The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




悲鳴はやはり玄関ホールからだった。
地下牢からホールに上がる石段へと走るうちに、だんだん声が大きくなってきた。
石段を上りきると、玄関ホールは超満員だった。
まだ夕食が終わっていなかったので、何事かと、大広間から見物の生徒が溢れ出してきたのだ。
他の生徒は大理石の階段に鈴なりになっていた。
ハリーは背の高いスリザリン生たちが固まっている中を掻き分けて前に出た。
見物人は大きな円を描き、何人かはショックを受けたような顔をし、また何人かは恐怖の表情さえ浮かべていた。
マクゴナガル先生がホールの反対側の、ハリーの真正面にいる。目の前の光景に気分が悪くなったような様子だ。

トレローニー先生が玄関ホールの真ん中に立っていた。
片手に杖を持ち、もう一方の手に空っぽのシェリー酒の瓶を引っ提げ、完全に様子がおかしい。
髪は逆立ち、眼鏡がずれ落ちて片目だけが不揃いに拡大され、何枚ものショールやスカーフが肩から勝手な方向に垂れ下がり、先生はいまにも崩壊しそうだった。
その脇に大きなトランクが2つ、1つは上下逆さまに置かれていた。
どうやらトランクは、トレローニー先生のあとから、階段を突き落とされたように見えた。
トレローニー先生は、見るからに怯えた表情で、ハリーのところからは見えなかったが、階段下に立っている何かを見つめていた。

「いやよ!」

トレローニー先生が甲高く叫んだ。

いやです!
こんなことが起こるはずがない……こんなことが……あたくし、受け入れませんわ!」

「あなた、こういう事態になるという認識がなかったの?」

少女っぽい高い声が、平気でおもしろがっているような言い方をした。
ハリーは少し右側に移動して、トレローニー先生が恐ろしげに見つめていたものが、他でもないアンブリッジ先生だとわかった。

「明日の天気さえ予測できない無能力なあなたでも、わたくしが査察していた間の嘆かわしい授業ぶりや進歩のなさからして、解雇が避けられないことぐらいは、確実におわかりになったのではないこと?」

「あなたに、そんなこと、で――できないわ!」

トレローニー先生が泣き喚いた。
涙が巨大な眼鏡の奥から流れ、顔を洗った。

「で――できないわ。あたくしをクビになんて!ここに、あたくし、もう――もう16年も!ホ――ホグワーツはあた――あたくしの、い――家です!」

「家だったのよ」

アンブリッジ先生が言った。
トレローニー先生が身も世もなく泣きじゃくり、トランクの1つに座り込むのを見つめるガマガエル顔に、楽しそうな表情が広がるのを見て、ハリーは胸糞が悪くなった。

「1時間前に魔法大臣が『解雇辞令』に署名なさるまではね。さあ、どうぞこのホールから出ていってちょうだい。恥さらしですよ」

しかし、ガマガエルはそこに立ったままだった。
トレローニー先生が嘆きの発作を起こしたようにトランクに座って体を前後に揺すり、痙攣したり呻いたりする姿を、卑しい悦びに舌なめずりして眺めていた。
左のほうで押し殺したような啜り泣きの声を聞いて、ハリーが振り返ると、ラベンダーとバーパティが抱き合って、さめざめと泣いていた。
そのとき、足音が聞こえた。
マクゴナガル先生が見物人の輪を抜け出し、つかつかとトレローニー先生に歩み寄り、背中を力強くポンポンと叩きながら、ローブから大きなハンカチを取り出した。

「さあ、さあ、シビル……落ち着いて……これで鼻をかみなさい……あなたが考えているほどひどいことではありません。さあ……ホグワーツを出ることにはなりませんよ……」

「あら、マクゴナガル先生、そうですの?」

アンブリッジが数歩進み出て、毒々しい声で言った。

「そう宣言なさる権限がおありですの……?」

「それはわしの権限じゃ」

深い声がした。正面玄関の樫の扉が大きく開いていた。
扉脇の生徒が急いで道を空けると、ダンブルドアが戸口に現れた。
校庭でダンブルドアが何をしていたのか、ハリーには想像もつかなかったが、不思議に霧深い夜を背に、戸口の四角い枠に縁取られてすっくと立ったダンブルドアの姿には、威圧されるものがあった。

扉を広々と開け放したまま、ダンブルドアは見物人の輪を突っ切り、堂々とトレローニー先生に近づいた。
トレローニー先生は、マクゴナガル先生につき添われ、トランクに腰掛けて、涙で顔をぐしょぐしょにして震えていた。

