The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「それで、騎士団は何をしているの?」
ハリーが、全員の顔をぐるりと見渡しながら聞いた。
「ヴォルデモートが計画を実行できないように、できるかぎりのことをしている」
シリウスが言った。
「あいつの計画がどうしてわかるの?」
ハリーがすぐ聞き返した。
「ダンブルドアは洞察力が鋭い」
ルーピンが言った。
「しかも、その洞察は、結果的に正しいことが多い」
「じゃ、ダンブルドアは、あいつの計画がどんなものだと考えてるの?」
「そう、まず、自分の軍団を再構築すること」
シリウスが言った。
「かつて、あいつは膨大な数を指揮下に収めた。
脅したり、魔法をかけたりして従わせた魔法使いや魔女、忠実な『死喰い人』、ありとあらゆる闇の生き物たち。
やつが巨人を招集しようと計画していたことは聞いたはずだ。そう、巨人は、やつが目をつけているグループの1つにすぎない。
やつが、ほんの一握りの『死喰い人』だけで、魔法省を相手に戦うはずがない。
そこで、まず狙われたのがサクヤというわけだ。
フェリックス一族の最後の1人を手にしたとなれば、様々な魔法族や魔法生物が屈したり、そちらに傾く可能性が高まる。
サクヤ自身が頑張ったのももちろんだが、ハリー、君が彼女を連れ帰ってくれたことは本当に大きい意味があった」
「サクヤは――サクヤが訓練してるって、それは、不死鳥の騎士団に迎え入れるため?
彼女はダンブルドアの側にいるって、みんなに知らせるために?」
ハリーがさきほど聞いたばかりの情報を思い出して訊ねた。
一瞬、その場にいる騎士団のメンバー全員が面食らったように感じたが、ルーピンがすぐに口を開いた。
「彼女が今ホグワーツで特訓を受けているのは事実だが、それこそさっき私が恐れた『歪曲された話』というやつかな。
サクヤを騎士団に引き入れようだなんて話は挙がったことすらないよ。君と同じ未成年なのだから。
ただ――彼女はホグワーツから出られなくなり、訓練を受けなければならない状況に陥った。いまはそれだけしか言うことができない」
未だ不満そうなハリーを見て、ルーピンは辛抱強く続けた。
「けど、誓って、サクヤはハリーを出し抜いたわけじゃない。これだけは分かっておいてほしい。
本来ならば、ロンやハーマイオニーと一緒に君を出迎え、私たちと一緒に夕食を食べるはずだった。彼女がそうしたくないわけがない。
友達を……サクヤを、信じてあげられるね?」
ハリーは、ロンとハーマイオニーが頷くのを見た。
2人もまた、サクヤの状況をきちんと聞くのはこれが初めてのようにハリーには見えた。ハリーもこっくり頷いた。
「それじゃ、ヴォルデモートは手下集めがうまくいっていないんだね?
サクヤを取り逃がした上に、騎士団のみんなもそれを阻止しているから?」
「できるだけ、ね」
ルーピンが言った。
「どうやって妨害してるの?」
「一番重要なのは、なるべく多くの魔法使いたちに、『例のあの人』が本当に戻ってきたのだと信じさせ、警戒させることだ」
ビルが言った。
「だけど、これがなかなか厄介だ」
「どうして?」
「魔法省の態度のせいよ」
トンクスが答えた。
「『例のあの人』が戻った直後のコーネリウス・ファッジの態度を、ハリー、君は見たよね。
そう、大臣はいまだにまったく立場を変えていないの。
そんなことは起こらなかったと、頭っから否定してる」
「でも、どうして?」
ハリーは必死の思いだった。
「どうしてファッジはそんなに間抜けなんだ?
