The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「ハリー!ハリー、こっちよ!」

15時より少し前、「三本の箒」の店内で、ハーマイオニーが隅の席に座っているハリーを見つけて手を振った。
気がついたハリーは立ち上がって、混み合ったパブの中を掻き分けて進んだ。
あと数mというところで、ハリーは、ハーマイオニーがサクヤと2人ではないのに気づいた。
飲み仲間としてはどう考えてもありえない組み合わせがもう2人、同じテーブルに着いていた。
ルーナ・ラブグッドと、誰であろう、リータ・スキーター、元「日刊予言者新聞」の記者で、ハーマイオニーが世界で一番気に入らない人物の1人がいた。

「早かったのね!」

ハリーが座れるように場所を空けながら、ハーマイオニーが言った。

「チョウと一緒だと思ったのに。あと1時間はあなたが来ないかもねってサクヤと話してたわ」

「チョウ?」

リータが即座に反応し、座ったまま身体を捩って、まじまじとハリーを見つめた。

女の子と?

リータはワニ革ハンドバッグを引っつかみ、中をゴソゴソ探した。

「はいはい。
ハリーが100人の女の子とデートしてようとも、あなたの知ったことじゃないでしょ」

サクヤがたしなめるように言った。

「だから、それはすぐしまおうな」

リータがハンドバッグから、黄緑色の羽根ペンをまさに取り出そうとしたところだった。
「臭液」を無理やり飲み込まされたような顔で、リータはまたバッグをパチンと閉めた。

「君たち、何するつもりだい?」

腰掛けながら、ハリーはリータ、ルーナ、ハーマイオニー、サクヤの顔を順に見つめた。

「ミス優等生がそれをちょうど話そうとしていたところに、君が到着したわけよ」

リータはグビリと音を立てて飲み物を飲んだ。

「こちらさんと話すのはお許しいただけるんざんしょ?」

リータがキッとなってハーマイオニーに言った。

「ええ、いいでしょう」

ハーマイオニーが冷たく言った。
リータに失業は似合わなかった。かつては念入りにカールしていた髪は、櫛も入れず、顔の周りにだらりと垂れ下がっていた。
6cmもあろうかという鉤爪に真っ赤に塗ったマニキュアはあちこち剥げ落ち、フォックス型眼鏡のイミテーション宝石が2,3個欠けていた。
リータはもう一度ぐいっと飲み物を呷り、唇を動かさずに言った。

