The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハグリッドが執行猶予付きの停職になったことは、それから2,3日もすると、学校中に知れ渡っていた。
しかし、ほとんど誰も気にしていないらしいのが、ハリーは腹立たしかった。
それどころか、ドラコ・マルフォイを筆頭に、何人かはかえって大喜びしているようだった。
聖マンゴで「神秘部」の影の薄い役人が1人頓死したことなどは、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーぐらいしか知らないし、気にもしていないようだった。
いまや廊下での話題はただ1つ、10人の死喰い人が脱獄したことだった。
この話は、新聞を読みつけているごく少数の生徒から、ついに学校中に浸透していた。
ホグズミードで脱獄囚数人の姿を目撃したという噂が飛び、「叫びの屋敷」に潜伏しているらしいとか、シリウス・ブラックがかつてやったように、その連中もホグワーツに侵入してくるという噂が流れた。

魔法族の家庭出身の生徒は、死喰い人の名前が、ヴォルデモートとほとんど同じくらい恐れられて口にされるのを聞きながら育っていた。
ヴォルデモートの恐怖支配の下で、死喰い人が犯した罪は、いまに言い伝えられていた。
ホグワーツの生徒の中で、親戚に犠牲者がいるという生徒は、身内の凄惨な犠牲という名誉を担い、廊下を歩くとありがたくない視線に曝されることになった。
スーザン・ボーンズのおじ、おば、いとこは、10人のうちの1人の手にかかり、全員殺されたのだが、「薬草学」の時間に、ハリーやサクヤの気持ちがいまやっとわかったと、しょげきって言った。

「あなたたち、よく耐えられるわね――ああ、嫌!」

スーザンは投げやりにそう言うと、「キーキースナップ」の苗木箱に、ドラゴンの堆肥をいやというほどぶち込んだ。
苗木は気持ち悪そうに身をくねらせてキーキー喚いた。

たしかにハリーは、このごろまたしても、廊下で指差されたり、こそこそ話をされたりする対象になってはいた。
ところが、ひそひそ声の調子がいままでと少し違うのが感じ取れるような気がした。
いまは、敵意よりむしろ好奇心の声だったし、アズカバン要塞から、なぜ、どのように10人の死喰い人が脱走し遂せたのか、「日刊予言者」版の話では満足できないという断片的会話を、間違いなく一、二度耳にした。

それにサクヤに対しても、学期のはじめごろは新聞の風評被害で恐れられ、避けられていたのが、ここ数ヵ月は「印」を付けられる前の状態にかなり戻ってきているとハリーは感じていた。
彼女は今まで以上に真剣に授業に取り組んでいるし、持ち前の人当たりの良さは健在で、さらに以前より増した落ち着きも相まって、大人びた印象さえ受けることがある。
新聞記事が描く「不良少女」像とは全く対照的なその人物像が、周囲の生徒たちの認識を何ヵ月もかけて改めさせた――まさに「信用してもらえるまで頑張るだけ」を実行し続けた成果なのだ。
目の前のサクヤの人物像を信じるべきか、新聞が報道する不良少女を信じるべきか、それなりに活発に議論されているようだった。

恐怖と混乱の中で、こうした疑念を持つ生徒たちは、それ以外の唯一の説明に注意を向けはじめたようだった。
ハリーとサクヤ、ダンブルドアが先学期から述べ続けている説明だ。

変わったのは生徒たちの雰囲気ばかりではない。
先生も廊下で2人、3人と集まり、低い声で切羽詰まったように囁き合い、生徒が近づくのに気づくと、ふっつりと話をやめるというのが、いまや見慣れた光景になっていた。

「きっと、もう職員室では自由に話せないんだわ」

あるとき、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウトの三教授が、「呪文学」の教室の外で額を寄せ合って話しているそばを通りながら、ハーマイオニーが低い声で、サクヤ、ハリー、ロンに言った。

