The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
ハリーとサクヤをインタビューしたリータの記事が、いつごろ「ザ・クィブラー」に載るかわからないと、ルーナは漠然と言った。
パパが「しわしわ角スノーカック」を最近目撃したという素敵に長い記事が寄稿されるのを待っているからというのだ。
「――もちろん、それって、とっても大切な記事だもン。だから、ハリーのは次の号まで待たなきゃいけないかも」
ヴォルデモートが復活した夜のことを語るのは、彼らにとって生易しいことではなかった。
リータは事細かに聞き出そうとハリーやサクヤに迫ったし、ハリーも、真実を世に知らせるまたとないチャンスだという意識で、思い出せるかぎりのすべてをリータに話した。
果たしてどんな反応が返ってくるだろうと、ハリーは考えた。多くの人が、2人は完全に狂っているという見方を再確認するだろう。
なにしろハリーの話は、愚にもつかない「しわしわ角スノーカック」の話と並んで掲載されるのだ。
しかし、ベラトリックス・レストレンジと仲間の死喰い人たちが脱走したことで、ハリーは、うまくいくいかないは別として、とにかく何かをしたいという、燃えるような想いに駆られていた。
「君の話がおおっぴらになったら、アンブリッジがどう思うか、楽しみだ」
月曜の夕食の席で、ディーンが感服したように言った。
シェーマスはディーンの向かい側で、チキンとハムのパイをごっそり掻き込んでいた。しかしハリーには、話を聞いていることがわかっていた。
「いいことをしたね、ハリー」
テーブルの反対側に座っていたネビルが言った。かなり青ざめていたが、低い声で言葉を続けた。
「きっと……辛かっただろう?……それを話すのって……?」
「うん」
ハリーがぼそりと言った。
「でも、ヴォルデモートが何をやってのけるのか、みんなが知らないといけないんだ。そうだろう?」
「そうだよ」
ネビルもこっくりした。
「それと、死喰い人のことも……みんな、知るべきなんだ……」
ネビルは中途半端に言葉をとぎらせ、再び焼きジャガイモを食べはじめた。
シェーマスが目を上げたが、ハリーと目が合うと、慌てて自分の皿に視線を戻した。
しばらくして、ディーン、シェーマス、ネビルが談話室に向かい、ハリーとハーマイオニーだけがテーブルに残って、サクヤとロンを待った。クィディッチの練習で、2人はまだ夕食をとっていなかった。
チョウ・チャンが友達のマリエッタと大広間に入ってきた。ハリーの胃がぐらっと気持ちの悪い揺れ方をした。
しかし、チョウはグリフィンドールのテーブルには目もくれず、ハリーに背を向けて席に着いた。
「あ、聞くのを忘れてたわ」
ハーマイオニーがレイブンクローのテーブルをちらりと見ながら、朗らかに聞いた。
「チョウとのデートはどうだったの?どうしてあんなに早く来たの?
私たちてっきり、チョウと2人で来るんじゃないかとすら思ってたのに」
「んー……それは……」
ハリーはルバーブ・クランブルのデザート皿を引き寄せ、お代わりを自分の皿に取り分けながら言った。
「めっちゃくちゃさ。聞かれたから言うだけだけど」
ハリーは、マダム・パディフットの喫茶店で起こったことを、ハーマイオニーに話して聞かせた。
「……というわけで」
数分後にハリーは話し終わり、ルバーブ・クランブルの最後のひと口も食べ終わった。
「チョウは急に立ち上がって、そう、こう言うんだ。
『ハリー、じゃ、さよなら』。それで走って出ていったのさ!」
ハリーはスプーンを置き、ハーマイオニーを見た。
「つまり、いったいあれは何だったんだ?何が起こったっていうんだ?」
ハーマイオニーはチョウの後ろ姿をちらりと見て、ため息をついた。
「ハリーったら」
ハーマイオニーは悲しげに言った。
「言いたくはないけど、あなた、ちょっと無神経だったわ」
「
僕が?無神経?」
ハリーは憤慨した。
「2人でうまくいってるなと思ったら、次の瞬間、チョウはロジャー・デイビースがデートに誘ったの、セドリックとあのバカバカしい喫茶店に来ていちゃいちゃしたのって、僕に言うんだぜ――いったい僕にどう思えって言うんだ?」
「あのねえ」
ハーマイオニーは、まるで駄々をこねるよちよち歩きの子どもに、1+1=2だということを言い聞かせるように、辛抱強く言った。
「デートの途中で私やサクヤに会いたいなんて、言うべきじゃなかったのよ」
「だって、だって」
ハリーが急き込んで言った。
「だって――15時に来いって、それにチョウも連れてこいって君がそう言ったんだ。チョウに話さなきゃ、そうできないじゃないか?」
「言い方がまずかったのよ」
ハーマイオニーは、また癪に障るほどの辛抱強さで言った。
「こう言うべきだったわ。――本当に困るんだけど、ハーマイオニーとサクヤに「三本の箒」に来るように約束
させられた。本当は行きたくない。できることなら1日中チョウと一緒にいたい。
だけど、残念ながらあいつらに会わないといけないと思う。どうぞ、お願いだから、僕と一緒に来てくれ。そうすれば、僕はもっと早くその場を離れることができるかもしれない。
――それに、私のことを、とってもブスだ、とか、サクヤは性悪だ、とか言ったらよかったかもしれないわね」
最後の言葉を、ハーマイオニーはふと思いついたようにつけ加えた。
「だけど、僕、君がブスだとかサクヤの性格が悪いだとかなんて思ってないよ」
ハリーが不思議そうな顔をした。ハーマイオニーが笑った。
「ハリー、あなたったら、ロンよりひどいわね……おっと、そうでもないか」
ハーマイオニーがため息をついた。
ロンが泥だらけで、不機嫌な顔をぶら下げて、大広間にドスドスと入ってきたところだった。隣には同じく泥まみれの、疲労困憊で渋い顔をしているサクヤもいる。
「あのね――あなたが私たちに会いにいくって言ったから、チョウは気を悪くしたのよ。
だから、あなたにやきもちを焼かせようとしたの。あなたがどのぐらいチョウのことを好きなのか、彼女なりのやり方で試そうとしたのよ」
「チョウは、そういうことをやってたわけ?」
ハリーが言った。
ロンとサクヤは2人に向き合う場所にドサッと並んで座り、手当たりしだい食べ物の皿を引き寄せていた。
「それなら、僕が君よりチョウのほうが好きかって聞いたほうが、ずっと簡単じゃない?」
「女の子は、だいたい、そんな物の聞き方はしないものよ」
ハーマイオニーが言った。
「土曜日の話?」
サクヤが口いっぱいにチキンを頬張りながら話に入ってきた。
「でも、そうすべきだ!」
ハーマイオニーが「ええ」と頷くのと同時に、ハリーが言葉に力を込めて言った。
「そうすりゃ、僕、チョウが好きだってちゃんと言えたじゃないか。
そうすれば、チョウだって、セドリックが死んだことをまた持ち出して、大騒ぎしたりする必要はなかったのに!」
「チョウがやったことが思慮深かったとは言ってないのよ」
ハーマイオニーが言った。
「こりゃひどい」とサクヤがもごもごと口のなかで言っていた気がしたが、ハリーは無視した。
ちょうど、ジニーが、ロンと同じように泥んこで、同じようにぶすっとして席に着いたところだった。
「ただ、そのときの彼女の気持ちを、あなたに説明しようとしているだけ」
「君、本を書くべきだよ」
ロンがポテトを切り刻みながら、ハーマイオニーに言った。
「女の子の奇怪な行動についての解釈をさ。男の子が理解できるように」
「そうだよ」
ハリーがレイブンクローのテーブルに目をやりながら、熱を込めて言った。
チョウが立ち上がったところだった。そして、ハリーのほうを見向きもせずに、大広間を出ていった。なんだかがっくりして、ハリーはロンとサクヤ、ジニーに向き直った。
「それで、クィディッチの練習はどうだった?」
「悪夢だったさ」
ロンは気が立っていた。
「やめてよ」
ハーマイオニーがジニーを見ながら言った。
「まさか、それほど――」
「それほどだったのよ」
ジニーが言った。
「ぞっとするわ。アンジェリーナなんか、しまいには泣きそうだった」
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