The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「レギュラス・ブラック」
生年月日のあとに、死亡年月日(約15年ほど前だ)が書いてある。
「弟はわたしよりもよい息子だった」
シリウスが言った。
「わたしはいつもそう言われながら育った」
「でも、死んでる」
ハリーが言った。
「そう」
シリウスが言った。
「バカな奴だ……『死喰い人』に加わったんだ」
「嘘でしょう!」
「おいおい、ハリー、これだけこの家を見れば、わたしの家族がどんな魔法使いだったか、いい加減わかるだろう?」
シリウスは苛立たしげに言った。
「ご――ご両親も『死喰い人』だったの?」
「いや、違う。
しかし、なんと、ヴォルデモートが正しい考え方をしていると思っていたんだ。魔法族の浄化に賛成だった。
マグル生まれを排除し、純血の者が支配することにね。
両親だけじゃなかった。
ヴォルデモートが本性を現すまでは、ずいぶん多くの魔法使いが、やつの考え方が正しいと思っていた……そういう魔法使いは、やつが権力を得るために何をしようとしているかに気づくと、怖気づいた。
しかし、わたしの両親は、はじめのうちは、レギュラスが加わったことで、まさに小さな英雄だと思ったんだろう」
「弟さんは闇祓いに殺されたの?」
ハリーは遠慮がちに聞いた。
「いいや、違う」
シリウスが言った。
「違う。ヴォルデモートに殺された。
というより、ヴォルデモートの命令で殺されたと言ったほうがいいかな。
レギュラスはヴォルデモート自身が手を下すには小者すぎた。
死んでからわかったことだが、弟はある程度まで入り込んだとき、命令されて自分がやっていることに恐れをなして、身を引こうとした。
まあしかし、ヴォルデモートに辞表を提出するなんていうわけにはいかない。一生涯仕えるか、さもなくば死だ」
「お昼よ」
ウィーズリーおばさんの声がした。
おばさんは杖を高く掲げ、その杖先に、サンドイッチとケーキを山盛りにした大きなお盆を載せて、バランスを取っていた。
顔を真っ赤にして、まだ怒っているように見えた。
みんなが、何か食べたくて、一斉におばさんのほうに行った。
しかしハリーは、さらに丹念にタベストリーを覗き込んでいるシリウスと一緒にいた。
「もう何年もこれを見ていなかったな。
フィニアス・ナイジェラスがいる……曽々祖父だ。
わかるか?ホグワーツの歴代の校長の中で、一番人望がなかった……アラミンタ・メリフルア……母の従姉だ……マグル狩りを合法化する魔法省令を強行可決しようとした……
親愛な伯母のエラドーラだ……屋敷しもべ妖精が年老いて、お茶の盆を運べなくなったら首を刎ねるというわが家の伝統を打ち立てた……当然、少しでもまともな魔法使いが出ると、勘当だ。
どうやらトンクスはここにいないな。
だからクリーチャーはトンクスの命令には従わないんだろう――家族の命令なら何でも従わなければならないはずだから――」
「トンクスと親戚なの?」
ハリーは驚いた。
「ああ、そうだ。
トンクスの母親、アンドロメダは、わたしの好きな従姉だった」
シリウスはタペストリーを入念に調べながら言った。
「いや、アンドロメダも載っていない。見てごらん――」
シリウスはもう1つの小さい焼け焦げを指した。
ベラトリックスとナルシッサという2つの名前の間にあった。
「アンドロメダのほかの姉妹は載っている。すばらしい、きちんとした純血結婚をしたからね。
しかし、アンドロメダはマグル生まれのテッド・トンクスと結婚した。だから――」
シリウスは杖でタペストリーを撃つまねをして、自嘲的に笑った。
しかし、ハリーは笑わなかった。
アンドロメダの焼け焦げの右にある名前に気を取られて、じっと見つめていたのだ。
金の刺繍の二重線がナルシッサ・ブラックとルシウス・マルフォイを結び、その2人の名前から下に金の縦線が1本、ドラコという名前に繋がっていた。
「マルフォイ家と親戚なんだ!」
「純血家族はみんな姻戚関係だ」
シリウスが言った。
「娘も息子も純血としか結婚させないというのなら、あまり選択の余地はない。純血種はほとんど残っていないのだから。
モリーも結婚によってわたしと親戚になった。アーサーは私の遠縁で、又従兄かなにかに当たるかな。
しかし、ウィーズリー家をこの図で探すのはむだだ――血を裏切る者ばかりを輩出した家族がいるとすれば、それがウィーズリー家だからな」
しかしハリーは、今度はアンドロメダの焼け焦げの左の名前を見ていた。
ベラトリックス・ブラック。二重線で、ロドルファス・レストレンジと結ばれている。
「レストレンジ……」
ハリーが読み上げた。
この名前は、何かハリーの記憶を刺激する。どこかで聞いた名だ。
しかし、どこだったか、とっさには思い出せない。