「アンブリッジがいたんじゃね」

「先生たちは何か新しいことを知ってると思うか?」

ロンが3人の先生を振り返ってじっと見ながら言った。

「知ってたところで、僕たちの耳には入らないだろ?」

ハリーは怒ったように言った。

「だって、あの教育令……もう第何号になったんだっけ?」

その新しい教育令は、アズカバン脱走のニュースが流れた次の日の朝、寮の掲示板に貼り出されていた。

ホグワーツ高等尋問官令

教師は、自分が給与の支払いを受けて教えている科目に厳密に関係すること以外は、生徒に対し、いっさいの情報を与えることを、ここに禁ず。

以上は教育令第26号に則ったものである。

高等尋問官 ドローレス・ジェーン・アンブリッジ
魔法省
高等尋
問官印


この最新の教育令は、生徒の間で、さんざん冗談のネタになった。
フレッドとジョージが教室の後ろで「爆発スナップ」カードゲームをやっていたとき、リー・ジョーダンは、この新しい規則を文言どおり適用すれば、アンブリッジが2人を叱りつけることはできないと、面と向かって指摘した。

「先生、『爆発スナップ』は『闇の魔術に対する防衛術』とは何の関係もありません!これは先生の担当科目に関係する情報ではありません!」

ハリーがそのあとでリーに会ったとき、リーの手の甲がかなりひどく出血しているのを見て、マートラップのエキスがいいと教えてやった。

アズカバンからの脱走で、アンブリッジが少しは凹むのではないかと、ハリーは思っていた。
愛しのファッジの目と鼻の先でこんな大事件が起こったことで、アンブリッジが恥じ入るのではないかと思っていた。
ところが、どうやらこの事件は、ホグワーツの生活を何から何まで自分の統制下に置きたいというアンブリッジの激烈な願いに、かえって拍車をかけただけだったらしい。
少なくとも、アンブリッジは、まもなく首切りを実施する意思を固めたようで、あとは、トレローニー先生とハグリッドのどちらが先かだけだった。

「占い学」と「魔法生物飼育学」はどの授業にも必ずアンブリッジとクリップボードがついて回った。
むっとするような香料が漂う北塔の教室で、アンブリッジは暖炉の傍に潜んで様子を窺っていた。
そのせいでますますヒステリックになってきたトレローニー先生の話を、鳥占いやら七正方形学などの難問を出して中断したばかりか、生徒が答える前に、その答えを言い当てろと迫ったり、水晶玉占い、茶の葉占い、石のルーン文字盤占いなど、次々にトレローニー先生の術を披露せよと要求したりした。
トレローニー先生が、そのうちストレスで気が変になるのではと、ハリーは思った。
廊下で先生とすれ違うことが何度かあったが――トレローニー先生はほとんど北塔の教室にこもりきりなので、それ自体がありえないような出来事だったのだが――料理用のシェリー酒の強烈な匂いをぷんぷんさせ、怖気づいた目でちらちら後ろを振り返り、手を揉みしだきながら、わけのわからないことをぶつぶつ呟いていた。
ハグリッドのことを心配していなかったら、ハリーはトレローニー先生をかわいそうだと思ったかもしれない。
しかし、どちらかが職を追われるのであれば、ハリーにとっては、どちらが残るべきかの答えは1つしかなかった。

残念ながら、ハリーの見るところ、ハグリッドの様子もトレローニーよりましだとは言えなかった。
ハーマイオニーの忠告に従っているらしく、クリスマス休暇からあとは、恐ろしい動物といっても、せいぜいクラップ(小型のジャックラッセルテリア犬そっくりだが、尻尾がふた股に分かれている)ぐらいしか見せていなかったが、ハグリッドも神経が参っているようだった。
授業中、変にそわそわしたり、びくついたり、自分の話の筋道がわからなくなったり、質問の答えを間違えたり、おまけに、不安そうにアンブリッジをしょっちゅうちらちら見ていた。
それに、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーに対して、これまでになかったほどよそよそしくなり、暗くなってから小屋を訪ねることをはっきり禁止した。

