The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーの疑問に対する答えは、早速次の日に出た。
配達された「日刊予言者新聞」を広げてサクヤと一緒に一面を見ていたハーマイオニーが、急に悲鳴をあげ、周りのみんなが何事かと振り返って見つめた。

「どうした?」

ハリーとロンが同時に聞いた。
悲鳴こそあげなかったものの、食い入るように記事を読んでいたサクヤが、答えの代わりに、新聞を2人の前のテーブルに広げ、一面べったりに載っている10枚の白黒写真を指差した。
魔法使い9人と、10人目は魔女だ。何人かは黙って嘲り笑いを浮かべ、他は傲慢な表情で、写真の枠を指でトントン叩いている。
1枚1枚に名前とアズカバン送りになった罪名が書いてあった。

アントニン·ドロホフ
面長で捻じ曲がった顔の、青白い魔法使いの名前だ。ハリーを見上げて笑っている。
ギデオンならびにファビアン·プルウェットを惨殺した罪、と書いてある。
オーガスタス·ルックウッド
痘痕面の脂っこい髪の魔法使いは、退屈そうに写真の縁に寄り掛かっている。
魔法省の秘密を「名前を呼んではいけないあの人」に漏洩した罪、とある。

ハリーの目は、それよりも、ただ1人の魔女に引きつけられていた。一面を覗いたとたん、その魔女の顔が目に飛び込んできたのだ。
写真では、長い黒髪に櫛も入れず、ばらばらに広がっていたが、ハリーはそれが滑らかで、ふさふさと輝いているのを見たことがあった。
写真の魔女は、腫れぼったい瞼の下からハリーをぎろりと睨んだ。唇の薄い口元に、人を軽蔑したような尊大な笑いを漂わせている。
シリウスと同様、この魔女も、すばらしく整っていたであろう昔の顔立ちの名残を留めていた。
しかし、何かが――おそらくアズカバンが――その美しさのほとんどを奪い去っていた。

ベラトリックス·レストレンジ
フランクならびにアリス·ロングボトムを拷問し、廃人にした罪

「最悪も最悪だ」

サクヤは写真の上の大見出しを指さして、ハリーの視線を誘導した。ハリーはベラトリックスにばかり気を取られ、まだそれを読んでいなかった。

アズカバンから集団脱獄
魔法省の危惧――かつての死喰い人、ブラックを旗頭に結集か?


「ブラックが?」

ハリーが大声を出した。

「まさかシリ――?」

「シーッ!」

ハーマイオニーが慌てて囁いた。

「そんなに大きな声出さないで――黙って読んで!」


昨夜遅く魔法省が発表したところによれば、アズカバンから集団脱獄があった。
魔法大臣コーネリウス·ファッジは、大臣室で記者団に対し、特別監視下にある10人の囚人が昨夕脱獄したことを確認し、すでにマグルの首相に対し、これら10人が危険人物であることを通告したと語った。
「まことに残念ながら、我々は、2年半前、殺人犯のシリウス·ブラックが脱獄したときと同じ状況に置かれている」ファッジは昨夜このように語った。
「しかも、この2つの脱獄が無関係だとは考えていない。このように大規模な脱獄は、外からの手引きがあったことを示唆しており、歴史上初めてアズカバンを脱獄したブラックこそ、他の囚人がそのあとに続く手助けをするにはもってこいの立場にあることを、我々は思い出さなければならない。
我々は、ブラックの従姉であるベラトリックス·レストレンジを含むこれらの脱獄囚が、ブラックを指導者として集結したのではないかと考えている。
しかし、我々は、罪人を一網打尽にすべく全力を尽くしているので、魔法界の諸君が警戒と用心をおさおさ怠らぬよう切にお願いする。どのようなことがあっても、決してこれらの罪人たちには近づかぬよう」


「旗頭ねぇ……」

この夏に、ヴォルデモートから「旗印」と言われたことを思い出していたサクヤが、無意識に左腕をさすりながら静かに呟いた。

「おい、これだよ、ハリー」

ロンは恐れ入ったように言った。

「昨日の夜、『あの人』が喜んでたのは、これだったんだ」

「こんなの、とんでもないよ」

ハリーが唸った。

「ファッジのやつ、脱獄はシリウスのせいだって?」

「ほかに何と言える?」

ハーマイオニーが苦々しげに言った。

「とても言えないわよ。
『皆さん、すみません。ダンブルドアがこういう事態を私に警告していたのですが、アズカバンの看守がヴォルデモート卿一味に加担し』なんて――ロン、そんな哀れっぽい声をあげないでよ――『いまや、ヴォルデモートを支持する最悪の者たちも脱獄してしまいました』なんて言えないでしょ。
だって、ファッジは、ゆうに6ヵ月以上、みんなに向かって、あなたたちやダンブルドアを嘘つき呼ばわりしてきたじゃない?」

