The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




部屋は薄暗く、壁に並んだ棚には、何百というガラス瓶が置かれ、さまざまな色合いの魔法薬に、動物や植物のヌルッとした断片が浮かんでいた。
片隅に、材料がぎっしり入った薬戸棚があった。
スネイプはハリーがその戸棚から盗んだという言いがかりで――いわれのないものではなかったのだが――ハリーを責めたことがある。
しかし、ハリーの気を引いたのは、むしろ机の上にあるルーン文字や記号が刻まれた石の水盆で、蝋燭の光だまりの中に置かれていた。

ハリーにはそれが何かすぐわかった――ダンブルドアの「憂いの篩ペンシーブ」だ。
いったい何のためにここにあるのだろうと訝っていたハリーは、スネイプの冷たい声が薄暗がりの中から聞こえてきて、飛び上がった。

「ドアを閉めるのだ、ポッター」

ハリーは言われたとおりにした。自分自身を牢に閉じ込めたような気がしてぞっとした。
部屋の中に戻ると、スネイプは明るいところに移動していた。
そして机の前にある椅子を黙って指した。ハリーが座り、スネイプも腰を下ろした。
冷たい暗い目が、瞬きもせずハリーを捕らえた。顔の皺の1本1本に嫌悪感が刻まれている。

「さて、ポッター。ここにいる理由はわかっているな」

スネイプが言った。

「『開心術』を君に教えるよう、校長から頼まれた。
我輩としては、君が『魔法薬』より少しはましなところを見せてくれるよう望むばかりだ」

「ええ」

ハリーはぶっきらぼうに答えた。

「ポッター、この授業は、普通とは違うかもしれぬ」

スネイプは憎々しげに目を細めた。

「しかし、我輩が君の教師であることに変わりない。であるから、我輩に対して、必ず『先生』とつけるのだ」

「はい……先生

ハリーが言った。

「さて、『閉心術』だ。
君の大事な名付け親の厨房で言ったように、この分野の術は、外部からの魔法による侵入や影響に対して心を封じる」

「それで、ダンブルドア校長は、どうして僕にそれが必要だと思われるのですか?先生」

ハリーは果たしてスネイプが答えるだろうかと訝りながら、まっすぐにスネイプの目を見た。
スネイプは一瞬ハリーを見つめ返したが、やがてバカにしたように言った。

「君のような者でも、もうわかったのではないかな?ポッター。闇の帝王は『開心術』に長けている――」

「それ、何ですか?先生

「他人の心から感情や記憶を引っ張り出す能力だ――」

「人の心が読めるんですか?」

ハリーが即座に言った。最も恐れていたことが確認されたのだ。

「繊細さの欠片もないな、ポッター」

スネイプの暗い目がギラリと光った。

「微妙な違いが、君には理解できない。
その欠点のせいで、君はなんとも情けない魔法薬作りしかできない」

スネイプはここで一瞬間を置き、言葉を続ける前に、ハリーをいたぶる楽しみを味わっているように見えた。

「『読心術』はマグルの言い種だ。
心は書物ではない。好きなときに開いたり、暇なときに調べたりするものではない。
思考とは、侵入者が誰彼なく一読できるように、頭蓋骨の内側に刻み込まれているようなものではない。
心とは、ポッター、複雑で、重層的なものだ――少なくとも、大多数の心とはそういうものだ」

スネイプがにやりと笑った。

「しかしながら、『開心術』を会得した者は、一定の条件の下で、獲物の心を穿ち、そこに見つけたものを解釈できるというのは本当だ。
たとえば闇の帝王は、誰かが嘘をつくと、ほとんど必ず見破る。
『閉心術』に長けた者だけが、嘘とは裏腹な感情も記憶も閉じ込めることができ、帝王の前で虚偽を口にしても見破られることがない」

スネイプが何と言おうが、ハリーには「開心術」は「読心術」のようなものに思えた。
そして、どうもいやな感じの言葉だ。

「それじゃ、『あの人』は、たったいま僕たちが考えていることがわかるかもしれないんですか?先生」

「闇の帝王は相当遠くにいる。
しかも、ホグワーツの壁も敷地も、古くからのさまざまな呪文で護られているからして、中に住むものの身体ならびに精神的安全が確保されている」

スネイプが言った。

「ポッター、魔法では時間と空間が物を言う。
『開心術』では、往々にして、目を合わせることが重要となる」

「それなら、どうして僕は『開心術』を学ばなければならないんですか?」

スネイプは、唇を長く細い指の1本でなぞりながら、ハリーを意味ありげに見た。

「ポッター、通常の原則はどうやら君には当てはまらぬ。
君を殺し損ねた呪いが、何らかの絆を、おまえと闇の帝王との間に創り出したようだ。
事実の示唆するところによれば、時折、おまえの心が非常に弛緩し、無防備な状態になると――たとえば、眠っているときだが――おまえは闇の帝王と感情、思考を共有する。
校長はこの状態が続くのは芳しくないとお考えだ。我輩に、闇の帝王に対して心を閉じる術を、君へ教えてほしいとのことだ」

