The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「では、あなたに聞くことにしましょう、ミス・フェリックス。
ダンブルドアがどこに行ったのか、あなたたちが知っていることはわかっているのよ。
あなたたちとダンブルドアは、初めから一緒にこれを企んでいたんだから。
自分の立場をよくよく考えて答えてちょうだい、ミス・フェリックス」
「全然、分かりませんね」
サクヤはなおも挑戦的だった。
アンブリッジは微笑を崩さないまま、サクヤの追及するような目線をかわして、再びハリーに目を向けた。
「さあ、ミスター・ポッター、紅茶はおいしいかしら?」
ハリーは頷いて、もう一度飲むふりをした。
「それなら、教えていただきましょうか。シリウス・ブラックの居場所を」
ハリーの胃袋が引っくり返り、カップを持つ手が震えて、受け皿がカタカタ鳴った。
唇を閉じたまま、口元でカップを傾けたので、熱い液体が少しローブにこぼれた。
「知りません」
答え方が少し早口すぎた。
「ミスター・ポッター」
不機嫌な顔をしたアンブリッジが迫った。
「いいですか、10月に、グリフィンドールの暖炉で、犯罪者のブラックをいま一歩で逮捕するところだったのは、ほかならぬわたくしですよ。
ブラックが会っていたのはあなただと、わたくしにははっきりわかっています。
わたくしが証拠を掴んでさえいたら、はっきり言って、あなたもブラックも、いま、こうして自由の身ではいられなかったでしょう。
もう一度聞きます。ミスター・ポッター……シリウス・ブラックはどこですか?」
「知りません」
ハリーは大声で言った。
「見当もつきません」
2人はそれから長いこと睨み合っていた。ハリーは目が潤んできたのを感じた。アンブリッジがやおら立ち上がった。
「いいでしょう、ポッター。今回は信じておきます。しかし、警告しておきますよ。
わたくしは魔法省が後ろ盾になっているのです。学校を出入りする通信網は全部監視されています。
煙突飛行ネットワークの監視人が、ホグワーツのすべての暖炉を見張っています――わたくしの暖炉だけはもちろん例外ですが。
『尋問官親衛隊』が城を出入りするふくろう便を全部開封して読んでいます。
それに、フィルチさんが城に続くすべての秘密の通路を見張っています。わたくしが証拠の欠片でも見つけたら……」
「なるほど、
彼女にも
この手を使って尋問したんですね」
サクヤが口をはさんだ。
「……なんのことかしら?」
アンブリッジの口の端がひくついたのをハリーは見た。
「ならやっぱり、彼女は被害者だ……こんな汚い手を使って……。
そりゃあ、校長室にだって入れませんよ」
「口の利き方には気を付けなさい、フェリックス――」
ドーン!部屋の床が揺れた。アンブリッジが横滑りし、ショックを受けた顔で、机にしがみついて踏み止まった。
「いったいこれは――?」
アンブリッジがドアのほうを見つめていた。
その隙に、ハリーはほとんど減っていない紅茶を、一番近くのドライフラワーの花瓶に捨てた。数階下のほうから、走り回る音や悲鳴が聞こえた。
「2人とも、昼食に戻りなさい!」
アンブリッジは杖を上げ、部屋から飛び出していった。
「ナイスタイミング」
サクヤがニヤッと笑って、少しも減っていない紅茶をアンブリッジの机にそのまま戻した。
「こうなると分かっててアンブリッジを挑発してたの?」
「まあな」
ハリーとサクヤはひと呼吸置いてから、大騒ぎの元は何なのか確認すべく部屋を出た。
「それで、
被害者って、誰のことを話してたの?」
廊下を歩きながらハリーが尋ねた。
「んー……、もう1つ確認したいことができたから、裏が取れたら話すよ――うわっ」
サクヤがそう考えを話してくれたが、その途中で、下っている階段が爆発したのかとハリーは錯覚した。
