The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「
わかった!わかったぞ!」
ハリーはまたしても、スネイプの研究室の床に四つん這いになっていた。傷痕にちくちくといやな痛みを感じていた。
しかし、口を衝いて出た声は、勝ち誇っていた。
再び身を起こしてスネイプを見ると、杖を上げたままハリーをじっと見つめていた。
今度は、どうやらスネイプのほうが、ハリーがまだ抗いもしないうちに術を解いたらしい。
「ポッター、何があったのだ?」
スネイプは意味ありげな目つきでハリーを見た。
「わかった――思い出したんだ」
ハリーが喘ぎ喘ぎ言った。
「いま気づいた……」
「何を?」
スネイプが鋭く詰問した。
ハリーはすぐには答えなかった。額を擦りながら、ついにわかったという
目眩めくような瞬間を味わっていた。
この数ヵ月間、ハリーは突き当たりに鍵の掛かった扉がある、窓のない廊下の夢を見てきたが、それが現実の場所だとは一度も気づかなかった。
記憶をもう一度見せられたいま、ハリーは、夢に見続けたあの廊下が、どこだったのかがわかった。
8月12日、魔法省の裁判所に急ぐのに、おじさんと一緒に走ったあの廊下だ。「神秘部」に通じる廊下だった。
ウィーズリーおじさんは、ヴォルデモートの蛇に襲われた夜、あそこにいたのだ。
ハリーはスネイプを見上げた。
「『神秘部』には何があるんですか?」
「何と言った?」
スネイプが低い声で言った。
なんとうれしいことに、スネイプがうろたえているのがわかった。
「『神秘部』には何があるんですか、と言いました。
先生?」
「なにゆえ」
スネイプがゆっくりと言った。
「そんなことを聞くのだ?」
「それは」
ハリーはスネイプの反応をじっと見ながら言った。
「いま僕が見たあの廊下は――ここ何ヵ月も僕の夢に出てきた廊下です――それがたったいま、わかったんです。
あれは、『神秘部』に続く廊下です……そして、たぶんヴォルデモートの望みは、そこから何かを――」
「
闇の帝王の名前を言うなと言ったはずだ!」
2人は睨み合った。
ハリーの傷痕がまた焼けるように痛んだ。しかし気にならなかった。
スネイプは動揺しているようだった。
しかし、再び口を開いたスネイプは、努めて冷静に、無関心を装っているような声で言った。
「ポッター、『神秘部』にはさまざまな物がある。
君に理解できるような物はほとんどないし、また関係のある物は皆無だ。これで、わかったか?」
「はい」
ハリーは痛みの増してきた傷痕を擦りながら答えた。
「水曜の同時刻に、またここに来るのだ。続きはそのときに行う」
「わかりました」
ハリーは早くスネイプの部屋を出て、サクヤやロン、ハーマイオニーを探したくてうずうずしていた。
「毎晩寝る前、心からすべての感情を取り去るのだ。心を空にし、無にし、平静にするのだ。わかったな?」
「はい」
ハリーはほとんど聞いていなかった。
「警告しておくが、ポッター……。訓練を怠れば、我輩の知るところとなるぞ……」
「ええ」
ハリーはボソボソ言った。
鞄を取り、肩に引っ掛け、ハリーはドアへと急いだ。
ドアを開けるとき、ちらりと後ろを振り返ると、スネイプはハリーに背を向け、杖先で「憂いの篩」から自分の思いをすくい上げ、注意深く自分の頭に戻していた。
ハリーは、それ以上何も言わず、ドアをそっと閉めた。傷痕はまだズキズキと痛んでいた。
ハリーは図書室でサクヤとロン、ハーマイオニーの3人を見つけた。アンブリッジが一番最近出した山のような宿題に取り組んでいる。
他の生徒たちも、ほとんどが5年生だったが、近くの机でランプの灯りを頼りに、本にかじりついて夢中で羽根ペンを走らせていた。
格子窓から見える空は、刻々と暗くなっていた。