ただ、胃の腑に奇妙なぞっとするような感触が蠢いた。
「この2人はアズカバンにいる」
シリウスはそれしか言わなかった。
ハリーはもっと知りたそうにシリウスを見た。
「ベラトリックスと夫のロドルファスは、バーティクラウチの息子と一緒に入ってきた」
シリウスは、相変わらずぶっきらぼうな声だ。
「ロドルファスの弟のラバスタンも一緒だった」
そこでハリーは思い出した。
ベラトリックス・レストレンジを見たのは、ダンブルドアの「憂いの篩」の中だった。想いや記憶を蓄えておける、あの不思議な道具の中だ。
背の高い黒髪の女性で、厚ぼったい瞼の半眼の魔女だった。
裁判の終わりに立ち上がり、ヴォルデモート卿への変わらぬ恭順を誓い、ヴォルデモートが失脚したあとも卿を探し求めたことを誇り、その忠誠ぶりを褒めてもらえる日が来ると宣言した魔女だ。
「いままで一度も言わなかったね。この魔女が――」
「わたしの従姉だったらどうだっていうのかね?」
シリウスがぴしゃりと言った。
「わたしに言わせれば、ここに載っている連中はわたしの家族ではない。
この魔女は、絶対に家族ではない。
君ぐらいの歳のときから、この女には一度も会っていない。
アズカバンでちらりと見かけたことを勘定に入れなければだが。
こんな魔女を親戚に持ったことを、わたしが誇りにするとでも思うのか?」
「ごめんなさい」
ハリーは急いで謝った。
「そんなつもりじゃ――僕、ただ驚いたんだ。それだけ――」
「気にするな。謝ることはない」
シリウスが口ごもった。
シリウスは両手をポケットに深く突っ込み、タペストリーから顔を背けた。
「ここに戻って来たくなかった」
客間を見渡しながら、シリウスが言った。
「またこの屋敷に閉じ込められるとは思わなかった」
ハリーにはよくわかった。
自分が大きくなって、プリベット通りから完全に解放されたと思ったとき、またあの4番地に戻って住むとしたら、どんな思いがするかわかっていた。
「もちろん、本部としては理想的だ」
シリウスが言った。
「父がここに住んでいたときに、魔法使いが知るかぎりのあらゆる安全対策を、この屋敷に施した。位置探知は不可能だ。
だから、マグルは絶対にここを訪れたりはしない――もっともそうしたいとは思わないだろうが――それに、いまはダンブルドアが追加の保護策を講じている。
ここより安全な屋敷はどこにもない。
ダンブルドアが、ほら、『秘密の守人』だ――ダンブルドア自身が誰かにこの場所を教えないかぎり、誰も本部を見つけることはできない――ムーディが昨晩君に見せたメモだが、あれはダンブルドアからだ……」
シリウスは、犬が吼えるような声で短く笑った。
「わたしの両親が、いまこの屋敷がどんなふうに使われているかを知ったら……まあ、母の肖像画で、君も少しはわかるだろうがね……」
シリウスは一瞬顔をしかめ、それからため息をついた。
「時々ちょっと外に出て、何か役に立つことができるなら、わたしも気にしないんだが。
ダンブルドアに、君の尋問について行くことはできないかと聞いてみた――もちろん、スナッフルズとしてだが――君を精神的に励ましたいんだが、どう思うかね?」
ハリーは胃袋が埃っぽい絨毯の下まで沈み込んだような気がした。
尋間のことは、昨夜の夕食のとき以来、考えていなかった。
一番好きな人たちと再会した喜びと、何が起こっているかを聞いた興奮で、尋問は完全に頭から吹っ飛んでいた。
しかし、シリウスの言葉で、押し潰されそうな恐怖感が戻ってきた。
ハリーはサンドイッチを貪っているウィーズリー兄弟妹とハーマイオニーをじっと見た。
みんなが自分を置いてホグワーツに帰ることになったら、僕はどんな気持ちがするだろう。
「心配するな」
シリウスが言った。
ハリーは目を上げ、シリウスが自分を見つめているのに気づいた。
「無罪になるに決まっている。
『国際機密保持法』に、自分の命を救うためなら魔法を使ってもよいと、間違いなく書いてある」
「でも、もし退学になったら」
ハリーが静かに言った。
「ここに戻って、おじさんと一緒に暮らしてもいい?」
シリウスは寂しげに笑った。
「考えてみよう」
「ダーズリーのところに戻らなくてもいいとわかっていたら、僕、尋間のこともずっと気が楽になるだろうと思う」
ハリーはシリウスに答えを迫った。
「ここのほうがよいなんて、連中はよっぽどひどいんだろうな」
シリウスの声が気に沈んでいた。
「そこの2人、早くしないと食べ物がなくなりますよ」
ウィーズリーおばさんが呼びかけた。
シリウスはまた大きなため息をつき、タペストリーに暗い視線を投げた。
それから2人はみんなのところへ行った。
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