The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




その日の午後、ガラス扉の飾り棚をみんなで片づける間、ハリーは努めて尋間のことは考えないようにした。
ハリーにとって都合のよいことに、中に入っているものの多くが、埃っぽい棚から離れるのをとてもいやがったため、作業は相当集中力が必要だった。
シリウスは銀の嗅ぎタバコ入れにいやというほど手を噛まれ、あっという間に気持ちの悪い瘡蓋ができて、手が堅い茶色のグローブのようになった。

「大丈夫だ」

シリウスは興味深げに自分の手を調べ、それから杖で軽く叩いて元の皮膚に戻した。

「たぶん『瘡蓋粉』が入っていたんだ」

シリウスはそのタバコ入れを、棚からの廃棄物を入れる袋に投げ入れた。
その直後、ジョージが自分の手を念入りに布で巻き、すでにドクシーで一杯になっている自分のポケットにこっそりそれを入れるのを、ハリーは目撃した。

気持ちの悪い形をした銀の道具もあった。
毛抜きに肢がたくさん生えたようなもので、摘み上げると、ハリーの腕を蜘蛛のようにガサゴソ這い上がり、刺そうとした。
シリウスが捕まえて、分厚い本で叩き潰した。本の題は「生粋の貴族――魔法界家系図」だった。
オルゴールは、ネジを巻くと何やら不吉なポロロンという音を出し、みんな不思議に力が抜けて眠くなった。
ジニーが気づいて、蓋をバタンと閉じるまでそれが続いた。
誰も開けることができない重いロケット、古い印章がたくさん、それに埃っぽい箱に入った勲章。魔法省への貢献に対して、シリウスの祖父に贈られた勲一等マーリン勲章だった。

「じいさんが魔法省に、金貨を山ほどくれてやったということさ」

シリウスは勲章を袋に投げ入れながら軽蔑するように言った。
クリーチャーが何度か部屋に入ってきて、品物を腰布の中に隠して持ち去ろうとした。
捕まるたびに、ブツブツと恐ろしい悪態をついた。
シリウスがブラック家の家紋が入った大きな金の指輪をクリーチャーの手からもぎ取ると、クリーチャーは怒りでわっと泣き出し、啜り泣き、しゃくり上げながら部屋を出ていくとき、ハリーが聞いたことがないようなひどい言葉でシリウスを罵った。

「父のものだったんだ」

シリウスが指輪を袋に投げ入れながら言った。

「クリーチャーは父に対して、必ずしも母に対するほど献身的ではなかったんだが、それでも、先週あいつが、父の古いズボンを抱き締めている現場を見た」


ウィーズリーおばさんはそれから数日間、みんなをよく働かせた。
客間の除染にはまるまる3日かかった。
最後に残ったいやなもののひとつ、ブラック家の家系図タペストリーは、壁から剥がそうとするあらゆる手段に、ことごとく抵抗した。
もうひとつはガタガタいう書き物机だ。
ムーディがまだ本部に立ち寄っていないので、中に何が入っているのか、はっきりとはわからなかった。

客間の次は1階のダイニング・ルームで、そこの食器棚には、大皿ほどもある大きな蜘蛛が数匹隠れているのが見つかった(ロンはお茶を入れると言って出ていったきり、1時間半も戻ってこなかった)。
ブラック家の紋章と家訓を書き入れた食器類は、シリウスが全部、無造作に袋に投げ込んだ。
黒ずんだ銀の枠に入った古い写真類も同じ運命を辿った。
写真の主たちは、自分を覆っているガラスが割れるたびに、甲高い叫び声をあげた。

スネイプはこの作業を「大掃除」と呼んだかもしれないが、ハリーは、屋敷に対して戦いを挑んでいるという意見だった。
屋敷は、クリーチャーに煽られて、なかなかいい戦いぶりを見せていた。
このしもべ妖精は、みんなが集まっているところにしょっちゅう現れ、ゴミ袋から何かを持ち出そうとするときのブツブツも、ますます嫌味ったらしくなっていた。
シリウスは、洋服をくれてやるぞとまで脅したが、クリーチャーはどんよりした目でシリウスを見つめ、「ご主人様はご主人様のお好きなようになさいませ」と言ったあと、背を向けて大声でブツブツ言った。

「しかし、ご主人様はクリーチャーめを追い払うことはできません。できませんとも。
なぜなら、クリーチャーめはこいつらが何を企んでいるか知っているからです。ええ、そうですとも。
ご主人様の闇の帝王に抵抗する企みです。穢れた血と、裏切り者と、クズどもと……」

