The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「では、3つ数えて」

スネイプが面倒臭そうに言った。

「1――2――」

部屋のドアがバタンと開き、ドラコ・マルフォイが走り込んできた。

「スネイプ先生――あっ――すみません――」

マルフォイはスネイプとハリーを、少し驚いたように見た。

「かまわん、ドラコ」

スネイプが杖を下ろしながら言った。

「ポッターは『魔法薬』の補習授業に来ている」

マルフォイのこんなにうれしそうな顔をハリーが見たのは、アンブリッジがハグリッドの査察に来て以来だった。

「知りませんでした」

マルフォイはハリーを意地悪い目つきで見た。
ハリーは自分でも顔が真っ赤になっているのがわかった。
マルフォイに向かって、本当のことを叫ぶことができたらどんなにいいだろう。――いや、いっそ、強力な呪いをかけてやれたらもっといい。

「それで、ドラコ、何の用だね?」

スネイプが聞いた。

「アンブリッジ先生のご用で――スネイプ先生に助けていただきたいそうです」

マルフォイが答えた。

「モンタギューが見つかったんです、先生。5階のトイレに詰まっていました」

「どうやってそんなところに?」

スネイプが詰問した。

「わかりません、先生。モンタギューは少し混乱しています」

「よし、わかった。ポッター」

スネイプが言った。

「この授業は明日の夕方にやり直しだ」

スネイプは向きを変えて研究室からさっと出ていった。
あとに従いて部屋を出る前に、マルフォイはスネイプの背後で、口の形だけでハリーに言った。

「ま・ほ・う・や・く・の・ほ・しゅ・う?」

怒りで煮えくり返りながら、ハリーは杖をローブにしまい、部屋を出ようとした。
どっちみち24時間は練習できる。
危ういところを逃れられたのはありがたかったが、「魔法薬」の補習が必要だと、マルフォイが学校中に触れ回るという代償つきでは、素直に喜べなかった。
研究室のドアのところまで来たとき、何かが見えた。
扉の枠にちらちらと灯りが踊っていた。ハリーの足が止まった。立ち止まって灯りを見た。
何か思い出しそうだ……そして、思い出した。
昨夜の夢で見た灯りにどこか似ている。神秘部を通り抜けるあの旅で、2番目に通り過ぎた部屋の灯りだ。

ハリーは振り返った。
その灯りは、スネイプの机に置かれた「憂いの篩」から射していた。
銀白色のものが、中に吸い込まれ、渦巻いている。
スネイプの想い……ハリーがまぐれでスネイプの護りを破ったときに、ハリーに見られたくないもの……。

ハリーは「憂いの篩」をじっと見た。
好奇心が湧き上がってくる……スネイプがそんなにもハリーから隠したかったのは、何だろう?

銀色の灯りが壁に揺らめいた……ハリーは考え込みながら、机に2歩近づいた。
もしかして、スネイプが絶対に見せたくないのは、神秘部についての情報ではないのか?

ハリーは背後を見た。
心臓がこれまで以上に強く、速く鼓動している。
スネイプがモンタギューをトイレから助け出すのに、どのくらいかかるだろう?
そのあとまっすぐ研究室に戻るだろうか、それともモンタギューを連れて医務室に行くだろうか?
絶対医務室だ。……モンタギューはスリザリンのクィディッチ・チームのキャプテンだもの。スネイプは、モンタギューが大丈夫だということを、確かめたいに違いない。

ハリーは「憂いの篩」まで、あと数歩を歩き、その上に屈み込み、その深みをじっと見た。ハリーは躊躇し、耳を澄ませ、それから再び杖を取り出した。
研究室も、外の廊下もしーんとしている。
ハリーは杖の先で、「憂いの篩」の中身を軽く突いた。

中の銀色の物質が、急速に渦を巻き出した。
覗き込むと、中身が透明になっているのが見えた。またしてもハリーは、天井の丸窓から覗き込むような形で、1つの部屋を覗いていた……いや、もしあまり見当違いでなければ、そこは大広間だ。

ハリーの息が、スネイプの想いの表面を本当に曇らせていた……脳が停止したみたいだ……強い誘惑に駆られてこんなことをするのは、正気の沙汰じゃない……ハリーは震えていた。
スネイプはいまにも戻ってくるかもしれない……もしもこの場にサクヤがいたならば、間違いなく「こんなことはするべきじゃない」と止めに入っていただろう……。
しかし、チョウのあの怒り、マルフォイの嘲るような顔を思い出すと、ハリーはどうにでもなれと向こう見ずな気持ちになっていた。今この場に、止めようとするサクヤはいない。

ハリーはがぶっと大きく息を吸い込み、顔をスネイプの想いに突っ込んだ。
たちまち、研究室の床が傾き、ハリーは「憂いの篩」に頭からのめり込んだ……。
冷たい暗闇の中を、ハリーは独楽のように回りながら落ちていった。そして――。

ハリーは大広間の真ん中に立っていた。
しかし、4つの寮のテーブルはない。代わりに、100以上の小机がみな同じ方向を向いて並んでいる。
それぞれに生徒が座り、俯いて羊皮紙の巻紙に何かを書いている。
聞こえる音といえば、カリカリという羽根ペンの音と、時々誰かが羊皮紙をずらす音だけだった。試験の時間に違いない。

