The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「でも、この子がしゃべらなくとも、問題ありませんわ。その先はわたくしがお話できます。
ご記憶とは存じますが、大臣、去る10月にお送りした報告書で、ポッターがホグズミードのホッグズ・ヘッドで、たくさんの生徒たちと会合したと――」
「何か証拠がありますか?」
マクゴナガル先生が口を挟んだ。
「ウィリー・ウィダーシンの証言がありますよ、ミネルバ。
たまたまそのとき、そのバーに居合わせましてね。たしかに、包帯でグルグル巻きでしたが、聞く能力は無傷でしたよ」
アンブリッジが得意げに言った。
「この男が、ポッターの一言一句漏らさず聞きましてね、早速わたくしに報告しに、学校に直行し――」
「まあ、だから、あの男は、一連の逆流トイレ事件を仕組んだ件で、起訴されなかったのですね!」
マクゴナガル先生の眉が吊り上がった。
「わが司法制度の、おもしろい内幕ですわ!」
「露骨な汚職だ!」
ダンブルドアの机の後ろの壁に掛かった、でっぷりとした赤鼻の魔法使いの肖像画が吠えた。
「わしの時代には、魔法省が小悪党と取引することなどなかった。いいや、絶対に!」
「お言葉を感謝しますぞ、フォーテスキュー。もう十分じゃ」
ダンブルドアが穏やかに言った。
「ポッターが生徒たちと会合した目的は」
アンブリッジが話を続けた。
「違法な組織に加盟するよう、みんなを説得するためでした。
組織の目的は、魔法省が学童には不適切だと判断した呪文や呪いを学ぶことであり――」
「ドローレス、どうやらそのへんは思い違いじゃとお気づきになると思うがの」
ダンブルドアが、折れ曲がった鼻の中ほどにちょんと載った半月眼鏡の上から、アンブリッジをじっと見て静かに言った。
ハリーはダンブルドアを見つめた。
今回のことで、ハリーやサクヤのためにどう言い逃れするつもりなのか、見当もつかなかった。
ウィリー・ウィダーシンがホッグズ・ヘッドで、本当にハリーの言ったことを全部聞いていたなら、もう逃れる術はない。
「ほっほー!」
ファッジがまた爪先立ちで身体をピョコピョコ上下に揺すった。
「よろしい。ポッターとフェリックスの窮地を救うための、新しいホラ話をお聞かせ願いましょうか。
さあ、どうぞ、ダンブルドア、さあ――ウィリー・ウィダーシンが嘘をついたとでも?それとも、あの日ホッグズ・ヘッドにいたのは、ポッターには瓜ふたつの双子だったとでも?
または、時間を逆転させたとか、死んだ男が生き返ったとか、見えもしない『吸魂鬼』が2体いたとかいう、例の埒もない言い逃れか?」
「ああ、お見事。大臣、お見事!」
パーシー・ウィーズリーが思いっきり笑った。ハリーは蹴っ飛ばしてやりたかった。
ところが、ダンブルドアを見ると、驚いたことに、ダンブルドアも柔らかく微笑んでいた。
「コーネリウス、わしは否定しておらんよ。――それに、ハリーも否定せんじゃろう――その日にハリーがホッグズ・ヘッドにいたことも、『闇の魔術に対する防衛術』のグループに生徒を集めようとしていたことものう。
わしは単に、その時点で、そのようなグループが違法じゃったとドローレスが言うのは、まったく間違っておると指摘するだけじゃ。
ご記憶じゃろうが、学生の組織を禁じた魔法省令は、ハリーがホグズミードで会合した2日後から発効しておる。じゃから、ハリーはホッグズ・ヘッドで、何も規則も破っておらんのじゃ」
パーシーは何かとても重いもので、顔をぶん殴られたような表情をした。
ファッジはポカンと口を開け、ピョコピョコの途中で止まったまま動かなくなった。アンブリッジが最初に回復した。
「それは大変結構なことですわ、校長」
アンブリッジが甘ったるく微笑んだ。
「でも、教育令第24号が発効してから、もう6ヵ月近く経ちますわね。最初の会合が違法でなかったとしても、それ以後の会合は全部、間違いなく違法ですわ」
「左様」
ダンブルドアは組み合わせた指の上から、礼儀上アンブリッジに注意を払いながら言った。
「もし、教育令の発効後に会合が
続いておれば、たしかに
違法になりうるじゃろう。そのような集会が続いていたという証拠を、何かお持ちかな?」
ダンブルドアが話している間に、ハリーは背後で、サワサワという音を聞いた。
そして、キングズリーが何かを囁いたような気がした。サクヤがハッと息を呑んだのが聞こえた。
それに、間違いなく脇腹を、何かがさっと撫でたような感じがした。一陣の風か、鳥の翼のような柔らかいものだ。しかし、下を見ても、何も見えなかった。
「証拠?」
アンブリッジは、ガマガエルのように口を広げ、にたりと恐ろしい微笑みを見せた。
「お聞きになってらっしゃいませんでしたの?ダンブルドア?
