The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「では始めよう」

そう言うと、フィレンツェは、長い黄金色の尻尾をひと振りし、頭上のこんもりした天蓋に向けて手を伸ばし、その手をゆっくりと下ろした。
すると、部屋の明かりが徐々に弱まり、まるで夕暮れどきに森の空き地に座っているような様子になった。
天井に星が現れ、あちこちで「お〜」と言う声や、息を呑む音がした。ロンは声に出して「すっげぇ!」と言った。

「床に仰向けに寝転んで」

フィレンツェがいつもの静かな声で言った。

「天空を観察してください。見る目を持った者にとっては、我々の種族の運命がここに書かれているのです」

ハリーは仰向けになって伸びをし、天井を見つめた。キラキラ輝く赤い星が、上からハリーに瞬いた。

「みなさんは、『天文学』で惑星やその衛星の名前を勉強しましたね」

フィレンツェの静かな声が続いた。

「そして、天空を巡る星の運行図を作りましたね。ケンタウルスは、何世紀もかけて、こうした天体の動きの神秘を解き明かしてきました。
その結果、天空に未来が顔を覗かせる可能性があることを知ったのです――」

「トレローニー先生は占星術を教えてくださったわ!」

パーバティが興奮して言った。
寝転んだまま手を前に出したので、その手が空中に突き出した。

「火星は事故とか、火傷とか、そういうものを引き起こし、その星が、土星とちょうどいまみたいな角度を作っているとき――」

パーバティは空中に直角を描いた。

「――それは、熱いものを扱う場合、とくに注意が必要だということを意味するの――」

「それは」

フィレンツェが静かに言った。

「ヒトのバカげた考えです」

パーバティの手が力なく落ちて身体の脇に収まった。

「些細な怪我や人間界の事故など」

フィレンツェは蹄で苔むした床を強く踏み鳴らしながら、話し続けた。

「そうしたものは、広大な宇宙にとって、忙しく這い回る蟻ほどの意味しかなく、惑星の動きに影響されるようなものではありません」

「トレローニー先生は――」

パーバティが傷ついて憤慨した声で何かおうとした。

「ヒトです」

フィレンツェがさらりと言った。

「だからこそ、みなさんの種族の限界のせいで、視野が狭く、束縛されているのです」

ハリーは首をほんの少し捩って、パーバティを見た。腹を立てているようだった。パーバティの周りにいる何人かの生徒も同じだった。

「シビル・トレローニーは『予見』したことがあるかもしれません。私にはわかりませんが」

フィレンツェは話し続け、生徒の前を作ったり来たりしながら尻尾をシュッと振る音が、ハリーの耳に入った。

「しかしあの方は、ヒトが予言と呼んでいる、自己満足の戯言に、大方の時間を浪費している。
私は、個人的なものや偏見を離れた、ケンタウルスの叡智を説明するためにここにいるのです。
我々が空を眺めるのは、そこに時折記されている、邪悪なものや変化の大きな潮流を見るためです。
我々がいま見ているものが何であるかがはっきりするまでに、10年もの歳月を要することがあります」

フィレンツェはハリーの真上の赤い星を指差した。

「この10年間、魔法界が、2つの戦争の合間の、ほんのわずかな静けさを生きているにすぎないとされていました。
戦いをもたらす火星が、我々の頭上に明るく輝いているのは、まもなく再び戦いが起こるであろうことを示唆しています。
どのぐらい差し迫っているかを、ケンタウルスはある種の薬草や木の葉を燃やし、その炎や煙を読むことで占おうとします……」

これまでハリーが受けた中で、一番風変わりな授業だった。
みんなが実際に教室の床の上でセージやゼニアオイを燃やした。
フィレンツェはつんと刺激臭のある煙の中に、ある種の形やしるしを探すように教えたが、誰もフィレンツェの説明する印を見つけることができなくとも、まったく意に介さないようだった。
ヒトはこういうことが得意だった例がないし、ケンタウルスも能力を身につけるまでに長い年月がかかっていると言い、最後には、いずれにせよ、こんなことを信用しすぎるのは愚かなことだ、ケンタウルスでさえ時には読み違えるのだから、と締め括った。
ハリーがいままで習ったヒトの先生とはまるで違っていた。
フィレンツェにとって大切なのは、自分の知っていることを教えることではなく、むしろ、何事も、ケンタウルスの叡智でさえ、絶対に確実なものなどないのだと生徒に印象づけることのようだった。
なんとなく、サクヤが好きそうな内容だな、とハリーは思った。

「フィレンツェは何にも具体的じゃないね?」

ゼニアオイの火を消しながら、ロンが低い声で言った。

「だってさ、これから起ころうとしている戦いについて、もう少し詳しいことが知りたいよな?」

終業ベルが教室のすぐ外で鳴り、みんな飛び上がった。
ハリーは、自分たちがまだ城の中にいることをすっかり忘れて、本当に森の中にいると思い込んでいた。
みんな少しぼーっとしながら、ぞろぞろと教室を出ていった。
ハリーとロンも列に並ぼうとしたとき、フィレンツェが呼び止めた。

「ハリー・ポッター、ちょっとお話があります」

ハリーが振り向き、ケンタウルスが少し近づいてきた。ロンはもじもじした。

「あなたもいていいですよ」

フィレンツェが言った。

「でも、ドアを閉めてください」

ロンが急いで言われたとおりにした。

「ハリー・ポッター、あなたはハグリッドの友人ですね?」

ケンタウルスが聞いた。

「はい」

ハリーが答えた。

「それなら、私からの忠告を伝えてください。
ハグリッドがやろうとしていることは、うまくいきません。放棄するほうがいいのです」

「やろうとしていることが、うまくいかない?」

ハリーはポカンとして繰り返した。

「それに、放棄するほうがいい、と」

フィレンツェが頷いた。

「私が自分でハグリッドに忠告すればいいのですが、追放の身ですから――いま、あまり森に近づくのは賢明ではありません――ハグリッドは、この上ケンタウルス同士の戦いまで抱え込む余裕はありません」

「でも――ハグリッドは何をしようとしているの?」

ハリーが不安そうに聞いた。
フィレンツェは無表情にハリーを見た。

「ハグリッドは最近、私にとてもよくしてくださった。
それに、すべての生き物に対するあの人の愛情を、私はずっと尊敬していました。あの人の秘密を明かすような不実はしません。
しかし、誰かがハグリッドの目を覚まさなければなりません。あの試みはうまくいきません。そう伝えてください、ハリー・ポッター。ではご機嫌よう」




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