The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




クリーチャーが屋根裏部屋に潜んでいたことは、あとでわかった。シリウスが、そこで埃まみれになっているクリーチャーを見つけたと言った。
ブラック家の形見の品を探して、もっと自分の巣穴に持ち込もうとしていたに違いないと言うのだ。

シリウスはこの筋書きで満足していたが、ハリーは落ち着かなかった。
再び姿を現したクリーチャーは、なんだか前より機嫌がよいように見えた。辛辣なブツブツが少し治まり、いつもより従順に命令に従った。
しかし、ハリーは、一度か二度、この屋敷しもべ妖精が自分を熱っぽく見つめているのに気づいた。
ハリーに気づかれているとわかると、クリーチャーはいつも素早く目を逸らすのだった。

ハリーは、このもやもやした疑惑を、クリスマスが終わって急激に元気をなくしているシリウスには言わなかった。
ホグワーツへの出発の日が近づいてくるにつれ、シリウスはますます不機嫌になっていた。
ウィーズリーおばさんが「むっつり発作」と呼んでいるものが始まると、シリウスは無口で気難しくなり、しばしばバックビークの部屋に何時間も引きこもっていた。
シリウスの憂鬱が、毒ガスのようにドアの下から滲み出し、館中に拡散して全員が感染した。

ハリーは、シリウスをまた、クリーチャーと2人きりで残していきたくなかった。
事実、ハリーは、こんなことは初めてだったが、ホグワーツに帰りたいという気持ちになれなかった。
学校に帰るということは、またドローレス・アンブリッジの圧政の下に置かれることになるのだ。
みんなのいない間にアンブリッジはまたしても、10以上の省令を強行したに違いない。
ハリーはクィディッチを禁じられているので、その楽しみもない。
試験がますます近づいているので、宿題の負担が重くなることは目に見えているし、ダンブルドアは相変わらずよそよそしい。
実際、DAのことさえなければ、ホグワーツを退学させて、グリモールド・プレイスに置いてほしいと、シリウスに頼み込もうかとさえ思った。

そして、休暇最後の日に、学校に帰るのが本当に恐ろしいと思わせる出来事が起こった。

「ハリー」

ウィーズリーおばさんが、ロンとの2人部屋のドアから顔を覗かせた。
ちょうど2人で魔法チェスをしているところで、サクヤ、ハーマイオニー、ジニー、クルックシャンクスは観戦していた。

「キッチンに下りてきてくれる?スネイプ先生がお話があるんですって」

ハリーは、おばさんの言ったことが、すぐにはぴんと来なかった。
自分の持ち駒のルークが、ロンのポーンと激しい格闘の最中で、ハリーはルークを焚きつけるのに夢中だった。

「やっつけろ――やっちまえ。たかがポーンだぞ、うすのろ。
あ、おばさん、ごめんなさい。何ですか?」

「スネイプ先生ですよ。厨房で。ちょっとお話があるんですって」

ハリーの口が恐怖でぽかんと開いた。
ロン、サクヤ、ハーマイオニー、ジニーを見ると、みんなも口を開けてハリーを見つめ返していた。
ハーマイオニーが15分ほど苦労して押さえ込んでいたクルックシャンクスが、大喜びでチェス盤に飛び載り、駒は金切り声をあげて逃げ回った。

「スネイプ?」

ハリーはぽかんとして言った。

「スネイプ先生ですよ」

ウィーズリーおばさんがたしなめた。

「さあ、早くいらっしゃい。長くはいられないとおっしゃってるわ」

「いったい君に何の用だ?」

おばさんの顔が引っ込むと、ロンが落ち着かない様子で言った。

「何かやらかしてないだろうな?」

「やってない!」

ハリーは憤然として言ったが、スネイプがわざわざグリモールド・プレイスにハリーを訪ねてくるとは、自分はいったい何かやったのだろうかと、考え込んだ。最後の宿題が最悪の「T」でも取ったのだろうか?
それから1,2分後、ハリーは厨房のドアを開けて、中にシリウスとスネイプがいるのを見た。
2人とも長テーブルに座っていたが、目を背けて反対方向を睨みつけていた。
互いの嫌悪感で、重苦しい沈黙が流れていた。シリウスの前に手紙が広げてある。

