The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




心配事も、やることも山ほどあって――宿題の量が半端ではなく、5年生はしばしば真夜中過ぎまで勉強しなければならなかったし、DAの秘密練習やら、スネイプとの定期的な特別授業やらで――1月はあっという間に過ぎていった。
気がついたらもう2月で、天気は少し温かく湿り気を帯び、二度目のホグズミード行きの日が近づいていた。
ホグズミードに2人で行く約束をして以来、ハリーはほとんどチョウと話す時間がなかったが、サクヤとハーマイオニーがデートの約束をしているのを聞いたとき、突然、自分もバレンタインの日をチョウと2人きりで過ごす羽目になっていることに気づいた。

14日の朝、ハリーはとくに念入りに仕度した。
ロンと2人で朝食に行くと、ふくろう便の到着にちょうど間に合った。ヘドウィグは――期待していたわけではなかったが――その中にいなかった。
しかし、2人が座ったとき、ハーマイオニーはサクヤが両手にそっと抱えた見慣れないモリフクロウの嘴にくわえられた手紙を引っ張っていた。

「やっと来たわ。もし今日来なかったら……」

「見せて見せて」

ふくろうを見送ったサクヤに促され、ハーマイオニーは待ちきれないように封筒を破り、小さな羊皮紙を引っ張り出した。
ハーマイオニーとサクヤの目が素早く手紙の行を追った。そして、何か真剣で満足げな表情で互いに顔を見合わせ、頷き合った。

「ねえ、ハリー」

ハーマイオニーがハリーを見上げた。

「とっても大事なことなの。午後、『三本の箒』で会えないかしら?」

「うーん……どうかな」

ハリーは曖昧な返事をした。

「チョウは、僕と1日中一緒だって期待してるかもしれない。何をするかは全然話し合ってないけど。
それに、君たちだって今日はずーっとデートするんじゃないのか?」

「うん、ハリーと合流するまで、ずーっとするよ」

サクヤが頷いた。

「合流時間は……そうだな、デート時間もしっかり確保したいから……15時でどう?」

「チョウが許してくれればいいけど……」

「じゃ、どうしてもというときは一緒に連れてきて」

ハーマイオニーは急を要するような言い方をした。

「とにかくあなたは来てくれる?」

「うーん……いいよ。でもどうして?」

「いまは説明してる時間がないわ。急いで返事を書かなきゃならないの」

「とにかく、15時に『三本の箒』。絶対だぞ!」

ハーマイオニーは片手に手紙を、もう一方にトーストを1枚引っ掴み、2人分のバッグを持ったサクヤを伴って急いで大広間を出ていった。

「君も来るの?」

ハリーが聞くと、ロンはむっつりと首を横に振った。

「ホグズミードにも行けないんだ。アンジェリーナが新入りを集めて1日中練習するってさ。それでなんとかなるわけじゃないのに。
僕たちのチームは、いままでで最低。アンドリュー・カークを見ろよ。絶望的さ。僕よりひどい」

ロンは大きなため息をついた。

「アンジェリーナは、どうして僕を退部させてくれないんだろう」

「そりゃあ、調子のいいときの君は上手いからだよ」

ハリーはイライラと言った。
来たるハッフルパフ戦でプレイできるなら、他に何もいらないとさえ思っているハリーは、ロンの苦境に同情する気になれなかった。
ロンはハリーの声の調子に気づいたらしく、朝食のあいだ、クィディッチのことは二度と口にしなかった。
それからまもなく、互いにさよならを言ったときは、2人とも何となくよそよそしかった。
ロンはクィディッチ競技場に向かい、ハリーのほうは、ティースプーンの裏に映る自分の顔を睨み、なんとか髪を撫でつけようとしたあと、チョウに会いに1人で玄関ホールに向かった。
いったい何を話したらいいやらと、ハリーは不安でしかたがなかった。

チョウは樫の扉のちょっと横でハリーを待っていた。長い髪をポニーテールにして、チョウはとても可愛く見えた。
チョウのほうに歩きながら、ハリーは自分の足がバカでっかく思えた。
それに、突然自分に両腕があり、それが身体の両脇でブラブラ揺れているのがどんなに滑稽に見えるかに気づいた。

