The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




校庭に逃げ出した花火の、シュルシュル、バンバンという音が遠退いたような気がする……いや、もしかしたら、ハリーが花火から急速に遠ざかっていたのかもしれない……。
ハリーは、まっすぐ、神秘部に続く廊下に降り立った。
飾りも何もない黒い扉に向かって、ハリーは急いでいた……開け……開け……。

扉が開いた。
ハリーは同じような扉がずらりと並ぶまる部屋の中にいた……部屋を横切り、他とまったく見分けのつかない扉の1つに手を掛けた。扉はパッと内側に開いた……。

いまハリーは、細長い、長方形の部屋の中にいた。
部屋は機械的なコチコチという奇妙な音でいっぱいだ。壁には点々と灯りが踊っていた。しかし、ハリーは立ち止まって調べはしなかった……先に進まなければ……。

一番奥に扉がある……その扉も、ハリーが触れると開いた……。

今度は、薄明かりの、教会のように高く広い部屋で、何段も何段も高く聳える棚があり、その1つひとつに、小さな、埃っぽいガラス繊維の球が置いてある……いまやハリーの心臓は、興奮で激しく動悸していた……どこに行くべきか、ハリーにはわかっていた……ハリーは駆けだした。
しかし、人気のない巨大な部屋は、ハリーの足音をまったく響かせなかった……。

この部屋に、自分のほしいものが、とてもほしいものがあるのだ……。
自分のほしいもの……それとも別の誰かがほしいもの……。
ハリーの傷痕が痛んだ……。

バーン!

ハリー!

爆発音と、誰かがハリーを呼びかける声が重なった。
ハリーはたちまち目を覚ました。混乱していたし、腹が立った。暗い寝室は笑い声に満ちていた。

「かっこいい!」

窓の前に立ったシェーマスの黒い影が言った。

「ネズミ花火とロケット花火がぶつかって、ドッキングしちゃったみたいだぜ。来て見てごらんよ!」

ロンとディーンが、よく見ようと、慌ててベッドから飛び出す音が聞こえた。
しかし、誰かの影は依然としてハリーの肩を揺すり、顔を覗き込んでいるようだ。

「ハリー、起きたか?また夢を見てたんだろ?」

声の主はサクヤだ。
おそらく、またハリーの夢を感じ取って、外から男子寮まで戻ってきたのだろう。
ハリーは黙って、身動きもせずに横たわっていた。ハーマイオニーとの反抗的な時間を遮ってしまった罪悪感にほんの少しだけ襲われた。
傷痕の痛みは薄らいでいたが、失望感がひたひたと押し寄せていた。
すばらしいご馳走が、最後の最後に引ったくられたような気分だったのだ……今度こそあんなに近づいていたのに。

「うん、でも、もう大丈夫……ありがとう」

がっかりした気持ちを隠しながら、ハリーはなんでもないように答えた。
なおも心配そうに見てくるサクヤに、身体を起こしながら「平気平気」と肩をすくめてみせると、彼女はやっと納得したように女子寮へと帰っていった。
それを見届けてすぐに、ハリーはまたベッドへと沈み込んだ。
ピンクと銀色に輝く羽の生えた子豚が、ちょうどグリフィンドール塔を飛び過ぎていった。その下で、グリフィンドール生が、ワーッと歓声をあげるのを、ハリーは横たわったまま聞いていた。
明日の夜、「閉心術」の訓練があることを思い出すと、ハリーの胃袋が揺れ、吐き気がした。

一番新しい夢で神秘部にさらに深く入り込んだことをスネイプが知ったら、何と言うだろうと、次の日、ハリーは1日中それを恐れていた。
前回の特訓以来、一度も「閉心術」を練習していなかったことに気づき、ハリーはまた罪悪感が込み上げてきた。
ダンブルドアがいなくなってから、あまりにいろいろなことが起こり、たとえ努力したところで、心を空にすることはできなかったろうと、ハリーには分かっていた。しかし、そんな言い訳はスネイプに通じないだろう。

その日の授業中に、ハリーは少しだけ泥縄式の練習をしてみたが、うまくいかなかった。
すべての想念や感情を締め出そうとして黙りこくるたびに、ロンがどうかしたのかと聞くのだ。
それに、先生方が復習の質問を次々とぶつけてくる授業中は、頭を空にするのに最適の時間とは言えなかった。

