The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「あなた――あなた、読んでなかったの?『日刊予言者新聞』?」
ハーマイオニーが恐る恐る聞いた。
「読んでたさ!」
ハリーが言った。
「読んでたって――あの――完全に?」
ハーマイオニーがますます心配そうに聞いた。
「隅から隅までじゃない」
ハリーは言い訳がましく言った。
「ヴォルデモートの記事が載るなら、一面大見出しだろう?違う?」
みんながその名を聞いてぎくりとした。
ハーマイオニーが急いで言葉を続けた。
「そうね、隅から隅まで読まないと気がつかないけど、でも、新聞に――うーん――1週間に数回はあなたやサクヤのことが載ってるわ」
「でも、僕、見なかったけど――」
「一面だけ読んでたらそうね。見ないでしょう」
ハーマイオニーが首を振りながら言った。
「大きな記事のことじゃないの。
決まり文句のジョークみたいに、あちこちに潜り込んでるのよ」
「どういう――?」
「かなり悪質ね、はっきり言って」
ハーマイオニーは無理に平静を装った声で言った。
「リータの記事を利用してるの」
「だけど、リータはもうあの新聞に書いていないんだろ?」
「ええ、書いてないわ。
約束を守ってる――選択の余地はないけどね」
ハーマイオニーは満足そうにつけ加えた。
「でも、リータが書いたことが、新聞がいまやろうとしていることの足掛かりになっているの」
「やるって、
何を?」
ハリーは焦った。
「あのね、リータは、あなたがあちこちで失神するとか、傷が痛むと言ったとか書いたわよね?」
「ああ」
リータ・スキーターが自分について書いた記事を、ハリーがそんなにすぐに忘れられるわけがない。
「新聞は、そうね、あなたが思い込みの激しい目立ちたがり屋で、自分を悲劇のヒーローだと思っている、みたいな書き方をしているの。
サクヤのことは――たぶん、生徒が自分たちの親に伝えて、そこから広まったと思うんだけど――悪の手先になったとかなってないとか、そこからどんどん湾曲して、悪事を働く不良生徒みたいな扱いだわ」
ハーマイオニーは一気に言いきった。
こういう事実は大急ぎで聞くほうが、ハリーにとって不快感が少ないとでもいうかのようだった。
「新聞はあなたたちを嘲る言葉を、しょっちゅう潜り込ませるの。
ハリーについてだと、例えば信じられないような突飛な記事の場合だと、『ハリー・ポッターにふさわしい話』だとか、誰かがおかしな事故に遭うと、『この人の額に傷が残らないように願いたいものだ。そうしないと、次に我々はこの人を拝めと言われかねない』――」
「僕は誰にも拝んでほしくない――」
ハリーが熱くなってしゃべりはじめた。
「わかってるわよ」
ハーマイオニーは、びくっとした顔で慌てて言った。
「私には
わかってるのよ、ハリー。
だけど新聞が何をやってるか、わかるでしょう?
サクヤもそういう方向からひどい情報操作をされてる。
あなたたちのことを、まったく信用できない人間に仕立て上げようとしてるのよ。
ファッジが糸を引いているわ。そうに決まってる。
一般の魔法使いに、あなたたちのことをこんなふうに思い込ませようとしてるのよ――愚かな少年で、お笑い種。
不良少女を伴って、一緒にありえないバカげた話をする。
なぜなら、有名なのが得意で、ずっと有名でいたいから」
「僕が頼んだわけじゃない――望んだわけじゃない――
ヴォルデモートは僕の両親を殺したんだ!」
ハリーは急き込んだ。
「僕が有名になったのは、あいつが僕の家族を殺して、僕を殺せなかったからだ!
誰がそんなことで有名になりたい?みんなにはわからないのか?
僕は、あんなことが起こらなかったらって――」
「
わかってるわ、ハリー」
ジニーが心から言った。
「それにもちろん、吸魂鬼があなたを襲ったことはひと言も書いてない。
サクヤが『死喰い人』になったことも、魔法省がその尋問に敗れて、サクヤを投獄しそびれたことも」
ハーマイオニーが言った。
「誰かが口止めしたのよ。ものすごく大きな記事になるはずだもの。新たな『死喰い人』に、制御できない吸魂鬼なんて。
あなたが『国際機密保持法』を破ったことさえ書いてないわ。書くと思ったんだけど。
あなたが愚かな目立ちたがり屋だっていうイメージとぴったり合うもの。退学処分になるまで我慢して待っているんだと思うわ。
サクヤを追い詰めそこねたぶん、そのときにもっと大々的に騒ぎ立てるつもりなの――
もしも退学になったらっていう意味よ。当然だけど」
ハーマイオニーが急いで言葉をつけ加えた。
「退学になるはずがないわ。
魔法省が自分の法律を守るなら、あなたには何にも罪はないもの」
話が尋間に戻ってきた。ハリーはそのことを考えたくなかった。
他の話題はないかと探しているうちに、階段を上がってくる足音で救われた。
「う、ワ」
フレッドが「伸び耳」をぐっと引っ張った。
また大きなバシッという音がして、フレッドとジョージは消えた。
次の瞬間、ウィーズリーおばさんが部屋の戸口に現れた。
「会議は終わりましたよ。
降りてきていいわ。夕食にしましょう。
ハリー、みんながあなたにとっても会いたがってるわ。
ところで、厨房の扉の外に糞爆弾をごっそり置いたのは誰なの?」
「クルックシャンクスよ」
ジニーがけろりとして言った。
「あれで遊ぶのが大好きなの」
「そう」
ウィーズリーおばさんが言った。
「私はまた、クリーチャーかと思ったわ。あんな変なことばかりするし。
さあ、ホールでは声を低くするのを忘れないでね。
ジニー、手が汚れてるわよ。何してたの?
お夕食の前に手を洗ってきなさい」
ジニーはみんなにしかめっ面をして見せ、母親に従いて部屋を出た。
部屋にはハリーとロン、ハーマイオニーだけが残った。
他のみんながいなくなったので、ハリーがまた叫びだすかもしれないと恐れているかのように、2人は心配そうにハリーを見つめていた。
2人があまりにも神経を尖らせているのを見て、ハリーは少し恥ずかしくなった。
「あのさ……」
ハリーがぼそりと言った。
しかし、ロンは首を振り、ハーマイオニーは静かに言った。
「ハリー、あなたが怒ることはわかっていた。無理もないわ。
でも、わかってほしい。私たち、
ほんとに努力したのよ。ダンブルドアを説得するのに――」
「うん、わかってる」
ハリーは言葉少なに答えた。
ハリーは、校長が関わらない話題はないかと探した。
ダンブルドアのことを考えるだけで、またもや怒りで腸が煮えくり返る思いがするからだ。
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