The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
おかげで、クリスマス・イブにみんながベッドに入るときには、館は見違えるようになっていた。
くすんだシャンデリアには、蜘蛛の巣の代わりにヒイラギの花飾りと金銀のモールが掛かり、擦り切れたカーペットには輝く魔法の雪が積もっていた。
マンダンガスが手に入れてきた大きなクリスマスツリーには、本物の妖精が飾りつけられ、ブラック家の家系図を覆い隠していた。
屋敷しもべ妖精の首の剥製さえ、サンタクロースの帽子を被り、白ひげをつけていた。
クリスマスの朝、目を覚ましたハリーは、ベッドの脚下にプレゼントの山を見つけた。
ロンはもう、かなり大きめの山を半分ほど開け終わっていた。
「今年は大収穫だぞ」
ロンは包み紙の山の向こうからハリーに教えた。
「『箒用羅針盤』をありがとう。すごいよ。ハーマイオニーのなんか目じゃない。あいつ、『宿題計画帳』なんかくれたんだぜ――」
ハリーはプレゼントの山を掻き分け、ハーマイオニーの手書きの見える包みを見つけた。ハリーにも同じものをプレゼントしていた。
日記帳のような本だが、ページを開けるたびに声がした。
たとえば、「今日やらないと、明日は後悔!」。
シリウスとルーピンからは、「実践的防衛術と闇の魔術に対するその使用法」という、すばらしい全集だった。
呪いや呪い崩し呪文の記述の1つひとつに、見事な動くカラーイラストがついていた。
ハリーは第1巻を夢中でパラパラと捲った。
続けて開けたサクヤからのプレゼントの携帯に便利そうな手ごろなホイッスルと合わせて、DAの計画と進行に大いに役立つことがよくわかる。
ハグリッドは茶色の毛皮の財布をくれた。
牙がついているのは、泥棒避けのつもりなのだろう。
残念ながら、ハリーが財布にお金を入れようとすると、指を食いちぎられそうになった。
トンクスのプレゼントは、ファイアボルトの動くミニチュア・モデルだった。
それが部屋の中をぐるぐる飛ぶのを眺めながら、ハリーは、本物の箒が手元にあったらなぁと思った。
ロンは巨大な箱入りの「百味ビーンズ」をくれた。
ウィーズリーおじさん、おばさんは、いつもの手編みのセーターとミンスパイだった。
ドビーは、なんともひどい絵をくれた。自分で描いたのだろうとハリーは思った。もしかしたらそのほうがまだましかと思い、ハリーは絵を逆さまにしてみた。
ちょうどそのとき、バシッと音がして、フレッドとジョージがハリーのベッドの足元に「姿現わし」した。
「メリー・クリスマス」
ジョージが言った。
「しばらくは下に行くなよ」
「どうして?」
ロンが聞いた。
「ママがまた泣いてるんだ」
フレッドが重苦しい声で言った。
「パーシーがクリスマス・セーターを送り返してきやがった」
「手紙もなしだ」
ジョージがつけ加えた。
「パパの具合はどうかと聞きもしないし、見舞いにも来ない」
「俺たち、慰めようと思って」
フレッドがハリーの持っている絵を覗き込もうと、ベッドを回り込みながら言った。
「それで、『パーシーなんか、バカでっかいネズミの糞の山』だって言ってやった」
「効き目なしさ」
ジョージが蛙チョコレートを勝手に摘まみながら言った。
「そこでルーピンと選手交代だ。ルーピンに慰めてもらって、それから朝食に下りていくほうがいいだろうな」
「ところで、これは何のつもりかな?」
フレッドが目を細めてドビーの絵を眺めた。
「目の周りが黒いテナガザルってとこかな」
「ハリーだよ!」
ジョージが絵の裏を指差した。
「裏にそう書いてある」
「似てるぜ」
フレッドがにやりとした。
ハリーは真新しい「宿題計画帳」をフレッドに投げつけたが、計画帳はその後ろの壁に当たって床に落ち、楽しそうな声で言った。
「足りないテンがないかどうか確認したらマルよ、何でも好きなことをしていいわ!」。
みんな起きだして着替えをすませた。
家の中でいろいろな人が互いに「メリー・クリスマス」と挨拶しているのが聞こえた。
階段を下りる途中でサクヤとハーマイオニーに出会った。
「ハリー、本をありがとう」
ハーマイオニーがうれしそうに言った。
「私へのプレゼントが『新数霊術理論』で、サクヤには『新数霊術理論
U』というのは、なかなかユーモアがあるわね。あの本、ずっと読みたいと思っていたのよ!」
「うん、どうせ君たち、読んだらシェアするだろ?」
「まあな」
サクヤが笑った。
「ロンからハルへのプレゼントも、なかなかセンスがあったな」
「へいへい、どういたしまして」
ロンがぶつぶつと言った。
「何をあげたんだ?」
ハリーが尋ねると、サクヤがくすくすと笑った。
「ヘアケアグッズ。
ヘアオイルとか、くせ毛がまとまるトリートメントとかがセットになったやつ」
「ロンのくせに、気が利くじゃないか。え?」
フレッドが茶化すと、ロンの耳が真っ赤になった。
「僕が思いつかないってボヤいたら、兄貴たちがこれがいいって言ったんじゃないか!」
「なるほど、そういうことね」
ハーマイオニーが言った。
「差出人を2回も確認したわ。
ほんとに、ロンが女の子の髪の心配をするとは思えなくて――もちろんうれしかったわよ。ありがと」
ロンが膨れたので、ハーマイオニーはすかさず付け加えた。
「それ、いったい誰のためだい?」
怒りを収めたロンは、ハーマイオニーが手にしている、きちんとした包みを顎で指した。
「クリーチャーよ」
ハーマイオニーが明るく言った。
「まさか服じゃないだろうな!」
ロンが咎めるように言った。
「シリウスが言ったこと、わかってるだろう?
『クリーチャーは知りすぎている。自由にしてやるわけにはいかない!』」
「服じゃないわ」
ハーマイオニーが言った。
「もっとも、私なら、あんな汚らしいボロ布よりはましなものを身に着けさせるけど。
ううん、これ、パッチワークのキルトよ。クリーチャーの寝室が明るくなると思って」
「寝室って?」
ちょうどシリウスの母親の肖像画の前を通るところだったので、ハリーは声を落として囁いた。
「まあね、シリウスに言わせると、寝室なんてものじゃなくて、いわば――
巣穴だって」
ハーマイオニーが答えた。
「クリーチャーは、厨房脇の納戸にあるボイラーの下で寝ているみたいよ」
グリモールド・プレイスにまだ不慣れなサクヤを案内するように、ハーマイオニーが言った。
地下の厨房に着いたときには、ウィーズリーおばさんしかいなかった。
キッチンのところに立って、みんなに「メリー・クリスマス」と挨拶したおばさんの声は、まるで鼻風邪を引いているようだった。みんなはおばさんの目を見ないようにした。
「それじゃ、ここがクリーチャーの寝床?」
サクヤが食料庫と反対側の角にある薄汚い戸までゆっくり歩いていった。
ハリーはその戸が開いているのを見たことがなかった。
「そうよ」
ハーマイオニーは少しピリピリしながら言った。
「あ……ノックしたほうがいいと思うけど」
ロンも近づいて、拳でコツコツ戸を叩いたが、返事はなかった。
「上の階をこそこそうろついてるんだろ」
ロンはいきなり戸を開けた。
「
ウエッ!」
ハリーは中を覗いた。
納戸の中は、旧式の大型ボイラーでほとんどいっぱいだったが、パイプの下の隙間に、クリーチャーがなんだか巣のようなものをこしらえていた。
床にボロ布やプンプン臭う古毛布がごたごたに寄せ集められて、積み上げられている。
その真ん中に小さな凹みがあり、クリーチャーが毎晩どこで丸まって寝るのかを示していた。
ごたごたのあちこちに、腐ったパンくずや黴の生えた古いチーズの欠けらが見える。
一番奥の隅には、コインや小物が光っている。シリウスが館から放り出したものを、クリーチャーが泥棒カササギのように集めていたのだろうと、ハリーは思った。
夏休みにシリウスが捨てた、銀の額入りの家族の写真も、クリーチャーはなんとか回収していた。
ガラスは壊れていても、白黒写真の人物たちは、高慢ちきな顔でハリーを見上げていた。
その中に――ハリーは胃袋がざわっとした――黒髪の腫れぼったい瞼の魔女もいる。
ハリーがサクヤと一緒に、ダンブルドアの「憂いの篩」で裁判の傍聴をしたときに見た、ベラトリックス・レストレンジだ。
どうやら、この写真はクリーチャーのお気に入りらしく、他の写真の一番前に置き、スペロテープで不器用にガラスを貼り合わせていた。
「プレゼントをここに置いておくだけにするわ」
ハーマイオニーはボロと毛布の凹みの真ん中にきちんと包みを置き、そっと戸を閉めた。
「あとで見つけるでしょう。それでいいわ」
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