The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




数分も経たないうちに、2人は石のガーゴイル像のところにいた。
ハリーは、他のみんなが捕まってしまったかどうか心配だった。
ロンのことを考えた――ウィーズリーおばさんはロンを殺しかねないな。ぎりぎりまで一緒にいて、反対方向に向かっていったサクヤは――足は速いほうだけど、無事振り切れただろうか。
ハーマイオニーは、OWL試験を受ける前に退学になったらどう思うだろう。それと、今日はシェーマスの最初のDAだったのに……ネビルはあんなに上手くなっていたのに……。

フィフィ フィズビー

アンブリッジが唱えると、石のガーゴイルが飛び退き、壁が左右にぱっくり開いた。
動く石の螺旋階段に乗り、2人は磨き上げられた扉の前に出た。
グリフィンの形のドアノッカーがついている。アンブリッジはノックもせず、ハリーをむんずとつかんだまま、ずかずかと部屋に踏み込んだ。

校長室は人でいっぱいだった。
ダンブルドアは穏やかな表情で机の前に座り、長い指の先を組み合わせていた。
マクゴナガル先生が緊張した面持ちで、その脇にびしりと直立している。
魔法大臣、コーネリウス・ファッジが、暖炉のそばで、いかにもうれしそうに爪先立ちで前後に身体を揺すっている。
扉の両脇に、護衛のように立っているのは、キングズリー・シャックルボルトと、ハリーの知らない厳しい顔つきの、短髪剛毛の魔法使いだ。
そばかす顔に眼鏡を掛け、羽根ペンと分厚い羊皮紙の巻紙を持って、どうやら記録を取る構えのパーシー・ウィーズリーが、興奮した様子で壁際をうろうろしている。
歴代校長の肖像画は、今夜は狸寝入りしていない。
全員目を開け、まじめな顔で眼下の出来事を見守っている。
ハリーが入ってくると、何人かが隣の額に入り込み、切迫した様子で、人に何事か耳打ちした。
そして――この場にいませんようにと祈ったDAメンバーの1人が――サクヤもまた、校長室へ連行されていた。キングズリー・シャックルボルトに大人しく腕を掴まれたまま、ハリーと目が合うと肩をすくめてみせた。

扉がバタンと閉まったとき、ハリーはアンブリッジの手を振り解いた。
コーネリウス・ファッジは、何やら毒々しい満足感を浮かべてハリーを睨みつけていた。

「さーて」

ファッジが言った。

「さて、さて、さて……いつものこの2人だ。まったく」

ハリーはありったけの憎々しさを目に込めてファッジに応えた。
心臓は激しく鼓動していたが、頭は不思議に冷静で、冴えていた。

「この子はグリフィンドール塔に戻る途中でした」

アンブリッジが言った。
声にいやらしい興奮が感じ取れた。
トレローニー先生が玄関ホールで惨めに取り乱すのを見つめていたときのアンブリッジの声にも、ハリーは同じ残忍な悦びを聞き取っていた。

「あのマルフォイ君が、この子を追い詰めましたわ」

「あの子がかね?」

ファッジが感心したように言った。

「忘れずにルシウスに言わねばなるまい。
さて、ポッター、フェリックス……。どうしてここに連れてこられたか、わかっているだろうな?」

ハリーは、挑戦的に「はい」と答えるつもりだった。
口を開きながら、ちらりと一瞬、サクヤに目をやった――サクヤは黙ったまま、目だけでダンブルドアを見るように言っていた。
ハリーは言葉を半分出しかけながら、促されてダンブルドアの顔を見た。
ダンブルドアはハリーを直接に見てはいなかった――その視線は、ハリーの肩越しに、ある一点を見つめていた。しかし、ハリーがその顔をじっと見ると、ダンブルドアがほんのわずかに首を横に振った。

ハリーは半分口に出した言葉を方向転換した。

「は――いいえ」

「なんだね?」

ファッジが聞いた。

「いいえ」

ハリーはきっぱりと答えた。

「どうしてここにいるのか、わからんと?」

「ええ、わかりません」

ハリーに続いて、サクヤも言った。

ファッジは面食らって、ハリーとサクヤを交互に見て、それからアンブリッジを見た。
その一瞬の隙に、ハリーは急いでもう一度ダンブルドアを盗み見た。
すると、ダンブルドアはハリーに顔を向けたまま、目線はサクヤのほうを見て、微かに頷き、ウィンクしたような気配を見せた。

「では、まったくわからんと」

ファッジはたっぷりと皮肉を込めて言った。

「アンブリッジ先生が、校長室に君たちを連れてきた理由がわからんと?校則を破った覚えはないと?」

「校則?」

ハリーが繰り返した。

「いいえ」

「魔法省令はどうだ?」

ファッジは矛先を変え、サクヤに向かって腹立たしげに言い直した。

「いいえ、自分の知るかぎりでは全く」

サクヤも平然としていた。
しかし、ハリーの心臓はまだ激しくドキドキしていた。
ファッジの血圧が上がるのを見られるだけでも、嘘をつく価値があると言えるくらいだったが、いったいどうやって嘘をつき通せるのか、ハリーには見当もつかなかった。
誰かがDAのことをアンブリッジに告げ口したのだったら、リーダーの僕は、いますぐ荷物をまとめるしかないだろう。
サクヤはこのやりとりがどの方向に向かうのか、見当はついているのだろうか……。

