The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「そう言えば」
納戸を閉めたとき、ちょうどシリウスが、食料庫から大きな七面鳥を抱えて現れた。
「近ごろ誰かクリーチャーを見かけたかい?」
「ここに戻ってきた夜に見たきりだよ」
ハリーが言った。
「シリウスおじさんが、厨房から出ていけって、命令してたよ」
「ああ……」
シリウスが顔をしかめた。
「わたしも、あいつを見たのはあのときが最後だ……。上の階のどこかに隠れているに違いない」
「出ていっちゃったってことはないよね?」
ハリーが言った。
「つまり、『
出ていけ』って言ったとき、この館から出ていけという意味に取ったとか?」
「いや、いや、屋敷しもべ妖精は、衣服をもらわないかぎり出ていくことはできない。主人の家に縛りつけられているんだ」
シリウスが言った。
「本当にそうしたければ、家を出ることができるよ」
ハリーが反論した。
「ドビーがそうだった。3年前、僕に警告するためにマルフォイの家を離れたんだ。
あとで自分を罰しなければならなかったけど、とにかくやってのけたよ」
シリウスは一瞬ちょっと不安そうな顔をしたが、やがて口を開いた。
「あとであいつを探すよ。
どうせ、どこか上の階で、お袋のはき古した下着か何かにしがみついて泣きじゃくっているんだろう。
もちろん、乾燥用戸棚に忍び込んで死んでしまったということもありうるが……まあ、そんなに期待しないほうがいいだろうな」
フレッド、ジョージ、ロンは笑ったが、ハーマイオニーは非難するような目つきをしたので、サクヤが両方をなだめていた。
クリスマス・ランチを食べ終わると、ウィーズリー一家とハリー、サクヤ、ハーマイオニーは、マッド-アイとルーピンの護衛つきで、もう一度ウィーズリー氏の見舞いにいくことにしていた。
クリスマス・プディングとトライフルのデザートに間に合う時間にやって来たマンダンガスは、病院行きのために車を1台"借りて"きていた。クリスマスには地下鉄が走っていないからだ。
車は、ハリーの見るところ、持ち主の了解のもとに借り出されたとはとうてい思えなかったが、かつてウィーズリーおじさんが中古のフォード・アングリアに魔法をかけたときと同じように、呪文で大きくなっていた。
外側は普通の大きさなのに、運転するマンダンガスの他11人が、楽々乗り込めた。
ウィーズリーおばさんは乗り込む前にためらった――マンダンガスを認めたくない気持ちと、魔法なしで移動することがいやだという気持ちが戦っているのが、ハリーにはわかった――しかし、外が寒かったことと子どもたちにせがまれたことで、ついに勝敗が決まった。
おばさんは後部席のフレッドとビルの間に潔く座り込んだ。
道路がとても空いていたので、聖マンゴまでの旅はあっという間だった。
人通りのない街路に、病院を訪れるほんの数人の魔法使いや魔女がこそこそと入っていった。
ハリーもみんなもそこで車を降りた。
マンダンガスは、みんなの帰りを待つのに、車を道の角に寄せた。
一行は、緑のナイロン製エプロンドレスを着たマネキンが立っているショーウィンドウに向かって、ゆっくりと何気なく歩き、1人ずつウィンドウの中に入った。
受付ロビーは楽しいクリスマス気分に包まれていた。
聖マンゴ病院を照らすクリスタルの球は、赤や金色に塗られた輝く巨大な玉飾りになっていた。
戸口という戸口にはヒイラギが下がり、魔法の雪や氷柱で覆われた白く輝くクリスマスツリーが、あちこちの隅でキラキラしていた。
ツリーのてっぺんには金色に輝く星がついている。
病院は、この前ハリーたちが来たときほど混んではいなかった。
ただし、待合室の真ん中あたりで、ハリーは、左の鼻の穴にみかんが詰まった魔女に押し退けられた。
「家庭内のいざこざなの?え?」
ブロンドの案内魔女が、デスクの向こうでにんまりした。
「この手の患者さんは、あなたで今日3人目よ……。呪文性損傷。5階」
ウィーズリー氏はベッドにもたれ掛かっていた。
膝に載せた盆に、昼食の七面鳥の食べ残しがあり、なんだかバツの悪そうな顔をしていた。
「あなた、お加減はいかが?」
みんなが挨拶し終わり、プレゼントを渡してから、おばさんが聞いた。
「ああ、とてもいい」
ウィーズリーおじさんの返事は、少し元気がよすぎた。
「母さん――その――スメスウィック癒師には会わなかっただろうね?」
「ええ」
おばさんが疑わしげに答えた。
「どうして?」
「いや、別に」
おじさんはプレゼントの包みを解きはじめながら、何でもなさそうに答えた。
「みんな、いいクリスマスだったかい?プレゼントは何をもらったのかね?ああ、
ハリー――こりゃ、
すばらしい!」
