The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「見え透いたことを」

ハリーの後ろで声がした。
シリウスが戻ってきていた。戸口から苦々しげにしもべ妖精を睨みつけている。
ホールの騒ぎは静まっていた。
ウィーズリーおばさんとマンダンガスの議論は、厨房にもつれ込んだのだろう。
シリウスの姿を見ると、クリーチャーは身を躍らせ、バカ丁寧に頭を下げて、豚の鼻を床に押しつけた。

「ちゃんと立つんだ」

シリウスがイライラと言った。

「さあ、いったい何が狙いだ?」

「クリーチャーめは掃除をしております」

しもべ妖精は同じことを繰り返した。

「クリーチャーめは高貴なブラック家にお仕えするために生きております――」

「そのブラック家は日に日にますますブラックになっている。汚らしい」

シリウスが言った。

「ご主人様はいつもご冗談がお好きでした」

クリーチャーはもう一度お辞儀をし、低い声で言葉を続けた。

「ご主人様は、母君の心をめちゃめちゃにした、ひどい恩知らずの卑劣漢でした」

「クリーチャー、わたしの母に、心などなかった」

シリウスがばしりと言った。

「母は怨念だけで生き続けた」

クリーチャーはしゃべりながらまたお辞儀をした。

「ご主人様の仰せのとおりです」

クリーチャーは憤慨してブツブツ呟いた。

「ご主人様は母君の靴の泥を拭くのにもふさわしくない。
ああ、おかわいそうな奥様。クリーチャーがこの方にお仕えしているのをご覧になったら、なんと仰せられるか。
どんなにこの人をお嫌いになられたか。この方がどんなに奥様を失望させたか――」

「何が狙いだと聞いている」

シリウスが冷たく言った。

「掃除をしているふりをして現れるときは、おまえは必ず何かをくすねて自分の部屋に持っていくな。
わたしたちが捨ててしまわないように」

「クリーチャーめは、ご主人様のお屋敷で、あるべき場所から何かを動かしたことはございません」

そう言ったすぐあとに、しもべ妖精は早口で呟いた。

「タペストリーが捨てられてしまったら、奥様はクリーチャーめを決してお許しにはならない。
7世紀もこの家に伝わるものをクリーチャーは守らなければなりません。
クリーチャーはご主人様や血を裏切る者や、そのガキどもに、それを破壊させはいたしません――」

「そうじゃないかと思っていた」

シリウスは蔑むような目つきで反対側の壁を見た。

「あの女は、あの裏にも『永久粘着呪文』をかけているだろう。間違いなく、そうだ。
しかし、もし取り外せるなら、わたしは必ずそうする。クリーチャー、さあ、立ち去れ」

クリーチャーはご主人様直々の命令にはとても逆らえないかのようだった。
にもかかわらず、のろのろと足を引きずるようにしてシリウスのそばを通り過ぎるときに、ありったけの嫌悪感を込めてシリウスを見た。
そして、部屋を出るまでブツブツ言い続けた。

「――アズカバン帰りがクリーチャーに命令する。
ああ、おかわいそうな奥様。いまのお屋敷の様子をご覧になったら、なんと仰せになることか。
カスどもが住み、奥様のお宝を捨てて。
奥様はこんなやつは自分の息子ではないと仰せられた。なのに、戻ってきた。
その上、人殺しだとみんなが言う――」

「ブツブツ言い続けろ。本当に人殺しになってやるぞ!」

しもべ妖精を締め出し、バタンと扉を閉めながら、シリウスがイライラと言った。

「シリウス、クリーチャーは気が変なのよ」

ハーマイオニーが弁護するように言った。

「私たちには聞こえないと思っているのよ」

「あいつは長いこと独りでいすぎた」

シリウスが言った。

「母の肖像画からの狂った命令を受け、独り言を言って。しかし、あいつは前からずっと、腐ったいやな――」

「自由にしてあげさえすれば」

ハーマイオニーが願いを込めて言った。

「もしかしたら――」

「自由にはできない。騎士団のことを知りすぎている」

シリウスはにべもなく言った。

「それに、いずれにせよショック死してしまうだろう。
君からあいつに、この家を出てはどうかと言ってみるがいい。あいつがそれをどう受け止めるか」

シリウスが壁のほうに歩いていった。
そこには、クリーチャーが守ろうとしていたタペストリーが壁一杯に掛かっていた。ハリーも他の者もシリウスに従いていった。
タペストリーはひどく古びていた。
色褪せ、ドクシーが食い荒らしたらしい跡があちこちにあった。
しかし、縫い取りをした金の刺繍糸が、家系図の広がりをいまだに輝かせていた。
時代は(ハリーの知るかぎり)、中世にまで遡っている。
タペストリーの一番上に、大きな文字で次のように書かれている。

高貴なる由緒正しきブラック家
  "純血永遠なれ"


「おじさんが載っていない!」

家系図の一番下をざっと見て、ハリーが言った。

「かつてはここにあった」

シリウスが、タペストリーの小さな丸い焼け焦げを指差した。
タバコの焼け焦げのように見えた。

「お優しいわが母上が、わたしが家出したあとに抹消してくださってね――クリーチャーはその話をブツブツ話すのが好きなんだ」

「家出したの?」

「16のころだ」

シリウスが答えた。

「もうたくさんだった」

「どこに行ったの?」

ハリーはシリウスをじっと見つめた。

「君の父さんのところだ」

シリウスが言った。

「君のおじいさん、おばあさんは、本当によくしてくれた。
わたしを2番目の息子として養子同然にしてくれた。
だから、学校が休みになると、君の父さんのところに転がり込んだものだ。
そして17歳になると、独りで暮らしはじめた。
叔父のアルファードが、わたしにかなりの金貨を残してくれていた――この叔父も、ここから抹消されているがね。たぶんそれが原因で――まあ、とにかく、それ以来自分独りでやってきた。
ただ日曜日の昼食は、いつでもポッター家で歓迎された」

「だけど……どうして?」

「家出したか?」

シリウスは苦笑いし、櫛の通っていない髪を指で梳いた。

「なぜなら、この家の者全員を憎んでいたからだ。
両親は狂信的な純血主義者で、ブラック家が事実上王族だと信じていた……愚かな弟は、軟弱にも両親の言うことを信じていた……それが弟だ」

シリウスは家系図の一番下の名前を突き刺すように指差した。



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