だって、ダンブルドアが――」
「ああ、そうだ。君はまさに問題の核心を突いた」
ウィーズリーおじさんが苦笑いした。
「
ダンブルドアだ」
「ファッジはダンブルドアが怖いのよ」
トンクスが悲しそうに言った。
「ダンブルドアが怖い?」
ハリーは納得がいかなかった。
「ダンブルドアが企てていることが怖いんだよ」
ウィーズリーおじさんが言った。
「ファッジは、ダンブルドアがファッジの失脚を企んでいると思っている。
ダンブルドアが魔法省乗っ取りを狙っているとね」
「でもダンブルドアはそんなこと望んで――」
「いないよ、もちろん」
ウィーズリーおじさんが言った。
「ダンブルドアは一度も大臣職を望まなかった。
ミリセント・バグノールドが引退したとき、ダンブルドアを大臣にと願った者が大勢いたにもかかわらずだ。
代わりにファッジが権力を握った。
しかし、ダンブルドアが決してその地位を望まなかったにもかかわらず、いかに人望が厚かったかを、ファッジが完全に忘れたわけではない」
「心の奥で、ファッジはダンブルドアが自分より賢く、ずっと強力な魔法使いだと知っている。
就任当初は、しょっちゅうダンブルドアの援助と助言を求めていた」
ルーピンが言った。
「しかし、ファッジは権力の味を覚え、自信をつけてきた。
魔法大臣であることに執着し、自分が賢いと信じ込もうとしている。
そして、ダンブルドアは単に騒動を引き起こそうとしているだけなんだとね」
「いったいどうして、そんなことを考えられるんだ?」
ハリーは腹が立った。
「ダンブルドアがすべてをでっち上げてるなんて――
僕がでっち上げてるなんて?」
「それは、ヴォルデモートが戻ってきたことを受け入れれば、魔法省がここ14年ほど遭遇したことがないような大問題になるからだ」
シリウスが苦々しげに言った。
「ファッジはどうしても正面きってそれと向き合えない。
ダンブルドアが嘘をついて、自分を転覆させようとしていると信じ込むほうが、どんなに楽かしれない」
「何が問題かわかるだろう?」
ルーピンが言った。
「魔法省が、ヴォルデモートのことは何も心配する必要がないと主張し続けるかぎり、やつが戻ってきたと説得するのは難しい。
そもそも、そんなことは誰も信じたくないんだから。
その上、魔法省は『日刊予言者新聞』に圧力をかけて、いわゆる『ダンブルドアのガセネタ』はいっさい報道しないようにさせている。
だから、一般の魔法族は、何が起こっているかまったく気がつきもしない。
『死喰い人』にとっては、それが思いがけない幸運で、『服従の呪い』をかけようとすれば、いいカモになる」
「でも、みんなが知らせているんでしょう?」
ハリーは、ウィーズリーおじさん、シリウス、ビル、マンダンガス、ルーピン、トンクスの顔を見回した。
「みんなが、あいつが戻ってきたって、知らせてるんでしょう?」
全員が、冗談抜きの顔で微笑んだ。
「さあ、わたしは気の触れた大量殺人者だと思われているし、魔法省がわたしの首に10000ガリオンの懸賞金を賭けているとなれば、街に出てビラ配りを始めるわけにもいかない。そうだろう?」
シリウスが焦りじりしながら言った。
「私はとくれば、魔法族の間ではとくに夕食に招きたい客じゃない」
ルーピンが言った。
「狼人間につきものの職業上の障害でね」
「トンクスもアーサーも、そんなことを触れ回ったら、職を失うだろう」
シリウスが言った。
「それに、魔法省内にスパイを持つことは、我々にとって大事なことだ。
なにしろ、ヴォルデモートのスパイもいることは確かだからね」
「それでもなんとか、何人かを説得できた」
ウィーズリーおじさんが言った。
「このトンクスもその1人――前回は不死鳥の騎士団に入るには若すぎたんだ。
それに、闇祓いを味方につけるのは大いに有益だ――キングズリー・シャックルボルトもまったく貴重な財産だ。
シリウスを追跡する責任者でね。
だから、魔法省に、シリウスがチベットにいると吹聴している」
「でも、ヴォルデモートが戻ってきたというニュースを、この中の誰も広めてないのなら――」
ハリーが言いかけた。
「1人もニュースを流していないなんて言ったか?」
シリウスが遮った。
「ダンブルドアが苦境に立たされているのはなぜだと思う?」
「どういうこと?」
ハリーが聞いた。
「連中はダンブルドアの信用を失墜させようとしている」
ルーピンが言った。
「先週の『日刊予言者新聞』を見なかったかね?
