The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
次の日はほとんど1日中、ハリーはその晩のことを恐れて過ごした。
午前中に2時限続きの「魔法薬」の授業があったが、スネイプはいつもどおりにいやらしく、ハリーの怯えた気持ちを和らげるのにはまったく役に立たなかった。
しかも、DAのメンバーが、授業の合間に廊下で入れ替わり立ち替わりハリーのところにやってきて、今夜会合はないのかと期待を込めて聞くので、ハリーはますます滅入った。
「次の会の日程が決まったら、いつもの方法で知らせるよ」
ハリーは繰り返し同じことを言った。
「だけど、今夜はできない。
僕――えーと――『魔法薬』の補習を受けなくちゃならないんだ」
「君が、
魔法薬の補習?」
玄関ホールで昼食後にハリーを追い詰めたザカリアス・スミスが、バカにしたように聞き返した。
「驚いたな。君、よっぽどひどいんだ。スネイプは普通補習なんてしないだろ?」
こっちがイライラする陽気さで、スミスがすたすた立ち去る後ろ姿を、ロンが睨みつけた。
「呪いをかけてやろうか?ここからならまだ届くぜ」
ロンが杖を上げ、スミスの肩甲骨の間あたりに狙いをつけた。
「ほっとけよ」
ハリーはしょげきって言った。
「みんなきっとそう思うだろ?僕がよっぽどバ――」
「あら、ハリー」
背後で声がした。
振り返ると、そこにチョウが立っていた。
「ああ」
ハリーの胃袋が、気持ちの悪い飛び上がり方をした。
「やあ」
「じゃ、オレたちは図書室に行かなくちゃな」
サクヤがすぐさまそう断ると、ハーマイオニーは「そうだったわね」ときっぱり頷きながら、ロンの肘の上のあたりを引っつかみ、大理石の階段のほうへ引きずっていった。
「クリスマスは楽しかった?」
チョウが聞いた。
「うん、まあまあ」
ハリーが答えた。
「私のほうは静かだったわ」
チョウが言った。
なぜか、チョウはかなりもじもじしていた。
「あの……来月またホグズミード行きがあるわ。掲示を見た?」
「え?あ、いや。帰ってからまだ掲示板を見てない」
「そうなのよ。バレンタインデーにね……」
「そう」
ハリーは、なぜチョウがそんなことを自分に言うのだろうと訝った。
「それじゃ、たぶん君は――」
「あなたがそうしたければだけど」
チョウが熱を込めて言った。ハリーは目を見開いた。
いま言おうとしたのは、「たぶん君は、次のDAの会合がいつなのか知りたいんだろう?」だった。しかし、チョウの受け答えはどうもちぐはぐだ。
「僕――えー――」
「あら、そうしたくないなら、別にいいのよ」
チョウは傷ついたような顔をした。
「気にしないで。私――じゃ、またね」
チョウは行ってしまった。
ハリーはその後ろ姿を見つめ、脳みそを必死で回転させながら突っ立っていた。すると、何かがポンと当てはまった。
「チョウ!おーい――
チョウ!」
ハリーはチョウを追いかけ、大理石の階段の中ほどで追いついた。
「えーと――バレンタインデーに、僕と一緒にホグズミードに行かないか?」
「えぇ、いいわ!」
チョウは真っ赤になってハリーににっこり笑いかけた。
「そう……じゃ……それで決まりだ」
ハリーは今日1日がまったくの無駄ではなかったという気がした。
午後の授業の前に、ロンとサクヤ、ハーマイオニーを迎えに図書室に行くとき、ハリーはほとんど身体が弾んでいた。
しかし、夕方の18時になると、チョウ・チャンに首尾よくデートを申し込んだうれしい輝かしさも、もはや不吉な気持ちを明るくしてはくれなかった。
スネイプの研究室に向かう1歩ごとに、不吉さが募った。
向かう直前、「スネイプ先生の訓練は大変だけど、思ってるほど恐れることじゃないよ」とサクヤが励ましてくれたが、部屋のドアの前に辿り着いたハリーにとっては、最早ひと欠片の信憑性もないなと感じた。
ドアの前に立ち止まり、ハリーは、この部屋以外ならどこだって行くのにと思った。
それから深呼吸して、ドアをノックし、ハリーは部屋に入った。
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