The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
玄関のベルがまたカランカランと鳴った。
全員の目がウィーズリーおばさんに集まった。
またしても、ブラック夫人の金切り声が階下から聞こえてきた。
「ここにいなさい」
おばさんがネズミ袋を引っつかみ、きっぱりと言い渡した。
「サンドイッチを持ってきますからね」
おばさんは部屋から出るとき、きっちりと扉を閉めた。
とたんに、みんな一斉に窓際に駆け寄り、玄関の石段を見下ろした。
赤茶色のもじゃもじゃ頭のてっぺんと、積み上げた大鍋が、危なっかしげにふらふら揺れているのが見えた。
「マンダンガスだわ!」
ハーマイオニーが言った。
「大鍋をあんなにたくさん、どうするつもりかしら?」
「安全な置き場所を探してるんじゃないかな」
ハリーが言った。
「僕を見張っているはずだったあの晩、取引してたんだろ?胡散臭い大鍋の?」
「うん、そうだ!」
フレッドが言ったとき、玄関の扉が開いた。
マンダンガスがよっこらしょと大鍋を運び込み、窓からは見えなくなった。
「うへー、お袋はお気に召さないぞ……」
フレッドとジョージは扉に近寄り、耳を澄ませた。
ブラック夫人の悲鳴は止まっていた。
「マンダンガスがシリウスとキングズリーに話してる」
フレッドが、しかめっ面で耳をそばだてながら呟いた。
「よく聞こえねえな……『伸び耳』の危険を冒すか?」
「その価値ありかもな」
ジョージが言った。
「こっそり上まで行って、ひと組取ってくる――」
しかし、まさにその瞬間、階下で大音響が炸裂し、「伸び耳」は用無しになった。
ウィーズリーおばさんが声のかぎりに叫んでいるのが、全員にはっきり聞き取れた。
「
ここは盗品の隠し場所じゃありません!」
「お袋が誰かほかのやつを怒鳴りつけるのを聞くのは、いいもんだ」
フレッドが満足げににっこりしながら、扉をわずかに開け、ウィーズリーおばさんの声がもっとよく部屋中に行き渡るようにした。
「気分が変わって、なかなかいい」
「
――無責任もいいとこだわ。
それでなくても、いろいろ大変なのに、その上あんたがこの家に盗品の大鍋を引きずり込むなんて――」
「あのバカども、お袋の調子を上げてるぜ」
ジョージが頭を振り振り言った。
「早いとこ矛先を逸らさないと、お袋さん、だんだん熱くなって何時間でも続けるぞ。
しかも、ハリー、マンダンガスが君を見張っているはずだったのにドロンしてから、お袋はあいつを怒鳴りたくて、ずっとうずうずしてたんだ――ほーら来た、またシリウスのママだ」
ウィーズリーおばさんの声は、ホールの肖像画の悲鳴と叫びの再開で掻き消されてしまった。
ジョージは騒音を抑えようと、扉を閉めかけたが、閉め切る前に屋敷しもべ妖精が部屋に入り込んできた。
腹に腰布のように巻いた汚らしいボロ以外は、素っ裸だった。相当の年寄りに見えた。
皮膚は身体の数倍あるかのようにだぶつき、しもべ妖精に共通の禿頭だが、コウモリのような大耳から白髪がほうぼうと生えていた。
どんよりとした灰色の目は血走り、肉づきのいい大きな鼻は豚のようだ。
しもべ妖精は、ハリーにも他の誰にもまったく関心を示さない。
まるで誰も見えないかのように、背中を丸め、ゆっくり、執拗に、部屋の向こう端まで歩きながら、ひっきりなしに、食用ガエルのような順れた太い声で何かブツブツ呟いていた。
「……ドブ臭い、おまけに罪人だ。あの女も同類だ。いやらしい血を裏切る者。
そのガキどもが奥様のお屋敷を荒らして。ああ、おかわいそうな奥様。
お屋敷にカスどもが入り込んだことをお知りになったら、このクリーチャーめになんと仰せられることか。おお、なんたる恥辱。
穢れた血、狼人間、裏切り者、泥棒めら。
哀れなこのクリーチャーは、どうすればいいのだろう……」
「おーい、クリーチャー」
フレッドが扉をぴしゃりと閉めながら、大声で呼びかけた。
屋敷しもべ妖精はぱたりと止まり、ブツブツをやめ、大げさな、しかし嘘臭い様子で驚いてみせた。
「クリーチャーめは、お若い旦那さまに気づきませんで」
そう言うと、クリーチャーは後ろを向き、フレッドにお辞儀した。
俯いて絨毯を見たまま、はっきりと聞き取れる声で、クリーチャーはそのあとを続けた。
「血を裏切る者の、いやらしいガキめ」
「え?」
ジョージが聞いた。
「最後になんて言ったかわからなかったけど」
「クリーチャーめは何も申しません」
しもべ妖精が、今度はジョージにお辞儀しながら言った。
そして、低い声ではっきりつけ加えた。
「それに、その双子の片われ。異常な野獣め。こいつら」
ハリーは笑っていいやらどうやら、わからなかった。
しもべ妖精は身体を起こし、全員を憎々しげに見つめ、誰も自分の言うことが聞こえないと信じきっているらしく、ブツブツ言い続けた。
「……それに、穢れた血め。ずうずうしく鉄面皮で立っている。
ああ、奥様がお知りになったら、ああ、どんなにお嘆きか。
それに、1人新顔の子がいる。クリーチャーは名前を知らない。ここで何をしてるのか?クリーチャーは知らない……」
「こちら、ハリーよ、クリーチャー」
ハーマイオニーが遠慮がちに言った。
「ハリー・ポッターよ」
クリーチャーは濁った目を見開き、前よりもっと早口に怒り狂って呟いた。
「穢れた血が、クリーチャーに友達顔で話しかける。
クリーチャーめがこんな連中と一緒にいるところを奥様がご覧になったら、ああ、奥様はなんと仰せられることか――」
「ハーマイオニーを穢れた血なんて呼ぶな!」
ロンとジニーがカンカンになって同時に言った。
「いいのよ」
ハーマイオニーが囁いた。
「正気じゃないのよ。
何を言ってるのか、わかってないんだから――」
「甘いぞ、ハーマイオニー。
こいつは、何を言ってるのか
ちゃーんとわかってるんだ」
いやなやつ、とクリーチャーを睨みながらフレッドが言った。
クリーチャーはハリーを見ながら、まだブツブツ言っていた。
「本当だろうか?ハリー・ポッター?
クリーチャーには傷痕が見える。本当に違いない。闇の帝王を止めた男の子。
どうやって止めたのか、クリーチャーは知りたい――」
「みんな知りたいさ、クリーチャー」
フレッドが言った。
「ところで、いったい何の用だい?」
ジョージが聞いた。
クリーチャーの巨大な目が、さっとジョージに走った。
「クリーチャーめは掃除をしております」
クリーチャーがごまかした。
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