騒ぎの原因が難なく見つかったのだ。1階下は混乱状態だった。
誰かが(ハリーは誰なのかを敏感に見抜いていたが)、巨大な魔法の仕掛け花火のようなものを爆発させたらしい。
全身が緑と金色の火花でできたドラゴンが何匹も、階段を往ったり来たりしながら、火の粉を撒き散らし、バンバンと大きな音を立てている。
直径1.5mもある、ショッキングピンクのネズミ花火は、空飛ぶ円盤群のようにビュンビュンと破壊的に飛び回っていた。
ロケット花火がキラキラ輝く銀色の星を長々と噴射しながら、壁に当たって跳ね返っているし、線香花火は勝手に空中に文字を書いて悪態をついている。
ハリーの目の届くかぎり至る所で、爆竹が地雷のように爆発していた。
普通なら燃え尽きたり、消えたり、動きを止めたりするはずなのに、この奇跡の仕掛け花火は、ハリーが見つめれば見つめるほどエネルギーを増すかのようだった。
フィルチとアンブリッジは、恐怖で身動きできないらしく、階段の途中に立ちすくんでいた。
ハリーが見ている前で、大きめのネズミ花火が、もっと広い場所で動こうと決めたらしく、アンブリッジとフィルチに向かって、
シュルシュルと不気味な音を立てながら回転してきた。2人とも恐怖の悲鳴をあげて身をかわした。
するとネズミ花火はそのまままっすぐ2人の背後の窓から飛び出し、校庭に出ていった。
その間、ドラゴンが数匹と、不気味な煙を吐いていた大きな紫のコウモリが、廊下の突き当たりのドアが開いているのをいいことに、3階に抜け出した。
「早く、フィルチ、早く!」
アンブリッジが金切り声をあげた。
「なんとかしないと、学校中に広がるわ――『ステューピファイ』!」
アンブリッジの杖先から、赤い光が飛び出し、ロケット花火の1つに命中した。
空中で固まるどころか、花火は大爆発し、野原の真ん中にいるセンチメンタルな顔の魔女の絵に穴を空けた。
魔女は間一髪で逃げ出し、数秒後に隣の絵にぎゅうぎゅう入り込んだ。
隣の絵でトランプをしていた魔法使いが2人、急いで立ち上がって魔女のために場所を空けた。
「失神させてはダメ、フィルチ!」
アンブリッジが怒ったように叫んだ。
まるで、呪文を唱えたのは、何がなんでもフィルチだったかのような言い種だ。
「承知しました。校長先生!」
フィルチがゼイゼイ声で言った。フィルチはでき損ないのスクイブで、花火を失神させることなど、花火を飲み込むと同じぐらい不可能な技だ。
彼は近くの倉庫に飛び込み、箒を引っ張り出し、空中の花火を叩き落としはじめたが、数秒後には箒の先が燃えだした。
「ハリー、こっちだ」
満喫しているハリーの腕を引き、サクヤも笑いながら、2人で頭を低くして駆けだした。
ちょっと先の廊下に掛かったタペストリーの裏に隠れたドアがあることを2人は知っている。
滑り込むと、そこにはやはりフレッドとジョージが隠れていた。
アンブリッジとフィルチが叫ぶのを聞きながら、声を押し殺し、身体を震わせて笑いこけていた。
「すごいよ」
ハリーはニヤッと笑いながら低い声で言った。
「ほんとにすごい……君たちのせいで、ドクター・フィリバスターも商売上がったりだよ。間違いない……」
「ありがと」
ジョージが笑いすぎて流れた涙を拭きながら小声で言った。
「ああ、あいつが今度は『消失呪文』を使ってくれるといいんだけどな……そのたびに花火が10倍に増えるんだ」
花火は燃え続け、その午後には学校中に広がった。
相当な被害を引き起こし、とくに爆竹がひどかったが、先生方はあまり気にしていないようだった。
「おや、まあ」
マクゴナガル先生は、自分の教室の周りにドラゴンが1匹舞い上がり、バンバン大きな音を出したり火を吐いたりするのを見て、茶化すように言った。
「ミス・ブラウン。校長先生のところに走っていって、この教室に逃亡した花火がいると報告してくれませんか?」
結局のところ、アンブリッジ先生は校長として最初の日の午後を、学校中を飛び回って過ごした。
先生方が、校長なしではなぜか自分の教室から花火を追い払えないと、校長を呼び出したからだ。
最後の終業ベルが鳴り、みんなが鞄を持ってグリフィンドール塔に帰る途中、ハリーは、フリットウィック先生の教室からよれよれになって出てくるアンブリッジを見た。
髪を振り乱し、煤だらけで汗ばんだ顔のアンブリッジを見て、ハリーは大いに満足した。
「先生、どうもありがとう!」
フリットウィック先生の小さなキーキー声が聞こえた。
「線香花火はもちろん私でも退治できたのですが、なにしろ、そんな
権限があるかどうかはっきりわからなかったので」
フリットウィック先生がそうにっこり笑って、噛みつきそうな顔のアンブリッジの鼻先で教室のドアを閉めたので、サクヤは吹き出すのを堪えるために呼吸困難に陥っていた。
その夜のグリフィンドール談話室で、フレッドとジョージは英雄だった。
ハーマイオニーでさえ、興奮した生徒たちを掻き分けて、2人におめでとうを言ったので、驚いたサクヤが花火のなかにまともに突っ込んでしまった。
「すばらしい花火だったわ」
ハーマイオニーがサクヤの煤を払いながら2人を賞賛した。
「ありがとよ」
ジョージは、驚いたような嬉しいような顔をした。
「『ウィーズリーの暴れバンバン花火』さ。
問題は、ありったけの在庫を使っちまったから、またゼロから作り直しなのさ」
「それだけの価値ありだったよ」
フレッドは大騒ぎのグリフィンドール生から注文を取りながら言った。
「順番待ちリストに名前を書くなら、ハーマイオニー、『基本火遊びセット』が5ガリオン、『デラックス大爆発』が20ガリオン……」
ハーマイオニーとサクヤはハリーとロンがいるテーブルに戻った。
2人とも鞄を睨み、中の宿題が飛び出して、独りでに片づいてくれないかとでも思っているような顔だった。
「まあ、今晩は休みにしたら?」
ハーマイオニーが朗らかに言った。
ちょうどそのとき、ウィーズリー・ロケット花火が銀色の尾を引いて窓の外を通り過ぎていった。
「だって、金曜からはイースター休暇だし、そしたら時間はたっぷりあるわ」
「気分は悪くないか?」
ロンが信じられないという顔でハーマイオニーを見つめた。
「そうなんだよロン、ハルがさっきから変なんだ――」
「聞かれたから言うけど」
サクヤがロンに耳打ちしたが、ハーマイオニーはそれを遮るように嬉しそうな声で言った。
「なんていうか……気分はちょっと……
反抗的なの」
その言葉に歓喜したサクヤは、ハリーに許可をもらって透明マントと忍びの地図を借りると、ハーマイオニーを誘ってグリフィンドールの談話室を駆け出していった。
出がけに「ここからなら時計台が近いかな――そこから見たほうが絶対綺麗だって!」と言っていた。
1時間後、ハリーがロンと2人で寝室に戻ってきたとき、逃げた爆竹のバンバンという音が、まだ遠くで聞こえていた。
服を脱いでいると、線香花火が塔の前をふわふわ飛んでいった。しっかりと文字を描き続けている――
クソ――。
ハリーは欠伸をしてベッドに入った。
眼鏡を外すと、窓の外を時々通り過ぎる花火がぼやけて、暗い空に浮かぶ、美しくも神秘的な、煌めく雲のように見えた。
サクヤとハーマイオニーはこれを見に行ったのか……うとうととしてきた頭でそう思い至った。
アンブリッジがダンブルドアの仕事に就いての1日目を、どんなふうに感じているだろうと思いながら、ハリーは横向きになった。
そして、ほとんど1日中、学校が大混乱だったと聞いたら、ファッジがどういう反応を示すだろうと思った。独りでニヤニヤしながら、ハリーは目を閉じた……。
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