The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




突然すべてが読めた。ハリーは、奥のベッドに誰がいるのかがわかった。
サクヤも同じ様子で、2人はさっと目配せをした。
ネビルが誰にも気づかれず、質問も受けずにここから出られるようにと、他の3人の注意を逸らす物を探して、ハリーとサクヤは慌てて周りを見回した。
しかし、ロンも「ロングボトム」の名前が聞こえて目を上げていた。
ハリーが止める間もなく、ロンが呼びかけた。

「ネビル!」

ネビルはまるで弾丸が掠めたかのように、飛び上がって縮こまった。
サクヤが焦ってロンを黙らせようとはしたものの、ネビル本人が声に気づいてしまった以上、ここでまた知らないふりをするのも不自然な気の遣い方だと思ったのか、行き場を失った手をちょっと引っ込めたあと、頭をがしがしと掻いていた。

「ネビル、僕たちだよ」

そんなこと露知らずのロンが立ち上がって明るく言った。

「ねえ、見た?ロックハートがいるよ!君は誰のお見舞いなんだい?」

「ネビル、お友達かえ?」

ネビルのお祖母さまが、5人に近づきながら、上品な口ぶりで聞いた。
ネビルは身の置き所がない様子だった。
ぽっちゃりした顔に、赤紫色がさっと広がり、ネビルは誰とも目を合わせないようにしていた。
ネビルのお祖母さまは、目を凝らしてハリーを眺め、皺だらけの鉤爪のような手を差し出して握手を求めた。

「おう、おう、あなたがどなたかは、もちろん存じてますよ。
ネビルがあなたのことを大変褒めておりましてね」

「あ――どうも」

ハリーが握手しながら言った。
ネビルはハリーの顔を見ようとせず、自分の足下を見つめていた。顔の赤みがどんどん濃くなっていた。

「あなたのことも、もちろんね。サクヤ・フェリックス。
いっつも助けてくれると、ネビルが話していました――それにわたくしとて、一族の面々に、事あるごとにお世話になりましたわ」

「いえ、あの――恐縮です」

サクヤも握手に応えながら、お辞儀をした。
ミセス・ロングボトムからは、老魔女らしからぬ凛とした雰囲気が醸されているように感じた。

「それに、あなた方お2人は、ウィーズリー家の方ですね」

ミセス・ロングボトムは、ロンとジニーに次々と、威風堂々手を差し出した。

「ええ、ご両親を存じ上げておりますよ――もちろん親しいわけではありませんが――しかし、ご立派な方々です。
ご立派な……そして、あなたがハーマイオニー・グレンジャーですね?」

ハーマイオニーはミセス・ロングボトムが自分の名前を知っていたのでちょっと驚いたような顔をしたが、臆せず握手した。

「ええ、ネビルがあなたのことは全部話してくれました。
あなたもまた、何度も窮地を救ってくださったのね?この子はいい子ですよ」

お祖母さまは、骨ばった鼻の上から、厳しく評価するような目でネビルを見下ろした。

「でも、この子は、口惜しいことに、父親の才能を受け継ぎませんでした」

そして、奥の2つのベッドのほうにぐいと顔を向けた。
帽子の剥製ハゲタカが脅すよう揺れた。

「えっ!?」

ロンが仰天した(ハリーはロンの足を踏んづけたかったが、ローブではなくジーンズなので、そういう技をこっそりやり遂せるのはかなり難しかった)。

「奥にいるのは、ネビル、君の父さんなの?」

「何たることです?」

ミセス・ロングボトムの鋭い声が飛んだ。

「ネビル、おまえは、お友達に、両親のことを話していなかったのですか?」

ネビルは深く息を吸い込み、天井を見上げて首を横に振った。
ハリーは、これまでこんなに気の毒な思いをしたことがなかった。
しかし、どうやったらこの状況からネビルを助け出せるか、何も思いつかなかった。

「いいですか、何も恥じることはありません!」

ミセス・ロングボトムは怒りを込めて言った。

「おまえは誇りにすべきです。ネビル、誇りに!
あのように正常な身体と心を失ったのは、1人息子が親を恥に思うためではありませんよ。おわかりか!」

「僕、恥に思ってない」

ネビルは消え入るように言ったが、頑なに、ハリーたちの目を避けていた。
ロンはいまや爪先立ちで、2つのベッドに誰がいるか覗こうとして、その隣のサクヤが野暮なものを見るような目でロンの脇腹に肘を入れた。

「はて、それにしては、おかしな態度だこと!」

ミセス・ロングボトムが言った。

「わたくしの息子と嫁は」

お祖母さまは誇り高く、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニー、ジニーに向き直った。

「『例のあの人』の配下に、正気を失うまで拷問されたのです」

ハーマイオニーとジニーは、あっと両手で口を押さえた。
ロンはそんな状態のネビルの両親を興味本位に覗こうとしていたなんて、と恥じ入った顔をした。
サクヤは目を伏せ、敬意を払うためか、心を落ち着かせようとしているのか、胸に手を当てていた。

「2人とも『闇祓い』だったのですよ。
しかも魔法使いの間では非常に尊敬を集めていました」

ミセス・ロングボトムの話は続いた。

「夫婦揃って、才能豊かでした。わたくしは――おや、アリス、どうしたのかえ?」

ネビルの母親が、寝巻きのまま、部屋の奥から這うような足取りで近寄ってきた。
ムーディに見せてもらった、不死鳥の騎士団設立メンバーの古い写真に写っていた、ふっくらとした幸せそうな面影はどこにもなかった。
いまやその顔は痩せこけ、やつれ果てて、目だけが異常に大きく見えた。髪は白く、まばらで、死人のようだった。
何か話したい様子ではなかった。いや、話すことができなかったのだろう。
しかし、おずおずとした仕種で、ネビルのほうに、何かを持った手を差し伸ばした。

「またかえ?」

ミセス・ロングボトムは少しうんざりした声を出した。

「よしよし、アリスや――ネビル、何でもいいから、受け取っておあげ」

ネビルはもう手を差し出していた。
その手の中へ、母親は「よく膨らむドルーブル風船ガム」の包み紙をポトリと落とした。

「まあ、いいこと」

ミセス・ロングボトムは、楽しそうな声を取り繕い、母親の肩をやさしく叩いた。
ネビルは小さな声で、「ママ、ありがとう」と言った。

母親は、鼻歌を歌いながらよろよろとベッドに戻っていった。
ネビルはみんなの顔を見回した。
笑いたきゃ笑えと、挑むような表情だった。
しかし、ハリーは、いままでの人生で、こんなにも笑いから程遠いものを見たことがなかった。

「さて、もう失礼しましょう」

ミセス・ロングボトムは緑の長手袋を取り出し、ため息をついた。

「みなさんにお会いできてよかった。
ネビル、その包み紙はくず籠にお捨て。あの子がこれまでにくれた分で、もうおまえの部屋の壁紙が貼れるほどでしょう」

しかし、2人が立ち去るとき、ネビルが包み紙をポケットに滑り込ませたのを、ハリーはたしかに見た。
2人が出ていき、ドアが閉まった。
サクヤが、まるで今まで呼吸を止めていたかのように、長く、長く息を吐いた。

「知らなかったわ」

ハーマイオニーが涙を浮かべて言った。

「僕もだ」

ロンは嗄れ声だった。

「私もよ」

ジニーが囁くように言った。3人がハリーを見た。

「僕、僕たち、知ってた」

ハリーが暗い声で言った。

「サクヤと一緒のときに、ダンブルドアが話してくれた。
でも、誰にも言わないって、僕たち、約束したんだ……ベラトリックス・レストレンジがアズカバンに送られたのは、そのためだったんだ。ネビルの両親が正気を失うまで『傑の呪い』を使ったからだ」

「ベラトリックス・レストレンジがやったの?」

ハーマイオニーがまだ黙ったままでいるサクヤへと振り返って、恐ろしそうに言った。

「クリーチャーが巣穴に持っていた、あの写真の魔女?」

サクヤは唇をまっすぐに結んだまま、しっかりと頷いた。
ネビルと母親のやり取りを見たサクヤは、なんとも言葉に表しがたい気持ちがいくつも折り重なっていた。
同情とは似て非なる、ネビルに寄り添いたいような気持ち――それに、確かに感じるのは、ふつふつと沸き上がる、こんなことはもう絶対にあってはいけないことだ、という決意に似た気持ちだ。
長い沈黙が続いた。ロックハートの怒った声が沈黙を破った。

「ほら、せっかく練習して続け字のサインが書けるようになったのに!」





>>To be continued

( 150/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -