The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
月曜の朝、朝食をとりに大広間に入ると同時にふくろう便も到着した。
「日刊予言者新聞」を待っていたのは、サクヤやハーマイオニーだけではない。ほとんど全員が、脱獄した死喰い人の新しいニュースを待ち望んでいた。
目撃したという知らせが多いにも関わらず、誰もまだ捕まってはいなかった。
ハーマイオニーは配達ふくろうに1クヌート支払い、急いで新聞を広げ、いつも通りにサクヤが隣から覗き込んだ。
ハリーはオレンジジュースに手を伸ばした。
この1年間、ハリーはたった一度メモを受け取ったきりだったので、目の前にふくろうが1羽バサッと降り立ったとき、間違えたのだろうと思った。
「誰を探してるんだい?」
ハリーは、嘴の下から面倒臭そうにオレンジジュースを退け、受取人の名前と住所を覗き込んだ。
ハリーは、顔をしかめてふくろうから手紙を取ろうとした。
しかし、その前に、3羽、4羽、5羽と、最初のふくろうの脇に別のふくろうが次々と降り立ち、バターを踏みつけるやら、塩を引っくり返すやら、自分が一番乗りで郵便を届けようと、押し合いへし合いの場所取り合戦を繰り広げた。
「何事だ?」
ロンが仰天した。
グリフィンドールのテーブルの全員が、身を乗り出して見物するなか、最初のふくろう群の真っただ中に、さらに7羽ものふくろうが着地し、ギーギー、ホーホー、パタパタと騒いだ。
「ねえ、サクヤ!」
この騒動は、目の前のサクヤの周りでも同じように起きていた。
ハリーとサクヤは向かい合わせの位置に座っていたので、グリフィンドールの長テーブルの1か所がふくろうで山盛りになったような状態だ。
ハーマイオニーがサクヤの周りに集まった羽毛の群れの中に両手を突っ込み、長い円筒形の包みを持ったコノハズクを引っ張り出し、息を弾ませた。
「私、なんだかわかったわ――これを最初に開けて!」
サクヤは茶色の包み紙を破り取った。
中から、きっちり丸めた「ザ・クィブラー」の3月号が転がり出た。広げてみると、表紙からハリーとサクヤの顔が、気恥ずかしげにニヤッと笑いかけた。その写真を横切って、真っ赤な大きな字でこう書いてある。
ハリーもふくろうの山の向こうからそれを覗き込んだ。
ハリー・ポッターとサクヤ・フェリックス ついに語る
「名前を呼んではいけないあの人」の真相――僕たちがその人の復活を見た夜「いいでしょう?」
いつの間にかグリフィンドールのテーブルにやって来て、フレッドとロンの間に割り込んで座っていたルーナが言った。
「昨日出たんだよ。パパに一部無料であんたに送るように頼んだんだもン。きっと、これ、」
ルーナは、ハリーやサクヤの前でまだ揉み合っているふくろうの群れに手を振った。
「読者からの手紙だよ」
「そうだと思ったわ」
ハーマイオニーが夢中で言った。
「サクヤ、構わないかしら?私たちで――」
「うん、いいけど、いたずらには十分に気を付けて」
去年も同じようなことがあった。あのときはリータのめちゃくちゃな記事のせいで、ハーマイオニーが誹謗中傷の対象になったのだ。
実際、代わりに手紙を開けたサクヤの手が「腫れ草」の膿でひどいことになってしまった。
今回の「ザ・クィブラー」に、自分たちのことがどう書いてあるかはまだ確認していないので、サクヤが注意深く言った。
ハリーは少し困惑していた。
ロンもハーマイオニーと同じように手伝って、ハリーとサクヤ宛ての封筒をビリビリ開けはじめた。
「これは男性からだ。この野郎、君がいかれてるってさ」
手紙をちらりと見ながら、ロンが言った。
「まあ、しょうがないか……」
「こっちは女性よ。聖マンゴで、ショック療法呪文のいいのを受けなさいだって」
ハーマイオニーががっかりした顔で、2通目をクシャクシャ丸めた。
「でも、これは大丈夫みたいだ」
ペイズリーの魔女からの長い手紙を流し読みしていたハリーが、ゆっくり言った。
「ねえ、僕たちのこと信じるって!」
「こいつはどっちつかずだ」
フレッドも夢中で開封作業に加わっていた。
「こう言ってる。
君たちが狂っているとは思わないが、『例のあの人』が戻ってきたとは信じたくない。だから、いまはどう考えていいかわからない。
なんともはや、羊皮紙の無駄使いだな」
「こっちにもう1人、説得された人がいるわ、サクヤ!」
ハーマイオニーが興奮した。
「
あなたたち側の話を読み、私は『日刊予言者』があなたたちのことを不当に扱ったという結論に達しないわけにはいきません……。
『名前を呼んではいけないあの人』が戻ってきたとは、なるべく考えたくはありませんが、あなたたちが真実を語っていることを受け入れざるをえません……ああ、すばらしいわ!」
「また1人、君らは頭が変だって」
ロンは丸めた手紙を肩越しに後ろに放り投げた。
「……でも、こっちのは、君たちに説得されたってさ。彼女、いまはハリー、君が真の英雄だと思ってるって――写真まで入ってるぜ――わお、サクヤより自分を売り込む気だ」
「何事なの?」
少女っぽい、甘ったるい作り声がした。
ハリーとサクヤは封書を両手いっぱいに抱えて見上げた。アンブリッジ先生がフレッドとルーナの後ろに立っていた。
ガマガエルのように飛び出した目が、ハリーたちの前のテーブルにごちゃごちゃ散らばった手紙とふくろうの群れを眺め回している。そのまた背後に、大勢の生徒が、何事かと首を伸ばしているのが見えた。
「どうしてこんなにたくさん手紙が来たのですか?ミスター・ポッター?ミス・フェリックス?」
アンブリッジ先生がゆっくりと聞いた。
「今度は、これが罪になるのか?」
フレッドが大声をあげた。
「手紙をもらうことが?」
「気をつけないと、ミスター・ウィーズリー、罰則処分にしますよ」
アンブリッジが言った。
「さあ、お2人とも、答えられますね?」
ハリーは一瞬サクヤと目配せをした。迷ったが、自分たちのしたことを隠し遂せるはずがないと思った。
アンブリッジが「ザ・クィブラー」誌に気づくのは、どう考えても時間の問題だ。
「僕たちがインタビューを受けたので、みんなが手紙をくれたんです」
ハリーが答えた。
「6月に僕たちの身に起こったことについてのインタビューです」
こう答えながら、ハリーはなぜか教職員テーブルに視線を走らせた。
ダンブルドアがつい一瞬前までハリーを見つめていたような、とても不思議な感覚が走ったからだ。
しかし、ハリーが校長先生のほうを見たときには、フリットウィック先生と話し込んでいるようだった。
「インタビュー?」
アンブリッジの声がことさらに細く、甲高くなった。
「どういう意味ですか?」
アンブリッジは今度はサクヤを見た。
「あー、つまり、記者が自分たちに質問をして、自分たちが質問に答えました」
サクヤが言った。
身振りこそ再現していなかったが、その言い方はどことなく、アンブリッジがハグリッドを小馬鹿にしたときのような、知能の低い人間に話しかけるような含みがあり、ハリーは吹き出すのをこらえざるを得なかった。
「これです――」
サクヤがやや遠慮がちに「ザ・クィブラー」をアンブリッジに差し出した。
それを見たハリーは、それすら「字は読めるだろうか」と心配しているように思え、今度こそ口を真一文字に固めた。
アンブリッジが受け取って、表紙を凝視した。弛んだ青白い顔が、醜い紫のまだら色になった。
「いつこれを?」
アンブリッジの声が少し震えていた。
「この前の週末、ホグズミードに行ったときです」
サクヤが答えた。
アンブリッジは怒りでメラメラ燃え、ずんぐり指に持った雑誌をわなわな震わせてハリーとサクヤを見上げた。
「ミスター・ポッター。ミス・フェリックス。あなたたちにはもう、ホグズミード行きはないものと思いなさい」
アンブリッジが小声で言った。
「よくもこんな……どうしてこんな……」
アンブリッジは大きく息を吸い込んだ。
「あなたたちには、嘘をつかないよう、何度も何度も教え込もうとしました。
その教訓が、どうやらまだ浸透していないようですね。グリフィンドール、50点減点。それと、さらに1週間の罰則」
アンブリッジは「ザ・クィブラー」を胸元に押しつけ、肩を怒らせて立ち去った。大勢の生徒の目がその後ろ姿を追った。
昼前に、学校中にデカデカと告知が出た。寮の掲示板だけでなく、廊下にも教室にも貼り出された。
ホグワーツ高等尋問官令
「ザ・クィブラー」を所持しているのが発覚した生徒は退学処分に処す。 以上は教育令第27号に則ったものである。
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なぜかハーマイオニーは、この告知を目にするたびにうれしそうににっこりした。
「いったい、なんでそんなにうれしそうなんだい?」
ハリーが聞いた。
「あら、ハリー、わからない?」
ハーマイオニーが声をひそめた。
「学校中が1人残らずあなたのインタビューを読むように仕向ける絶対確実な方法があったとしたら、それは禁止することだったのよ!」
どうやらハーマイオニーが正しかったみたいだ。
ハリーは学校のどこにも「ザ・クィブラー」のクの字も見かけなかったのに、その日のうちに、あらゆるところでインタビューの内容が話題になっているようだった。
教室の前に並びながら囁き合ったり、昼食のときや授業中に教室の後ろのほうで話し合ったりするのがハリーの耳に入ったし、ハーマイオニーの報告によると、古代ルーン文字の授業の前にちょっと立ち寄った女子トイレでは、トイレの個室同士で全員その話をしていたと言う。
「それで、みんながサクヤに気づいて、隣にいた私もあなたたちをよく知っているってことは当然みんなが知っているものだから、2人とも質問攻めに遭ったわ」
ハーマイオニーは目を輝かせてハリーに話した。
「それでね、みんな、あなたたちのことを信じたと思うわ。本当よ。とうとう、みんなを信用させたんだわ!」
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