The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




一方、アンブリッジ先生は、学校中をのし歩き、抜き打ちに生徒を呼び止めては本を広げさせたり、ポケットを引っくり返すように命じた。
「ザ・クィブラー」を探索していることがハリーにはわかっていたが、生徒たちのほうが数枚上手だった。
ハリーとサクヤのインタビューのページに魔法をかけ、自分たち以外の誰かが読もうとすると、教科書の要約に見えるようにしたり、次に自分たちが読むまでは白紙にしておく魔法をかけたりした。
まもなく、学校中の生徒が1人残らず読んでしまったようだった。

先の教育令第26号で、もちろん先生方も、インタビューのことを口にすることは禁じられていた。にも関わらず、他の何らかの方法で、自分たちの気持ちを表した。
スプラウト先生は、ハリーが水やりのジョウロを先生に渡したことで、グリフィンドールに20点を与えた。
フリットウィック先生は、「呪文学」の授業の終わりに、にっこりして、チューチュー鳴く砂糖ネズミ菓子をひと箱サクヤに押しつけ、「シーッ!」と言って急いで立ち去った。
トレローニー先生は、「占い学」の授業中に突然ヒステリックに泣き出し、クラス全員が仰天し、アンブリッジが渋い顔をする前で、結局ハリーは早死しないし、十分に長生きし、魔法大臣になり、子供が12人できると宣言した。

しかし、ハリーを一番幸せな気持ちにしたのは、次の日、急いで「変身術」の教室に向かっていたとき、チョウが追いかけてきたことだった。
何がなんだかわからないうちに、チョウの手がハリーの手の中にあり、耳元でチョウが囁く声がした。

「ほんとに、ほんとにごめんなさい。あのインタビュー、とっても勇敢だったわね……私、泣いちゃった」

またもや涙を流したと聞いて、ハリーはすまない気持ちになったが、また口をきいてもらえるようになってとても嬉しかった。
もっと嬉しいことに、チョウが急いで立ち去る前にハリーの頬に素早くキスした。
さらに、なんと「変身術」の教室に着くや否や、信じられないことに、またまたいいことが起こった。
シェーマスが列から1歩進み出てハリーの前に立った。

「君に言いたいことがあって」

シェーマスが、ハリーの左の膝あたりをチラッと見ながら、ボソボソ言った。

「僕、君を信じる。それで、あの雑誌を1部、ママに送ったよ」

幸福な気持ちの仕上げは、マルフォイ、クラッブ、ゴイルの反応だった。
その日の午後遅く、ハリーは、図書室で3人が額を寄せ合っているところに出くわした。
一緒にいるひょろりとした男の子は、セオドール・ノットという名だとハーマイオニーが耳打ちした。
書棚を見回して「部分消失術」の本を探していると、4人がハリーとサクヤを振り返った。
ゴイルは脅すように拳をポキポキ鳴らしたし、マルフォイは、もちろん悪口に違いないが、何やらクラッブに囁いた。
ハリーは、なぜそんな行動を取るかよくわかっていた。4人の父親が死喰い人だと名指しされたからだ。
しかし、ノットはハリーとサクヤ、というより、サクヤだけをじっと無表情で見つめているように感じた理由までは分からなかった。

「それに、一番いいことはね」

図書室を出るとき、ハーマイオニーが大喜びで言った。

「あの人たち、あなたたちに反論できないのよ。だって、自分たちが記事を読んだなんて認めることができないもの!」

最後の総仕上げは、ルーナが夕食のときに、「ザ・クィブラー」がこんなに飛ぶように売れたことはないと告げたことだった。

「パパが増刷してるんだよ!」

ハリーとサクヤにそう言ったとき、ルーナの目が興奮で飛び出していた。

「パパは信じられないって。
みんなが『しわしわ角スノーカック』よりも、こっちに興味を持ってるみたいだって、パパが言うんだ!」

その夜、グリフィンドールの談話室で、ハリーとサクヤは英雄だった。
大胆不敵にも、フレッドとジョージは「ザ・クィブラー」の表紙の写真に「拡大呪文」をかけ、壁に掛けた。
ハリーとサクヤの巨大な顔が、部屋のありさまを見下ろしながら、時々大音響でしゃべった。

