The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
ウィーズリーおじさん、ビル、ルーピンは小鬼について話し込んでいた。
「連中はまだ何にも漏らしていないんですよ」
ビルが言った。
「『例のあの人』が戻ってきたことを、連中が信じているのかいないのか、僕にはまだ判断がつかない。
むろん、連中にしてみれば、どちらにも味方しないでいるほうがいいんだ。何にもかかわらずに」
「連中は『例のあの人』側につくことはないと思うね」
ウィーズリーおじさんが頭を振りながら言った。
「連中も痛手を被ったんだ。
前回、ノッティンガムの近くで『あの人』に殺された小鬼の一家のことを憶えてるだろう?」
「私の考えでは、見返りが何かによるでしょう」
ルーピンが言った。
「金のことじゃないんですよ。
我々魔法使いが、連中に対して何世紀も拒んできた、自由を提供すれば、連中も気持ちが動くでしょう。
ビル、ラグノックの件はまだ上手くいかないのかね?」
「いまのところ、魔法使いへの反感が相当強いですね」
ビルが言った。
「バグマンの件で、まだ罵り続けていますよ。
ラグノックは、魔法省が隠蔽工作をしたと考えています。
例の小鬼たちは、結局バグマンから金をせしめることができなかったんです。それで――」
テーブルの真ん中から、大爆笑が上がりビルの言葉を掻き消してしまった。
フレッド、ジョージ、ロン、マンダンガスが椅子の上で笑い転げていた。
「……それでよぅ」
マンダンガスが涙を流し、息を詰まらせながらしゃべっていた。
「そンで、信じられねえかもしんねえけどよぅ、あいつが俺に、俺によぅ、こう言うんだ。
『あー、ダング、ヒキガエルをそんなに、どっから手に入れたね?なにせ、どっかのならずもンが、俺のヒキガエルを全部盗みやがったんで」
俺は言ってやったね。
『ウィル、おめえのヒキガエルを全部?次はなにが起こるかわかったもんじゃねえなぁ?そこで、おめえは、ヒキガエルを何匹かほしいってぇわけだな?』
そこでよぅ、信じられるけぇ?
あの脳たりんのガーゴイルめ、俺が持ってた、やつのヒキガエルをそっくり買い戻しやがった。
最初にやつが払った値段よりずんと高い金でよぅ――」
ロンがテーブルに突っ伏して、大笑いした。
「マンダンガス、あなたの商売の話は、もうこれ以上聞きたくありません。もう結構」
ウィーズリーおばさんが厳しい声で言った。
「ごめんよ、モリー」
マンダンガスが涙を拭い、ハリーにウィンクしながら謝った。
「だけンどよぅ、もともとそのヒキガエル、ウィルのやつがウォーティ・ハリスから盗んだんだぜ。
だから、おれはなンも悪いことはしちゃいねえ」
「あなたが、いったいどこで善悪を学んだかは存じませんがね、マンダンガス、でも、大切な授業をいくつか受け損ねたようね」
ウィーズリーおばさんが冷たく言った。
フレッドとジョージはバタービールのゴブレットに顔を隠し、ジョージはしゃっくりしていた。
ウィーズリーおばさんは、立ち上がってデザートの大きなルバーブ・クランブルを取りにいく前に、なぜかいやな顔をして、シリウスをちらりと睨みつけた。
ハリーは名付け親を振り返った。
「モリーはマンダンガスを認めていないんだ」
シリウスが低い声で言った。
「どうしてあの人が騎士団に入ってるの?」
ハリーもこっそり聞いた。
「あいつは役に立つ」
シリウスが呟いた。
「ならず者を全部知っている――そりゃ、知っているだろう。あいつもその1人だしな。
しかし、あいつはダンブルドアに忠実だ。一度危ないところを救われたから。
ダングのようなのが1人いると、それなりに価値がある。
あいつはわたしたちの耳に入ってこないようなことを聞き込んでくる。
しかし、モリーは、あいつを夕食に招待するのはやりすぎだと思ってる。
君を見張るべきときに、任務を放ったらかしにして消えたことで、モリーはまだあいつを許していないんだよ」
ルバーブ・クランブルにカスタードクリームをかけて、3回もおかわりしたあと、ハリーは、ジーンズのベルトが気持ち悪いほどきつく感じた(これはただごとではなかった。なにしろダドリーのお下がりジーンズなのだから)。
ハリーがスプーンを置くころは、会話もだいたいひと段落していた。
ウィーズリーおじさんは、満ち足りてくつろいだ様子で椅子に寄り掛かり、トンクスは鼻が元どおりになり大欠伸をしていた。
ジニーはクルックシャンクスを食器棚の下から誘い出し、床にあぐらをかき、バタービールのコルク栓を転がして猫に追わせていた。
「もうおやすみの時間ね」
ウィーズリーおばさんが、欠伸しながら言った。
「いや、モリー、まだだ」
シリウスが空になった自分の皿を押し退け、ハリーのほうを向いて言った。
「いいか、君には驚いたよ。
ここに着いたとき、君は真っ先にヴォルデモートのことを聞くだろうと思っていたんだが」
部屋の雰囲気がさーっと変わった。
吸魂鬼が現れたときのような急激な変化だと、ハリーは思った。
一瞬前は、眠たげでくつろいでいたのに、いまや、警戒し、張りつめている。
ヴォルデモートの名前が出たとたん、テーブル全体に戦慄が走った。
ちょうどワインを飲もうとしていたルーピンは、緊張した面持ちで、ゆっくりとゴブレットを下に置いた。
「聞いたよ!」
ハリーは憤慨した。
「ロンとハーマイオニーに聞いた。
でも、2人が言ったんだ。僕たちは騎士団に入れてもらえないから、だから――」
「2人の言うとおりよ」
ウィーズリーおばさんが言った。
「あなたたちはまだ若すぎるの」