「では、これは君たちには初耳かね?」

ファッジの声は、いまや怒りでドスが利いていた。

「校内で違法な学生組織が発覚したのだが」

「はい、初耳です」

ハリーは寝耳に水だと純真無垢な顔をしてみせたが説得力はなかった。

「大臣閣下」

すぐ脇で、アンブリッジが滑らかに言った。

「通報者を連れてきたほうが、話が早いでしょう」

「うむ、うむ。そうしてくれ」

ファッジが頷き、アンブリッジが出ていくとき、ダンブルドアをちらりと意地悪な目つきで見た。

「何と言っても、ちゃんとした目撃者が一番だからな、ダンブルドア?」

「まったくじゃよ、コーネリウス」

ダンブルドアが小首を傾げながら、重々しく言った。
ハリーがサクヤを見ていると、少しだけ焦っているように見えるサクヤと目が合った。
「通報者が誰か知ってる?」と目線だけで訊ねてみても、サクヤも知らないようで、わずかに首をひねるだけだった。

その後、待つこと数分。この間は誰も互いに目を合わせなかった。
そして、ハリーの背後で扉の開く音がした。
アンブリッジが、チョウの友達のマリエッタの肩をつかんで、扉近くに立つサクヤの脇を通り過ぎた。マリエッタは両手で顔を覆っている。

「怖がらなくてもいいのよ」

アンブリッジ先生が、マリエッタの背中を軽く叩きながら、やさしく声をかけた。

「大丈夫ですよ。あなたは正しいことをしたの。大臣がとてもお喜びですよ。
あなたのお母様に、あなたがとってもいい子だったって、言ってくださるでしょう。大臣、マリエッタの母親は」

アンブリッジはファッジを見上げて言葉を続けた。

「魔法運輸部、煙突飛行ネットワーク室のエッジコム夫人です。――ホグワーツの暖炉を見張るのを手伝ってくれていたことはご存知でしょう」

「結構、結構!」

ファッジは心底うれしそうに言った。

「この母にしてこの娘ありだな、え?
さあ、さあ、いい子だね。顔を上げて、恥ずかしがらずに。君の話を聞こうじゃ―――これは、なんと!」

マリエッタが顔を上げると、ファッジはぎょっとして飛び退り、危うく暖炉に突っ込みそうになった。
マントの裾が燻りはじめ、ファッジは悪態をつきながら、バタバタと裾を踏みつけた。
マリエッタは泣き声をあげ、ローブを目のところまで引っ張り上げた。
しかし、もうみんなが、その変わり果てた顔を見てしまった。マリエッタの頬から鼻を横切って、膿んだ紫色のでき物がびっしりと広がり、文字を描いていたのだ。――密告者――。

「さあ、そんなぶつぶつは気にしないで」

アンブリッジがもどかしげに言った。

「口からローブを離して、大臣に申し上げなさい――」

しかし、マリエッタは口を覆ったままでもう一度泣き声をあげ、激しく首を振った。

「バカな子ね。もう結構。わたくしがお話します」

アンブリッジがぴしゃりとそう言うと、例の気味の悪いにっこり笑顔を貼りつけ、話しだした。

「さて、大臣、このミス・エッジコムが、今夜、夕食後間もなくわたくしの部屋にやってきて、何か話したいことがあると言うのです。
そして、8階の、とくに『必要の部屋』と呼ばれる秘密の部屋に行けば、わたくしにとって何か都合のよいものが見つかるだろうと言うのです。
もう少し問い詰めたところ、この子は、そこで何らかの会合が行われるはずだと白状しました。
残念ながら、その時点で、この呪いが」

アンブリッジはマリエッタが隠している顔を指して、イライラと手を振った。

「効いてきました。
わたくしの鏡に映った自分の顔を見たとたん、この子は愕然として、それ以上何も話せなくなりました」

「よーし、よし」

ファッジは、やさしい父親の眼差しとはこんなものだろうと自分なりに考えたような目で、マリエッタを見つめながら言った。

「アンブリッジ先生のところに話しに行ったのは、とっても勇敢だったね。君のやったことは、まさに正しいことだったんだよ。
さあ、その会合で何があったのか、話しておくれ。目的は何かね?誰が来ていたのかね?」

しかし、マリエッタは口をきかなかった。
怯えたように目を見開き、またしても首を横に振るだけだった。

「逆呪いはないのかね?」

マリエッタの顔を指しながら、ファッジがもどかしげにアンブリッジに聞いた。

「この子が自由にしゃべれるように」

「まだ、どうにも見つかっておりません」

アンブリッジがしぶしぶ認めた。
ハリーはハーマイオニーの呪いをかける能力に、誇らしさが込み上げてくるのを感じた。
しかし、サクヤはそう思っていないようで、ばつの悪そうな表情でマリエッタを見つめるばかりだった。



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