他に聞こえる音と言えば、司書のマダム・ピンスが、自分の大切な書籍に触る者をしつこく監視し、脅すように通路を往き来する微かな靴音だけだった。
しかし、先日まで行われていたサクヤの特訓と比べてずいぶんと早く切り上げられたものだとハリーは思った。
ハリーのなかでは、彼女の特訓も同じ「閉心術」だというほとんど確信に近いものがあった。
けれど、彼女のときは外出が許可されている時間ぎりぎりまで特訓が続けられていた。
ハリーもスネイプも、お互いを忌み嫌い合っていることは分かりきっているが、その上で、あの「神秘部」についての質問が特訓を切り上げさせるほど効いたのかもしれないと思うと、真相に迫れた気がしていい気分になった。
だが、ハリーは気分と裏腹な寒気を覚えた。傷痕がまだ痛み、熱もあるような感じさえした。
ロンの隣、サクヤとハーマイオニーの向かい側に腰掛けたとき、窓に映る自分の顔が見えた。蒼白で、傷痕がいつもよりくっきりと見えるように思えた。
「どうだった?」
ハーマイオニーが心配そうな顔でそっと声をかけた。
「……大丈夫か?」
訓練の内容も大変さも知っているサクヤが、深刻そうにハリーの様子を窺っている。
「うん……大丈夫……なのかな」
またしても傷痕に痛みが走り、顔をしかめながら、ハリーはじりじりしていた。
「ねえ……僕、気がついたことがあるんだ……」
そして、ハリーは、いましがた見たこと、推測したことを3人に話した。
「じゃ……それじゃ、君が言いたいのは……」
マダム・ピンスが微かに靴の軋む音を立てて通り過ぎるあいだ、ロンが小声で言った。
「あの武器が――『例のあの人』が探しているやつが――魔法省の中にあるってこと?」
「『神秘部』の中だ。間違いない」
ハリーが囁いた。
「君のパパが、僕を尋問の法廷に連れていってくれたとき、その扉を見たんだ。
蛇に噛まれたときに、おじさんが護っていたのは、絶対に同じ扉だ」
ハーマイオニーはフーッと長い息を漏らし、溜め息混じりに相槌を打った。
「そうなんだわ」
「何か、繋がった?」
サクヤが先を促すように尋ねた。
「ええ。新聞記事を読んだでしょ?
スタージス・ポドモアは、『魔法省』のどこかの扉から忍び込もうとした……その扉だったに違いないわ。偶然にしてはできすぎだもの!」
「スタージスがなんで忍び込むんだよ。僕たちの味方だろ?」
ロンがちょっとイライラしながら言った。
「さあ、わからないわ」
ハーマイオニーも同意した。
「きっとまだ、何か見えてないことがあるんだ……」
サクヤが唸りながら天井を仰いだ。
「それで、『神秘部』には何があるんだい?」
ハリーがロンに尋ねた。
「君のパパが、何か言ってなかった?」
「そこで働いている連中を『無言者』って呼ぶことは知ってるけど」
ロンが顔をしかめながら言った。
「連中が何をやっているのか、誰も本当のところは知らないみたいだから――武器を置いとくにしては、へんてこな場所だなあ」
「全然へんてこじゃないわ、完全に筋が通ってる」
ハーマイオニーが言った。
「魔法省が開発してきた、何か極秘事項なんだわ、きっと……ハリー、あなた、ほんとうに大丈夫?」
ハリーは、額にアイロンをかけるかのように、両手で強く擦っていた。
「うん……大丈夫……」
ハリーは手を下ろしたが、両手が震えていた。
「ただ、僕、ちょっと……『閉心術』はあんまり好きじゃない」
そう言いながら、ちらりと一瞬だけサクヤに目をやった。
「そりゃ、何度も繰り返して心を攻撃されたら、誰だってちょっとぐらぐらするわよ」
ハーマイオニーが気の毒そうに言った。
「ねえ、談話室に戻りましょう。あそこのほうが少しはゆったりできるわ」
「(ハリーにも、『安らぎの水薬』が必要かも……)」
サクヤは内心でそう思っていた。
_
( 157/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]