The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「いつもは歩いて行くんじゃないんでしょう?」

2人で広場を足早に歩きながら、ハリーが聞いた。

「ああ、いつもは『姿現わし』で行く」

おじさんが言った。

「しかし、当然君にはそれができないし、完全に魔法を使わないやり方で向こうに到着するのが一番よいと思う……君の懲戒処分の理由を考えれば、そのほうが印象がいいし……」

ウィーズリーおじさんは、片手をジャケットに突っ込んだまま歩いていた。
その手が杖を握り締めていることを、ハリーは知っていた。
荒れ果てた通りにはほとんど人影もなかったが、みすぼらしい小さな地下鉄の駅に辿り着くと、そこはすでに早朝の通勤客でいっぱいだった。
いつものことだが、マグルが日常の生活をしているのを身近に感じると、おじさんは興奮を抑えきれないようだった。

「まったくすばらしい」

おじさんは自動券売機を指差していた。

「驚くべき思いつきだ」

「故障してるよ」

ハリーが貼り紙を指差した。

「そうか。しかし、それでも……」

おじさんは機械に向かって愛しげににっこりした。
2人は機械ではなく、眠そうな顔の駅員から切符を買った(おじさんはマグルのお金に疎いので、ハリーがやりとりした)。
そして5分後、2人は地下鉄に乗り、ロンドンの中心部に向かってガタゴト揺れていた。
ウィーズリーおじさんは窓の上に貼ってある地下鉄の地図を、心配そうに何度も確かめていた。

「あと4駅だ、ハリー……これであと3つになった……あと2つだ、ハリー」

ロンドンの中心部の駅で、ブリーフケースを抱えたスーツ姿の男女の波に流されるように、2人は電車を降りた。
エスカレーターを上り、改札口を通り(自動改札機に切符が吸い込まれるのを見て、おじさんは大喜びだった)、広い通りに出た。
通りには堂々たるビルが立ち並び、すでに車で混雑していた。

「ここはどこかな?」

おじさんはポカンとして言った。
ハリーは一瞬心臓が止まるかと思った。あんなにひっきりなしに地図を見ていたのに、降りる駅を間違えたのだろうか。
しかし、次の瞬間、おじさんは「ああ、そうか……ハリー、こっちだ」と、ハリーを脇道に導いた。

「すまん」

おじさんが言った。

「なにせ電車で来たことがないので、マグルの視点から見ると、何もかもかなり違って見えたのでね。
実を言うと、私はまだ外来者用の入口を使ったことがないんだ」

さらに歩いていくと、建物はだんだん小さくなり、厳めしくなくなった。
最後に辿り着いた通りには、かなりみすぼらしいオフィスが数軒と、パブが1軒、それにゴミの溢れた大型ゴミ容器が1つあった。
ハリーは、魔法省のある場所はもう少し感動的なところだろうと期待していたのだが――。

「さあ着いた」

ウィーズリーおじさんは、赤い古ぼけた電話ボックスを指差して、明るく言った。
ボックスはガラスがなくなっていたし、後ろの壁は落書きだらけだ。

「先にお入り、ハリー」

おじさんは電話ボックスの戸を開け、ハリーに言った。
いったいどういうことなのかわけがわからなかったが、ハリーは中に入った。
おじさんも、ハリーの脇に身体を折り畳むようにして入り込み、戸を閉めた。ぎゅうぎゅうだった。
ハリーの身体は電話機に押しつけられていた。
電話機を外そうとした野蛮人がいたらしく、電話機は斜めになって壁に掛かっていた。
おじさんはハリー越しに受話器を取った。

「おじさん、これも故障してるみたいだよ」

ハリーが言った。

「いや、いや、これは大丈夫」

おじさんはハリーの頭の上で受話器を持ち、ダイヤルを覗き込んだ。

「えーと……6……」

おじさんが6を回した。

「2……4……もひとつ4と……それからまた2……」

ダイヤルが滑らかに回転し終わると、おじさんが手にした受話器からではなく、電話ボックスの中から、落ち着きはらった女性の声が流れてきた。
まるで2人のすぐそばに姿の見えない女性が立っているように、大きくはっきりと聞こえた。

