The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーは、軍団が全員いなくなるまで待ってから歩きだした。
みんなの声が聞こえなくなったとき、ハリーは角を曲がってマグノリア・クレセント通りに入った。
急ぎ足で歩くと、ダドリーに声が届くところまですぐに追いついた。
ダドリーはフンフン鼻歌を歌いながら、気ままにぶらぶら歩いていた。

「おい、ビッグD!」

ダドリーが振り返った。

「なんだ」

ダドリーが唸るように言った。

「おまえか」

「ところで、いつから『ビッグD』になったんだい?」

ハリーが言った。

「黙れ」

ダドリーは歯噛みして顔を背けた。

「かっこいい名前だ」

ハリーはニヤニヤしながらいとこと並んで歩いた。

「だけど、僕にとっちゃ、君はいつまでたっても『ちっちゃなダドリー坊や』だな」

「黙れって言ってるんだ!」

ダドリーはハムのようにむっちりした両手を丸めて拳を握った。

「あの連中は、ママが君をそう呼んでいるのを知らないのか?」

「黙れよ」

「ママにも黙れって言えるかい?
『かわい子ちゃん』とか『ダディちゃん』なんてのはどうだい?じゃあ、僕もそう呼んでいいかい?」

ダドリーは黙っていた。
ハリーを殴りたいのを我慢するのに、自制心を総動員しているらしい。

「それで、今夜は誰を殴ったんだい?」

ニヤニヤ笑いを止めながらハリーが聞いた。

「また10歳の子か?
一昨日の晩、マーク・エバンズを殴ったのは知ってるぞ」

「あいつがそうさせたんだ」

ダドリーが唸るように言った。

「へー、そうかい?」

「ナマ言いやがった」

「そうかな?君が後ろ足で歩くことを覚えた豚みたいだ、とか言ったかい?
そりゃ、ダッド、生意気じゃないな。ほんとだもの」

ダドリーの顎の筋肉がひくひく痙攣した。
ダドリーをそれだけ怒らせたと思うと、ハリーは大いに満足だった。
鬱憤を、唯一の捌け口のいとこに注ぎ込んでいるような気がした。

2人は角を曲がり狭い路地に入った。
そこはハリーがシリウスを最初に見かけた場所で、マグノリア・クレセント通りからウィステリア・ウォークへの近道になっていた。
路地には人もなく、街灯がないので、路地の両端に伸びる道よりずっと暗かった。
路地の片側はガレージの壁、もう片側は高い塀になっていて、その狭間に足音が吸い込まれていった。

「あれを持ってるから、自分は偉いと思ってるんだろう?」

ひと呼吸置いて、ダドリーが言った。

「あれって?」

「あれ――おまえが隠しているあれだよ」

ハリーはまたニヤッと笑った。

「ダド、見かけほどバカじゃないんだな?
歩きながら同時に話すなんて芸当は、君みたいなバカ面じゃできないと思ったけど」

ハリーは杖を引っ張り出した。ダドリーはそれを横目で見た。

「許されてないだろ」

ダドリーがすぐさま言った。

「知ってるぞ。おまえの通ってるあのへんちくりんな学校から追い出されるんだ」

「学校が校則を変えたかもしれないだろう?ビッグD?」

「変えてないさ」

そうは言ったものの、ダドリーの声は自信たっぷりとは言えなかった。
ハリーはフフッと笑った。

「おまえなんか、そいつがなけりゃ、おれにかかってくる度胸もないんだ。そうだろう?」

ダドリーが歯を剥いた。

「君のほうは、4人の仲間に護衛してもらわなけりゃ、10歳の子どもを打ちのめすこともできないんだ。
君がさんざん宣伝してる、ほら、ボクシングのタイトルだっけ?相手は何歳だったんだい?7歳?8歳?」

「教えてやろう。16だ」

ダドリーが唸った。

「それに、ぼくがやっつけたあと、20分も気絶してたんだぞ。
しかも、そいつはおまえの2倍も重かったんだ。
おまえが杖を取り出したって、パパに言ってやるから覚えてろ」

「今度はパパに言いつけるのかい?
パパのかわいいボクシング・チャンピオンちゃんはハリーの凄い杖が怖いのかい?」

「夜はそんなに度胸がないくせに。そうだろ?」

ダドリーが嘲った。

「もう夜だよ。ダッド坊や。
こんなふうにあたりが暗くなると、夜って呼ぶんだよ」

「おまえがベッドに入ったときのことさ!」

ダドリーが凄んだ。
彼は立ち止まった。ハリーも足を止め、いとこを見つめた。
ダドリーのでっかい顔から、ほんのわずかに読み取れる表情は、奇妙に勝ち誇っていた。

「僕がベッドでは度胸がないって、何を言ってるんだ?」

ハリーはさっぱりわけがわからなかった。

「僕が何を怖がるっていうんだ?枕か何かかい?」

「昨日の夜、聞いたぞ」

ダドリーが息を弾ませた。

「おまえの寝言を。呻いてたぞ

「何を言ってるんだ?」

ハリーは繰り返した。
しかし、胃袋が落ち込むような、ひやりとした感覚が走った。
昨夜、ハリーはあの墓場に戻った夢を見ていたのだ。
ダドリーは吠えるような耳障りな笑い声をあげ、それから甲高いヒーヒー声で口まねをした。

「『セドリックを殺さないで!セドリックを殺さないで!』
セドリックって誰だ?――おまえのボーイフレンドか?」

「僕――君は嘘をついてる」

反射的にそう言ったものの、ハリーは口の中がカラカラだった。
ダドリーが嘘をついていないことはわかっていた――嘘でセドリックのことを知っているはずがない。

「『父さん!助けて、父さん!あいつがぼくを殺そうとしている。父さん!うぇーン、うぇーン!』」

「黙れ!」

ハリーが低い声で言った。

「黙れ、ダドリー。さもないと!」

「『父さん、助けにきて!母さん、助けにきて!
あいつはセドリックを殺したんだ!父さん、助けて!あいつが僕を――』そいつをぼくに向けるな!

ダドリーは路地の壁際まで後退りした。
ハリーの杖が、まっすぐダドリーの心臓を指していた。
ダドリーに対する14年間の憎しみが、ドクンドクンと脈打つのを感じた――いまダドリーをやっつけられたらどんなにいいか……徹底的に呪いをかけて、ダドリーに触覚を生やし、口もきけない虫けらのように家まで這って帰らせたい……。

「そのことは二度と口にするな」

ハリーが凄んだ。

「わかったか?」

「そいつをどっかほかのところに向けろ!」

「聞こえないのか?わかったかって言ってるんだ」

「そいつをほかのところに向けろ!」

わかったのか?

そいつをぼくから――

ダドリーが冷水を浴びせられたかのように、奇妙な身の毛のよだつ声をあげて息を呑んだ。



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