ハリーの心臓がまたしても早鐘を打ちはじめた。何もかも、理屈に合わない。

「でも、どうしてダンブルドア先生はそれをやめさせたいんですか?本当にやめさせたいんでしょうか?」

ハリーが唐突に聞いた。

「僕だってこんなの好きじゃない。でも、これまで役に立ったじゃありませんか?
つまり……僕はサクヤと一緒に蛇がウィーズリーおじさんを襲うのを見た。
もし僕たちが見なかったら、ダンブルドア先生はおじさんを助けられなかったでしょう?先生?
それに、ダンブルドア先生が本当にやめさせたいのなら、サクヤも一緒にこの場にいるはずです。なのに今、僕は1人でここにいます」

そこまで言って、ハリーは、はたと気づいた。

「ダンブルドア先生は、あの夢を、サクヤのように覚醒夢みたいに見させたかったのでしょうか?
僕と彼女に違いがあるとしたらそこです。だから、僕だけにこの授業を受けさせている――」

それに、サクヤが受けていたスネイプの訓練の内容も、やっぱりこの「閉心術」のように思えてならなかった。
サクヤはこの技術を使ったから有意識下であの光景を見ることができたんだ。
もしそうだとしたら、なぜサクヤは前もってそんな訓練を受けていたんだ?
サクヤに関する質問を悉くかわされ続けてきたハリーは、この疑問は胸になんとか押しとどめることにした。
これはきっと聞いたって答えてもらえないだろうし、下手に突っついて、もっと奥まで引っ込められてしまったら、より探りようがなくなってしまうように思えた。

スネイプは、相変わらず指を唇に這わせながら、しばらくハリーを見つめていた。
やがて口を開いたスネイプは、ひと言ひと言、言葉の重みを計るかのように、考えながら話した。

「どうやら、ごく最近まで、闇の帝王は君との間の絆には気づいていなかったらしい。
いままでは、君たちが帝王の感情を感じ、帝王の思考を共有したが、帝王のほうはそれに気づかなかった。
しかし、おまえたちがクリスマス直前に見た、あの幻覚は……」

「蛇とウィーズリーおじさんの?」

「口を挟むな、ポッター」

スネイプは険悪な声で言った。

「いま言ったように、君たちがクリスマス直前に見たあの幻覚は、闇の帝王の思考にあまりに強く侵入したということであり――」

「僕らが見たのは蛇の頭の中だ、あの人のじゃない!」

「ポッター、口を挟むなと、いま言ったはずだが?」

しかし、スネイプが怒ろうが、ハリーはどうでもよかった。ついに問題の核心に迫ろうとしているように思えた。
ハリーは座ったままで身を乗り出し、自分でも気づかずに、まるでいまにも飛び立ちそうな緊張した姿勢で、椅子の端に腰掛けていた。

「僕たちが共有しているのがヴォルデモートの考えなら、どうして蛇の目を通して見たんですか?」

闇の帝王の名前を言うな!

スネイプが吐き出すように言った。
いやな沈黙が流れた。2人は「憂いの篩」を挟んで睨み合った。

「ダンブルドア先生は名前を言います」

ハリーが静かに言った。

「ダンブルドアは極めて強力な魔法使いだ」

スネイプが低い声で言った。

あの方なら名前を言っても安心していられるだろうが……その他の者は……」

スネイプは左の肘の下あたりを、どうやら無意識に擦った。
そこには、皮膚に焼きつけられた闇の印があることを、ハリーは知っていた。

「僕はただ、知りたかっただけです」

ハリーは、丁寧な声に戻すように努力した。

「なぜ――」

「君たちは蛇の心に入り込んだ。なぜなら、闇の帝王があのときそこにいたからだ」

スネイプが唸るように言った。

「あのとき、帝王は蛇に取り憑いていた。それで君たちも蛇の中にいる夢を見たのだ」

「それで、ヴォル――あの人は――僕やサクヤがあそこにいたのに気づいた?」

「そうらしい」

スネイプが冷たく言った。

「どうしてそうだとわかるんですか?」

ハリーが急き込んで聞いた。

「ダンブルドア先生がそう思っただけなんですか?それとも――」

「言ったはずだ」

スネイプは姿勢も崩さず、目を糸のように細めて言った。

「我輩を『先生』と呼べと」

「はい、先生」

ハリーは待ちきれない思いで聞いた。

「でも、どうしてそうだとわかるんですか――?」

「そうだとわかっていれば、それでよいのだ」

スネイプが押さえつけるように言った。

「重要なのは、闇の帝王が、自分の思考や感情に君が入り込めるということに、いまや気づいているということだ。
さらに、帝王は、その逆も可能だと推量した。
つまり、逆に帝王が君の思考や感情に入り込める可能性があると気づいてしまった――」

「それで、僕に何かをさせようとするかもしれないんですか?」

ハリーが聞いた。

先生?

ハリーは慌ててつけ加えた。

「そうするかもしれぬ」

スネイプは冷たく、無関心な声で言った。

「でも、それならサクヤも――」

「フェリックスはそれに対抗する手段をすでに持っている
であるから、君はまず自分自身の心配をするべきだと思うが、どうかね?」

「やっぱり、サクヤがやってた特訓も『閉心術』なんですね?」

ハリーは、我慢できずに尋ねた。

「これ以上の質問に我輩が答えられるかどうかは、今後のおまえにかかっている」

スネイプが煩わしそうに答えた。

「分かるな?
闇の帝王が君の思考を読む可能性がある以上、我々は君になにも教えてやることができない。
さあ、『閉心術』に話が戻ってきた」

スネイプはローブのポケットから杖を取り出し、ハリーは座ったままで身を固くした。




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