The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




キッチンではムーディが魔法の目を元に戻していた。
洗った目が高速で回転し、見ていたハリーは眩暈がした。
キングズリー・シャックルボルトとスタージス・ポドモアは電子レンジを調べ、ヘスチア・ジョーンズは引き出しを引っ掻き回しているうちに見つけたジャガイモの皮むき器を見て笑っていた。
ルーピンはダーズリー一家に宛てた手紙に封をしていた。

「よし」

トンクスとハリーが入ってくるのを見て、ルーピンが言った。

「あと約1分だと思う。庭に出て待っていたほうがいいかもしれないな。
ハリー、叔父さんと叔母さんに、心配しないように手紙を残したから――」

「心配しないよ」

ハリーが言った。

「――君は安全だと――」

「みんながっかりするだけだよ」

「――そして、君がまた来年の夏休みに帰ってくるって」

「そうしなきゃいけない?」

ルーピンは微笑んだが、何も答えなかった。

「おい、こっちへ来るんだ」

ムーディが杖でハリーを招きながら、乱暴に言った。

「おまえに『目くらまし』をかけないといかん」

「何をしなきゃって?」

ハリーが心配そうに聞いた。

「『目くらまし術』だ」

ムーディが杖を上げた。

「ルーピンが、おまえには透明マントがあると言っておったが、飛ぶときはマントが脱げてしまうだろう。
こっちのほうがうまく隠してくれる。それ――」

ムーディがハリーの頭のてっぺんをコツンと叩くと、ハリーはまるでムーディがそこで卵を割ったような奇妙な感覚を覚えた。
杖で触れたところから、身体全体に冷たいものがトロトロと流れていくようだった。

「うまいわ、マッド-アイ」

トンクスがハリーの腹のあたりを見つめながら感心した。
ハリーは自分の身体を見下ろした。いや、身体だったところを見下ろした。
もうとても自分の身体には見えなかった。
透明になったわけではない。
ただ、自分の後ろにあるユニット・キッチンと同じ色、同じ質感になっていた。
人間カメレオンになったようだ。

「行こう」

ムーディは裏庭へのドアの鍵を杖で開けた。
全員が、バーノン叔父さんが見事に手入れした芝生に出た。

「明るい夜だ」

魔法の目で空を入念に調べながら、ムーディが呻いた。

「もう少し雲で覆われていればよかったのだが。よし、おまえ」

ムーディが大声でハリーを呼んだ。

「わしらはきっちり隊列を組んで飛ぶ。
トンクスはおまえの真ん前だ。しっかりあとに続け。
ルーピンはおまえの下をカバーする。わしは背後にいる。
ほかの者はわしらの周囲を旋回する。
何事があっても隊列を崩すな。わかったか?誰か1人が殺されても――」

「そんなことがあるの?」

ハリーが心配そうに聞いたが、ムーディは無視した。

「――ほかの者は飛び続ける。止まるな。列を崩すな。
もし、やつらがわしらを全滅させておまえが生き残ったら、ハリー、後発隊が控えている。東に飛び続けるのだ。
そうすれば後発隊が来る」

「そんなに威勢のいいこと言わないでよ、マッド-アイ。
それじゃハリーが、わたしたちが真剣にやってないみたいに思うじゃない」

トンクスが、自分のからぶら下がっている固定装置に、ハリーのトランクとヘドウィグの籠を括りつけながら言った。

「わしは、この子に計画を話していただけだ」

ムーディが唸った。

「わしらの仕事はこの子を無事本部へ送り届けることであり、もしわしらが使命途上で殉職しても」

「誰も死にはしませんよ」

キングズリー・シャックルボルトが、人を落ち着かせる深い声で言った。

「箒に乗れ。最初の合図が上がった!」

ルーピンが空を指した。
ずっとずっと高い空に、星に交じって、明るい真っ赤な火花が噴水のように上がっていた。
それが杖から出る火花だと、ハリーにはすぐわかった。
ハリーは右足を振り上げてファイアボルトに跨り、しっかりと柄を握った。
柄が微かに震えるのを感じた。
また空に飛び立てるのを、ハリーと同じく待ち望んでいるかのようだった。

「第二の合図だ。出発!」

ルーピンが大声で号令した。今度は緑の火花が真上に高々と噴き上げていた。
ハリーは地面を強く願った。冷たい夜風が髪をなぶった。
プリベット通りのこぎれいな四角い庭々がどんどん遠退き、たちまち縮んで暗い緑と黒のまだら模様になった。
魔法省の尋問など、まるで風が吹き飛ばしてしまったかのように跡形もなく頭から吹っ飛んだ。
ハリーは、うれしさに心臓が爆発しそうだった。
また飛んでいるんだ。
夏じゅう胸に思い描いていたように、プリベット通りを離れて飛んでいるんだ。
家に帰るんだ……このわずかな瞬間、この輝かしい瞬間、ハリーの抱えていた問題は無になり、この広大な星空の中では取るに足らないものになっていた。

「左に切れ。左に切れ。マグルが見上げておる!」

ハリーの背後からムーディが叫んだ。
トンクスが左に急旋回し、ハリーも続いた。
トンクスの箒の下で、トランクが大きく揺れるのが見えた。

「もっと高度を上げねば……400mほど上げろ!」

上昇するときの冷気で、ハリーは目が潤んだ。
眼下にはもう何も見えない。
車のヘッドライトや街灯の明かりが、針の先で突ついたように点々と見えるだけだった。
その小さな点のうちの2つが、バーノン叔父さんの車のものかもしれない……ダーズリー一家がありもしない芝生コンテストに怒り狂って、いまごろ空っぽの家に向かう途中だろう……そう思うとハリーは大声で笑った。
しかしその声は、他の音に呑み込まれてしまった――みんなのローブがはためく音、トランクと鳥籠を括りつけた器具の軋む音、空中を疾走する耳元でシューッと風を切る音。
この1ヶ月、ハリーはこんなに生きていると感じたことはなかった。こんなに幸せだったことはなかった。

