The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ダンブルドアがハリーと目を合わせなくなったのは、そのせいだったのか?
ハリーの目の中から、ヴォルデモートの目が見つめると思ったのだろうか?
もしかしたら、鮮やかな緑の目が、突然真っ赤になり、猫の目のように細い瞳孔が現れることを恐れたのだろうか?
かつて、クィレル教授の後頭部から、ヴォルデモートの蛇のような顔が突き出していたことをハリーは思い出し、自分の後頭部を撫でた。
ヴォルデモートの顔が自分の頭蓋から飛び出したら、どんな感じがするのだろう。

ハリーは、自分が致死的な菌の保菌者のような、穢れた、汚らしい存在に感じられた。
心も身体もヴォルデモートに汚されていない清潔で無垢な人たちと、病院から帰る地下鉄で席を並べるのにふさわしくない自分……。
僕は蛇を見ただけじゃなかった。蛇自身だったんだ。ハリーはいまそれを知った……。
不自然に見えないように注意しながら、ハリーはサクヤの隣に座った。彼女はまだ自分に近しい境遇だ。

それから、本当にぞっとするような考えが浮かんだ。心の表面にはっきり浮かび上がってきた記憶が、ハリーの内臓を蛇のようにのた打ち回らせた。

「配下以外に、何を?」

「極秘にしか手に入らないものだ……武器のようなものというかな。前の時には持っていなかったものだ」


僕が武器なんだ。
暗いトンネルを通る地下鉄に揺られながら、そう考えると、血管に毒を注ぎ込まれ、身体が凍って冷や汗の噴き出る思いだった。
ヴォルデモートが使おうとしているのは、僕だ。だから僕の行くところはどこにでも護衛がついていたんだ。
僕を護るためじゃない。みんなを護るために。
だけど、うまくいっていない。ホグワーツでは、四六時中僕に誰かを張りつけておくわけにはいかないし……僕はたしかに、昨夜ウィーズリー氏を襲った。僕だったんだ。ヴォルデモートが僕にやらせた。
それに、今のいまも、あいつは僕の中にいて、僕の考え事を聞いているかもしれない。

じゃあ、もしかして、サクヤも?
ハリーはふと考えた。
サクヤも僕と同じように、蛇の目からウィーズリー氏を見たと言っていた。
また2人セットで、武器なのかもしれない……そこまで考えて、ハリーは首を振った。
でも、もしかしたら……。ハリーはある可能性に気がついた。
そうじゃないと言っていたけれど、やっぱりスネイプの特別授業は、サクヤを鍛えていたんじゃないだろうか。
ホグワーツで、僕を自然に監視するためにそう任命されたのではないか?そして僕が誰かを襲ったときのために、スネイプに対抗手段を教え込まれていたんじゃないか?
現に、僕に分からない形で同じ夢を見て、校長室でダンブルドアと奇妙な確認をしていた。「抵抗を成功させた」というのは、僕がウィーズリー氏を噛み殺す前に夢を中断させたことじゃないか?
ハリーは、急にこの席を離れたくなった。

「ハリー、大丈夫か?」

暗いトンネルを電車がガタゴトと進むなか、心配そうな顔をしたサクヤがハリーを覗き込んでいた。
その声を聞いたウィーズリーおばさんが、ジニーの向こう側からハリーのほうに身を乗り出し、小声で話しかけた。

「顔色があんまりよくないわ。気分が悪いの?」

今やみんながハリーを見ていた。ハリーは激しく首を振り、住宅保険の広告をじっと見つめた。

「ハリー、ねえ、本当に大丈夫?」

グリモールド・プレイスの草ぼうぼうの広場を歩きながら、なおも心配そうな声でサクヤが聞いた。

「真っ青で、ひどい顔してる……今朝、本当は眠れてなかったんじゃないか?
夕食の時間までまだ2,3時間あるし、少しでも休んでなよ」

ハリーは頷いた。
これで、お誂え向きに、誰とも話さなくていい口実ができた。それこそハリーの願っていたことだった。

おばさんが玄関の扉を開けるとすぐ、ハリーは一直線にトロールの足の傘立てを過ぎ、階段を上がり、ロンと一緒の寝室へと急いだ。
1つ誤算だったのが、ハリーがきちんと眠るのを確かめるためなのか、部屋までサクヤがついてきたことだった。
しかし、シリウスやトンクス、マッド-アイまでついてくることはなかった――子どもたちが病室の盗聴をやめたあと、グリモールド・プレイスの館の中ではサクヤ1人で行動しても大丈夫だという判断がされていたのだ。
部屋に戻ったハリーは、サクヤをやり過ごすためにまっすぐベッドへ向かった。

「眠れそう……?」

ベッドの端に腰かけたとき、サクヤの気遣わしげな声が戸口のほうから聞こえてきた。
ハリーは上目でサクヤをちらっと見たあと、また目線を落として、それから額縁のほうを確認した。肖像画のキャンバスには誰もいない。

「サクヤ、部屋の外には誰もいない?」

ハリーがそう聞くと、サクヤは二度ほど瞬きをしたあと、背後の扉を開け、首だけ外に突き出してきょろきょろと見回した。

「いないよ」

何かを察したサクヤが、扉をきちんと閉めたあと、ハリーの隣に座った。

「確かに、あれは本当にショックな感覚だった。
自分に鋭い牙が生えて、見知った人間の脇腹を噛み砕くなんて。
……でも、実際にハリーがやったんじゃない。その光景をちょっと特殊な角度で見てただけ。だから安心して――」

ハリーが何を言うでもなく、サクヤはそう励ましてくれたが、聞きたいのはそのことではなかった。
首を横に振った勢いで、ハリーはもう1つの出来事についても聞いてしまおうと口を割った。

「それだけじゃなくて。昨日の晩、校長室からここに移動キーで飛んで来る直前に、ダンブルドアも襲いたくなったって話をしたろ?」

ハリーがひと息にそう言うと、サクヤは口をつぐんで頷いた。

「もし移動キーが作動しなかったら、きっと僕、ダンブルドアの喉元に噛みついてたと思う……その衝動が、あの蛇の夢そっくりで……。
僕たち、ヴォルデモートに関係することだと感覚を共有することが多いけど、あのとき、サクヤもそうなったのかを聞きたくて……」

ハリーは恐ろしい考えに囚われ、こちらを見つめたまま言葉を選んでいる様子のサクヤのほうを向くことができなかった。

「オレは――オレは、そうならなかった」

その言葉を聞いてすぐ、ハリーはパッと立ち上がった。
2つ置かれたベッドと、フィニアス・ナイジェラス不在の肖像画との間を往ったり来たりするようにうろついた。

今回も同じでありますようにと、半ば祈るような気持ちでこのことを尋ねていたと、ハリーはたった今気がついた。
でも、サクヤはそうならなかった。
帰りの地下鉄に乗っていたときのように、急にサクヤの隣が居心地悪く感じた。

「そっか、わかった。
それじゃ、もうひとつだけ聞きたいんだけど」

ハリーはぴたりと足を止めて、でもサクヤのほうを見ないようにして訊ねた。

「サクヤは、僕を監視するためにスネイプの訓練を受けていたの?」

ハリーは「違うよ!」と即答してくれることを望んでいたのに、今度の質問にも、サクヤはすぐに答えなかった。
しかし次の瞬間には、彼女は確かに首を横に振って、「そんなわけないだろ」と静かに言った。

「訳あって、ホグワーツ城から出られなくなったから、こうしてまた出歩けるようになるため訓練を受けていた。……それだけなんだ、ほんとに。
スネイプ先生の訓練と、ハリーは関係ないよ」

「そう」

ハリーはぶっきらぼうに答えて、それからまた黙って部屋をうろついた。
サクヤが「さあ、ほらもう休んで」と言っていた気がするが、ハリーの頭の中は今や、疑問やとてつもなく恐ろしい考えで溢れ、渦巻いていた。

僕はどうやって蛇になったのだろう?
もしかしたら、僕は「動物もどき」だったのかもしれない……いや、そんなはずはない。そうだったらわかるはずだ。
……もしかしたら、ヴォルデモートが動物もどきだったんだろうか……そうだ、
とハリーは思った。
それなら辻褄が合う。あいつなら、もちろん蛇になるだろう……そして、あいつが僕に取り憑いているときは、2人とも変身するんだ。
……それでは、5分ほどの間に僕がロンドンに行って、またベッドに戻ったことの説明はつかない……しかし、ヴォルデモートは世界一と言えるほど強力な魔法使いだ。ダンブルドアを除けばだけど。
あいつにとっては、人間をそんなふうに移動させることぐらい、たぶんなんでもないんだ。

サクヤと僕の違いは何だろう、
ハリーは次にそう考えた。
サクヤも僕と一緒の蛇になったと言うが、ダンブルドアを襲いたくなってはいないと言った。
でも、何かをずっと隠していることは確かなんだ。もしかしたら、どれかは嘘なのかもしれない。
そうだとしたら、サクヤも蛇になったというのが嘘?……でも、校長室で夢の説明をしたのはサクヤだ。僕が見た通りの光景を話していた。
じゃあ、本当は彼女もダンブルドアを襲撃したい衝動があった?……それなら、僕に話さない理由はなんだ?

僕にヴォルデモートが取り憑いてるからだ。
ハリーはもう答えが出ていたことに気がついた。
サクヤも病室での会話を聞いて、僕を通じてヴォルデモートが今この状況を見ていると思ってるんだ。だから本当のことを言うはずがない。

そう考え至ったとき、ハリーは恐怖感にぐさりと突き刺される思いがした。
しかし、これは正気の沙汰じゃない――危険すぎる――ヴォルデモートが僕に取り憑いているということは、僕は、たったいまも、不死鳥の騎士団本部を洗いざらいあいつに教えているんだ!
誰が騎士団員なのか、シリウスがどこにいるのか、サクヤがここにいることを、やつは知ってしまう……それに、僕は、聞いちゃいけないことを山ほど聞いてしまった。
僕がここに来た最初の夜に、シリウスが話してくれたことを、何もかも……。


やることはただ1つ。
すぐにグリモールド・プレイスを離れなければならない。みんなのいないホグワーツで、1人クリスマスを過ごすんだ。
そうすれば、少なくとも休暇中、ここにいるみんなは安全だ……しかし、だめだ。それではうまくいかない。休暇中に残っている大勢の人を傷つけてしまう。
次はシェーマスか、ディーンか、ネビルだったら?

ハリーは足を止め、フィニアス・ナイジェラス不在の額を見つめた。胃袋の底に、重苦しい思いが座り込んだ。
他に手はない。プリベット通りに戻るしかない。他の魔法使いたちから自分を切り離すんだ。




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