高窓から陽の光が流れ込んで、俯いた頭に射しかかり、明るい光の中で髪が栗色や銅色、金色に輝いている。
ハリーは注意深く周りを見回した。スネイプがどこかにいるはずだ……これはスネイプの記憶なのだから……。

見つけた。ハリーのすぐ後ろの小机だ。
ハリーは目を見張った。
10代のスネイプは、筋張って生気のない感じだった。ちょうど、暗がりで育った植物のようだ。
髪は脂っこく、だらりと垂れて机の上で揺れている。
鼻を羊皮紙にくっつけんばかりにして、何か書いている。
ハリーはその背後に回り、試験の題を見た。

「闇の魔術に対する防衛術――普通魔法レベルOWL

するとスネイプは15か16で、ハリーと同じぐらいの歳だ。
スネイプの手が羊皮紙の上を飛ぶように動いている。
周りの生徒たちよりも30cm以上は長くなっており、しかも細かい字でびっしりと書き込まれている。

「あと5分!」

その声でハリーは飛び上がった。
振り向くと、少し離れたところに、机の間を動いているフリットウィック先生の頭のてっぺんが見えた。
フリットウィック先生はくしゃくしゃな黒髪の男の子の脇を通り過ぎた……本当にくしゃくしゃな黒髪だ……。

ハリーは素速く動いた。
あまりに速くて、もし身体があったら、机をいくつかなぎ倒していたかもしれない。
しかしそうはならず、ハリーは夢の中のようにするすると、机の間の通路を2つ過ぎ、3つ目に移動した。
黒髪の男の子の後頭部がだんだん近づいてきた……いま、背筋を伸ばし、羽根ペンを置き、自分の書いたものを読み返すのに、羊皮紙の巻物を手繰り寄せている……。

ハリーは机の前で止まり、15歳の父親をじっと見下ろした。胃袋の奥で、興奮が弾けた。
自分自身を見つめているようだったが、わざと間違えたような違いがいくつかあった。
ジェームズの目はハシバミ色で、鼻はハリーより少し高い。それに額には傷痕がない。
しかし、ハリーと同じ細面で、口も眉も同じだ。ジェームズの髪は、ハリーとまったく同じに、頭の後ろでぴょんぴょん突っ立っている。
両手はハリーの手と言ってもいいぐらいだ。
それに、ジェームズが立ち上がれば、背丈は数cmと違わないだろうと見当がつく。
ジェームズは大欠伸をし、髪を掻きむしり、ますますくしゃくしゃにした。
それからフリットウィック先生をちらりと見て、椅子に座ったまま振り返り、4列後ろの男の子を見てにやりとした。

ハリーはまた興奮でドキッとした。シリウスが、ジェームズに親指を上げて、オーケーの合図をするのが見えたのだ。
シリウスは椅子を反っくり返らせて2本脚で支え、のんびりもたれ掛かっていた。とてもハンサムだ。
黒髪が、ジェームズもハリーも絶対まねできないやり方で、はらりと優雅に目のあたりにかかっている。
そのすぐ後ろに座っている女の子が、気を引きたそうな目でシリウスを見ていたが、シリウスは気づかない様子だ。
その女の子の横2つ目の席に――ハリーの胃袋が、またまたうれしさにくねった――リーマス・ルーピンがいる。かなり青白く、病気のようだ(満月が近いのだろうか?)。
試験に没頭している。答えを読み返しながら、羽根ペンの羽根の先で顎を掻き、少し顔をしかめている。

ということは、ワームテールもどこかそのあたりにいるはずだ……やっぱりいた。すぐ見つかった。
鼻の尖がった、くすんだ茶色の髪の小さな子だ。不安そうだ。爪を噛み、答案をじっと見ながら、足の指で床を引っ掻いている。
時々、あわよくばと、周りの生徒の答案を盗み見ている。
ハリーはしばらくワームテールを見つめていたが、やがてジェームズに視線を戻した。
今度は、羊皮紙の切れ端に落書きをしている。
スニッチを描き、「L・E」という文字をなぞっている。何の略字だろう?

「はい、羽根ペンを置いて!」

フリットウィック先生がキーキー声で言った。

「こら、君もだよ、ステビンス!
答案羊皮紙を集める間、席を立たないように!アクシオ!」

100巻き以上の羊皮紙が宙を飛び、フリットウィック先生の伸ばした両腕にビューンと飛び込み、先生を反動で吹っ飛ばした。何人かの生徒が笑った。
前列の数人が立ち上がって、フリットウィック先生の肘を抱え込んで助け起こした。

「ありがとう……ありがとう」

フリットウィック先生は喘ぎながら言った。

「さあ、みなさん、出てよろしい!」

ハリーは父親を見下ろした。
すると、落書きでいろいろ飾り模様をつけていた「L・E」をグシャグシャッと消して勢いよく立ち上がり、鞄に羽根ペンと試験用紙を入れてポンと肩に掛け、シリウスが来るのを待った。

ハリーが振り返って、少し離れたスネイプをちらりと見ると、玄関ホールへの扉に向かって机の間を歩いているところだった。まだ試験問題用紙をじっと見ている。
猫背なのに角ばった身体つきで、ぎくしゃくした歩き方は蜘蛛を思わせた。脂っぽい髪が、顔の周りでばさばさ揺れている。




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