The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




しかし、スネイプはただ自分のこめかみの高さに杖を上げ、その先端を脂ぎった髪の生え際に押し当てただけだった。
そこから杖を離すと何か銀色の太い蜘蛛の糸のようなものがこめかみと杖先の間に伸びていた。

杖を糸から引き離すと、それは「憂いの篩」にふわりと落ち、気体とも液体ともつかない銀白色の渦を巻いた。
さらに二度、スネイプはこめかみに杖を当て、銀色の物質を石の水盆に落とした。
それから、ひと言も自分の行動を説明せず、スネイプは「憂いの篩」を慎重に持ち上げて邪魔にならないように棚に片づけ、杖を構えてハリーと向き合った。

「立て、ポッター。そして、杖を取れ」

ハリーは、落ち着かない気持ちで立ち上がった。2人は机を挟んで向かい合った。

「杖を使い、我輩を武装解除するもよし、そのほか、思いつくかぎりの方法で防衛するもよし」

スネイプが言った。

「それで、先生は何をするんですか?」

ハリーはスネイプの杖を不安げに見つめた。

「君の心に押し入ろうとするところだ」

スネイプが静かに言った。

「君がどの程度抵抗できるかやってみよう。君が『服従の呪い』に抵抗する能力を見せたことは聞いている。
これにも同じような力が必要だということがわかるだろう……構えるのだ。いくぞ。レジリメンス!」

ハリーがまだ抵抗力を奮い起こしもせず、準備もできないうちに、スネイプが攻撃した。
目の前の部屋がぐらぐら回り、消えた。
切れ切れの映画のように、画面が次々に心を過ぎった。そのあまりの鮮明さに目が眩み、ハリーはあたりが見えなくなった。

5歳だった。ダドリーが新品の赤い自転車に乗るのを見ている。ハリーの心は羨ましさで張り裂けそうだった……。
9歳だった。ブルドッグのリッパーに追いかけられ、木に登った。ダーズリー親子が下の芝生で笑っている……。
組分け帽子を被って座っている。帽子が、スリザリンならうまくやれるとハリーに言っていた……。
ハーマイオニーが医務室に横たわっている。顔が黒い毛でとっぷりと覆われていた……。
100あまりの吸魂鬼が、暗い湖のそばでハリーに迫ってくる……。
チョウ・チャンが、ヤドリギの下でハリーに近づいてきた……。

だめだ。チョウの記憶がだんだん近づいてくると、ハリーの頭の中で声がした。
見せないぞ。見せるもんか。これは秘密だ――。
ハリーは膝に鋭い痛みを感じた。スネイプの研究室が再び見えてきた。ハリーは床に膝をついている自分に気づいた。
片膝がスネイプの机の脚にぶつかって、ズキズキしていた。
ハリーはスネイプを見上げた。
杖を下ろし、手首を揉んでいた。そこに、焦げたように赤く爛れたミミズ腫れがあった。

「『針刺しの呪い』をかけようとしたのか?」

スネイプが冷たく聞いた。

「いいえ」

ハリーは立ち上がりながら恨めしげに言った。

「違うだろうな」

スネイプは見下すように言った。

「君は我輩を入り込ませすぎた。制御力を失った」

「先生は僕の見たものを全部見たのですか?」

答えを聞きたくないような気持ちで、ハリーが聞いた。

「断片だが」

スネイプはにたりと唇を歪めた。

「あれは誰の犬だ?」

「マージおばさんです」

ハリーがぼそりと言った。スネイプが憎かった。

「初めてにしては、まあ、それほど悪くなかった」

スネイプは再び杖を上げた。

「君は大声をあげて時間とエネルギーを無駄にしたが、最終的にはなんとか我輩を阻止した。
気持ちを集中するのだ。頭で我輩を撥ねつけろ。そうすれば杖に頼る必要はなくなる」

「僕、やってます」

ハリーが怒ったように言った。

「でも、どうやったらいいか、教えてくれないじゃないですか!」

「態度が悪いぞ、ポッター」

スネイプが脅すように言った。

「さあ、目をつむりたまえ」

言われたとおりにする前に、ハリーはスネイプを睨めつけた。
スネイプが杖を持って自分と向き合っているのに、目を閉じてそこに立っているというのは気に入らなかった。

「心を空にするのだ、ポッター」

スネイプの冷たい声がした。

「すべての感情を棄てろ……」

しかし、スネイプへの怒りは、毒のようにハリーの血管をドクンドクンと駆け巡った。
怒りを棄てろだって?両足を取り外すほうがまだ容易い……。

「できていないぞ、ポッター……もっと克己心が必要だ……。集中しろ。さあ……」

ハリーは心を空にしようと努力した。
考えまい、思い出すまい、何も感じまい……。

「もう一度やるぞ……3つ数えて……1――2――3――レジリメンス!」

巨大な黒いドラゴンが、ハリーの前で後脚立ちしている……。
「みぞの鏡」の中から、父親と母親がハリーに手を振っている……。
サクヤの腕に抱かれたセドリック・ディゴリーが地面に横たわり、虚ろに見開いた目でハリーを見つめている……。

いやだぁぁぁあぁあ!!

またしてもハリーは、両手で顔を覆い、両膝をついていた。
誰かが脳みそを頭蓋骨から引っ張り出そうとしたかのような頭痛がした。

「立て!」

スネイプの鋭い声がした。

「立つんだ!やる気がないな。努力していない。自分の恐怖の記憶に、我輩の侵入を許している。我輩に武器を差し出している!」

ハリーは再び立ち上がった。
たったいま、墓場でセドリックの死体を本当に見たかのように、ハリーの心臓は激しく鳴っていた。
スネイプはいつもより蒼ざめ、いっそう怒っているように見えたが、ハリーの怒りには及ばない。

「僕――努力――している」

ハリーは歯を食いしばった。

「感情を無にしろと言ったはずだ!」

「そうですか?それなら、いま、僕にはそれが難しいみたいです」

ハリーは唸るように言った。

「なれば、易々と闇の帝王の餌食になることだろう!」

スネイプは容赦なく言い放った。

「鼻先に誇らしげに心をひけらかす馬鹿者ども。
感情を制御できず、悲しい思い出に浸り、やすやすと挑発される者ども――言うなれば弱虫どもよ――帝王の力の前に、そいつらは何もできぬ!
ポッター、帝王は、易々とおまえの心に侵入するぞ!」

「僕は弱虫じゃない」

ハリーは低い声で言った。
怒りがドクドクと脈打ち、自分はいまにもスネイプを襲いかねないと思った。

「ならば証明してみろ!己を支配するのだ!」

スネイプが吐き出すように言った。

「怒りを制するのだ。心を克せ!もう一度やるぞ!構えろ、いくぞ!レジリメンス!」

ハリーはバーノン叔父さんを見ていた。郵便受けを釘づけにしている……。
百有余の吸魂鬼が、校庭の湖をスルスルと渡って、ハリーのほうにやってくる……。
ハリーはウィーズリーおじさんと窓のない廊下を走っていた……廊下の突き当たりにある真っ黒な扉に、2人はだんだん近づいていく……ハリーはそこを通るのだと思った……。
しかし、ウィーズリーおじさんはハリーを左のほうへと導き、石段を下りていく……。



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