The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「『占い学』をやめなきゃよかったって、いま、きっとそう思ってるでしょう?ハーマイオニー?」

パーバティがにんまり笑いながら聞いた。
トレローニー先生解雇の2日後の朝食のときだった。
パーバティは睫毛を杖に巻きつけてカールし、仕上がり具合をスプーンの裏に映して確かめていた。
午前中にフィレンツェの最初の授業があることになっていた。

「そうでもないわ」

ハーマイオニーは「日刊予言者」を読みながら、興味なさそうに答えた。

「もともと馬はあんまり好きじゃないの」

ハーマイオニーは新聞を捲り、コラム欄にざっと目を通した。
その隣で、ガシャーンとオレンジジュースの入ったコップを取り落としたのはサクヤだ。

「そ、そんな……オレ、半分は馬なのに……」

そのわざとらしさに、顔を上げていたハーマイオニーは再び新聞に目を戻した。

「あなたはヒトです。馬でもヒッポグリフでもないでしょうに……」

「あの人も馬じゃないわ。ケンタウルスよ!」

ラベンダーがショックを受けたような声をあげた。

目の覚めるようなケンタウルスだわ……」

パーパティがため息をついた。

「どっちにしろ、脚は4本あるわ」

ハーマイオニーが冷たく言った。

「ところで、あなたたち2人は、トレローニーがいなくなってがっかりしてると思ったけど?」

「してるわよ!」

ラベンダーが強調した。

「私たち、先生の部屋を訪ねたの。
ラッパ水仙を持ってね――スプラウト先生が育てているラッパを吹き鳴らすやつじゃなくて、きれいな水仙をよ」

「先生、どんな感じだった?」

サクヤが聞いた。

「おかわいそうに、あまりよくないわ」

ラベンダーが気の毒そうに言った。

「泣きながら、アンブリッジがいるこの城にいるより、むしろ永久に去ってしまいたいっておっしゃるの。無理もないわ。
アンブリッジが、先生にひどいことをしたんですもの」

「ああ。本当にひどい話だ」

サクヤが言った。

「私、あの程度のひどさはまだ序の口だという感じがするわ」

ハーマイオニーが暗い声を出した。

「ありえないよ」

ロンは大皿盛りの卵とベーコンに食らいつきながら言った。

「あの女、これ以上悪くなりようがないだろ」

「まあ、見てらっしゃい。
ダンブルドアが相談もなしに新しい先生を任命したことで、あの人、仕返しに出るわ」

ハーマイオニーは新聞を閉じた。

「しかも任命したのがまたしても半人間。フィレンツェを目にしたときの、あの人の顔、見たでしょう?」

朝食の後、ハーマイオニーとサクヤは「数占い」のクラスへ、ハリーとロンはパーバティとラベンダーに続いて玄関ホールに行き、「占い学」に向かった。

「北塔に行くんじゃないの?」

パーバティが大理石の階段を通り過ぎてしまったので、疑問に思ったハリーが尋ねた。パーバティは振り向いて、叱りつけるような目でハリーを見た。

「フィレンツェがあの梯子階段を昇れると思うの?11番教室になったのよ。昨日、掲示板に貼ってあったわ」

11番教室は1階で、玄関ホールから大広間とは逆の方向に行く廊下沿いにあった。
ハリーは、この教室が、定期的に使われていない部屋の1つだということを知っていた。
そのため、納戸や倉庫のような、なんとなく放ったらかしの感じがする部屋だ。
ロンのすぐあとから教室に入ったハリーは、一瞬ポカンとした。そこは森の空き地の真っただ中だった。

「これはいったい――?」

教室の床は、ふかふかと苔むして、そこから樹木が生えていた。
こんもりと繁った葉が、天井や窓に広がり、部屋中に柔らかな緑の光の筋が何本も斜めに射し込み、光のまだら模様を描いていた。
先に来ていた生徒たちは、土の感触がする床に座り込み、木の幹や、大きな石にもたれ掛かって、両腕で膝を抱えたり、胸の上で固く腕組みしたりして、ちょっと不安そうな顔をしていた。
空き地の真ん中には立ち木がなく、フィレンツェが立っていた。

「ハリー・ポッター」

ハリーが入っていくと、フィレンツェが手を差し出した。

「あ――やあ」

ハリーは握手した。
ケンタウルスは驚くほど青い目で、瞬きもせずハリーを観察していたが、笑顔は見せなかった。

「あ――また会えてうれしいです」

「こちらこそ」

ケンタウルスは銀白色の頭を軽く傾けた。

「また会うことは、予言されていました」

ハリーは、フィレンツェの胸にうっすらと馬蹄形の打撲傷があるのに気づいた。
地面に座っている他の生徒たちのところに行こうとすると、みんなが一斉にハリーに尊敬の眼差しを向けていた。
どうやら、みんなが怖いと思っているフィレンツェと、ハリーが言葉を交わす間柄だということに、ひどく感心したらしい。

ドアが閉まり、最後の生徒がクズ籠の脇の切株に腰を下ろすと、フィレンツェがぐるりと部屋を見渡した。

「ダンブルドア先生のご厚意で、この教室が準備されました」

生徒全員が落ち着いたところで、フィレンツェが言った。

「私の棲息地に似せてあります。できれば禁じられた森で授業をしたかったのです。
そこが――この月曜日までは――私の棲いでした……しかし、もはやそれはかないません」

「あの――えーと――先生――」

パーバティが手を挙げ、息を殺して尋ねた。

「どうしてですか?
私たち、ハグリッドと一緒にあの森に入ったことがあります。怖くありません!」

「君たちの勇気が問題なのではありません」

フィレンツェが言った。

「私の立場の問題です。
私はもはやあの森に戻ることができません。群れから追放されたのです」

「群れ?」

ラベンダーが困惑した声を出した。
ハリーは、牛の群れを考えているのだろうと思った。

「なんです――あっ!」

わかったという表情がパッと広がった。

「先生の仲間がもっといるのですね?」

ラベンダーがびっくりしたように言った。

「ハグリッドが繁殖させたのですか?セストラルみたいに?」

ディーンが興味津々で聞いた。
フィレンツェの頭がゆっくりと回り、ディーンの顔を直視した。
ディーンはすぐさま、何かとても気に障ることを言ってしまったと気づいたらしい。

「そんなつもりでは――つまり――すみません」

最後は消え入るような声だった。

「ケンタウルスはヒト族の召し使いでも、慰み者でもない」

フィレンツェが静かに言った。しばらく間が空いた。
それから、パーバティがもう一度しっかり手を挙げた。

「あの、先生……どうしてほかのケンタウルスは先生を追放したのですか?」

「それは、私がダンブルドアのために働くのを承知したからです」

フィレンツェが答えた。

「仲間は、これが我々の種族を裏切るものだと見ています」

ハリーはもうかれこれ4年前のことを思い出していた。
フィレンツェがハリーを背中に乗せ安全なところまで運んだことで、ケンタウルスのベインがフィレンツェを怒鳴りつけ、「ただのロバ」呼ばわりした。
ハリーは、もしかしたら、フィレンツェの胸を蹴ったのはベインではないかと思った。


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