The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「誰に――?」
「わが親愛なる母上にだよ」
シリウスが言った。
「かれこれ1ヵ月もこれを取り外そうとしているんだが、この女は、カンバスの裏に『永久粘着呪文』をかけたらしい。
さあ、下に行こう。急いで。ここの連中がまた目を覚まさないうちに」
「だけど、お母さんの肖像画がどうしてここにあるの?」
ホールから階下に降りる扉を開けると、狭い石の階段が続いていた。
その階段を下りながら、わけがわからず、ハリーが聞いた。
他のみんなも、2人のあとから下りてきた。
「誰も君に話していないのか?ここはわたしの両親の家だった」
シリウスが答えた。
「しかし、わたしがブラック家の最後の生き残りだ。だから、いまはわたしの家だ。
わたしがダンブルドアに本部として提供した。
わたしには、それぐらいしか役に立つことがないんでね」
シリウスはハリーが期待していたような温かい歓迎をしてくれなかったが、シリウスの言い方がなぜか苦渋に満ちていることに、ハリーは気づいていた。
ハリーは名付け親に従いて、階段を一番下まで下り、地下の厨房に入る扉を通った。
そこは、上のホールとほとんど同じように暗く、粗い石壁のがらんとした広い部屋だった。
明かりといえば、厨房の奥にある大きな暖炉の火ぐらいだ。
パイプの煙が、戦場の焼け跡の煙のように漂い、その煙を通して、暗い天井から下がった重い鉄鍋や釜が、不気味な姿を見せていた。
会議用に椅子がたくさん詰め込まれていたらしい。
その真ん中に長い木のテーブルがあり、羊皮紙の巻紙やゴブレット、ワインの空き瓶、それにボロ布の山のようなものが散らかっていた。
ウィーズリーおじさんは、テーブルの端のほうで長男のビルと額を寄せ合い、ひそひそ話していた。
ウィーズリーおばさんが咳払いをした。
角縁メガネを掛け、痩せて、赤毛が薄くなりかかったウィーズリーおじさんが、振り返って、勢いよく立ち上がった。
「ハリー!」
おじさんは急ぎ足で近づいてきて、ハリーの手を握り、激しく振った。
「会えてうれしいよ!」
おじさんの肩越しに、ビルが見えた。相変わらず長髪をポニーテールにしている。
ビルがテーブルに残っていた羊皮紙をさっと丸めるのが見えた。
「ハリー、旅は無事だったかい?」
10本以上もの巻紙を一度に集めようとしながら、ビルが声をかけた。
「それじゃ、マッド-アイは、グリーンランド上空を経由しなかったんだね?」
「そうしようとしたわよ」
トンクスがそう言いながら、ビルを手伝いにすたすた近づいてきたが、たちまち、最後に1枚残っていた羊皮紙の上に蝋燭を引っくり返した。
「あ、しまった――
ごめん――」
「任せて」
ウィーズリーおばさんが、呆れ顔で言いながら、杖のひと振りで羊皮紙を元に戻した。
おばさんの呪文が放った閃光で、ハリーは建物の見取り図のようなものをちらりと見た。
ウィーズリーおばさんはハリーが見ていることに気づき、見取り図をテーブルからさっと取り上げ、すでに溢れそうになっているビルの腕の中に押し込んだ。
「こういうものは、会議が終わったら、すぐに片づけないといけません」
おばさんはぴしゃりと言うと、さっさと古びた食器棚のほうに行き、中から夕食用のお皿を取り出しはじめた。
ビルは杖を取り出し、
「エバネスコ!消えよ!」
と呟いた。巻紙が消え去った。
「掛けなさい、ハリー」
シリウスが言った。
「マンダンガスには会ったことがあるね?」
ハリーがボロ布の山だと思っていたものが、クウーッと長いいびきをかいたと思うと、がばっと目を覚ました。
「だンか、おンの名、呼んだか?」
マンダンガスが眠そうにボソボソ言った。
「俺は、シリウスンさン成する……」
マンダンガスは投票でもするように、汚らしい手を挙げた。
血走った垂れ目はとろんとして焦点が合っていない。
ジニーがクスクス笑った。
「会議は終わってるんだ、ダング」
シリウスが言った。周りのみんなもテーブルに着いていた。
「ハリーが到着したんだよ」
「はぁ?」
マンダンガスは赤茶けたくしゃくしゃの髪の毛を透かして、ハリーを惨めっぽく見た。
「ほー。着いたンか。ああ……元気か、アリー?」
「うん」
ハリーが答えた。
マンダンガスは、ハリーを見つめたままそわそわとポケットをまさぐり、煤けたパイプをっ張り出した。
パイプを口に突っ込み、杖で火を点け、深く吸い込んだ。
緑がかった煙がもくもくと立ち昇り、たちまちマンダンガスの顔に煙幕を張った。
「あんたにゃ、あやまンにゃならん」
臭い煙の中から、ブツブツ言う声が聞こえた。
「マンダンガス、何度言ったらわかるの」
ウィーズリーおばさんが向こうのほうから注意した。
「お願いだから、厨房ではそんなもの
吸わないで。とくにこれから食事っていうときに!」
「あー」
マンダンガスが言った。
「うン。モリー、すまン」
マンダンガスがポケットにパイプをしまうと、もくもくは消えた。
しかし、靴下の焦げるような刺激臭が漂っていた。
「それに、真夜中にならないうちに夕食を食べたいなら、手を貸してちょうだいな」
ウィーズリーおばさんがみんなに声をかけた。
「あら、ハリー、あなたはじっとしてていいのよ。長旅だったもの」
「モリー、何しようか?」
トンクスが、なんでもするわとばかり、弾むように進み出た。
ウィーズリーおばさんが、心配そうな顔で戸惑った。
「えーと――結構よ、トンクス。あなたも休んでらっしゃい。今日は十分働いたし」
「ううん。わたし、手伝いたいの!」
トンクスが明るく言い、ジニーがナイフやフォークを取り出している食器棚のほうに急いで行こうとして、途中の椅子を蹴飛ばして倒した。
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