The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
魔法省令
ドローレス・ジェーン・アンブリッジ(高等尋問官)はアルバス・ダンブルドアに代わりホグワーツ魔法魔術学校の校長に就任した。
以上は教育令第29号に順うものである。 魔法大臣 コーネリウス・オズワルド・ファッジ |
一夜にして、この知らせが学校中に掲示された。
しかし、城中の誰もが知っている話が、どのように広まったのかは、この掲示では説明できなかった。
ダンブルドアが逃亡するとき、闇祓いを2人、高等尋問官、魔法大臣、さらにその下級補佐官をやっつけたという話だ。
ハリーの行く先々で、城中がダンブルドアの逃亡の話でもちきりだった。
話が広まるにつれて、たしかに細かいところでは尾鰭がついていたが(2年生の女子が、同級生に、ファッジは頭がかぼちゃになって、現在聖マンゴに入院していると、まことしやか話しているのが、ハリーの耳に入ってきた)、それ以外は驚くほど正確な情報が伝わっていた。
たとえば、ダンブルドアの校長室で現場を目撃した生徒が、ハリーとサクヤ、マリエッタの3人だけだったということはみんなが知っていた。
マリエッタはいま医務室にいるので、ハリーとサクヤがみんなに取り囲まれ、直体験の話をせがまれる羽目になった。
「ダンブルドアはすぐに戻ってくるさ」
「薬草学」からの帰り道、ハリーとサクヤの話を熱心に聞いたあとで、アーニー・マクミランが自信たっぷりに言った。
「僕たちが2年生のときも、あいつら、ダンブルドアを長くは遠ざけておけなかったし、今度だってきっとそうさ。『太った修道士』が話してくれたんだけど――」
アーニーが密談をするように声を落としたので、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーは、アーニーのほうに顔を近づけて聞いた。
「――アンブリッジが昨日の夜、城内や校庭でダンブルドアを探したあと、校長室に戻ろうとしたらしいんだ。
ガーゴイルのところを通れなかったってさ。校長室は、独りでに封鎖して、アンブリッジを締め出したんだ」
アーニーがにやりと笑った。
「どうやら、あいつ、相当癇癪を起こしたらしい」
「ああ、あの人、きっと校長室に座る自分の姿を見てみたくてしょうがなかったんだわ」
玄関ホールに続く石段を上がりながら、ハーマイオニーがきつい言い方をした。
「ほかの先生より自分が偉いんだぞって。バカな思い上がりの、権力に取っつかれたばばぁの――」
「おーや、君、
本気で最後まで言うつもりかい?グレンジャー?」
ドラコ・マルフォイが、クラッブとゴイルを従え、扉の陰からするりと現れた。
青白い顎の尖った顔が、悪意で輝いている。
「気の毒だが、グリフィンドールとハッフルパフから少し減点しないといけないねえ」
マルフォイが気取って言った。
「監督生同士は減点できないぞ、マルフォイ」
アーニーが即座に言った。
「
監督生ならお互いに減点できないのは知ってるよ」
マルフォイがせせら笑った。
クラッブとゴイルも嘲り笑った。
「どういうこと?」
サクヤが訝りながら首をひねった。
「『尋問官親衛隊』なら――」
「
いま何て言った?」
ハーマイオニーが鋭く聞いた。
「尋問官親衛隊だよ、グレンジャー」
マルフォイは、胸の監督生バッジのすぐ下に留めた、「I」の字形の小さな銀バッジを指差した。
「魔法省を支持する、少数の選ばれた学生のグループでね。アンブリッジ先生直々の選り抜きだよ。
とにかく、尋問官親衛隊は、
減点する力を持っているんだ……そこでグレンジャー、新しい校長に対する無礼な態度で5点減点。マクミラン、僕に逆らったから5点。
ポッター、おまえが気に食わないから5点。ウィーズリー、シャツがはみ出しているから、もう5点減点。
ああ、そうだ。忘れていた。おまえは穢れた血だ、グレンジャー。だから10点減点」
「おい、無茶苦茶すぎだろ」
思わずサクヤがそう問い詰めると、マルフォイは待ってましたとばかりにニヤリと口の弧を伸ばした。
「尋問官親衛隊に口答えをした、フェリックスも10点減点だ」
今度はロンが杖を抜いた。
しかし、ハーマイオニーがサクヤとロンを押し戻し、「だめよ」と囁いた。
「賢明だな、グレンジャー」
マルフォイが囁くように言った。
「新しい校長、新しい時代だ……いい子にするんだぞ、
ポッティ……ウィー
ズル王者……」
思いっきり笑いながら、マルフォイはクラッブとゴイルを率いて意気揚々と去っていった。
「ただの脅しさ」
アーニーが愕然とした顔で言った。
「あいつが点を引くなんて、許されるはずがない……そんなこと、バカげてるよ……監督生制度が完全に覆されちゃうじゃないか」
しかし、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーは、背後の壁の窪みに設置されている、寮の点数を記録した巨大な砂時計のほうに、自然に目が行った。
今朝までは、グリフィンドールとレイブンクローが接戦で1位を争っていた。いまは見る間に石が飛び上がって上に戻り、下に溜まった量が減っていった。
事実、まったく変わらないのは、エメラルドが詰まったスリザリンの時計だけだった。
「気がついたか?」
フレッドの声がした。
ジョージと2人で大理石の階段を下りてきたところで、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニー、アーニーと砂時計の前で一緒になった。
「マルフォイが、いま僕たちからほとんど50点も減点したんだ」
グリフィンドールの砂時計から、また石が数個上に戻るのを見ながら、ハリーが憤慨した。
「うん。モンタギューのやつ、休み時間に、俺たちからも減点しようとしやがった」
ジョージが言った。
「『しようとした』って、どういうこと?」
ロンが素早く聞いた。
「最後まで言い終わらなかったのさ」
フレッドが言った。
「俺たちが、2階の『姿をくらますキャビネット』に頭から突っ込んでやったんでね」
ハーマイオニーがショックを受けた顔をした。
「そんな、あなたたち、とんでもないことになるわ!」
「モンタギューが現れるまでは大丈夫さ。それまで数週間かかるかもな。やつをどこに送っちまったのかわかんねえし」
フレッドがさばさばと言った。
「とにかくだ……俺たちは、問題に巻き込まれることなどもう気にしない、と決めた」
「気にしたことあるの?」
ハーマイオニーが聞いた。サクヤがちょっと笑った。
「そりゃ、あるさ」
ジョージが答えた。
「一度も退学になってないだろ?」
「俺たちは、常に一線を守った」
フレッドが言った。
「ときには、爪先ぐらいは線を越えたかもしれないが」
ジョージが言った。今度こそ確かに、サクヤが吹き出した。
「だけど、常に、本当の大混乱を起こす手前で踏み止まったのだ」
フレッドが言った。
「だけど、いまは?」
ロンが恐る恐る聞いた。
「そう、いまは――」
ジョージが言った。
「――ダンブルドアもいなくなったし――」
フレッドが言った。
「――ちょっとした大混乱こそ――」
ジョージが言った。
「――まさに、親愛なる新校長にふさわしい」
フレッドが言った。
「ダメよ!」
ハーマイオニーが囁くように言った。
「ほんとに、ダメ!あの人、あなたたちを追い出す口実なら大喜びだわ」
「わかってないなあ、ハーマイオニー」
フレッドがハーマイオニーに笑いかけた。
「俺たちはもう、ここにいられるかどうかなんて気にしないんだ。
いますぐにでも出ていきたいところだけど、ダンブルドアのためにまず俺たちの役目を果たす決意なんでね。そこで、とにかく」
フレッドが腕時計を確かめた。
「第1幕がまもなく始まる。
悪いことは言わないから、昼食を食べに大広間に入ったほうがいいぜ。
そうすりゃ、先生方も、おまえたちは無関係だとわかるからな」
「何に無関係なの?」
ハーマイオニーが心配そうに聞いた。
「いまにわかる」
ジョージが言った。
「さ、早く行けよ」
フレッドとジョージはみんなに背を向け、昼食を食べに階段を下りてくる人混みが膨れ上がってくる中へと姿を消した。
困惑しきった顔のアーニーは、「変身術」の宿題が済んでいないとかなんとか呟きながら慌てていなくなった。
「ねえ、
やっぱりここにはいないほうがいいわ」
ハーマイオニーが神経質に言った。
「万が一……」
「同感だ。フレッドとジョージの親切は受け取っておいたほうがいい気がする」
サクヤが言った。
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