The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




次に気がついたときは、ハリーはベッドの中でぬくぬくと丸まっていた。
ジョージの大声が部屋中に響いた。

「お袋が起きろって言ってるぞ。
朝食は厨房だ。それから客間に来いってさ。ドクシーが、思ったよりどっさりいるらしい。
それに、ソファの下に死んだパフスケインの巣を見つけたんだって」

30分後、急いで服を着て朝食をすませたハリーとロンは、客間に入っていった。
2階にある天井の高い、長い部屋で、オリーブグリーンの壁は汚らしいタペストリーで覆われていた。
絨毯は、誰かが1歩踏み締めるたびに、小さな雲のような埃を巻き上げた。
モスグリーンの長いビロードのカーテンは、まるで姿の見えない蜂が群がっているかのようにブンブン唸っていた。
その周りに、ウィーズリーおばさん、ハーマイオニー、ジニー、フレッド、ジョージが集まっていた。
みんな鼻と口を布で覆って、奇妙な格好だ。
それぞれの手に、黒い液体が入った噴射用ノズルつきの瓶を持っている。

「顔を覆って、スプレーを持って」

ハリーとロンの顔を見るなり、おばさんが言った。
紡錘形の脚をしたテーブルに、黒い液体の瓶があと2つあり、それを指差している。

「ドクシー・キラーよ。こんなにひどく蔓延っているのは初めて見たわ――あの屋敷しもべ妖精は、この10年間、いったい何をしてたことやら――」

ハーマイオニーの顔は、キッチンタオルで半分隠れていたが、ウィーズリーおばさんに咎めるような目を向けたのを、ハリーは間違いなく見た。

「クリーチャーはとっても歳を取ってるもの、とうてい手が回らなくって――」

「ハーマイオニー、クリーチャーが本気になれば、君が驚くほどいろいろなことに手が回るよ」

ちょうど部屋に入ってきたシリウスが言った。
血に染まった袋を抱えている。死んだネズミが入っているらしい。

「バックビークに餌をやっていたんだ」

ハリーが怪訝そうな顔をしているので、シリウスが言った。

「上にあるお母上さまの寝室で飼ってるんでね。
ところで……この書き物机か……」

シリウスはネズミ袋を肘掛椅子に置き、鍵の掛かった書き物机の上から屈み込むようにして調べた。
机が少しガタガタ揺れているのに、ハリーはそのとき初めて気づいた。

「うん、モリー、わたしもまね妖怪に間違いないと思う」

鍵穴から覗き込みながら、シリウスが言った。

「だが、中から出す前に、マッド-アイの目で覗いてもらったほうがいい――なにしろ私の母親のことだから、もっと悪質なものかもしれない」

「わかったわ、シリウス」

ウィーズリーおばさんが言った。
2人とも、慎重に、何気ない、丁寧な声で話をしていたが、それがかえって、どちらも昨夜の諍いを忘れてはいないことをはっきり物語っているとハリーは思った。

下の階で、カランカランと大きなベルの音がした。
とたんに、耳を覆いたくなる大音響で嘆き叫ぶ声が聞こえてきた。
昨夜、トンクスが傘立てを引っくり返したときに引き起こした、あの声だ。

「扉のベルは鳴らすなと、あれほど言ってるのに」

シリウスは憤慨して、急いで部屋から出ていった。
シリウスが嵐のように階段を下りていき、ブラック夫人の金切り声が、たちまち家中に響き渡るのが聞こえてきた。

「不名誉な汚点、穢らわしい雑種、血を裏切る者、汚れた子らめ……」

「ハリー、扉を閉めてちょうだい」

ウィーズリーおばさんが言った。
ハリーは、変に思われないぎりぎりの線で、できるだけゆっくり客間の扉を閉めた。
下で何が起こっているか聞きたかったのだ。
シリウスは母親の肖像画を、なんとかカーテンで覆ったようだ。肖像画が叫ぶのをやめた。
シリウスがホールを歩く足音が聞こえ、玄関の鎖が外れるカチャカチャという音、そして聞き覚えのあるキングズリー・シャックルボルトの深い声が聞こえた。

「ヘスチアが、いま私と代わってくれたんだ。だからムーディのマントはいまヘスチアが持っている。
ダンブルドアに報告を残しておこうと思って……」

頭の後ろにウィーズリーおばさんの視線を感じて、ハリーはしかたなく客間の扉を閉め、ドクシー退治部隊に戻った。
ウィーズリーおばさんは、ソファの上に開いて置いてある「ギルデロイ・ロックハートのガイドブック――一般家庭の害虫」を覗き込み、ドクシーに関するページを確かめていた。

「さあ、みんな、気をつけるんですよ。ドクシーは噛みつくし、歯に毒があるの。
毒消しはここに1本用意してあるけど、できれば誰も使わなくてすむようにしたいわ」

おばさんは身体を起こし、カーテンの真正面で身構え、みんなに前に出るように合図した。

「私が合図したら、すぐに噴射してね」

おばさんが言った。

「ドクシーはこっちをめがけて飛んでくるでしょう。
でも、たっぷり1回シューッとやれば麻痺するって、スプレー容器にそう書いてあるわ。
動けなくなったところを、このバケツに投げ入れてちょうだい」

おばさんは、みんながずらりと並んだ噴射線から慎重に1歩踏み出し、自分のスプレー瓶を高く掲げた。

「用意――噴射!

