The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
そして、4人は、大広間の扉に向かった。
しかし、その日の大広間の天井を、白い雲が飛ぶように流れていくのをちらりと見たとたん、誰かがハリーの肩を叩いた。
振り向くと、管理人のフィルチが、目と鼻の先にいた。
ハリーは急いで2,3歩下がった。フィルチの顔は遠くから見るにかぎる。
「ポッター、校長がおまえに会いたいとおっしゃる」
フィルチが意地の悪い目つきをした。
「僕がやったんじゃない」
ハリーは、バカなことを口走った。
フレッドとジョージが何やら企んでいることを考えていたのだ。フィルチは声を出さずに笑い、顎がわなわな震えた。
「後ろめたいんだな、え?」
フィルチがゼイゼイ声で言った。
「ついて来い。もちろんフェリックスもだ」
当然のようにまた2人一緒だ。
サクヤはげんなりとした態度を隠そうとしないでハリーの隣に移動した。
ハリーはロンとハーマイオニーをちらりと振り返った。2人とも心配そうな顔だ。
サクヤが肩をすくめてハリーの背を押した。フィルチに従いて玄関ホールに戻り、腹ぺこの生徒たちの波に逆らって歩いた。
フィルチはどうやら上機嫌で、大理石の階段を上りながら、軋むような声で、そっと鼻歌を歌っていた。
最初の踊り場で、フィルチが言った。
「ポッター、フェリックス、状況が変わってきた」
「気がついてるよ」
「ええ」
ハリーもサクヤも手短に返事をした。
「そーだ……ダンブルドア校長は、おまえたちに甘すぎると、わたしはもう何年もそう言い続けてきた」
フィルチがクックッといやな笑い方をした。
「わたしが鞭で皮が剥けるほど打ちのめすことができるとわかっていたら、小汚い小童のおまえたちだって、『臭い玉』を落としたりはしなかっただろうが?
くるぶしを縛り上げられてわたしの部屋の天井から逆さ吊りにされるなら、廊下で『噛みつきフリスビー』を投げようなどと思う童は1人もいなかっただろうが?
しかし、教育令第29号が出るとな、わたしにはそういうことが許されるんだ……
その上、あの方は大臣に、ピーブズ追放令に署名するよう頼んでくださった……ああ、
あの方が取り仕切れば、ここも様変わりするだろう……」
フィルチを味方につけるため、アンブリッジが相当な手を打ったのは確かだ、とハリーは思った。
最悪なのは、フィルチが重要な武器になりうるということだ。
学校の秘密の通路や隠れ場所に関してのフィルチの知識たるや、それを凌ぐのは、恐らくウィーズリーの双子だけだ。
「さあ着いたぞ」
フィルチは意地の悪い目でハリーとサクヤを見ながら、アンブリッジ先生の部屋のドアを三度ノックし、ドアを開けた。
「ポッターどもを連れて参りました。先生」
罰則で何度も来た、お馴染みのアンブリッジの部屋は、以前と変わっていなかった。
1つだけ違ったのは、木製の大きな角材が机の前方に横長に置かれていることで、金文字で「校長」と書いてある。
さらに、ハリーのファイアボルトと、フレッドとジョージの2本のクリーンスイープが――ハリーは胸が痛んだ――机の後ろの壁に打ち込まれたがっしりとした鉄の杭に、鎖で繋がれて南京錠を掛けられていた。
アンブリッジは机に向かい、ピンクの羊皮紙に、何やら忙しげに走り書きしていたが、3人が入っていくと、目を上げ、ニターッと微笑んだ。
「ごくろうさま、アーガス」
アンブリッジがやさしく言った。
「とんでもない、先生、お安い御用で」
フィルチはリウマチの身体が耐えられる限度まで深々とお辞儀し、後退りで部屋を出ていった。
「座りなさい」
アンブリッジは椅子を指差してぶっきらぼうに言った。
ハリーもサクヤも、おとなしく腰掛けた。
アンブリッジはそれからまたしばらく書き物を続けた。
ハリーはアンブリッジの頭越しに、憎たらしい子猫が皿の周りを跳ね回っている絵を眺めながら、時折サクヤと目配せをしつつ、いったいどんな恐ろしいことが新たに待ち受けているのだろうと考えていた。
「さてと」
やっと羽根ペンを置き、アンブリッジは、ことさらにうまそうな蠅を飲み込もうとするガマガエルのような顔をした。
「何か飲みますか?」
「えっ?」
ハリーは聞き違いだと思った。
「飲み物よ、ミスター・ポッター」
アンブリッジは、ますますニターッと笑った。
「紅茶?コーヒー?かぼちゃジュース?」
飲み物の名前を言うたびに、アンブリッジは短い杖を振り、机の上にカップやグラスに入った飲み物が現れた。
「何もいりません。ありがとうございます」
サクヤが事務的に答えた。
「一緒に飲んでほしいの」
アンブリッジの声が危険な甘ったるさに変わった。
「どれか選びなさい」
「それじゃ……紅茶を」
ハリーは肩をすくめながら言った。
「ミス・フェリックスは何にしますか?」
椅子に座るサクヤの目の前に立って、アンブリッジは圧力をかけた。
「そうですね、ファイア・ウィスキーでも飲みたい気分です」
サクヤはアンブリッジから目を離さないまま、挑戦的に答えた。
「そんなものはありません。ミスター・ポッターと同じでいいですね?」
アンブリッジはぴしゃりと言って立ち上がり、ハリーとサクヤに背中を向けて、大げさな身振りで紅茶にミルクを入れた。
それから、不吉に甘い微笑を湛え、カップを持ってせかせかと机を回り込んでやって来た。
「どうぞ」と紅茶をハリーに渡した。
「冷めないうちに飲んでね。ほらミス・フェリックスも――」
アンブリッジをじっと見つめるサクヤにも、同じくミルクティーが渡された。
「さーて、2人とも……昨夜の残念な事件のあとですから、ちょっとおしゃべりをしたらどうかと思ったのよ」
ハリーもサクヤも黙っていた。アンブリッジは自分の椅子に戻り、答えを待った。
沈黙の数分が長く感じられた。やがてアンブリッジが陽気に言った。
「飲んでないじゃないの!」
ハリーは急いでカップを口元に持っていったが、また急に下ろした。
アンブリッジの背後にある、趣味の悪い絵に描かれた子猫の1匹が、マッド-アイ・ムーディの魔法の目と同じ丸い大きな青い目をしていたので、敵とわかっている相手に勧められた飲み物をハリーが飲んだと聞いたら、マッド-アイが何と言うだろうと思ったのだ。
「どうかした?」
アンブリッジはまだハリーを見ていた。
「お砂糖がほしいの?」
「いいえ」
ハリーは答えながら、横目でサクヤをちらりと見た。
サクヤは目を伏せ、静かにカップに口をつけ傾けている――が、喉が少しも動いていないのがハリーの角度から見えた。
恐らくアンブリッジのほうからはそこまで見えないだろう。
ハリーも同じように、もう一度口元までカップを持っていき、唇を固く結んだまま、ひと口飲むふりをした。すると、アンブリッジの口がますます横に広がった。
「そうそう」
アンブリッジが囁くように言った。
「それでいいわ。さて、それじゃ……」
アンブリッジが少し身を乗り出した。
「
アルバス・ダンブルドアはどこなの?」
「知りません」
ハリーが即座に答えた。
「さあ、飲んで、飲んで」
アンブリッジはニターッと微笑んだままだ。
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