「魔法省の間抜け野郎」

「アンブリッジ、糞食らえ」


ハーマイオニーはこれがあまり愉快だとは思わず、集中力が削がれると言った。
サクヤも恥ずかしそうに自分の顔がでかでかと貼り出されているのを見ていた。
そして、とうとう苛立ったハーマイオニーがサクヤを引き連れて早めに寝室に引き上げてしまった。
ハリーも、1,2時間後にはこのポスターがそれほどおもしろくないと認めざるをえなかった。
とくに、「おしゃべり呪文」の効き目が薄れてくると、「」とか「アンブリッジ」とか切れ切れに叫ぶだけで、それもだんだん頻繁に、だんだん甲高い声になってきた。
おかげで、事実ハリーは頭痛がして、傷痕がまたもやちくちくと痛みだし、気分が悪くなった。
ハリーを取り囲んで、もう何度目かわからないほど繰り返しインタビューの話をせがんでいた生徒たちはがっかりして呻いたが、ハリーは自分も早く休みたいと宣言した。


ハリーが寝室に着いたときは、他に誰もいなかった。
ハリーは、ベッド脇のひんやりしたガラスに、しばらく額を押しつけていた。傷痕に心地よかった。
それから着替えて、頭痛が治ればいいがと思いながらベッドに入った。少し吐き気もした。ハリーは横向きになり、目を閉じるとほとんどすぐ眠りに落ちた……。

ハリーは暗い、カーテンを巡らせた部屋に立っていた。
小さな燭台が1本だけ部屋を照らしている。
ハリーの両手は、前の椅子の背をつかんでいた。何年も太陽に当たっていないような白い、長い指が、椅子の黒いビロードの上で、大きな青白い蜘蛛のように見える。

椅子の向こう側の、蝋燭に照らし出された床に、黒いローブを着た男が聞いている。

「どうやら俺様は間違った情報を得ていたようだ」

ハリーの声は甲高く、冷たく、怒りが脈打っていた。

「ご主人様、どうぞお許しを」

跪いた男が嗄れ声で言った。後頭部が蝋燭の灯りで微かに光った。震えているようだ。

「お前を責めるまい、ルックウッド」

ハリーが冷たく残忍な声で言った。
ハリーは椅子を握っていた手を離し、回り込んで、床に縮こまっている男に近づいた。
そして、暗闇の中で、男の真上に覆い被さるように立ち、いつもの自分よりずっと高いところから男を見下ろした。

「ルックウッド、お前の言うことは、確かな事実なのだな?」

ハリーが聞いた。

「はい。ご主人様。はい……私は、な、なにしろ、かつてあの部に勤めておりましたので……」

「ボードがそれを取り出すことができるだろうと、エイブリーが俺に言った」

「ご主人様、ボードは決してそれを取ることができなかったでしょう……。
ボードはできないことを知っていたのでございましょう……間違いなく。だからこそ、マルフォイの『服従の呪文』にあれほど激しく抗ったのです」

「立つがよい、ルックウッド」

ハリーが囁くように言った。
跪いていた男は、慌てて命令に従おうとして、転びかけた。痘痕面だ。蝋燭の灯りで、傷のある顔が浮き彫りになった。
男は少し前屈みのまま立ち上がり、半分お辞儀をするような格好で、恐れ戦きながらハリーの顔をちらりと見上げた。

「そのことを俺様に知らせたのは大儀」

ハリーが言った。

「仕方あるまい……どうやら、俺様は、無駄な企てに何ヵ月も費やしてしまったらしい……しかし、それはもうよい……いまからまた始めるのだ。
ルックウッド、おまえにはヴォルデモート卿が礼を言う……」

「わが君……はい、わが君」

ルックウッドは、緊張が解けて声が嗄れ、喘ぎ喘ぎ言った。

「お前の助けが必要だ。俺様には、お前の持てる情報がすべて必要なのだ」

「御意、わが君、どうぞ……なんなりと……」

「よかろう……下がれ。エイブリーを呼べ」

ルックウッドはお辞儀をしたまま、あたふたと後退りし、ドアの向こうに消えた。
暗い部屋に1人になると、ハリーは壁のほうを向いた。
あちこち黒ずんで割れた古鏡が、暗がりの壁に掛かっている。
ハリーは鏡に近づいた。暗闇の中で、自分の姿がだんだん大きく、はっきりと鏡に映った……骸骨よりも白い顔……両眼は赤く、瞳孔は細く切り込まれ……。

「ハリー!ハリー!

いやだあああぁぁぁ!!