「かわいい子なの?ハリー?」

「これ以上ハリーのプライバシーに触れたら、取引はなしよ。そうしますからね」

ハーマイオニーが苛立った。

「なんの取引ざんしょ?」

リータは手の甲で口を拭った。

「小うるさいお嬢さん、まだ取引の話なんかしてないね。あたしゃ、ただ顔を出せと言われただけで。うーっ、いまに必ず……」

リータがブルッと身震いしながら息を深く吸い込んだ。

「ええ、ええ、いまに必ず、あなたは、私やハリー、サクヤのことで、もっととんでもない記事を書くでしょうよ」

ハーマイオニーは取り合わなかった。

「そんな脅しを気にしそうな相手を探せばいいわ。どうぞご自由に」

「あたくしなんかの手を借りなくとも、新聞には今年、ハリーとサクヤのとんでもない記事がたくさん載ってたざんすよ」

グラス越しに横目でハリーの顔を見ながら、リータは耳障りな囁き声で聞いた。

「それで、どんな気持ちがした?ハリー?裏切られた気分?動揺した?誤解されてると思った?どうかな?サクヤ?」

「もちろん、彼らは怒りましたとも」

ハーマイオニーが厳しい声で凛と言い放った。

「ハリーたちは魔法大臣に本当のことを話したのに、大臣はどうしようもないバカで、2人を信用しなかったんですからね」

「それじゃ、君はあくまで言い張るわけだ。『名前を呼んではいけないあの人』が戻ってきたと?」

リータはグラスを下げ、射るような目でハリーとサクヤを交互に見据え、指がうろうろと物欲しげにワニ革バッグの留め金のあたりに動いていった。

「ダンブルドアがみんなに触れ回っている戯言を、『例のあの人』が戻ったとか、君たちが唯一の目撃者だとかを、2人して言い張るわけざんすね?」

「僕たちだけが目撃者じゃない」

ハリーが唸るように言った。

「十数人の死喰い人も、その場にいたんだ。名前を言おうか?」

「いいざんすね」

今度はバッグにもぞもぞと手を入れ、こんな美しいものは見たことがないという目でハリーを見つめながら、リータが息を殺して言った。

「ぶち抜き大見出し『ポッター、フェリックス、告発す……』小見出しで『ハリー・ポッター、サクヤ・フェリックス、身近に潜伏する死喰い人の名前をすっぱ抜く』
それで、君たちの大きな顔写真の下には、こう書く。『例のあの人』に襲われながらも生き残った、心病める10代の少年少女、ハリー・ポッター(15)とサクヤ・フェリックス(15)は、昨日、魔法界の地位も名誉もある人物たちを死喰い人であると告発し、世間を激怒させた……

自動速記羽根ペンQQQを実際に手に持ち、口元まで半分ほど持っていったところで、リータの顔から恍惚とした表情が失せた。

「でも、だめだわね」

リータは羽根ペンを下ろし、険悪な目つきでハーマイオニーを見た。

「ミス優等生のお嬢さんが、そんな記事はお望みじゃないざんしょ?」

「実は」

ハーマイオニーがやさしく言った。

「ミス優等生のお嬢さんは、まさにそれをお望みなの

リータは目を丸くしてハーマイオニーを見た。ハリーもそうだった。
一方ルーナは、夢見るように「ウィーズリーは我が王者」と小声で口ずさみながら、串刺しにしたカクテル・オニオンで飲み物を掻き混ぜた。先んじて今回の機会を知っていたサクヤは目を伏せ、心の準備を整えているようだった。

「あたくしに、『名前を呼んではいけないあの人』についてハリーとサクヤが言うことを記事にしてほしいんざんすか?」

リータは声を殺して聞いた。

「ええ、そうなの」

ハーマイオニーが言った。

「真実の記事を。すべての事実を。ハリーとサクヤが話すとおりに。
2人は全部詳しく話すわ。あそこで彼らが見た、『隠れ死喰い人』の名前も、現在ヴォルデモートがどんな姿なのかも、――あら、しっかりしなさいよ」

テーブル越しにナプキンをリータのほうに放り投げながら、ハーマイオニーが軽蔑したように言った。
ヴォルデモートという名前を聞いただけで、リータがひどく飛び上がり、ファイア・ウィスキーをグラス半分も自分にひっかけてしまったのだ。

ハーマイオニーを見つめたまま、リータは汚らしいレインコートの前を拭いた。
それから、リータはあけすけに言った。

「『予言者新聞』はそんなもの活字にするものですか。お気づきでないざんしたら一応申し上げますけどね、この2人の嘘話なんて誰も信じないざんすよ。
みんな、この子たちの妄想癖だと思ってるざんすからね。まあ、あたくしにその角度から書かせてくれるんざんしたら――」

「2人が正気を失ったなんて記事はこれ以上いりません!」

ハーマイオニーが怒った。

「そんな話はもういやというほどあるわ。せっかくですけど!私は、ハリーとサクヤがきちんと真実を語れる機会を作ってあげたいの!」

「そんな記事は誰も載せないね」

リータが冷たく言った。

「ファッジが許さないから『予言者新聞』は載せないっていう意味でしょう」

ハーマイオニーが苛立った。リータはしばらくじっとハーマイオニーを睨んでいた。
やがて、ハーマイオニーに向かってテーブルに身を乗り出し、リータがまじめな口調で言った。

「たしかに、ファッジは『予言者新聞』にテコ入れしている。
でも、どっちみち同じことざんす。ハリーとサクヤがまともに見えるような記事は載せないね。そんなもの、誰も読みたがらない。大衆の風潮に反するんだ。
先日のアズカバン脱獄だけで、みんな十分不安感を募らせてる。『例のあの人』の復活なんか、とにかく信じたくないってわけざんす」