「南に進路を取れ!」

マッド-アイが叫んだ。

「前方に町!」

一行は右に上昇し、蜘蛛の巣状に輝く光の真上を飛ぶのを避けた。

「南東を指せ。そして上昇を続けろ。
前方に低い雲がある。その中に隠れるぞ!」

ムーディが号令した。

「雲の中は通らないわよ!」

トンクスが怒ったように叫んだ。

「ぐしょ濡れになっちゃうじゃない、マッド-アイ!」

ハリーはそれを聞いてほっとした。
ファイアボルトの柄を握った手がかじかんできていた。
オーバーを着てくればよかったと思った。ハリーは震えはじめていた。

一行はマッド-アイの指令に従って、時々コースを変えた。
氷のような風を避けて、ハリーは目をぎゅっと細めていた。耳も痛くなってきた。
箒に乗っていて、こんなに冷たく感じたのはこれまでたった一度だけだ。
3年生のときの対ハッフルパフ戦のクィディッチで、嵐の中の試合だった。
護衛隊はハリーの周りを、巨大な猛禽類のように絶え間なく旋回していた。
ハリーは時間の感覚がなくなっていた。もうどのくらい飛んでいるのだろう。
少なくとも1時間は過ぎたような気がする。

「南西に進路を取れ!」

ムーディが叫んだ。

「高速道路を避けるんだ!」

身体が冷え切って、ハリーは、眼下を走る車の心地よい乾いた空間を羨ましく思った。
もっと懐かしく思ったのは、煙突飛行粉の旅だ。
暖炉の中をくるくる回転して移動するのは快適ではないかもしれないが、少なくとも炎の中は暖かい……キングズリー・シャックルボルトが、ハリーの周りをバサーッと旋回した。
禿頭とイヤリングが月明かりに微かに光った……今度はエメリーン・バンスがハリーの右側に来た。
杖を構え、左右を見回している……それからハリーの上を飛び越し、スタージス・ポドモアと交代した……。

「少し後戻りするぞ。跡を追けられていないかどうか確かめるのだ!」

ムーディが叫んだ。

マッド-アイ、気は確か?

トンクスが前方で悲鳴をあげた。

「みんな箒に凍りついちゃってるのよ!
こんなにコースを外れてばかりいたら、来週まで目的地には着かないわ!もう、すぐそこじゃない!」

「下降開始の時間だ!」

ルーピンの声が聞こえた。

「トンクスに続け、ハリー!」

ハリーはトンクスに続いて急降下した。一行は、ハリーがいままで見てきた中でも最大の光の集団に向かっていた。
縦横無尽に広がる光の線。
そのところどころに真っ黒な部分が点在している。
下へ下へ、一行は飛んだ。
ついにハリーの目に、ヘッドライトや街灯、煙突やテレビのアンテナの見分けがつくところまで降りてきた。
ハリーは早く地上に着きたかった。
ただし、きっと、箒に凍りついたハリーを、誰かが解凍しなければならないだろう。

「さあ、着陸!」

トンクスが叫んだ。
数秒後、トンクスが着地した。
そのすぐあとからハリーが着地し、小さな広場のぼさぼさの芝生の上に降り立った。
トンクスはもうハリーのトランクを外しにかかっていた。寒さに震えながら、ハリーはあたりを見回した。
周囲の家々の媒けた玄関は、あまり歓迎ムードには見えなかった。
あちこちの家の割れた窓ガラスが、街灯の明かりを受けて鈍い光を放っていた。
ペンキが剥げかけたドアが多く、何軒かの玄関先には階段下にゴミが積み上げられたままだ。

「ここはどこ?」

ハリーの問いかけに、ルーピンは答えず、小声で「あとで」と言った。
ムーディは節くれだった手がかじかんでうまく動かず、マントの中をゴソゴソ探っていた。

「あった」

ムーディはそう呟くと、銀のライターのようなものを掲げ、カチッと鳴らした。一番近くの街灯が、ポンと消えた。
ムーディはもう一度ライターを鳴らした。次の街灯が消えた。
広場の街灯が全部消えるまで、ムーディはカチッを繰り返した。
そして残る明かりは、カーテンから漏れる窓明かりと頭上の三日月だけになった。

「ダンブルドアから借りた」

ムーディは「灯消しライター」をポケットにしまいながら唸るように言った。

「これで、窓からマグルが覗いても大丈夫だろうが?さあ、行くぞ、急げ」

ムーディはハリーの腕をつかみ、芝生から道路を横切り、歩道へと引っ張っていった。
ルーピンとトンクスが、2人でハリーのトランクを持って続いた。
他の護衛は全員杖を掲げ、4人の脇を固めた。

一番近くの家の2階の窓から、押し殺したようなステレオの響きが聞こえてきた。
壊れた門の内側に置かれた、ぱんぱんに膨れたゴミ袋の山から漂う腐ったゴミの臭気がつんと鼻を突いた。

「ほれ」

ムーディはそう呟くと、「目くらまし」がかかったままのハリーの手に、1枚の羊皮紙を押しつけた。
そして自分の杖明かりを羊皮紙のそばに掲げ、その照明で読めるようにした。

「急いで読め、そして覚えてしまえ」

ハリーは羊皮紙を見た。
縦長の文字はなんとなく見覚えがあった。こう書かれている。



不死鳥の騎士団の本部は、ロンドン グリモールド・プレイス 12番地に存在する。





>>To be continued

( 15/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -