The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




夕食ののち、ロンとサクヤ、ジニーはシャワーを浴びにいった。
ハリーとハーマイオニーは混み合ったグリフィンドールの談話室に戻り、いつものように宿題の山に取りかかった。
ハリーが「天文学」の新しい星座図と30分ほど格闘したころ、フレッドとジョージが現れた。

「ロンとジニーは、いないな?サクヤはいてもいいけど――まあ、いないか」

椅子を引き寄せ、周りを見回しながら、フレッドが聞いた。
ハリーは首を振った。すると、フレッドが言った。

「ならいいんだ。俺たち、あいつらの練習ぶりを見てたけど、ありゃ死刑もんだ。俺たちがいなけりゃ、あいつらまったくのクズだ」

「おいおい、ジニーはそうひどくないぜ」

ジョージが、フレッドの隣に座りながら訂正した。

「実際、あいつ、どうやってあんなにうまくなったのかわかんねえよ。俺たちと一緒にプレイさせてやったことなんかないぜ」

「ジニーはね、6歳のときから庭の箒置き場に忍び込んで、あなたたちの目を盗んで、2人の箒に代わりばんこに乗っていたのよ」

ハーマイオニーが、山と積まれた古代ルーン文字の本の陰から声を出した。

「へえ」

ジョージがちょっと感心したような顔をした。

「なーるへそ――それで納得」

「ロンはまだ一度もゴールを守っていないの?」

「魔法象形文字と記号文字」の本の上からこっちを覗きながら、ハーマイオニーが聞いた。

「まあね、誰も自分を見ていないと思うと、ロンのやつ、ブロックできるんだけど」

フレッドはやれやれという目つきをした。

「だから、俺たちが何をすべきかと言えば、土曜日の試合で、あいつのほうにクアッフルが行くたびに、観衆に向かって、そっぽを向いて勝手にしゃべってくれって頼むことだな」

フレッドは立ち上がって、落ち着かない様子で窓際まで行き、暗い校庭を見つめた。

「あのさ、俺たち、唯一クィディッチがあるばっかりに、学校に留まったんだ」

ハーマイオニーが厳しい目でフレッドを見た。

「もうすぐ試験があるじゃない!」

「前にも言ったけど、NEWTいもり試験なんて、俺たちはどうでもいいんだ」

フレッドが言った。

「例の『スナックボックス』はいつでも売り出せる。あの吹出物をやっつけるやり方も見つけた。マートラップのエキス数滴で片づく。リーが教えてくれた」

ジョージが大欠伸をして、曇った夜空を憂鬱そうに眺めた。

「今度の試合は見たくもない気分だ。ザカリアス・スミスに敗れるようなことがあったら、俺は死にたいよ」

「たぶん、アンジェリーナも同じ気持ちなんだ。だから今日はサクヤへのしごきがすさまじかった。点を入れられまくる前に試合を終わらせるつもりなんだ。
でも、なんだったら、俺がザカリアスを殺しておいてもいい」

フレッドがきっぱりと言った。

「これだからクィディッチは困るのよ」

再びルーン文字の解読にかじりつきながら、ハーマイオニーが上の空で言った。

「おかげで、寮の間で悪感情やら緊張が生まれるんだから」

「スペルマン音節文字表」を探すのにふと目を上げたハーマイオニーは、フレッド、ジョージ、ハリーが、一斉に自分を睨んでいるのに気づいた。
3人とも呆気に取られた、苦々しげな表情を浮かべている。

「ええ、そうですとも!」

ハーマイオニーが苛立たしげに言った。

「たかがゲームじゃない?」

「ハーマイオニー」

ハリーが頭を振りながら言った。

「君って人の感情とかはよくわかってるけど、クィディッチのことはさっぱり理解してないね」

「そうかもね」

また翻訳に戻りながら、ハーマイオニーが悲観的な言い方をした。

「だけど、少なくとも、私の幸せは、ロンのゴールキーパーとしての能力に左右されたりしないわ」

しかし、土曜日の試合観戦後のハリーは、自分もクィディッチなんかどうでもいいと思えるものなら、ガリオン金貨を何枚出しても惜しくないという気持ちになっていた。
もっともハーマイオニーの前でこんなことを認めるくらいなら、天文台塔から飛び降りたほうがましだった。
この試合で最高だったのは、アンジェリーナの望み通り、すぐ終わったことだった。グリフィンドールの観客は、たった20分の苦痛に耐えるだけで済んだ。
何が最低だったかは、判定が難しい。
ロンが14回もゴールを抜かれたことか、サクヤの得意なコース取りが、グリフィンドールのシーカーが1人になったことで徹底的に対策されてきてしまったことか。
はたまた、アンドリュー・カークがブラッジャーを撃ち損ねて、代わりに棍棒でアンジェリーナの口を引っぱたいたことか、クアッフルを持ったザカリアス・スミスが突っ込んできたときに、カークが悲鳴をあげてから仰向けに落ちたことか……、ハリーの見るところ、なかなかいい勝負だ。
奇跡的に、グリフィンドールは、たった10点差で負けただけだった。
ジニーが打ち返したブラッジャーのアシストで、ハッフルパフのシーカー、サマービーがコースの妨害から外れ、サクヤが彼の鼻先からなんとかスニッチを奪い取ったので、最終得点は240対230だった。

「ナイスアシストだった」

談話室に戻ったとき、ハリーがジニーに声をかけた。談話室はまるでとびっきり陰気な葬式のような雰囲気だった。

「ラッキーだったのよ」

ジニーが肩をすくめた。

「ブラッジャーが打ちやすい方向から飛んできて、サマービーが風邪を引いてて、ここぞというときに、くしゃみして目をつぶったの。とにかく、フレッドとジョージがチームに戻ったら――」

「ジニー、僕たちは一生涯、禁止になってるんだ」

「アンブリッジが学校にいるかぎり、禁止になってるのよ」

ジニーが訂正した。

「一生涯とは違うわ。とにかく、あなた達が戻ったら、私はチェイサーに挑戦するわ。アンジェリーナもアリシアも来年は卒業だし、どっちみち、私はビーターよりゴールで得点するほうが好きなの」

ハリーはサクヤを見た。暖炉前のいつもの椅子に陣取り、背に凭れ、穏やかに爆ぜる炎をぼーっと眺めながらも、なにやらブツブツと真剣に呟いている。

「たかが得意コースを封じられただけで……もっと別のアプローチもできたはずだ……」

今度はロンの様子を見た。ロンは、隅っこに屈み込み、バタービールの瓶をつかんで、膝小僧をじっと見つめている。

「アンジェリーナがまだロンの退部を許さないの」

ハリーの心を読んだかのように、ジニーが言った。

「ロンに力があるのはわかってるって、アンジェリーナはそう言うの」

ハリーは、アンジェリーナがロンを信頼しているのがうれしかった。
しかし、同時に、本当はロンを退部させてやるほうが親切ではないかとも思った。
ロンが競技場を去るとき、またしてもスリザリン生が悦に入って、「♪ウィーズリーは我が王者」の大合唱で見送ったのだった。
スリザリンは、いまや、クィディッチ杯の最有力候補だった。

フレッドとジョージがぶらぶらやって来た。

「俺、あいつをからかう気にもなれないよ」

ロンの打ち萎れた姿を見ながら、フレッドが言った。

「ただし……あいつが14回目のミスをしたとき――」

フレッドは上向きで犬掻きをするように、両腕をむちゃくちゃに動かした。

「まあ、これはパーティー用に取っておくか、な?」

それからまもなく、ロンはのろのろと寝室に向かった。
ロンの気持ちを察して、ハリーは少し時間をずらして寝室に上がっていった。ロンがそうしたいと思えば、寝たふりができるようにと思ったのだ。
案の定、ハリーが寝室に入ったとき、ロンのいびきは、本物にしては少し大きすぎた。

ハリーは試合のことを考えながらベッドに入った。
傍で見ているだけなのは、何とも歯痒かった。
ジニーのアシストを借りたサクヤの試合ぶりはなかなかのものだったが、自分がプレイしていたら、もっと早くスニッチを捕らえられたのに……サマービーのタックルに打ち負け、サクヤがコースを外れなかったら、グリフィンドールの勝利を掠め取ることができたろうに。

アンブリッジはハリーやハーマイオニーより数列下に座っていた。
一度か二度、べったり腰を下ろしたまま、振り返ってハリーを見た。
ガマガエルのような口が横に広がり、ハリーには、いい気味だとほくそ笑んでいるように見えた。
暗闇の中に横たわり、思い出す度にハリーは怒りで熱くなった。
しかし、その数分後には、寝る前にすべての感情を無にすべきだったと思い出した。スネイプが「開心術」の特訓のあと、いつもハリーにそう指示していたのだ。

ハリーは1,2分努力してみたが、アンブリッジのことを思い出した上にスネイプのことを考えると、怨念が強まるばかりだった。
気がつくと、むしろ自分がこの2人をどんなに毛嫌いしているかに気持ちが集中していた。
ロンのいびきが、だんだん弱くなり、ゆっくりした深い寝息に変わっていった。
ハリーのほうは、それからしばらく寝つけなかった。身体は疲れていたが、脳が休むまでに長い時間がかかった。

ネビルとスプラウト先生が「必要の部屋」でワルツを踊っている夢を見た。マクゴナガル先生がバグパイプを演奏していた。
ハリーは幸せな気持ちで、しばらくみんなを眺めていたが、やがて、DAの他のメンバーを探しに出かけようと思った。

ところが、部屋を出たハリーは、「バカのバーナバス」のタペストリーではなく、石壁の腕木で燃える松明の前にいた。
ハリーはゆっくりと左に顔を向けた。そこに、窓のない廊下の一番奥に、飾りも何もない黒い扉があった。

ハリーは高鳴る心で扉に向かって歩いた。ついに運が向いてきたという、とても不思議な感覚があった。
今度こそ扉を開ける方法が見つかる……。あと数十cmだ。ハリーは心が躍った。
扉の右端に沿ってぼんやりと青い光の筋が見える……扉がわずかに開いている……ハリーは手を伸ばし、扉を大きく押し開こうとした。そして――。

ロンがガーガーと本物の大きないびきをかいた。ハリーは突然目が覚めた。
何百kmも離れたところにある扉を開けようと、右手を暗闇に突き出していた。失望と罪悪感の入り交じった気持ちで、ハリーは手を下ろした。
扉の夢を見てはいけないことはわかっていた。しかし、同時に、その向こう側に何があるのかと好奇心に苛まれ、ロンを恨みに思った。ロンがあと1分、いびきを我慢してくれていたら……。



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