ハーマイオニーは勢いよく新聞を捲り、中の記事を読みはじめた。
ハリーは、大広間を見回した。
一面記事でこんな恐ろしいニュースがあるのに、他の生徒たちはどうして平気な顔でいられるんだろう。少なくともなぜ、話題にしないんだろう。ハリーには理解できなかった。
もっとも、ハーマイオニーのように毎日新聞を取っている生徒はほとんどいない。宿題やクィディッチなど、くだらない話をしているだけだ。
この城壁の外では、10人もの死喰い人がヴォルデモートの陣営に加わったというのに。

ハリーは教職員テーブルに目を走らせた。そこは様子が違っていた。
ダンブルドアとマクゴナガル先生が、深刻な表情で話し込んでいる。
スプラウト先生はケチャップの瓶に「日刊予言者」を立て掛け、食い入るように読んでいた。
手にしたスプーンが止まったままで、そこから半熟卵の黄身がポタポタと膝に落ちるのにも気づいていない。
一方、テーブルの一番端では、アンブリッジ先生がオートミールを旺盛に掻っ込んでいた。
ガマガエルのようなぽってりした目が、いつもなら行儀の悪い生徒はいないかと大広間を舐め回しているのに、今日だけは違った。
食べ物を飲み込むたびにしかめっ面をして、ときどきテーブルの中央をちらりと見ては、ダンブルドアとマクゴナガルが話し込んでいる様子に毒々しい視線を投げかけていた。

「まあ、なんて――」

ハーマイオニーが新聞から目を離さずに、不思議そうな声で言った。

「まだあるのか?」

ハリーはすぐ聞き返した。神経がピリピリしていた。

「これって……ひどいわ

ハーマイオニーはショックを受けていた。
十面を折り返し、サクヤ、ハリー、ロンに新聞を渡した。

魔法省の役人、非業の死

魔法省の役人であるブロデリック·ボード(49)が、鉢植え植物に首を絞められて、ベッドで死亡しているのが見つかった事件で、聖マンゴ病院は、昨夜、徹底的な調査をすると約束した。
現場に駆けつけた癒者たちは、ボード氏を蘇生させることができなかった。
ボード氏は死の数週間前に職場の事故で負傷し、入院中だった。

事故当時、ボード氏の病棟担当だった癒者のミリアム·ストラウトは、戒告処分となり、昨日はコメントを得ることができなかった。
しかし、病院の報道官は次のような声明を出した。
「聖マンゴはボード氏の死を心からお悔やみ申し上げます。この悲惨な事故が起こるまで、氏は順調に健康を回復してきていました。
我々は、病棟の飾りつけに関して、厳しい基準を定めておりますが、ストラウト癒師は、クリスマスの忙しさに、ボード氏のベッド脇のテーブルに置かれた植物の危険性を見落としたものと見られます。
ボード氏は、言語並びに運動能力が改善していたため、ストラウト癒師は、植物が無害な「ひらひら花」ではなく、「悪魔の罠」の切り枝だったとは気づかず、ボード氏自身が世話をするよう勧めました。
植物は、快方に向かっていたボード氏が触れた途端、たちまち氏を絞め殺しました。
聖マンゴでは、この植物が病棟に持ち込まれたことについて、いまだに事態が解明できておらず、すべての魔法使い魔女に対し、情報提供を呼びかけています」


「ボード……」

ロンが口を開いた。

ボードか。聞いたことがあるな……」

「私たち、この人に会ってるわ」

ハーマイオニーが囁いた。

「聖マンゴで。覚えてる?
ロックハートの反対側のベッドで、横になったままで天井を見つめていたわ。
それに、『悪魔の罠』が着いたとき、私たち目撃してる。
あの魔女が――あの癒者の――クリスマス·プレゼントだって言ってたわ」

ハリーはもう一度記事を見た。
恐怖感が、苦い胆汁のように喉に込み上げてきた。

「僕たち、どうして『悪魔の罠』だって気づかなかったんだろう?
サクヤはまだしも、僕らは前に一度見てるのに……こんな事件、僕たちが防げたかもしれないのに」

「いや、オレも『悪魔の罠』は知識として知ってた――知ってたからこそ、本当に、あのときに防ぐべきだった……」

サクヤは額に手を当てて項垂れた。

「『悪魔の罠』が鉢植えになりすまして、病院に現れるなんて、誰が予想できる?」

ロンがきっぱり言った。

「僕たちの責任じゃない。
誰だか知らないけど、送ってきたやつが悪いんだ!
自分が何を買ったのかよく確かめもしないなんて、まったく、馬鹿じゃないか?」

「まあ、ロン、しっかりしてよ!」

ハーマイオニーが身震いした。

「『悪魔の罠』を鉢植えにしておいて、触れるものを誰彼かまわず絞め殺すとは思わなかった、なんていう人がいると思う?
これは――殺人よ……しかも巧妙な手口の……鉢植えの贈り主が匿名だったら、誰がやったかなんて、絶対わかりっこないでしょう?」

ハリーは「悪魔の罠」のことを考えてはいなかった。
尋問の日に、エレベーターで地下9階まで下りたときのことを思い出していた。
あのとき、アトリウムの階から乗り込んできた、土気色の顔の魔法使いがいた。

「僕、ボードに会ってる」

ハリーはゆっくりと言った。

「君のパパと一緒に、魔法省でボードを見たよ」

ロンがあっと口を開けた。

「僕、パパが家でボードのことを話すのを聞いたことがある。『無言者』だって――『神秘部』に勤めてたんだ!」

4人は一瞬顔を見合わせた。
それから、ハーマイオニーが新聞を自分のほうに引き寄せて畳み直し、一面の10人の脱走した死喰い人たちの写真を一瞬睨みつけたが、やがて勢いよく立ち上がった。

「どこに行く気だ?」

ロンがびっくりした。

「手紙を出しに」

ハーマイオニーは鞄を肩に放り上げながら言った。

「これって……うーん、どうかわからないけど……でも、やってみる価値はあるわね。
それに、私にしかできないことだわ、きっと。
サクヤ、向かいながら相談したいから、一緒に来てくれる?」

「わかった」

サクヤも真剣な表情をしたまま、鞄を引っ掴んで立ち上がった。

「まーたこれだ、いやな感じ」

ハリーと2人でテーブルから立ち上がり、ハーマイオニーやサクヤよりはゆっくりと大広間を出ながら、ロンがぶつくさ言った。

「いったい何をやるつもりなのか、一度ぐらい僕らにも教えてくれたっていいじゃないか?大した手間じゃなし。10秒もかからないのにさ。――やあ、ハグリッド!」

ハグリッドが大広間の出口の扉の脇に立って、レイブンクロー生の群れが通り過ぎるのをやり過ごしていた。
いまだに、巨人のところへの使いから戻った当日と同じぐらい、ひどい怪我をしている。しかも鼻っ柱を一文字に横切る生々しい傷があった。

「2人とも、元気か?」

ハグリッドはなんとか笑って見せようとしたが、せいぜい痛そうに顔をしかめたようにしか見えなかった。

「ハグリッド、大丈夫かい?」

レイブンクロー生のあとからドシンドシンと歩いていくハグリッドを追って、ハリーが聞いた。

「大丈夫だ、だいじょぶだ」

ハグリッドは何でもない風を装ったが、見え透いていた。
片手を気軽に振ったつもりが、通りがかったベクトル先生を掠め、危うく脳震盪を起こさせるところだった。先生は肝を冷やした顔をした。

「ほれ、ちょいと忙しくてな。いつものやつだ――授業の準備――サラマンダーが数匹、鱗が腐ってな――それと、停職執行猶予中になった」

ハグリッドが口ごもった。

執行猶予だって?

ロンが大声を出したので、通りがかった生徒が何事かと振り返った。

「ごめん――いや、あの――執行猶予だって?」

ロンが声を落とした。

「ああ」

ハグリッドが答えた。

「ほんと言うと、こんなことになるんじゃねえかと思っちょった。
おまえさんたちにゃわからんかったかもしれんが、あの査察は、ほれ、あんまりうまくいかんかった……まあ、とにかく」

ハグリッドは深いため息をついた。

「サラマンダーに、もうちぃと粉トウガラシを摺り込んでやらねえと、こん次は尻尾がちょん切れっちまう。そんじゃな、ハリー……ロン……」

ハグリッドは玄関の扉を出て、石段を下り、じめじめした校庭を重い足取りで去っていった。
これ以上、あとどれだけ多くの悪い知らせに耐えていけるだろうかと訝りながら、ハリーはその後ろ姿を見送った。




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