おじさんはハリーからのプレゼントを開けたところだった。ヒューズの銅線と、ネジ回しだった。
ウィーズリーおばさんは、おじさんの答えではまだ完全に納得していなかった。
夫がハリーと握手しようと屈んだとき、寝巻きの下の包帯をちらりと見た。
「あなた」
おばさんの声が、ネズミ捕りのようにピシャッと響いた。
「包帯を換えましたね。アーサー、1日早く換えたのはどうしてなの?明日までは換える必要がないって聞いていましたよ」
「えっ?」
ウィーズリーおじさんは、かなりドキッとした様子で、ベッドカバーを胸まで引っ張り上げた。
「いや、その――なんでもない――ただ――私は――」
ウィーズリーおじさんは、射すくめるようなおばさんの目に睨まれ、萎んでいくように見えた。
「いや――モリー、心配しないでくれ。
オーガスタス・バイがちょっと思いついてね……ほら、研修癒の、気持ちのいい若者だがね。
それが大変興味を持っているのが――ンー……補助医療でね――つまり、旧来のマグル療法なんだが……そのなんだ、
縫合と呼ばれているものでね、モリー。
これが非常に効果があるんだよ――マグルの傷には――」
ウィーズリーおばさんが不吉な声を出した。悲鳴とも唸り声ともつかない声だ。
ルーピンは見舞い客が誰もいなくて、ウィーズリーおじさんの周りにいる大勢の見舞い客を羨ましそうに眺めていた狼男のほうにゆっくり歩いていった。
ビルはお茶を飲みにいってくるとかなんとか呟き、フレッドとジョージは、すぐに立ち上がって、ニヤニヤしながらビルに従いていった。
「あなたがおっしゃりたいのは」
ウィーズリーおばさんの声は、一語一語大きくなっていった。
みんなが慌てふためいて避難していくのには、どうやらまったく気づいていない。
「マグル療法でバカなことをやっていたというわけ?」
「モリーや、バカなことじゃないよ」
ウィーズリーおじさんが縋るように言った。
「なんと言うか――バイと私とで試してみたらどうかと思っただけで――ただ、まことに残念ながら――まあ、この種の傷には――私たちが思っていたほどには効かなかったわけで――」
「
つまり?」
「それは……その、おまえが知っているかどうか、あの――縫合というものを?」
「あなたの皮膚を元どおりに縫い合わせようとしたみたいに聞こえますけど?」
ウィーズリーおばさんはちっともおもしろくありませんよという笑い方をした。
「だけど、いくらあなたでも、アーサー、
そこまでバカじゃないでしょう――」
「僕もお茶が飲みたいな」
ハリーは急いで立ち上がった。
サクヤ、ハーマイオニー、ロン、ジニーも、ハリーと一緒にほとんど走るようにしてドアまで行った。
ドアが背後でパタンと閉まったとき、ウィーズリーおばさんの叫び声が聞こえてきた。
「だいたいそんなことだって、どういうことですか?」「まったくパパらしいわ」
5人で廊下を歩きはじめたとき、ジニーが頭を振りながら言った。
「縫合だって……まったく……」
「でもな、魔法の傷以外ではうまくいくんだよ、縫合って」
サクヤが公平な意見を言った。それを受けてハーマイオニーが「うーん」と考えながら口を開いた。
「たぶん、あの蛇の毒が縫合糸を溶かしちゃうかなんかするんだわ。ところで喫茶室はどこかしら?」
「6階だよ」
ハリーが、案内魔女のデスクの上に掛かっていた案内板を思い出して言った。
両開きの扉を通り廊下を歩いていくと、頼りなさげな階段があった。
階段の両側に粗野な顔をした癒者たちの肖像画が掛かっている。
一行が階段を上ると、その癒者たちが5人に呼びかけ、奇妙な病状の診断を下したり、恐ろしげな治療法を意見した。
中世の魔法使いがロンに向かって、間違いなく重症の黒斑病だと叫んだときは、ロンは大いに腹を立てた。
「だったらどうなんだよ?」
ロンが憤慨して聞いた。
その癒者は、6枚もの肖像画を通り抜け、それぞれの主を押し退けて追いかけてきていた。
「お若い方、これは非常に恐ろしい皮膚病ですぞ。
痘痕面になりますな。
そして、いまよりもっとぞっとするような顔に――」
「誰に向かってぞっとする顔なんて言ってるんだ!」
ロンの耳が真っ赤になった。
「――治療法はただ1つ。ヒキガエルの肝を取り、首にきつく巻きつけ、満月の夜、素っ裸で、ウナギの目玉が詰まった樽の中に立ち――」
「僕は黒斑病なんかじゃない!」
「しかし、お若い方、貴殿の顔面にある、その醜い汚点は――」
「ソバカスだよ!」
ロンはカンカンになった。
「さあ、自分の額に戻れよ。僕のことは放っといてくれ!」
ロンは他の4人を振り返った。みんな必死で普通の顔をしていた。
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