「それじゃ、『日刊予言者新聞』は、みんなが喜ぶことを読ませるために存在する。そういうわけね?」

ハーマイオニーが痛烈に皮肉った。
リータは身を引いて元の姿勢に戻り、両眉を吊り上げて、残りのファイア・ウィスキーを飲み干した。

「『予言者新聞』は売るために存在するざんすよ。世間知らずのお嬢さん」

リータが冷たく言った。

「わたしのパパは、あれはへぼ新聞だって思ってるよ」

ルーナが唐突に会話に割り込んできた。
カクテル・オニオンをしゃぶりながら、ルーナは、ちょっと調子っぱずれの、飛び出したギョロ目でリータをじっと見た。

「パパは、大衆が知る必要があると思う重要な記事を出版するんだ。お金儲けは気にしないよ」

リータは軽蔑したようにルーナを見た。

「察するところ、あんたの父親は、どっかちっぽけな村のつまらないミニコミ紙でも出してるんざんしょ?」

リータが言った。

「たぶん、『マグルに紛れ込む25の方法』とか、次の『飛び寄り売買バザー』の日程だとか?」

「違うわ」

ルーナはオニオンをギリーウォーターにもう一度浸しながら言った。

「パパは『ザ・クィブラー』の編集長よ」

リータがブーッと吹き出した。
その音があんまり大きかったので、近くのテーブルの客が何事かと振り向いた。

「『大衆が知る必要があると思う重要な記事』だって?え?」

リータはこっちを怯ませるような言い方をした。

「あたしゃ、あのボロ雑誌の臭い記事を庭の肥しにするね」

「それじゃ、あなたが『ザ・クィブラー』の格調をちょっと引き上げてやるチャンスだな。やったじゃないか」

サクヤが快活に言った。

「ルーナのお父さんは、喜んでオレたちのインタビューを引き受けてくれるってルーナが言ってくれた。これで、誰が出版するかは決まりだ」

リータはしばらく2人を見つめていたが、やがてけたたましく笑いだした。

『ザ・クィブラー』だって!

リータはゲラゲラ笑いながら言った。

「あんたたちの話が『ザ・クィブラー』に載ったら、みんながまじめに取ると思うざんすか?」

「そうじゃない人も、もちろんいるさ」

サクヤは平然としていた。

「だけど、アズカバン脱獄の『日刊予言者新聞』版にはいくつか大きな穴がある。何が起こったのか、もっとマシな説明はないものかと考えている人は多いと思う。
だから、別な筋書きがあるってなったら、それが載っているのが、たとえ――」

サクヤは気づかわしげ横目でちらりとルーナを見た。

「たとえその、異色と言われる雑誌でも――読みたいという気持ちが強ければ、読んでもらえると思う」

リータはしばらく何も言わなかった。
ただ、首を少し傾げて、油断なくサクヤやハーマイオニーを見ていた。

「ようござんしょ。仮にあたくしが引き受けるとして」

リータが出し抜けに言った。

「どのくらいお支払いいただけるんざんしょ?」

「パパは雑誌の寄稿者に支払いなんかしてないと思うよ」

ルーナが夢見るように言った。

「みんな名誉だと思って寄稿するんだもん。それに、もちろん、自分の名前が活字になるのを見たいからだよ」

リータ・スキーターは、またしても口の中で「臭液」の強烈な味がしたような顔になり、ハーマイオニーに食ってかかった。

ギャラなしでやれと?」

「ええ、まあ」

ハーマイオニーは飲み物をひと口啜り、静かに言った。

「さもないと、よくお分かりだと思うけど、私、あなたが未登録の『動物もどき』だって、然るべきところに通報するわよ。
もっとも、『予言者新聞』は、あなたのアズカバン囚人日記にはかなりたくさん払ってくれるかもしれないわね」

リータは、ハーマイオニーの飲み物に飾ってある豆唐傘を引っつかんで、その鼻の穴に押し込んでやれたらどんなにすーっとするか、という顔をした。

「どうやらあんまり選択の余地はなさそうざんすね?」

リータの声が少し震えていた。リータは再びワニ革ハンドバッグを開き、羊皮紙を1枚取り出し、自動速記羽根ペンを構えた。

「パパが喜ぶわ」

ルーナが明るく言った。サクヤがにっこり笑いかけた。
リータの顎の筋肉がひくひく痙攣した。

「さあ、ハリー」

ハーマイオニーがハリーに話しかけた。

「大衆に真実を話す準備ができた?」

「オレから話そうか?」

サクヤが尋ねた。

「いや、僕ももう準備できてる」

ハリーの前に置いた羊皮紙の上に、リータが自動速記羽根ペンを立たせ、バランスを取って準備するのを眺めながら、ハリーが言った。

「それじゃ、リータ、やってちょうだい」

グラスの底からチェリーを1粒摘み上げながら、ハーマイオニーが落ち着きはらって言った。





>>To be continued

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