「魔法省へようこそ。お名前とご用件をおっしゃってください」

「えー……」

おじさんは、受話器に向かって話すべきかどうか迷ったあげく、受話器の口の部分を耳に当てることで妥協した。

「マグル製品不正使用取締局のアーサー・ウィーズリーです。
懲戒尋問に出廷するハリー・ポッターにつき添ってきました……」

「ありがとうございます」

落ち着きはらった女性の声が言った。

「外来の方はバッジをお取りになり、ローブの胸にお着けください」

カチャ、カタカタと音がして、普通なら釣りが出てくるコイン返却口の受け皿に、何かが滑り出てきた。
拾い上げると銀色の四角いバッジで、「ハリー・ポッター懲戒尋問」と書いてある。
ハリーはTシャツの胸にバッジを留めた。また女性の声がした。

「魔法省への外来の方は、杖を登録いたしますので、守衛室にてセキュリティ・チェックを受けてください。
守衛室はアトリウムの一番奥にございます」

電話ボックスの床がガタガタ揺れたと思うと、ゆっくりと地面に潜りはじめた。
ボックスのガラス窓越しに地面がだんだん上昇し、ついに頭上まで真っ暗になるのを、ハリーははらはらしながら見つめていた。何も見えなくなった。
電話ボックスが潜っていくガリガリいう鈍い音以外は何も聞こえない。
1分も経ったろうか、ハリーにはもっと長い時間に感じられたが、ひと筋の金色の光が射し込み、足下を照らした。
光はだんだん広がり、ハリーの身体を照らし、ついに、パッと顔を照らした。
ハリーは涙が出そうになり、目をパチパチさせた。

「魔法省です。本日はご来省ありがとうございます」

女性の声が言った。
電話ボックスの戸がさっと開き、ウィーズリーおじさんが外に出た。
続いて外に出たハリーは、口があんぐり開いてしまった。

そこは長い豪華なホールの一番端で、黒っぽい木の床はピカピカに磨き上げられていた。
ピーコックブルーの天井には金色に輝く記号が象嵌され、その記号が絶え間なく動き変化して、まるで空に掛かった巨大な掲示板のようだった。
両側の壁はピカピカの黒い木の腰板で覆われ、そこに金張りの暖炉がいくつも設置されていた。
左側の暖炉からは、数秒ごとに魔法使いや魔女が柔らかいヒューッという音とともに現れ、右側には、暖炉ごとに出発を待つ短い列ができていた。

ホールの中ほどに噴水があった。
丸い水盆の真ん中に、実物大より大きい黄金の立像がいくつも立っている。
一番背が高いのは、高貴な顔つきの魔法使いで、天を突くように杖を掲げている。
その周りを囲むように、美しい魔女、ケンタウルス、小鬼、屋敷しもべ妖精の像がそれぞれ1体ずつ立っていた。
ケンタウルス以下3体の像は、魔法使いと魔女を崇めるように見上げている。
2本の杖の先、ケンタウルスの矢尻、小鬼の帽子の先、そして屋敷しもべ妖精の両耳の先から、キラキラと噴水が上がっている。
それがパチパチと水面を打つ音や、「姿現わし」するポン、バシッという音、何百人もの魔法使いや魔女の足音が混じり合って聞こえてくる。
魔法使いたちの多くは、相変わらずむっつりした表情で、ホールの一番奥に立ち並ぶ黄金のゲートに向かって足早に歩いていた。

「こっちだ」

ウィーズリーおじさんが言った。
噴水のそばを通るとき、水底からシックル銀貨やクヌート銅貨が光るのが見えた。
噴水脇の小さな立て札に、滲んで薄くなった字でこう書いてあった。

「魔法族の和の泉」からの収益は、聖マンゴ魔法疾患傷害病院に寄付されます

もしホグワーツを退学にならなかったら、10ガリオン入れよう。
ハリーは縋る思いでそんなことを考えている自分に気づいた。



_

( 35/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -