The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
ハリーは薄汚れた踊り場を歩いて、寝室のドアの取っ手を回した。
取っ手は蛇の頭の形をしていた。ドアが開いた。
ほんの一瞬、ベッドが2つ置かれ、天井の高い陰気な部屋が見えた。
次の瞬間、ホッホッという大きな囀りと、それより大きな叫び声が聞こえ、ふさふさした髪の毛でハリーは完全に視界を覆われてしまった。
ハーマイオニーがハリーに飛びついて、ほとんど押し倒しそうになるほど抱き締めたのだ。
一方、ロンのチビふくろうのピッグウィジョンは、興奮して、2人の頭上をブンブン飛び回っていた。
「
ハリー!ロン、ハリーが来たわ。ハリーが来たのよ!
到着した音が聞こえなかったわ!
ああ、
元気なの?大丈夫なの?私たちのこと、怒ってた?怒ってたわよね。
私たちの手紙が役に立たないことは知ってたわ――だけど、あなたに何にも教えてあげられなかったの。
ダンブルドアに、教えないって誓わせられて。
ああ、話したいことがいっぱいあるわ。あなたもそうでしょうね。
――吸魂鬼ですって!それを聞いたとき――それに魔法省の尋問のこと――とにかくひどいわ。
私、すっかり調べたのよ。魔法省はあなたを退学にできないわ。できないのよ。
『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』で、生命を脅かされる状況においては魔法の使用が許されることになってるの――」
「ハーマイオニー、ハリーに息ぐらいつかせてやれよ」
ハリーの背後で、ロンがニヤッと笑いながらドアを閉めた。
1ヵ月見ないうちに、ロンはまた十数cmも背が伸びたかのようで、これまでよりずっとひょろひょろのっぽに見えた。
しかし、高い鼻、真っ赤な髪の毛とそばかすは変わっていない。
ハーマイオニーは、にこにこしながらハリーを放した。
ハーマイオニーが言葉を続けるより早く、柔らかいシューッという音とともに、何か白いものが黒っぽい洋箪笥の上から舞い降りて、そっとハリーの肩に止まった。
「ヘドウィグ!」
白ふくろうは嘴をカチカチ鳴らし、ハリーの耳をやさしく噛んだ。
ハリーはヘドウィグの羽を撫でた。
「このふくろう、ずっとイライラしてるんだ」
ロンが言った。
「この前手紙を運んできたとき、僕たちのこと突っついて半殺しの目に遭わせたぜ。これ見ろよ――」
ロンは右手の人差し指をハリーに見せた。
もう治りかかってはいたが、たしかに深い切り傷だ。
「へえ、そう」
ハリーが言った。
「悪かったね。
だけど、僕、答えがほしかったんだ。わかるだろ――」
「そりゃ、僕らだってそうしたかったさ」
ロンが言った。
「ハーマイオニーなんか、心配で気が狂いそうだった。
君が、何のニュースもないままで、たった1人でいたら、何かバカなことをするかもしれないって、そう言い続けてたよ。
だけどダンブルドアが僕たちに――」
「――僕に何も言わないって誓わせた」
ハリーが言った。
「ああ、ハーマイオニーがさっきそう言った」
氷のように冷たいものがハリーの胃の腑に溢れ、2人の親友に会って胸の中に燃え上がっていた暖かな光を消した。
突然――1ヵ月もの間あんなに会いたかったのに――ハリーは、ロンもハーマイオニーも自分を独りにしてくれればいいのにと思った。
ところで、もう1人の親友はここにはいないのだろうか。
「サクヤはまだ着いていないのか?」
ハリーの問いに、ロンとハーマイオニーが顔を見合わせた――ハリーにはそれも除け者にされたようでイライラした。
「サクヤはいないわ、ここに」
ハーマイオニーは答えづらそうだった。
「城にいるらしい。僕もよく分かんないんだけど」
ロンが言った。
「フェリックスの城だろ?手紙でもそんな感じのことを言ってた――いつ来るんだい?ここへ来るんだろ?」
ハリーの言葉に、ロンは「知らない」と言うかのように肩をすくめて見せた。
もしかして、サクヤも僕と同じように何も知らされてない側なのか?
ハリーに湧いた妙な仲間意識じみた気持ちは、すぐに萎れることになった。
「サクヤは――ホグワーツ城にいるのよ。フェリックスのお城じゃなくって……。
たぶん、ここまではハリーにも言っていいと思う……」
ハーマイオニーがひどく言いにくそうに口を開いた。
しかしこの事実は、どう伝えてもハリーの癪に障るしかなかった。
ホグワーツ城にいるって?もし今すぐサクヤの目の前に「姿現わし」ができたなら、間違いなく掴みかかっていたかもしれないとハリーは思った。
学生は夏休みの間、
絶対に家に帰らなくちゃいけないのに。
ホグワーツで過ごすことを許されるなら、僕だって迷いなくそうするのに。
「じゃあ――じゃあ、それ以上のことを僕に教えるには、それもまたダンブルドアの許可が必要なんだね?」
ハリーは怒りで言葉を詰まらせながら、必死に平静を装おうとした。
張りつめた沈黙が流れた。ハリーは2人の顔を見ずに、機械的にヘドウィグを撫でていた。
「それが最善だとお考えになったのよ」
ハーマイオニーが息を殺して言った。
「ダンブルドアが、ってことよ」
「ああ」
ハリーはハーマイオニーの両手にもヘドウィグの嘴の印があるのを見つけたが、それをちっとも気の毒に思わない自分に気づいた。
「僕の考えじゃ、ダンブルドアは、君がマグルと一緒のほうが安全だと考えて――」
ロンが話しはじめた。
「ヘー?」
ハリーは眉を吊り上げた。
「
君たちのどっちかが、夏休みに吸魂鬼に襲われたかい?サクヤはどうなのかご存じ?」
「そりゃ、僕たち、ノーさ――だけど、だからこそ不死鳥の騎士団の誰かが、夏休みじゅう君の跡を追けてたんだ――」
ハリーは、階段を1段踏み外したようなガクンという衝撃を内臓に感じた。
それじゃ、僕が追けられてるって、僕以外はみんな知ってたんだ。
「でも、うまくいかなかったようじゃないか?」
ハリーは声の調子を変えないよう最大限の努力をした。
「結局、自分で自分の面倒を見なくちゃならなかった。そうだろ?」
「先生がお怒りだったわ」
ハーマイオニーは恐れと尊敬の入り交じった声で言った。
「ダンブルドアが。私たち、先生を見たわ。
マンダンガスが自分の担当の時間中にいなくなったと知ったとき。怖かったわよ」
「いなくなってくれてよかったよ」
ハリーは冷たく言った。
「そうじゃなきゃ、僕は魔法も使わなかったろうし、ダンブルドアは夏休み中、僕をプリベット通りに放ったらかしにしただろうからね」
「あなた……あなた心配じゃないの?魔法省の尋問のこと?」
ハーマイオニーが小さな声で聞いた。
「ああ」
ハリーは意地になって嘘をついた。
ハリーは2人のそばを離れ、満足そうなヘドウィグを肩に載せたまま部屋を見回した。
この部屋はハリーの気持ちを引き立ててくれそうになかった。
じめじめと暗い部屋だった。
壁は剥がれかけ、無味乾燥で、せめてもの救いは、装飾的な額縁に入った絵のないカンバス1枚だった。
カンバスの前を通ったとき、ハリーは、誰かが隠れて忍び笑いする声を聞いたような気がした。
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