最悪を覚悟し、ハリーは夕食後、スネイプの研究室に向かった。
しかし、玄関ホールを半分ほど横切ったところで、チョウが急いで追ってきた。

「こっちへ」

スネイプと会う時間を先延ばしにする理由が見つかったのが嬉しくて、ハリーはチョウに合図し、玄関ホールの巨大な砂時計の置いてある片隅に呼んだ。
グリフィンドールの砂時計は、いまやほとんど空っぽだった。

「大丈夫かい?アンブリッジが君にDAのことを聞いたりしなかった?」

「ううん」

チョウが急いで答えた。

「そうじゃないの。
ただ……あの、私、あなたに言いたくて……ハリー、マリエッタが告げ口するなんて、私、夢にも……」

「ああ、まあ」

ハリーは塞ぎ込んで言った。
チョウがもう少し慎重に友達を選んだほうがいいと思ったのは確かだ。
最新情報では、マリエッタがまだ医務室に入院中で、マダム・ポンフリーは吹出物をまったくどうすることもできないと聞いていたが、ハリーの腹の虫は治まらなかった。

「マリエッタはとってもいい人よ」

チョウが言った。

「過ちを犯しただけなの――」

ハリーは信じられないという顔でチョウを見た。

過ちを犯したけどいい人?あの子は君も含めて、僕たち全員を売ったんだ!」

「でも……全員逃げたでしょう?」

チョウが縋るように言った。

「あのね、マリエッタのママは魔法省に勤めているの。あの人にとっては、本当に難しいこと――」

「ロンのパパだって魔法省に勤めてるよ!」

ハリーは憤慨した。

「それに、気づいてないなら言うけど、ロンの顔には『密告者』なんて書いてない――」

「ハーマイオニー・グレンジャーって、ほんとにひどいやり方をするのね」

チョウが激しい口調で言った。

「あの名簿に呪いをかけたって、私たちに教えるべきだったわ――」

「僕はすばらしい考えだったと思う」

ハリーは冷たく言った。チョウの顔にバッと血が上り、目が光りだした。

「ああ、そうだった。忘れていたわ――もちろん、あれは愛しいハーマイオニーのお考えだったわね」

「また泣きだすのはごめんだよ」

ハリーは警戒するように言った。

「そんなつもりはなかったわ!」

チョウが叫んだ。

「そう……まあ……よかった」

ハリーが言った。

「僕、いま、いろいろやることがいっぱいで大変なんだ」

「じゃ、さっさとやればいいでしょう!」

チョウは怒ってくるりと背を向け、つんつんと去っていった。

ハリーは憤慨しながらスネイプの地下への階段を下りていった。
怒ったり恨んだりしながらスネイプのところに行けば、スネイプはよりやすやすとハリーの心に侵入するだろうと、経験でわかってはいたが、研究室のドアに辿り着くまでずっと、マリエッタのことでチョウにもう少し言ってやるべきだったと思うばかりで、結局どうにもならなかった。
何をどう考えたら、あのタイミングでマリエッタにお礼なんて言おうと思えるのだろう、と、一昨日のサクヤの行動について、ハリーは首をひねるばかりだった。
マリエッタの告発に対して、ハリーとサクヤは恐らく正反対の感情を抱いている……そのことだけは確かだった。

「遅刻だぞ、ポッター」

ハリーがドアを閉めると、スネイプが冷たく言った。
スネイプは、ハリーに背を向けて立ち、いつものように、想いをいくつか取り出しては、ダンブルドアの「憂いの篩」に注意深くしまっているところだった。
最後の銀色の一筋を石の水盆にしまい終わると、スネイプはハリーのほうを振り向いた。

「で?」

スネイプが言った。

「練習はしていたのか?」

「はい」

ハリーはスネイプの机の脚の一本をしっかり見つめながら、嘘をついた。

「まあ、すぐにわかることだがな」

スネイプは澱みなく言った。

「杖を構えろ、ポッター」

ハリーはいつもの場所に移動し、机を挟んでスネイプと向き合った。
チョウへの怒りやサクヤの意味不明な発言、そしてスネイプが自分の心をどのぐらい引っ張り出すのだろうかという不安で、ハリーは動悸がした。



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