国際魔法使い連盟の議長職を投票で失った、という記事だ。
老いぼれて判断力を失ったからというんだが、本当のことじゃない。
ヴォルデモートが復活したという演説をしたあとで、魔法省の役人たちの投票で職を追われた。
ウィゼンガモット法廷――魔法使いの最高裁だが――そこの主席魔法戦士からも降ろされた。
それに、勲一等マーリン勲章を剥奪する話もある」
「でも、ダンブルドアは蛙チョコレートのカードにさえ残れば、何にも気にしないって言うんだ」
ビルがニヤッとした。
「笑い事じゃない」
ウィーズリーおじさんがビシッと言った。
「ダンブルドアがこんな調子で魔法省に楯突き続けていたら、アズカバン行きになるかもしれない。ダンブルドアが幽閉されれば、我々としては最悪の事態だ。
ダンブルドアが立ちはだかり、企みを見抜いているとやつが知っていればこそ、『例のあの人』も慎重になる。
ダンブルドアが取り除かれたとなれば――そう、『例のあの人』にもはや邪魔者はいない」
「でも、ヴォルデモートが『死喰い人』をもっと集めようとすれば、どうしたって復活したことが表沙汰になるでしょう?」
ハリーは必死の思いだった。
「ハリー、ヴォルデモートは魔法使いの家を個別訪問して、正面玄関をノックするわけじゃない」
シリウスが言った。
「騙し、呪いをかけ、恐喝する。君自身も目の前で見たはずだよ――サクヤが墓場でそうされたのを。
隠密工作は手馴れたものだ。
いずれにせよ、やつの関心は、配下を集めることだけじゃない。ほかにも求めているものがある。
やつがまったく極秘で進めることができる計画だ。いまはそういう計画に集中している」
「配下集め以外に、何を?」
ハリーがすぐ聞き返した。
シリウスとルーピンが、ほんの一瞬目配せしたような気がした。
それからシリウスが答えた。
「極秘にしか手に入らないものだ」
ハリーがまだキョトンとしていると、シリウスが言葉を続けた。
「武器のようなものというかな。
前の時には持っていなかったものだ」
「前に勢力を持っていたときってこと?」
「そうだ」
「それ、どんな種類の武器なの?」
ハリーが聞いた。
「『アバダ ケダブラ』呪文より悪いもの――?」
「もうたくさん!」
扉の脇の暗がりから、ウィーズリーおばさんの声がした。
ハリーは、ジニーを上に連れていったおばさんが、戻ってきていたのに気づかなかった。
腕組みをして、カンカンに怒った顔だ。
「いますぐベッドに行きなさい。全員です」
おばさんはフレッド、ジョージ、ロン、ハーマイオニーをぐるりと見渡した。
「僕たちに命令はできない――」
フレッドが抗議を始めた。
「できるかできないか、見ててごらん」
おばさんが唸るように言った。
シリウスを見ながら、おばさんは小刻みに震えていた。
「あなたはハリーに十分な情報を与えたわ。
これ以上何か言うなら、いっそハリーを騎士団に引き入れたらいいでしょう」
「そうして!」
ハリーが飛びつくように言った。
「僕、入る。入りたい。戦いたい」
「だめだ」
答えたのは、ウィーズリーおばさんではなく、ルーピンだった。
「言ったはずだよ――騎士団は、成人の魔法使いだけで組織されている」
ルーピンが続けた。
「学校を卒業した魔法使いたちだ」
フレッドとジョージが口を開きかけたので、ルーピンがつけ加えた。
「危険が伴う。
君たちには考えも及ばないような危険が……シリウス、モリーの言うとおりだ。私たちはもう十分話した」
シリウスは中途半端に肩をすくめたが、言い争いはしなかった。
ウィーズリーおばさんは威厳たっぷりに息子たちとハーマイオニーを手招きした。
1人、また1人とみんなが立ち上がった。
ハリーは敗北を認め、みんなに従った。
>>To be continued
( 27/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]