この言葉で、シリウスは、ハーマイオニーの抗議を無視して、クリーチャーの腰布を後ろから引っつかみ、思いっきり部屋から放り出した。

1日に何回か玄関のベルが鳴り、それを合図にシリウスの母親がまた叫び出した。
そして同じ合図で、ハリーもみんなも訪問客の言葉を盗み聞きしようとした。
しかし、チラッと姿を見て、会話の断片を盗み聞きするだけで、ウィーズリーおばさんに作業に呼び戻されるので、ほとんど何も収穫がなかった。
スネイプはそれから数回、慌ただしく出入りしたが、ハリーとは、うれしいことに、一度も顔を合わせなかった。
「変身術」のマクゴナガル先生の姿も、ハリーはちらりと見かけた。
マグルの服とコートを着て、とても奇妙な姿だった。
マクゴナガル先生も忙しそうで、長居はしなかった。

ときには訪問客が手伝うこともあった。トンクスが手伝った日の午後は、上階のトイレをうろついていた年老いたグールお化けを発見した記念すべき午後になった。
ルーピンは、シリウスと一緒に屋敷に住んでいたが、騎士団の秘密の任務で長いこと家を空けていた。
古い大きな置時計に、誰かがそばを通ると太いボルトを発射するといういやな癖がついたので、それを直すのをルーピンが手伝った。
マンダンガスは、ロンが洋箪笥から取り出そうとした古い紫のローブが、ロンを窒息させようとしたところを救ったので、ウィーズリーおばさんの手前、少し名誉挽回した。

ハリーはまだよく眠れなかったし、廊下と鍵の掛かった扉の夢を見て、そのたびに傷痕が刺すように痛んだが、この夏休みに入って初めて楽しいと思えるようになっていた。
忙しくしているかぎり、ハリーは幸せだった。
しかし、あまりやることがなくなって、気が緩んだり、疲れて横になり、天井を横切るぼんやりした影を見つめたりしていると、魔法省の尋問のことが重苦しく伸しかかってくるのだった。
退学になったらどうしようと考えるたび、恐怖が針のようにちくちくと体内を突き刺した。
考えるだけで空恐ろしく、言葉に出して言うこともできず、ロンやハーマイオニーにさえも話せなかった。
2人が、時々ひそひそ話をし、心配そうにハリーのほうを見ていることに気づいてはいたが、2人ともハリーが何も言わないのならと、そのことには触れてこなかった。
サクヤへの手紙で傷痕が痛むことを書きたかったが(ハリーの傷が痛むとき、サクヤもたいてい目の奥を痛がっていた)、ふくろうは傍受されるかもしれない、というダンブルドアの言葉を思い出すとなかなか書く気になれなかった。
ときには、考えまいと思っても、どうしても想像してしまうことがあった。
顔のない魔法省の役人が現れ、ハリーの杖を真っ二つに折り、ダーズリーのところへ戻れと命令する……しかしハリーは戻りはしない。ハリーの心は決まっていた。
グリモールド・プレイスに戻り、シリウスと一緒に暮らすんだ。

水曜の夕食のとき、ウィーズリーおばさんがハリーのほうを向いて、低い声で言った。

「ハリー、明日の朝のために、あなたの一番良い服にアイロンをかけておきましたよ。
今夜は髪を洗ってちょうだいね。第一印象がいいとずいぶん違うものよ」

ハリーは胃の中にレンガが落ちてきたような気がした。
ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージ、ジニーが一斉に話をやめ、ハリーを見た。
ハリーは頷いて、肉料理を食べ続けようとしたが、口がカラカラでとても噛めなかった。

「どうやって行くのかな?」

ハリーは平気な声を繕って、おばさんに聞いた。

「アーサーが仕事に行くとき連れていくわ」

おばさんがやさしく言った。
ウィーズリーおじさんが、テーブルの向こうから励ますように微笑んだ。

「尋問の時間まで、私の部屋で待つといい」

おじさんが言った。
ハリーはシリウスのほうを見たが、質問する前にウィーズリーおばさんがその答えを言った。

「ダンブルドア先生は、シリウスがあなたと一緒に行くのは、よくないとお考えですよ。それに、私も――」

「――ダンブルドアが『正しいと思いますよ』」

シリウスが、食いしばった歯の間から声を出した。
ウィーズリーおばさんが唇をきっと結んだ。

「ダンブルドアは、いつ、そう言ったの?」

ハリーはシリウスを見つめながら聞いた。

「昨夜、君が寝ているときにお見えになった」

ウィーズリーおじさんが答えた。
シリウスはむっつりと、ジャガイモにフォークを突き刺した。
ハリーは自分の皿に目を落とした。
ダンブルドアが尋問の直前の夜にここに来ていたのに、ハリーに会おうとしなかった。
そう思うと、すでに最低だったはずのハリーの気持ちが、また一段と落ち込んだ。




>>To be continued

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