おばさんは背筋をぴんと伸ばして椅子に掛けていた。
椅子の肘掛けに置いた両手を固く握り締め、眠気などひと欠けらも残っていない。
「騎士団に入っていなければ質問してはいけないと、いつからそう決まったんだ?」
シリウスが聞いた。
「ハリーはあのマグルの家に1ヵ月も閉じ込められていた。
何が起こったのかを知る権利がある」
「ちょっと待った!」
ジョージが大声で遮った。
「なんでハリーだけが質問に答えてもらえるんだ?」
フレッドが怒ったように言った。
「
僕たちだって、この1ヶ月、みんなから聞き出そうとしてきた。
なのに、誰も何ひとつ教えてくれやしなかった!」
ジョージが言った。
「
『あなたはまだ若すぎます。あなたは騎士団に入っていません』」
フレッドが紛れもなく母親の声だとわかる高い声を出した。
「ハリーはまだ成人にもなってないんだぜ!」
「騎士団が何をしているのか、君たちが教えてもらえなかったのは、わたしの責任じゃない」
シリウスが静かに言った。
「それは、君たちのご両親の決めたことだ。
ところが、ハリーのほうは――」
「ハリーにとって何がいいのかを決めるのは、あなたではないわ!」
ウィーズリーおばさんが鋭く言った。
いつもはやさしいおばさんの顔が、険しくなっていた。
「ダンブルドアがおっしゃったことを、よもやお忘れじゃないでしょうね?」
「どのお言葉でしょうね?」
シリウスは礼儀正しかったが、戦いに備えた男の雰囲気を漂わせていた。
「
ハリーが知る必要があること以外は話してはならない、とおっしゃった言葉です」
ウィーズリーおばさんは最初の件をことさらに強調した。
ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージの4人の頭が、シリウスとウィーズリー夫人の間を、テニスのラリーを見るように往復した。
ジニーは、散らばったバタービールのコルク栓の山の中に膝をつき、口を微かに開けて、2人のやりとりを見つめていた。
ルーピンの目は、シリウスに釘づけになっていた。
「わたしは、
ハリーが知る必要があること以外に、この子に話してやるつもりはないよ、モリー」
シリウスが言った。
「しかし、ハリーがヴォルデモートの復活を目撃した者である以上(ヴォルデモートの名が、またしてもテーブル中を一斉に身震いさせた)、ハリーは大方の人間より以上に――」
「この子は不死鳥の騎士団のメンバーではありません!」
ウィーズリーおばさんが言った。
「この子はまだ15歳です。それに――」
「それに、ハリーは騎士団の大多数のメンバーに匹敵するほどの、いや、何人かを凌ぐほどのことをやり遂げてきた」
「誰も、この子がやり遂げたことを否定しやしません!」
ウィーズリーおばさんの声が一段と高くなり、拳が椅子の肘掛けで震えていた。
「でも、この子はまだ――」
「ハリーは子どもじゃない!」
シリウスがイライラと言った。
「大人でもありませんわ!」
ウィーズリーおばさんは、頬を紅潮させていた。
「シリウス、この子は
ジェームズじゃないのよ!」
「お言葉だが、モリー、わたしは、この子が誰か、はっきりわかっているつもりだ」
シリウスが冷たく言った。
「私にはそう思えないわ!」
ウィーズリーおばさんが言った。
「時々、あなたがハリーのことを話すとき、まるで親友が戻ってきたかのような口ぶりだわ!」
「そのどこが悪いの?」
ハリーが言った。
「どこが悪いかと言うとね、ハリー、あなたはお父さんとは
違うからですよ。
どんなにお父さんにそっくりでも!」
ウィーズリーおばさんが、抉るような目でシリウスを睨みながら言った。
「あなたはまだ学生です。
あなたに責任を持つべき大人が、それを忘れてはいけないわ!」
「わたしが無責任な名付け親だという意味ですかね?」
シリウスが、声を荒らげて問い質した。
「あなたは向こう見ずな行動を取ることもあるという意味ですよ、シリウス。
だからこそ、ダンブルドアがあなたに、家の中にいるようにと何度もおっしゃるんです。それに――」
「ダンブルドアがわたしに指図することは、よろしければ、このさい別にしておいてもらいましょう!」
シリウスが大声を出した。
「アーサー!」
おばさんは歯痒そうにウィーズリーおじさんを振り返った。
「アーサー、なんとか言ってくださいな!」
ウィーズリーおじさんはすぐには答えなかった。
眼鏡を外し、妻のほうを見ずに、ローブでゆっくりと眼鏡を拭いた。
その眼鏡を慎重に鼻に載せ直してから、初めておじさんが口を開いた。
「モリー、ダンブルドアは立場が変化したことをご存知だ。
いまハリーは、本部にいるわけだし、ある程度は情報を与えるべきだと認めていらっしゃる」
「そうですね。
でも、それと、ハリーに何でも好きなことを聞くようにと促すのとは、全然別です」
「私個人としては」
シリウスから目を離したルーピンが、静かに言った。
ウィーズリーおばさんは、やっと味方ができそうだと、急いでルーピンを振り返った。
「ハリーは事実を知っておいたほうがよいと思うね――何もかもというわけじゃないよ、モリー。
でも、全体的な状況を、私たちから話したほうがよいと思う――歪曲された話を、誰か……ほかの者から聞かされるよりは」
ルーピンの表情は穏やかだったが、ウィーズリーおばさんの追放を免れた「伸び耳」があることを、少なくともルーピンは知っていると、ハリーははっきりそう思った。
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