The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「女ってやつは!」
両手をポケットに突っ込み、雨水の流れる道をビチャビチャ歩きながら、ハリーは腹を立てて呟いた。
「だいたい、なんでセドリックの話なんかしたがるんだ?どうしていつも、自分が人間散水ホースみたいになる話を引っ張り出すんだ?」
ハリーは右に曲がり、バシャバシャと駆けだした。
何分もかからずに、ハリーは「三本の箒」の戸口に着いた。
ハーマイオニーたちと会う時間にはかなり早すぎたが、ここなら誰か時間をつぶせる相手がいるだろうと思った。
濡れた髪を、ブルッと目から振り払い、ハリーは店内を見回した。ハグリッドが、1人でむっつりと隅のほうに座っていた。
「やあ、ハグリッド!」
混み合ったテーブルの間をすり抜け、ハグリッドの脇に椅子を引き寄せて、ハリーが声をかけた。
ハグリッドは飛び上がって、まるでハリーが誰だかわからないような目で見下ろした。ハグリッドの顔に新しい切り傷が2つと打ち身が数ヵ所できていた。
「おう、ハリー、おまえさんか」
ハグリッドが口をきいた。
「元気か?」
「うん、元気だよ」
ハリーは嘘をついた。
傷だらけで悲しそうな顔をしたハグリッドと並ぶと、自分のほうはそんなに大したことではないと思ったのも事実だ。
「あー――ハグリッドは大丈夫なの?」
「俺?」
ハグリッドが言った。
「ああ、俺なら、大元気だぞ、ハリー、大元気」
大きなバケツほどもある錫の大ジョッキの底をじっと見つめて、ハグリッドはため息をついた。
ハリーは何と言葉をかけていいかわからなかった。
2人は並んで座り、しばらく黙っていた。すると出し抜けにハグリッドが言った。
「おんなじだなぁ。おまえと俺は……え?ハリー?」
「あー――」
ハリーは答えに詰まった。
「うん……前にも言ったことがあるが……ふたりともはみ出しもんだ」
ハグリッドが納得したように頷きながら言った。
「そんで、ふたりとも親がいねえ。サクヤもそうだったな。うん……3人とも孤児だ」
ハグリッドはぐいっと大ジョッキを呷った。
「違うもんだ。ちゃんとした家族がいるっちゅうことは」
ハグリッドが言葉を続けた。
「俺の父ちゃんはちゃんとしとった。そんで、おまえさんの父さんも母さんもちゃんとしとった。サクヤの生みの親も、育ての親も。
親が生きとったら、人生は違ったもんになっとっただろう。なあ?」
「うん……そうだね」
ハリーは慎重に答えた。ハグリッドはなんだか不思議な気分に浸っているようだった。
「家族だ」
ハグリッドが暗い声で言った。
「なんちゅうても、血ってもんは大切だ……」
そしてハグリッドは目に滴る血を拭った。
「ハグリッド」
ハリーは我慢できなくなって聞いた。
「いったいどこで、こんなに傷だらけになるの?」
「はあ?」
ハグリッドはドキッとしたような顔をした。
「どの傷だ?」
「全部だよ!」
ハリーはハグリッドの顔を指さした。
「ああ……いつものやつだよ、ハリー。瘤やら傷やら」
ハグリッドはなんでもないという言い方をした。
「俺の仕事は荒っぽいんだ」
ハグリッドは大ジョッキを飲み干し、テーブルに戻し、立ち上がった。
「そんじゃな、ハリー……気ぃつけるんだぞ」
そしてハグリッドは、打ち萎れた姿でドシンドシンとパブを出ていき、滝のような雨の中へと消えた。
ハリーは惨めな気持ちでその後ろ姿を見送った。
ハグリッドは不幸なんだ。それに何か隠している。
だが、断固助けを拒むつもりらしい。いったい何が起こっているんだろう?
今度はハリーがパブの隅に座り、むっつりと考え込むことになった。
_
( 163/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]