「おまえさんたちがあの女に捕まってみろ。俺たち全員のクビが危ねえ」

ハグリッドが4人にきっぱりと言った。
これ以上ハグリッドの職が危なくなるようなことはしたくないと、4人は、暗くなってからハグリッドの小屋に行くのを遠慮した。
ホグワーツでの暮らしを楽しくしているものを、アンブリッジが次々と確実にハリーから奪っていくような気がした。
ハグリッドの小屋を訪れること、シリウスからの手紙、ファイアボルトにクィディッチ。
ハリーはたった1つ自分ができるやり方で、復讐していた。DAにますます力を入れることだ。

ハリーにとってうれしいことに、野放し状態の死喰い人がいまや10人増えたというニュースで、DAメンバー全員に活が入り、あのザカリアス・スミスでさえ、これまで以上に熱心に練習するようになった。
しかし、なんと言っても、ネビルほど長足の進歩を遂げた生徒はいなかった。
両親を襲った連中が脱獄したというニュースが、ネビルに不思議な、ちょっと驚くほどの変化をもたらした。
ネビルは、聖マンゴの隔離病棟でハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーに出会ったことを、一度たりとも口にしなかった。4人もネビルの気持ちを察して沈黙を守った。
そればかりかネビルは、ベラトリックスと、拷問した仲間の脱獄のことを、ひと言も言わなかった。
実際、ネビルは、DAの練習中ほとんど口をきかなかった。
ハリーが教える新しい呪いや逆呪いのすべてを、練習相手のサクヤに積極的にアドバイスをもらい、それを素直すぎるほどに受け入れ、ただひたすらに練習した。
ぽっちゃりした顔を歪めて集中し、怪我も事故もなんのその、他の誰よりも一生懸命練習した。上達ぶりがあまりに速くて戸惑うほどだった。
ハリーが「盾の呪文」を教えたとき――軽い呪いを撥ね返し、襲った側を逆襲する方法だ――ネビルより早く呪文を習得したのは、ハーマイオニーだけだった。
ハーマイオニーもまた、ネビルほどの伸びしろこそなかったが、熱心に練習を繰り返し――練習相手のロンが音を上げると、ネビルと交代でサクヤを相手に――ハリーが教える全ての呪文を順調にマスターしていった。

「閉心術」で、ネビルがDAで見せるほどの進歩を遂げられたら、どんなにありがたいかとハリーは思った。
滑り出しから躓いていたスネイプとの授業は、さっぱり進歩がなかった。むしろ、毎回だんだん下手になるような気がした。

「開心術」を学びはじめるまでは、額の傷がちくちく痛むといっても時々だったし、たいていは夜だった。あるいは、ヴォルデモートの考えていることや気分が時折パッと閃くという奇妙な経験のあとに痛んだ。
ところがこのごろは、ほとんど絶え間なくちくちく痛み、ある時点でハリーの身に起こっていることとは無関係に、頻繁に感情が揺れ動き、イライラしたり楽しくなったりした。そういうときには必ず傷痕に激痛が走った。
なんだか徐々に、ヴォルデモートのちょっとした気分の揺れに波長を合わせるアンテナになっていくような気がして、ハリーはぞっとした。
こんなに感覚が鋭くなったのは、スネイプとの最初の「閉心術」の授業からだったのは間違いない。
おまけに、毎晩のように、「神秘部」の入口に続く廊下を歩く夢を見るようになっていた。夢はいつも、真っ黒な扉の前で何かを渇望しながら立ち尽くすところで頂点に達するのだった。

