜にも、念を押したはずじゃ。
大臣は、法律を擁護せんとの情熱を黙過できず、性急に事を運ばれるあまり、どうやらうっかり、うっかりに相違ないが、ほかのいくつかの法律をお見逃しのようじゃ」

「法律は変えられる」

ファッジが邪険に言った。

「そのとおりじゃ」

ダンブルドアは小首を傾げた。

「そして、コーネリウス、君はどうやらずいぶん法律を変えるつもりらしいの。
わしがウィゼンガモットを去るように要請されてからのほんの2,3週間のあいだに、単なる未成年者の魔法使用の件を扱うのにすら、またしても刑事事件の大法廷を召集するやり方になってしもうたとは!」

後列の魔法使いが何人か、居心地悪そうにもぞもぞ座り直した。
ファッジの顔はさらに深い暗褐色になった。
しかし、右側のガマガエル魔女は、ダンブルドアをぐっと見据えただけで、顔色ひとつ変えない。

「わしの知るかぎり」

ダンブルドアが続けた。

「現在の法律のどこをどう探しても、本法廷がハリーのこれまで使った魔法を逐一罰する場であるとは書いてない。
ハリーが起訴されたのは、ある特定の違反事件であり、被告人はその抗弁をした。
被告人とわしがいまできることは、ただ評決を待つことのみじゃ」

ダンブルドアは再び指を組み、それ以上何も言わなかった。

「先の件と言い――あなたは――まったくもって――」

ファッジは明らかに激怒し、しかし二の句を告げられないようにそう口のなかで呟きながらダンブルドアを睨んでいる。
ハリーは大丈夫なのかどうか確かめたくて、横目でダンブルドアを見た。
ウィゼンガモットに対して、ダンブルドアが事実上、すぐ評決するよう促したのが正しかったのかどうか、ハリーには確信が持てなかった。
しかし、またしてもダンブルドアは、ハリーが視線を合わせようとしているのに気づかないかのように、裁判官席を見つめたままだった。
ウィゼンガモット法廷は、全員が、慌ただしくひそひそ話を始めていた。

ハリーは足下を見つめた。
心臓が不自然な大きさに膨れ上がったかのようで、肋骨の下でドクンドクンと鼓動していた。
尋問手続きはもっと長くかかると思っていた。
自分がよい印象を与えたのかどうか、まったく確信が持てなかった。まだほとんどしゃべっていない。
吸魂鬼のことや、自分が倒れたこと、自分とダドリーがキスされかかったことなど、もっと完全に説明すべきだった……。

ハリーは二度ファッジを見上げ、口を開きかけた。
しかし、そのたびに膨れた心臓が気道を塞ぎ、ハリーは深く息を吸っただけで、また下を向いて自分の靴を見つめるしかなかった。

もしかして、サクヤもこの法廷で尋問を受け、答弁をして無罪を勝ち取ったのだろうか?
ハリーの頭のなかにふと彼女のことが浮かんだ。
サクヤからもらった手紙には、尋問の結果が簡単に書いてあるだけだった。
ふくろう便について、手紙には詳細を書かないように言われていなければ、今日のハリーの尋問までの間に、10通はうまいやり方を聞く手紙をサクヤに送っていただろう。
ハリーはもう一度だけダンブルドアを見上げてみたが、ダンブルドアは相変わらず裁判官席のざわめきを観察するように見つめるばかりだった。ハリーは視線を自分の靴先に戻した。

サクヤのときもダンブルドアが弁護についたとして、そのときもダンブルドアは目を合わせようとしなかっただろうか?
その疑問が浮かんだとき、ようやく囁きがやんだ。
ハリーは裁判官たちを見上げたかったが、靴紐を調べ続けるほうがずっと楽だとわかった。

「被告人を無罪放免とすることに賛成の者?」

マダム・ボーンズの深く響く声が聞こえた。
ハリーはぐいと頭を上げた。手が挙がっていた。たくさん……半分以上!
息を弾ませながら、ハリーは数えようとした。
しかし、数え終わる前に、マダム・ボーンズが言った。

「有罪に賛成の者?」

ファッジの手が挙がった。
そのほか5,6人の手が挙がった。
右側の魔女と、2番目の列の、口ひげの立派な魔法使いと縮れっ毛の魔女も手を挙げていた。

ファッジは全員をざっと見渡し、何か喉に大きな物がつかえたような顔をして、それから手を下ろした。
2回大きく息を吸い、怒りを抑えつける努力に歪んだ声で、ファッジが言った。

「結構、結構……無罪放免」

「上々」

ダンブルドアは軽快な声でそう言うと、さっと立ち上がり、杖を取り出し、チンツ張りの椅子を2脚消し去った。

「さて、わしは行かねばならぬ。さらばじゃ」

そして、ただの一度もハリーを見ずに、ダンブルドアは速やかに地下室から立ち去った。





>>To be continued

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