「おい大丈夫なのかよ?」

近くでハリーの名前を呼ぶ声と、不安げに叫ぶ声がした。
誰かに頬を打たれているハリーはのた打ち回り、ベッドカーテンに絡まってベッドから落ちた。
しばらくは、自分がどこにいるのかもわからなかった。
白い、骸骨のような顔が、暗がりから再び自分に近づいてくるのが見えるに違いないと思った。
すると、すぐ近くでサクヤとロンの声がした。

「じたばたするのはやめてくれよ。ここから出してやるから――サクヤも手伝って――」

「ここはいつもの男子寮だ、ハリー。落ち着いて、じっとしててくれ――」

2人がかりで絡んだカーテンをぐいと引っ張った。
ハリーは仰向けに倒れ、月明かりでロンとサクヤを見上げていた。
傷痕が焼けるように痛んだ。ロンは着替えの最中だったらしく、ローブから片腕を出していた。
だいぶ前に女子寮に上がっていたサクヤはとっくにパジャマに着替えている。

「サクヤも来たってことは――もしかして、また誰か襲われたのか?」

ロンがハリーを手荒に引っ張って立たせながら、サクヤに振り返って言った。

「パパかい?あの蛇なのか?」

「オレは、夢の内容までは見てない――でも、きっとハリーは何かを見てるだろうと思って慌てて来たんだ。
ハリー、どうだったの?また急ぎで校長室へ行こうか?」

「いや――みんな大丈夫だ――」

ハリーが喘いだ。額が火を噴いているようだった。

「でも……エイブリーは危ない……あいつに、間違った情報を渡したんだ……ヴォルデモートがすごく怒ってる……」

ハリーは呻き声をあげて座り込み、ベッドの上で震えながら傷痕を揉んだ。

「でも、ルックウッドがまたあいつを助ける……あいつはこれでまた軌道に乗った……」

「いったい何の話だ?」

ロンは恐々聞いた。

「つまり……たったいま『例のあの人』を見たって言うのか?」

僕が『例のあの人』だった」

答えながらハリーは、暗闇で両手を伸ばし、顔の前にかざして、死人のように白く長い指はもうついていないことを確かめた。

「あいつはルックウッドと一緒にいた。アズカバンから脱獄した死喰い人の1人だよ。覚えてるだろう?
ルックウッドがたったいま、あいつに、ボードにはできなかったはずだと教えた」

「何が?」

「何かを取り出すことがだ……。ボードは自分にはできないことを知っていたはずだって、ルックウッドが言った……。
ボードは『服従の呪文』をかけられていた……マルフォイの父親がかけたって、ルックウッドがそう言ってたと思う」

「ボードが何かを取り出すために呪文をかけられた……それって――」

サクヤがハッとした顔をした瞬間、ハリーが続きを引き取った。

「武器だ。そうさ」

ハリーがあとの言葉を引き取った。
寝室のドアが開き、ディーンとシェーマスが入ってきた。
ハリーは急いで両脚をベッドに戻した。たったいま変なことが起こったように見られたくなかった。
せっかくシェーマスが、ハリーが狂っていると思うのをやめたばかりなのだから。

「さて……借り物も返したし、戻るよ。おやすみ」

サクヤはいつもよりほんの少し大きめの声で言うと、ディーンとシェーマスにも軽く挨拶をして部屋を出て行った。

「……君が言ったことだけど」

ロンがベッドの脇机にある水差しからコップに水を注ぐふりをしながら、ハリーのすぐそばに頭を近づけ、呟くように言った。

「君が『例のあの人』だったって?」

「うん」

ハリーが小声で言った。
ロンは思わずガブッと水を飲み、口から溢れた水が顎を伝って胸元にこぼれた。

「ハリー」

ディーンもシェーマスも着替えたりしゃべったりでガタガタしているうちに、ロンが言った。

「話すべきだよ――」

「誰にも話す必要はない」

ハリーがすっぱりと言った。

「『閉心術』ができたら、こんなことを見るはずがない。たぶん、サクヤはそうやって夢を自分から閉め出したんだ。
そういうことを僕も学ぶはずなんだ。みんながそれを望んでいる」

「みんな」と言いながら、ハリーはダンブルドアを考えていた。
ハリーはベッドに寝転び、横向きになってロンに背を向けた。
しばらくすると、ロンのベッドが軋む音が聞こえた。ロンも横になったらしい。
ハリーの傷痕がまた焼けつくように痛みだした。ハリーは枕を強く噛み、声を押し殺した。
ハリーにはわかっていた。どこかで、エイブリーが罰せられている。




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