ハリーがほんの数秒噴霧したかというとき、成虫のドクシーが1匹、カーテンの襞から飛び出してきた。
妖精に似た胴体はびっしりと黒い毛で覆われ、輝くコガネムシのような羽を震わせ、針のように鋭く小さな歯を剥き出し、怒りで4つの小さな拳をぎゅっと握り締めて飛んでくる。
ハリーは、その顔にまともにドクシー・キラーを噴きつけた。
ドクシーは空中で固まり、ズシンとびっくりするほど大きな音を立てて、そのまま擦り切れた絨毯の上に落ちた。
ハリーはそれを拾い、バケツに投げ込んだ。

「フレッド、何やってるの?」

おばさんが鋭い声を出した。

「すぐそれに薬をかけて、投げ入れなさい!」

ハリーが振り返ると、フレッドが親指と人差し指でバタバタ暴れるドクシーを摘んでいた。

「がってん承知」

フレッドが朗らかに答えて、ドクシーの顔に薬を噴きかけて気絶させた。
しかし、おばさんが向こうを向いたとたん、フレッドはそれをポケットに突っ込んでウィンクした。

「『ずる休みスナックボックス』のためにドクシーの毒液を実験したいのさ」

ジョージがひそひそ声でハリーに言った。
鼻めがけて飛んできたドクシーを器用に2匹まとめて仕留め、ハリーはジョージのそばに移動して、こっそり聞いた。

「『ずる休みスナックボックス』って、何?」

「病気にしてくれる菓子、もろもろ」

おばさんの背中を油断なく見張りながら、ジョージが囁いた。

「と言っても、重い病気じゃないさ。
さぼりたいときにクラスを抜け出すのには十分な程度に気分が悪くなる。
フレッドと2人で、この夏ずっと開発してたんだ。
2色の噛みキャンディで、両半分の色が暗号になってる。
『ゲーゲートローチ』は、オレンジ色の半分を噛むと、ゲーゲー吐く。
慌てて教室から出され、医務室に急ぐ道すがら、残り半分の紫色を飲み込む――」

「『――すると、たちまちあなたは元気一杯。
無益な退屈さに奪われるはずの1時間、お好みどおりの趣味の活動にいそしめるという優れもの』とにかく広告の謳い文句にはそう書く」

おばさんの視界からじりじりと抜け出してきたフレッドが囁いた。
フレッドは床にこぼれ落ちたドクシーを2,3匹、さっと拾ってポケットに入れるところだった。

「だけどもうちょい作業が残ってるんだ。
いまのところ、実験台にちょいと問題があって、ゲーゲー吐き続けなもんだから、紫のほうを飲み込む間がないのさ」

「実験台?」

「俺たちさ」

フレッドが言った。

「代わりばんこに飲んでる。
ジョージは『気絶キャンディ』をやったし――『鼻血ヌルヌル・ヌガー』は2人とも試したし――」

「お袋は、俺たちが決闘したと思ってるんだ」

ジョージが言った。

「それじゃ、『悪戯専門店』は続いてるんだね?」

ハリーはノズルの調節をするふりをしながらこっそり聞いた。

「うーん、まだ店を持つチャンスがないけど」

フレッドがさらに声を落とした。
ちょうどおばさんが、次の攻撃に備えてスカーフで額を拭ったところだった。

「だから、いまんとこ、通販でやってるんだ。先週『日刊予言者新聞』に広告を出した」

「みんな君とサクヤのおかげだぜ、兄弟」

ジョージが言った。

「だけど、心配ご無用……お袋は全然気づいてない。もう『日刊予言者新聞』を読んでないんだ。
君たちやダンブルドアのことで新聞が嘘八百だからって」

ハリーはニヤッとした。
三校対抗試合の賞金1000ガリオンを、ウィーズリーの双子に無理やり受け取らせ、「悪戯専門店」を開きたいという志の実現を助けたのは、ハリーとサクヤだった。
しかし、双子の計画を推進するのにハリーたちが関わっていると、ウィーズリーおばさんにばれていないのはうれしかった。
おばさんは、2人の息子の将来に、「悪戯専門店」経営はふさわしくないと考えているのだ。

カーテンのドクシー駆除に、午前中まるまるかかった。
ウィーズリーおばさんが覆面スカーフを取ったのは正午を過ぎてからだった。
おばさんは、クッションの凹んだ肘掛椅子にドサッと腰を下ろしたが、ギャッと悲鳴をあげて飛び上がった。
死んだネズミの袋に腰掛けてしまったのだ。
カーテンはもうブンブンいわなくなり、スプレーの集中攻撃で、湿ってだらりと垂れ下がっていた。
その下のバケツには、気絶したドクシーが詰め込まれ、その脇には黒い卵の入ったボウルが置かれていた。
クルックシャンクスがボウルをフンフン嗅ぎ、フレッドとジョージは欲しくて堪らなそうにちらちら見ていた。

こっちのほうは、午後にやっつけましょう」

ウィーズリーおばさんは、暖炉の両脇にある、埃をかぶったガラス扉の飾り棚を指差した。
中には奇妙なものが雑多に詰め込まれていた。
錆びた短剣類、鉤爪、とぐろを巻いた蛇の抜け殻、ハリーの読めない文字を刻んだ、黒く変色した銀の箱がいくつか、それに、一番気持ちの悪いのが、装飾的なクリスタルの瓶で、栓に大粒のオパールがひと粒嵌め込まれている。
中にたっぷり入っているのは血に違いないと、ハリーは思った。



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