「あのー」

ハリーは到着したことを告げた。
スネイプの脂っこい簾のような黒髪に縁取られた顔が、振り向いてハリーを見た。

「座るんだ、ポッター」

「いいか」

シリウスが椅子ごとそっくり返り、椅子を後ろの2本脚だけで支えながら、天井に向かって大声で言った。

「スネイプ。ここで命令を出すのはご遠慮願いたいですな。なにしろ、わたしの家なのでね」

スネイプの血の気のない顔に、険悪な赤みがさっと広がった。
ハリーはシリウスの脇の椅子に腰を下ろし、テーブル越しにスネイプと向き合った。

「ポッター、我輩は君1人だけと会うはずだった」

スネイプの口元が、お馴染みの嘲りで歪んだ。

「しかし、ブラックが――」

「わたしはハリーの名付け親だ」

シリウスが一層大声を出した。

「我輩はダンブルドアの命でここに来た」

スネイプの声は、反対に、だんだん低く不愉快な声になっていった。

「しかし、ブラック、よかったらどうぞいてくれたまえ。気持ちはわかる……関わっていたいわけだ」

「何が言いたいんだ?」

シリウスは後ろ2本脚だけでそっくり返っていた椅子を、バーンと大きな音とともに元に戻した。

「別に他意はない。君はきっと――あー――イライラしているだろうと思ってね。何にも役に立つことができなくて」

スネイプは言葉を微妙に強調した。

「騎士団のためにね」

今度はシリウスが赤くなる番だった。
ハリーのほうを向きながら、スネイプの唇が勝ち誇ったように歪んだ。

「校長が君に伝えるようにと我輩をよこしたのだ、ポッター。校長は来学期に君が『閉心術』を学ぶことをお望みだ」

「何を?」

ハリーはまたぽかんとした。
スネイプはますますあからさまに嘲り笑いを浮かべた。

「『閉心術』だ、ポッター。
外部からの侵入に対して心を防衛する魔法だ。世に知られていない分野の魔法だが、非常に役に立つ」

ハリーの心臓が急速に鼓動しはじめた。
外部の侵入に対する防衛?だけど、僕は取り憑かれてはいない。そのことはみんなが認めた……。

「その『閉――何とか』を、どうして、僕が学ばないといけないんですか?」

ハリーは思わず質問した。

「なぜなら、校長がそうするのがよいとお考えだからだ」

スネイプはさらりと答えた。

「1週間に一度個人教授を受ける。しかし、何をしているかは誰にも言うな。とくに、ドローレス・アンブリッジには。わかったな?」

「はい」

ハリーが答えた。

「誰が教えてくださるのですか?」

スネイプの眉が吊り上がった。

「我輩だ」

ハリーは腸が溶けていくような恐ろしい感覚に襲われた。僕が何をしたって言うんだ?
スネイプと週に一度の課外授業――こんな目に遭うなんて……そこでハリーは、つい最近まで同じ目に遭っていた人物を思い出した。

「もしかして、サクヤにも同じ授業をしていたんですか?その、『閉――何とか』というやつを?」

「『閉心術』だ、ポッター。フェリックスの訓練内容を君に教えてやる義理はない。関係のないことだ。
ああ、我輩がこの仕事を懇願したわけではないということだけは伝えておこう……あまり喜ばしくない仕事を委譲するのは、校長の特権なのだろうからな」

スネイプが立ち上がった。

「ポッター、月曜の夕方18時に来るのだ。我輩の研究室。
誰かに聞かれたら、『魔法薬』の補習だと言え。我輩の授業での君を見た者なら、補習の必要性を否定するまい」

スネイプは旅行用の黒マントを翻し、立ち去りかけた。

「ちょっと待て」

シリウスが椅子に座り直して食ってかかった。
スネイプは顔だけを2人に向けた。せせら笑いを浮かべている。

「我輩はかなり急いでいるんだがね、ブラック。君と違って、際限なく暇なわけではない」

「では、要点だけ言おう」

ブラックが立ち上がった。スネイプよりかなり背が高い。
スネイプがマントのポケットの中で、杖の柄と思しい部分を握り締めたのに、ハリーは気づいた。

「もし君が、『閉心術』の授業を利用してハリーをつらい目に遭わせていると聞いたら、わたしが黙ってはいないぞ」

「泣かせるねえ」

スネイプが嘲るように言った。

「しかし、ポッターが父親そっくりなのに、当然君も気づいているだろうね?」

「ああ、そのとおりだ」

シリウスが誇らしげに言った。

「さて、それなればわかるだろうが、こいつの傲慢さときたら、批判など、端から受けつけぬ」

スネイプがすらりと言った。
シリウスは荒々しく椅子を押し退け、テーブルを回り込み、杖を抜き放ちながら、つかつかとスネイプのほうに進んだ。
スネイプも自分の杖をさっと取り出した。2人は真正面から向き合った。
シリウスは完全に怒り心頭で、スネイプはシリウスの杖の先から顔へと目を走らせながら、状況を読んでいた。

「シリウス!」

ハリーが大声で呼んだが、シリウスには聞こえないようだった。

「警告したはずだ、スニベルス

シリウスが言った。
シリウスの顔はスネイプからほんの数十cmのところにあった。

「ダンブルドアが、貴様が改心したと思っていても、知ったことじゃない。わたしのほうがよくわかっている――」

「おや、それなら、どうしてダンブルドアにそう言わんのかね?」

スネイプが囁くように言った。

「それとも、何かね、母親の家に6ヵ月も隠れている男の言うことは、真剣に取り合ってくれないとでも思っているのか?」

「ところで、このごろルシウス・マルフォイはどうしてるかね?さぞかし喜んでいるだろうね?自分の飼い犬がホグワーツで教えていることで」

「犬と言えば」

スネイプが低い声で言った。

「君がこの前、遠足なぞに出かける危険を冒したとき、ルシウス・マルフォイが君に気づいたことを知っているかね?
うまい考えだったな、ブラック。
安全な駅のホームで君が姿を見られるようにするとは……これで鉄壁の口実ができたわけだ。隠れ家から今後いっさい出ないという口実がね?」

シリウスが杖を上げた。

やめて!

ハリーは叫びながらテーブルを飛び越え、2人の間に割って入ろうとした。

「シリウス、やめて!」

「わたしを臆病者呼ばわりするのか?」

シリウスは、吼えるように言うと、ハリーを押し退けようとした。しかし、ハリーはてこでも動かなかった。

「まあ、そうだ。そういうことだな」

スネイプが言った。

「ハリー――そこを――退け!」

シリウスは歯を剥き出して唸ると、空いている手でハリーを押し退けた。



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