The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




やめなさい!

ジェームズとシリウスがあたりを見回した。
ジェームズの空いているほうの手が、すぐさま髪の毛に飛んだ。

湖の畔にいた女の子のうち、2人が駆け寄ってくるところだった。
1人はたっぷりとした濃い赤毛が肩まで流れ、驚くほど緑色の、アーモンド形の眼――ハリーの眼だ。ハリーの母親だ。
気が強そうな彼女とは裏腹に、もう1人の女の子は物腰柔らかな雰囲気を纏った――サクヤだった。

「セブルス、大丈夫……?」

その声はまるでサクヤとは違う……ハリーはすぐに理解した。この子はサクヤの母親なんだ。
ローザは手にしていた本をめくり、清め呪文を止める反対呪文を必死になって探しはじめた。

「元気かい、エバンズ?」

ジェームズの声が突然、快活で、深く、大人びた調子になった。

「彼にかまわないで」

リリーが言った。
ジェームズを見る目が、徹底的に大嫌いだと言っていた。

「彼があなたに何をしたというの?」

「そうだな」

ジェームズはそのことを考えるような様子をした。

「むしろ、こいつが存在するって事実そのものがね。わかるかな……」

取り巻いている学生の多くが笑った。シリウスもワームテールも笑った。
しかし、本に没頭しているふりを続けているルーピンも、リリーも笑わなかった。

「冗談のつもりでしょうけど」

リリーが冷たく言った。

「でも、ポッター、あなたはただ、傲慢で弱い者いじめのいやなやつだわ。彼にかまわないで

「エバンズ、僕とデートしてくれたら、やめるよ」

ジェームズがすかさず言った。

「どうだい……僕とデートしてくれれば、親愛なるスニベリーには二度と杖を上げないけどな」

ジェームズの背後で、ローザがようやくスネイプにかけられた「清め呪文」と「妨害の呪い」を解き、ポケットから取り出したハンカチで口元の泡を拭おうとしていた。
スネイプはジェームズから目を離すことなくそれを邪険に払いのけ、石鹸の泡をペッペッと吐き出しながら、落とした杖のほうにじりじりと這っていった。

「あなたか巨大イカのどちらかを選ぶことになっても、あなたとはデートしないわ」

リリーが言った。

「残念だったな、プロングズ」

シリウスは朗らかにそう言うと、スネイプのほうを振り返った。

おっと!

しかし、遅すぎた。
スネイプは杖をまっすぐにジェームズに向けていた。
光が走り、ジェームズの頬がパックリ割れ、ローブに血が滴った。
ジェームズがくるりと振り向いた。二度目の閃光が走り、スネイプは空中に逆さまに浮かんでいた。ローブが顔に覆い被さり、痩せこけた青白い両脚と、はき古して黒ずんだパンツが剥き出しになった。
小さな群れをなしていた生徒たちの多くが囃し立てた。シリウス、ジェームズ、ワームテールは大声で笑った。
ローザは顔を両手で覆い、リリーの怒った顔は、一瞬笑いだしそうにピクピクしたが、「下ろしなさい!」と言った。

「承知しました」

そう言うなり、ジェームズは杖をくいっと上に振った。
スネイプは地面に落ちてくしゃくしゃっと丸まった。絡まったローブから抜け出すと、スネイプは素早く立ち上がって杖を構えた。
しかし、シリウスが「ペトリフィカス トタルス!」と唱えると、スネイプはまた転倒して、一枚板のように固くなった。

「おい、何をしているんだ?」

また1人、今度は男子生徒がこの騒ぎの輪に入ってきた。
金髪で背が高く、鍛えているのがよく分かる締まった体格の生徒だった。

「まあ遠目から見えてはいたけど。
こっちに来る前に先生を呼んでくるように通りがかった生徒に頼んだから、お前らはあとできっちり罰則を受けてもらうからな」

ハリーにとっては、まるで言動の荒っぽいパーシーみたいだと思った。
でも、この生徒も見たことがある面影だ……。

「最近、クソ真面目に拍車がかかってきてないか?
なあセインくん、前みたいに見逃しちゃくれませんかね?」

ジェームズがサクヤの父親に向かって、刺々しく悪態をついた。
セインは毅然とした態度を崩さないまま、頑として首を横に振った。

「あれはお前らが友達のためを思っての行動だったから見逃しただけだ。今回とは全然違う」

セインがちらっとルーピンのほうを見たことで、ハリーにも何を言ってるのかが分かった。
ジェームズたち悪戯仕掛け人が、そうなるに至った友情の結束のことだ。月に一度、ルーピンが狼人間になるのに合わせて、動物もどきになって夜を歩くあのことだ。

「ローザ、石化呪文まで解除してやらなくていい。ジェームズ本人にやらせるんだ」

セインが振り返って、本を捲るローザに向かって言った。ローザは心配そうな顔のままそっと本を閉じ、ジェームズが呪文を解きやすいように距離をとった。
ジェームズは深いため息をつき、スネイプに向かって反対呪文を唱えた。

「はいはい。……ほらよ」

スネイプがやっと立ち上がると、ジェームズが言った。

「スニベルス、エバンズたちが居合わせて、ラッキーだったな――」

彼にかまわないでって言ってるでしょう!

なおもスネイプを煽るジェームズに、リリーがたまらず叫んだ。いまやリリーは杖を取り出している。
ジェームズとシリウスが、油断なく杖を見た。

「ああ、エバンズ、君に呪いをかけたくないんだ」

ジェームズがまじめに言った。

「僕だって汚らしい『穢れた血』の助けなんか、必要ない!」

スネイプも頑なになってそう吐き捨てた。

「結構よ」

リリーは冷静に言った。

「これからは邪魔しないわ。それに、スニベルス、パンツは洗濯したほうがいいわね」

リリーは目を瞬いた。

「エバンズに謝れ!」

ジェームズがスネイプに向かって脅すように杖を突きつけ、吠えた。

あなたからスネイプに謝れなんて言ってほしくないわ」

リリーがジェームズのほうに向き直って叫んだ。

「あなたもスネイプと同罪よ」

「えっ?」

ジェームズが素頓狂な声をあげた。

「僕は一度も君のことを――何とかかんとかなんて!」

「かっこよく見せようと思って、箒から降りたばかりみたいに髪をくしゃくしゃにしたり、つまらないスニッチなんかで見せびらかしたり、呪いをうまくかけられるからといって、気に入らないと廊下で誰彼なく呪いをかけたり――
そんな思い上がりのでっかち頭を乗せて、よく箒が離陸できるわね。あなたを見てると吐き気がするわ
ローザ、もう行きましょう。この人たちと関わってると、碌なことがないし。
セインも午後の実技試験に備えて準備したほうがいいんじゃない?『Oおおいによろしい・優』を取らなくちゃいけないんでしょ?」

「あああ、そうだった。
ジェームズにシリウス、お前らのことはマクゴナガル先生に言っておくからな。じゃ、またあとで」

セインはそう伝えると急ぎ足で校庭を戻っていった。
舌打ちするジェームズをキッと一瞥したのち、リリーもローザの手を取って、くるりと背を向けて足早に行ってしまった。

「エバンズ!」

ジェームズが追いかけるように呼んだ。

「おーい、エバンズ!

しかし、リリーは振り向かなかった。

「あいつ、どういうつもりだ?」

ジェームズは、どうでもいい質問だがというさりげない顔を装おうとして、装いきれていなかった。

「つらつら行間を読むに、友よ、彼女は君がちょっと自惚れていると思っておるな」

シリウスが言った。

「よーし」

ジェームズが、今度は頭に来たという顔をした。

「よし――」

また閃光が走り、スネイプはまたしても逆さ宙吊りになった。

「誰か、僕がスニベリーのパンツを脱がせるのを見たいやつはいるか?」

ジェームズが本当にスネイプのパンツを脱がせたかどうか、ハリーにはわからずじまいだった。
誰かの手が、ハリーの二の腕をぎゅっとつかみ、ペンチで締めつけるように握った。
痛さに怯みながら、ハリーは誰の手だろうと見回した。恐怖の戦慄が走った。成長しきった大人サイズのスネイプが、ハリーのすぐ脇に、怒りで蒼白になって立っているのが目に入ったのだ。

「楽しいか?」

ハリーは身体が宙に浮くのを感じた。
周囲の夏の日がパッと消え、ハリーは氷のような暗闇を浮き上がっていった。スネイプの手がハリーの二の腕をしっかり握ったままだ。
そして、空中宙返りしたようなふわっとした感じとともに、ハリーの両足がスネイプの地下牢教室の石の床を打った。
ハリーは再び、薄暗い、現在の魔法薬学教授研究室の、スネイプの机に置かれた「憂いの篩」のそばに立っていた。

「すると」

スネイプに二の腕をきつく握られているせいで、ハリーの手が痺れてきた。

すると……お楽しみだったわけだな?ポッター?」

「い、いいえ」

ハリーは腕を振り離そうとした。
恐ろしかった。スネイプは唇をわなわな震わせ、蒼白な顔で、歯を剥き出していた。

「おまえの父親は、愉快な男だったな?」

スネイプが激しくハリーを揺すぶったので、眼鏡が鼻からずり落ちた。

「僕は――そうは――」

スネイプはありったけの力でハリーを突き飛ばした。ハリーは地下牢の床に叩きつけられた。

「見たことは、誰にもしゃべるな!」

スネイプが喚いた。

「はい」

ハリーはできるだけスネイプから離れて立ち上がった。

「はい、もちろん、僕――」

「出ていけ、出るんだ。この研究室で、二度とその面見たくない!」

ドアに向かって疾走するハリーの頭上で、死んだゴキブリの入った瓶が爆発した。
ハリーはドアをぐいと開け、飛ぶように廊下を走った。スネイプとの距離が3階ぶん隔たるまで止まらなかった。
そこでやっとハリーは壁にもたれ、ハァハァ言いながら傷ついた腕を揉んだ。

早々とグリフィンドール塔に戻るつもりもなく、ロンやハーマイオニーどころか、サクヤにもいま見たことを話す気になれなかった。
ハリーは恐ろしく、悲しかった。怒鳴られたからでも、瓶を投げつけられたからでもない。
見物人のど真ん中で辱められる気持ちがハリーにはわかったからだ。
ハリーの父親に嘲られたときのスネイプの気持ちが痛いほどわかったからだ。
そして、いま見たことから判断すると、ハリーの父親が、スネイプからいつも聞かされていたとおり、どこまでも傲慢だったからだ。




>>To be continued

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