ミス・エッジコムがなぜここにいるとお思いですの?」
「おお、6ヵ月分の会合のすべてについて話せるのかね?」
ダンブルドアは眉をくいと上げた。
「わしはまた、ミス・エッジコムが、今夜の会合のことを報告していただけじゃという印象じゃったが」
「ミス・エッジコム」
アンブリッジが即座に聞いた。
「いい子だから、会合がどのぐらいの期間続いていたのか、フェリックスは何回目の会合から合流していたのか話してごらん。
頷くか、首を横に振るかだけでいいのよ。そのせいで、でき物がひどくなることはありませんからね。
そうね――まず、この6ヵ月、定期的に会合は開かれていたのかしら?」
ハリーは胃袋がズドーンと落ち込むのを感じた。おしまいだ。
僕たちは動かしようのない証拠をつかまれた。ダンブルドアだってごまかせやしない。
「首を縦に振るか、横に振るかするのよ」
アンブリッジがなだめすかすようにマリエッタに言った。
「ほら、ほら、それでまた呪いが効いてくることはないのですから」
部屋の全員が、マリエッタの顔の上部を見つめていた。引っ張り上げたローブと、巻き毛の前髪との隙間に、目だけが見えていた。
暖炉の灯りのいたずらか、マリエッタの目は、妙に虚ろだった。
そして――ハリーにとっては青天の霹靂だったが――マリエッタは首を横に振った。
アンブリッジはちらりとファッジを見たが、すぐにマリエッタに視線を戻した。
「質問がよくわからなかったのね?そうでしょう?
わたくしが聞いたのはね、あなたが、この6ヵ月にわたり、会合に参加していたかどうかということなのよ。参加していたんでしょう?」
マリエッタはまたもや首を横に振った。
「首を振ったのはどういう意味なの?」
アンブリッジの声が苛立っていた。
「私は、どういう意味か明白だと思いましたが」
マクゴナガル先生が厳しい声で言った。
「この6ヵ月間、秘密の会合はなかったということです。そうですね?ミス・エッジコム?」
マリエッタが頷いた。
「でも、今夜会合がありました!」
アンブリッジが激怒した。
「会合はあったのです。ミス・エッジコム、あなたがわたくしにそう言いました。『必要の部屋』でと!
そして、ポッターが首謀者だった。フェリックスも参加していた。そうでしょう?彼らが組織した。ポッターとフェリックスが――
どうして、あなた、首を横に振ってるの?」
「まあ、通常ですと、首を横に振るときは」
マクゴナガルが冷たく言った。
「『いいえ』という意味です。
ですから、ミス・エッジコムが、まだヒトの知らない使い方で合図を送っているのでなければ――」
アンブリッジ先生はマリエッタをつかみ、ぐるりと回して自分のほうに向かせ、激しく揺すぶりはじめた。
間髪を容れず立ち上がったダンブルドアが、杖を上げた。
キングズリーがずいと進み出た。
アンブリッジは、まるで火傷をしたかのように両手をプルプル振りながら、マリエッタから飛び退いた。
「ドローレス、わしの生徒たちに手荒なことは許さぬ」
ダンブルドアはこのとき初めて怒っているように見えた。
「マダム・アンブリッジ、落ち着いてください」
キングズリーがゆったりした深い声で言った。
「面倒を起こさないほうがいいでしょう」
「いいえ」
アンブリッジは聳えるようなキングズリーの姿をちらりと見上げながら、息を弾ませて言った。
「つまり、ええ、そう――あなたの言うとおりだわ、シャックルボルト――わたし――わたくし、つい我を忘れて」
マリエッタは、アンブリッジが手を離したその位置で、そのまま突っ立っていた。
突然アンブリッジにつかみかかられても動揺した様子がなく、放されてほっとした様子もない。
奇妙に虚ろな目のところまでローブを引き上げたまま、まっすぐ前を見つめていた。
突然、ハリーはもしやと思った。
キングズリーの囁きと、脇腹を掠めた感覚とに結びつく疑いだった。
彼の近くにいたサクヤは、だから息を潜めたのだろうか?目だけを動かして彼女を確認すると、何かを堪えるようにして、この場の一瞬一瞬の流れを逃すことなく掴もうとしていた。
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