「たぶん病気の場合とおんなじじゃないかしら」

ハリーがサクヤとハーマイオニー、ロンに打ち明けると、ハーマイオニーが心配そうに言った。

「熱が出たりなんかするじゃない。病気はいったん悪くなってから良くなるのよ」

「スネイプとの練習のせいでひどくなってるんだ」

ハリーはきっぱりと言った。

「傷痕の痛みはもうたくさんだ。毎晩あの廊下を歩くのは、もううんざりしてきた」

ハリーはいまいましげに額をごしごし擦った。

「あの扉が開いてくれたらなあ。
扉を見つめて立っているのはもういやだ――」

「つらいのもよく分かるけど、それは冗談でも言うことじゃない」

サクヤが口を開いた。

「ハリーがその夢を見てるときや、気持ちが勝手に揺れ動いてるときってのは、きっと、オレにも感覚が伝わってきてる。『あ、今きっと感じ取ってるな』って思うタイミングがあるんだ。
扉が開いてほしいっていう願望も、ヴォルデモートがそう強く願ってるだけにすぎない――」

ロンがもぞもぞと居心地悪そうに動いたのを、ハーマイオニーが煩わしそうに一瞥した。

「ダンブルドアは、ハリーに廊下の夢なんか見ないでほしいのよ。
そうじゃなきゃ、スネイプに『閉心術』を教えるように頼んだりしないわ。あなた、もう少し一生懸命練習しなきゃ」

「ちゃんとやってるよ!」

ハリーは苛立った。

「君も一度やってみろよ――スネイプが頭の中に入り込もうとするんだ――楽しくてしょうがないってわけにはいかないだろ!」

「もしかしたら……」

ロンがゆっくりと言った。

「もしかしたらなんなの?」

ハーマイオニーがちょっと噛みつくように言った。

「ハリーが心を閉じられないのは、ハリーのせいじゃないかもしれない」

ロンが暗い声で言った。

「どういう意味?」

サクヤが聞いた。

「うーん。
スネイプが、もしかしたら、本気でハリーを助けようとしていないんじゃないかって……」

ハリー、サクヤ、ハーマイオニーはロンを見つめた。
ロンは意味ありげな沈んだ目で、3人の顔を順番に見た。

「もしかしたら」

ロンがまた低い声で言った。

「ほんとは、あいつ、ハリーの心をもう少し開こうとしてるんじゃないかな……そのほうが好都合だもの、『例のあの――』」

「やめてよ」

ハーマイオニーが怒った。
サクヤも真剣に聞いて損した、と言いたげに椅子の背にもたれ掛かった。

「ロンったら、何度スネイプを疑えば気がすむの?
それが一度でも正しかったことがある?ダンブルドアはスネイプを信じていらっしゃるし、スネイプは騎士団のために働いている。それで十分なはずよ」

「あいつ、死喰い人だったんだぜ」

ロンが言い張った。

「それに、本当にこっちの味方になったっていう証拠を見たことがないじゃないか」

「オーケー。
ロン、その理由でスネイプ先生を信じられないなら、オレのことも信用ならないってわけだな?」

サクヤが片眉を吊り上げてロンをじっと見つめた。
射抜かれたロンは、もごもごと歯切れが悪くなったが、なんとか言葉を見つけて言い返した。

「サクヤは、だって……ほら、もともと僕らと一緒にいたんだ。もともと、こっち側なんだ。信用ならないなんて、そんなわけないだろ。
それに、サクヤは無理やり『印』をつけられたけど、スネイプは自分の意志で『印』をつけに行った。この違いって大きいだろ?」

「でも、今は自分の意志で戻ってきて、危険を冒してまで騎士団として活動してる。この事実も大きいと思うけど?」

サクヤはまた夏休みの出来事を思い出していた。
本当にスネイプが闇の陣営側の魔法使いであれば、あの見知らぬ館でヴォルデモートの目と鼻の先から自分を救ってはくれなかっただろう。

「何より、ダンブルドアが信用しています」

ハーマイオニーがきっぱりと割り込んだ。

「ダンブルドアを信じられないなら、私たち、誰も信じられないわ」




_

( 160/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -