The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




アンブリッジの顔が、着実にだんだん赤くなってきた。まるで、身体の中に、熱湯が注がれていくようだった。
ファッジは間抜け面でダンブルドアを見つめていた。まるで、突然パンチを食らったのに、それが信じられないという顔だ。
息が詰まったような音を出し、ファッジはキングズリーを振り返った。
それから、これまでただ1人、ずっと黙りこくっていた、短い白髪頭の男を振り返った。その男は、ファッジに大丈夫というように頷き、壁から離れてわずかに前に出た。
ハリーは、その男の手が、ほとんど何気ない様子でポケットのほうに動くのを見た。

「ドーリッシュ、愚かなことはやめるがよい」

ダンブルドアがやさしく言った。

「きみはたしかに優秀な闇祓いじゃ――NEWTいもり試験で全科目『O・優』を取ったことを憶えておるよ――しかし、もしわしを力ずくで、その――あー――連行するつもりなら、きみを傷つけねばならなくなる」

ドーリッシュと呼ばれた男は、毒気を抜かれたような顔で、目を瞬いた。
それから、再びファッジを見たが、今度は、どうするべきか指示を仰いでいるようだった。

「すると」

我に返ったファッジが嘲るように言った。

「おまえは、たった1人で、ドーリッシュ、シャックルボルト、ドローレス、それに私を相手にする心算かね?なあ、ダンブルドア?」

「いや、まさか」

ダンブルドアは微笑んでいる。

「あなたが、愚かにも無理やりそうさせるなら別じゃが」

「ダンブルドアは独りじゃありません!」

マクゴナガル先生が、素早くローブに手を突っ込みながら、大声で言った。

「いや、ミネルバ、わし独りじゃ」

ダンブルドアが厳しく言った。

「ホグワーツはあなたを必要としておる!」

「何をごたごたと!」

ファッジが杖を抜いた。
ハリーは視界の端で、サクヤが身構えるのが見えた。

「ドーリッシュ、シャックルボルト!彼を捕まえろ!」

部屋の中に、銀色の閃光が走った。
ドーンと銃声のような音がして、床が震えた。
二度目の閃光が光ったとき、手が伸びてきて、ハリーの襟首をつかみ、身体を床に押し倒した。肖像画が何枚か、悲鳴をあげた。

「待って!」

悲鳴に紛れ、誰かを止めようとするサクヤの声が聞こえた。
それからすぐにかき消すようなフォークスの金切り声が上がり、埃が濛々と舞った。埃に咽せながら、ハリーは、黒い影が1つ、目の前にばったり倒れるのを見た。
悲鳴、ドサッという音、そして誰かが叫んだ。

「ダメだ!」

そして、ガラスの割れる音、バタバタと慌てふためく足音、呻き声……そして静寂。

ハリーはもがいて、誰が自分を絞め殺しかかっているのか見ようとした。
マクゴナガル先生が、ハリーのそばに蹲っているのが見えた。ハリーとマリエッタの2人を押さえつけて、危害が及ばないようにしていた。
埃はまだ飛び交い、ゆっくりと3人の上に舞い降りてきた。
少し息を切らしながら、ハリーは背の高い誰かが近づいてくるのを見た。

「大丈夫かね?」

ダンブルドアだった。

「ええ!」

マクゴナガル先生が、ハリーとマリエッタを引っ張り上げながら立ち上がった。
埃が収まってきた。
破壊された部屋がだんだん見えてきた。
ダンブルドアの机は引っくり返り、華奢なテーブルは全部床に倒れて、上に載っていた銀の計器類は粉々になっていた。
ファッジ、アンブリッジ、ドーリッシュは、床に転がって動かない。しかし、キングズリーはまだ杖を構えたまま立っていた。
不死鳥のフォークスは、静かに歌いながら、大きな円を描いて頭上に舞い上がった。

「サクヤ、なぜキングズリーを止めたのじゃ」

問い詰めるようには聞こえないよう注意を払いつつ、しかしダンブルドアは素早く訊いた。

「彼の勘は非常によく働いてくれた。
このどさくさに紛れてミス・エッジコムの記憶を修正してやるのが、彼女自身にとって一番最善じゃと思うんだがの」

ハリーはマリエッタの顔を見た。まだ虚ろな目をしたままだ。

「ごめんなさい。時間がないことも分かっています。
でも、この記憶が消される前に、どうしてもマリエッタに伝えたいことがあったんです――」

サクヤは彼女の前に進み出た。
両肩に手を置き、虚ろな目と目線を合わせて、この短い時間で確実に彼女に伝わる言葉を選んでから口を開いた。

「ありがとう、マリエッタ。
チョウのために、一緒にDAに来てくれて、ありがとう」

ハリーにはまったく理解できないことだった。なぜそんなお礼を言う必要があるんだ?
ハリーが混乱している間に、サクヤはそれだけ伝えて彼女から離れ、キングズリーのほうに振り返って頷いた。
キングズリーは黙ったまま杖を振り、銀色の光がマリエッタを包み込んだ。先ほども見た光だ。