「あなたの?ダンブルドア先生?」

アンブリッジはとびきり不快な声で小さく笑った。

「どうやらあなたは、立場がおわかりになっていらっしゃらないようですわね。これ、このとおり――」

アンブリッジはローブから丸めた羊皮紙を取り出した。

「――『解雇辞令』。わたくしと魔法大臣の署名がありますわ。
『教育令第23号により、ホグワーツ高等尋問官は、彼女が――つまりわたくしのことですが――魔法省の要求する基準を満たさないと思われるすべての教師を査察し、停職に処し、解雇する権利を有する』。
トレローニー先生が基準を満たさないと、わたくしが判断しました。わたくしが解雇しました」

驚いたことに、ダンブルドアは相変わらず微笑んでいた。
トランクに腰掛けて泣いたりしゃくり上げたりし続けているトレローニー先生を見下ろしながら、ダンブルドアが言った。

「アンブリッジ先生、もちろん、あなたのおっしゃるとおりじゃ。
高等尋問官として、あなたはたしかにわしの教師たちを解雇する権利をお持ちじゃ。
しかし、この城から追い出す権限は持っておられない。遺憾ながら」

ダンブルドアは軽く頭を下げた。

「その権限は、まだ校長が持っておる。そしてそのわしが、トレローニー先生には引き続きホグワーツに住んでいただきたいのじゃ」

この言葉で、トレローニー先生が狂ったように小さな笑い声をあげたが、ヒックヒックのしゃくり上げが混じっていた。

「いいえ――いえ、あたくし、で――出てまいります。ダンブルドア!
ホグワーツをは――離れ、ど――どこかほかで――あたくしの成功を――」

「いいや」

ダンブルドアが鋭く言った。

「わしの願いじゃ、シビル。あなたはここに留まるのじゃ」

ダンブルドアはマクゴナガル先生のほうを向いた。

「マクゴナガル先生、シビルにつき添って、上まで連れていってくれるかの?」

「承知しました」

マクゴナガルが言った。

「お立ちなさい、シビル」

見物客の中から、スプラウト先生が急いで進み出て、トレローニー先生のもう一方の腕をつかんだ。
2人でトレローニー先生を引率し、アンブリッジの前を通り過ぎ、大理石の階段を上がった。
そのあとから、フリットウィック先生がちょこまか進み出て、杖を上げ、キーキー声で唱えた。

「ロコモーター トランク!」

するとトレローニー先生のトランクが宙に浮き、持ち主に続いて階段を上がった。フリットウィック先生がしんがりを務めた。
アンブリッジ先生はダンブルドアを見つめ、石のように突っ立っていた。ダンブルドアは相変わらず物柔らかに微笑んでいる。

「それで」

アンブリッジの囁くような声は玄関ホールの隅々まで聞こえた。

「わたくしが新しい『占い学』の教師を任命し、あの方の住処を使う必要ができたら、どうなさるおつもりですの?」

「おお、それはご心配には及ばん」

ダンブルドアが朗らかに言った。

「それがのう、わしはもう、新しい『占い学』教師を見つけておる。その方は、1階に棲むほうが好ましいそうじゃ」

「見つけた――?」

アンブリッジが甲高い声をあげた。

あなたが、見つけた?
お忘れかしら、ダンブルドア、教育令第22号によれば――」

「魔法省は、適切な候補者を任命する権利がある、ただし校長が候補者を見つけられなかった場合のみ」

ダンブルドアが言った。

「そして、今回は、喜ばしいことに、わしが見つけたのじゃ。ご紹介させていただこうかの?」

ダンブルドアは開け放った玄関扉のほうを向いた。いまや、そこから夜霧が忍び込んできていた。
ハリーの耳に蹄の音が聞こえた。
玄関ホールに、ざわざわと驚きの声が流れ、扉に一番近い生徒たちは、急いでもっと後ろに下がった。客人に道を空けようと、慌てて転びそうになる者もいた。

霧の中から、顔が現れた。ハリーはその顔を、前に一度、禁じられた森での暗い、危険な一夜に見たことがある。
プラチナ・ブロンドの髪に、驚くほど青い目、頭と胴は人間で、その下は黄金の馬――パロミノと呼ばれる風貌だ。

「フィレンツェじゃ」

雷に打たれたようなアンブリッジに、ダンブルドアがにこやかに紹介した。

「あなたも適任だと思われることじゃろう」




>>To be continued

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