「こんにちは」

チョウがちょっと息を弾ませた。

「やあ」

ハリーが言った。
2人は一瞬見つめ合った。それからハリーが言った。

「あの――えーと――じゃ、行こうか?」

「え――ええ」

列に並んでフィルチのチェックを待ちながら、2人は時々目が合って照れ笑いしたが、話はしなかった。
2人で外の清々しい空気に触れたとき、ハリーはほっとした。
互いにもじもじしながら突っ立っているよりは、黙って歩くほうが気楽だった。
風のある爽やかな日だった。
クィディッチ競技場を通り過ぎるとき、ロンとジニーが観客席の上端すれすれに飛んでいるのがちらりと見えた。
自分は一緒に飛べないと思うと、ハリーは胸が締めつけられた。

「飛べなくて、とっても寂しいのね?」

チョウが言った。
振り返ると、チョウがハリーをじっと見ていた。

「うん」

ハリーがため息をついた。

「そうなんだ」

「最初に私たちが対戦したときのこと、覚えてる?3年生のとき」

「ああ」

ハリーはにやりと笑った。

「君は僕のことブロックしてばかりいた」

「それで、ウッドが、紳士面するな、必要なら私を箒から叩き落とせって、あなたにそう言ったわ」

チョウは懐かしそうに微笑んだ。

「プライド・オブ・ポーツリーとかいうプロチームに入団したと聞いたけど、そうなの?」

「いや、パドルミア・ユナイテッドだ。去年、ワールドカップのとき、ウッドに会ったよ」

「あら、私もあそこであなたに会ったわ。覚えてる?同じキャンプ場だったわ。あの試合、ほんとによかったわね?」

クィディッチ・ワールドカップの話題が、馬車道を通って校門を出るまで続いた。
こんなに気軽にチョウと話せることが、ハリーには信じられなかった――実際、ロンやサクヤ、ハーマイオニーに話すのと同じぐらい簡単だ――自信がついて朗らかになってきたちょうどそのとき、スリザリンの女子学生の大集団が2人を追い越していった。パンジー・パーキンソンもいる。

「ポッターとチャンよ!」

パンジーがキーキー声を出すと、一斉にクスクスと笑いが起こった。

「うぇー、チャン。あなた、趣味が悪いわね……少なくともディゴリーはハンサムだったけど!」

女子生徒たちは、わざとらしくしゃべったり叫んだりしながら、足早に通り過ぎた。ハリーとチョウを大げさにちらちら見る子も多かった。
みんなが行ってしまうと、2人はバツの悪い思いで黙り込んだ。
ハリーはもうクィディッチの話題も考えつかず、チョウは少し赤くなって、足下を見つめていた。

「それで……どこに行きたい?」

ホグズミードに入ると、ハリーが聞いた。
ハイストリート通りは生徒でいっぱいだった。
ぶらぶら歩いたり、ショーウィンドウをあちこち覗いたり、歩道にたむろしてふざけたりしている。

「あら……どこでもいいわ」

チョウは肩をすくめた。

「んー……じゃあ、お店でも覗いてみましょうか?」

2人はぶらぶらと、ダービシュ・アンド・バングズ店のほうに歩いていった。
窓には大きなポスターが貼られ、ホグズミードの村人が2,3人それを見ていたが、ハリーとチョウが近づくと脇に避けた。
ハリーは、またしても脱獄した10人の死喰い人の写真と向き合ってしまった。
「魔法省通達」と書かれたポスターには、写真の脱獄囚の誰か1人でも、再逮捕に結びつくような情報を提供した者には、1000ガリオンの懸賞金を与えるとなっていた。

「おかしいわねえ」

死喰い人の写真を見つめながら、チョウが低い声で言った。

「シリウス・ブラックが脱走したときのこと、憶えてるでしょう?
ホグズミードじゅうに、捜索の吸魂鬼がいたわよね?それが、今度は10人もの死喰い人が逃亡中なのに、吸魂鬼はどこにもいない……」

「うん」

ハリーはベラトリックス・レストレンジの写真から無理に目を逸らせ、ハイストリート通りの端から端まで視線を走らせた。

「うん、たしかに変だ」

近くに吸魂鬼がいなくて残念だというわけではない。
しかし、よく考えてみると、いないということには大きな意味がある。
吸魂鬼は、死喰い人を脱獄させてしまったばかりか、探そうともしていない……。もはや魔法省は、吸魂鬼を制御できなくなっているかのようだ。



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