「賢明じゃな。
ミス・エッジコムの心に確かに残ったことじゃろう」

ダンブルドアが頷きながら低い声で言った。

「さて、もう間もなく、皆も気がつく。
わしらが話をする時間があったことを悟られぬほうがよかろう――あなた方は、時間がまったく経過していなかったかのように、あたかもみんな床に叩きつけられたばかりだったように振舞うのですぞ。記憶はないはずじゃから――」

「どちらに行かれるのですか?ダンブルドア?」

マクゴナガル先生が囁いた。

「グリモールド・プレイスに?」

「いや、違う」

ダンブルドアは厳しい表情で微笑んだ。

「わしは身を隠すわけではない。
ファッジは、わしをホグワーツから追い出したことを、すぐに後悔することになるじゃろう。間違いなくそうなる」

「ダンブルドア先生……」

ハリーが口を開いた。
何から言っていいのかわからなかった。
そもそもDAを始めたことでこんな問題を引き起こしてしまい、どんなに申し訳なく思っているかと言うべきだろうか?
それとも、自分たちを退学処分から救うためにダンブルドアが去っていくことが、どんなに辛いかと言うべきだろうか?
しかし、ダンブルドアは、ハリーが何も言えないでいるうちに、ハリーの口を封じた。

「よくお聞き、ハリー」

ダンブルドアは差し迫ったように言った。

「『閉心術』を一心不乱に学ぶのじゃ。よいか?スネイプ先生の教えることを、すべて実行するのじゃ。
とくに毎晩寝る前に、悪夢を見ぬよう心を閉じる練習をするのじゃ――なぜそうなのかは、まもなくわかるじゃろう。しかし、約束しておくれ――」

ドーリッシュと呼ばれた男が微かに身動きした。ダンブルドアはハリーの手首を掴んだ。

「よいな――心を閉じるのじゃ――」

しかし、ダンブルドアの指がハリーの肌を握ったとき、額の傷痕に痛みが走った。
そして、ハリーはまたしても、恐ろしい蛇のような衝動が湧いてくるのを感じた。ダンブルドアを襲いたい、噛みついて傷つけたい。

「わかるときがくるじゃろう」

ダンブルドアが囁いた。
それから、ハリーと同じくらい申し訳なさそうな表情で口を開いては閉じてを繰り返すサクヤにも、確かに深く頷いて見せた。

フォークスが輪を描いて飛び、ダンブルドアの上に低く舞い降りてきた。
ダンブルドアはハリーを放し、手を上げて不死鳥の長い金色の尾を掴んだ。バッと炎が上がり、ダンブルドアの姿は不死鳥とともに消えた。

「あいつはどこだ?」

ファッジが床から身を起こしながら叫んだ。

どこなんだ?

「わかりません」

床から飛び起きたふりをしながら、キングズリーが叫んだ。

「『姿くらまし』したはずはありません」

アンブリッジが喚いた。

「学校の中からはできるはずがないし――」

「階段だ!」

ドーリッシュはそう叫ぶなり、扉に向かって身を翻し、ぐいと開けて姿が見えなくなった。
そのすぐあとに、キングズリーとアンブリッジが続いた。
ファッジは躊躇していたが、ゆっくり立ち上がり、ローブの前から埃を払った。痛いほどの長い沈黙が流れた。

「さて、ミネルバ」

ファッジがずたずたになったシャツの袖をまっすぐに整えながら、意地悪く言った。

「お気の毒だが、君の友人、ダンブルドアもこれまでだな」

「そうでしょうかしら?」

マクゴナガル先生が軽蔑したように言った。
ファッジには聞こえなかったようだ。壊れた部屋を見回していた。肖像画の何枚かが、ファッジに向かって、シューシューと非難を浴びせ、手で無礼な仕種をしたのも1,2枚あった。

「その3人をベッドに連れていきなさい」

ファッジはハリーとサクヤ、マリエッタに、もう用はないとばかりに頷き、マクゴナガル先生を振り返って言った。
マクゴナガル先生は何も言わず、3人を連れてつかつかと扉のほうに歩いた。
扉がバタンと閉まる間際に、ハリーはフィニアス・ナイジェラスの声を聞いた。

「いやあ、大臣。
私は、ダンブルドアといろいろな点で意見が合わないのだが……しかし、あの人は、とにかく粋ですよ……」




>>To be continued

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