The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「それで、襲われたとき、パパ、どこにいたの?」
ジョージが聞いた。
「おまえには関係のないことだ」
おじさんはそう言い放ったが、微笑んでいた。
彼は「日刊予言者新聞」をまた急に拾い上げ、パッと振って開いた。
「みんなが来たとき、ちょうど『ウィリー・ウィダーシン逮捕』の記事を読んでいたんだ。
この夏の例の逆流トイレ事件を覚えているね?ウィリーがその陰の人物だったんだよ。
最後に呪いが逆噴射して、トイレが爆発し、やっこさん、瓦礫の中に気を失って倒れているところを見つかったんだが、頭のてっぺんから爪先まで、そりゃ、クソまみれ――」
「パパが『任務中』だったっていうときは」
フレッドが低い声で口を挟んだ。
「何をしていたの?」
「お父さまのおっしゃったことが聞こえたでしょう?」
ウィーズリーおばさんが囁いた。
「ここはそんなことを話すところじゃありません!あなた、ウィリー・ウィダーシンの話を続けて」
「それでだ、どうやってやったのかはわからんが、やつはトイレ事件で罪に問われなかったんだ」
ウィーズリーおじさんが不機嫌に言った。
「金貨が動いたんだろうな――」
「パパは護衛してたんでしょう?」
ジョージがひっそりと言った。
「武器だよね?『例のあの人』が探してるっていうやつ?」
「ジョージ、お黙り!」
おばさんがビシッと言った。
「とにかくだ」
おじさんが声を張りあげた。
「今度はウィリーのやつ、『噛みつきドア取っ手』をマグルに売りつけているところを捕まった。今度こそ逃げられるものか。
なにしろ、新聞によると、マグルが2人、指を失くして、いま、聖マンゴで、救急骨再生治療と記憶修正を受けているらしい。どうだい、マグルが聖マンゴにいるんだ。どの病棟かな?」
おじさんは、どこかに掲示がないかと、熱心にあたりを見回した。
「『例のあの人』が蛇を持ってるって、サクヤ、そう言ってなかった?」
フレッドが、父親の表情を窺いながら聞いた。
「なあハリー、巨大なやつ?『あの人』が復活した夜に、その蛇を見たんだろ?」
「いい加減になさい」
ウィーズリーおばさんは不機嫌だった。
「アーサー、マッド-アイとトンクスが外で待ってるわ。あなたに面会したいの。
それから、あなたたちは外に出て待っていなさい」
おばさんが子どもたちとハリー、サクヤに向かって言った。
「あとでまたご挨拶にいらっしゃい。さあ、行って」
ウィーズリーおばさんがみんなを病室から追い立てるなか、サクヤが最後まで踏みとどまっていた。
「あの、おじさん――本当に、ご無事でよかったです」
絞り出すようなその声に、ウィーズリーおじさんはまたにっこりと笑いかけてくれた。
「ああ。君たちのおかげだよ」
みんな並んで廊下に戻った。
マッド-アイとトンクスが中に入り、病室のドアを閉めた。
フレッドが眉を吊り上げた。
「いいさ」
フレッドがポケットをゴソゴソ探りながら、冷静に言った。
「そうやってりゃいいさ。俺たちには何にも教えるな」
「これを探してるのか?」
ジョージが薄橙色の紐が絡まったようなものを差し出した。
「わかってるねえ」
フレッドがにやりと笑った。
「聖マンゴが病棟のドアに『邪魔よけ呪文』をかけているかどうか、見てみようじゃないか?」
フレッドとジョージが紐を解き、6本の「伸び耳」に分けた。
2人が他の4人に配ったが、ハリーは受け取るのをためらった。
「取れよ、ハリー。君は親父の命を救った。盗聴する権利があるやつがいるとすれば、まず君だ」
思わずにやりとして、ハリーは紐の端を受け取り、双子がやっているように耳に差し込んだ。
「サクヤもだ――受け取れよ。
もしこれで有益な情報が手に入ったら、俺たちはそのことばっかり話すかもしれない。
そうなったときにまた説明し直さなくちゃいけないだろ?」
サクヤもハリーと同じように逡巡していたが、理由は少し違っていた。
ダンブルドアがハリーやサクヤに重要な情報を話さないようにしているのは、それが闇の陣営側に漏れることを防ぎたいからだ。
であるなら、自分からそういった情報に近づくことはしたくなかった。
しかし、サクヤは躊躇いながらも「伸び耳」の紐を受け取った。
この病室ではおそらくそこまで重要なことは話さないだろうという想像と、つい先ほどに「闇の印」による強制姿くらましを完全に防ぎ、自身の閉心術がきちんと有効な対抗手段であるという判断ができたからだ。
「よーし、オッケー。行け!」
フレッドが囁いた。
薄橙色の紐は、痩せた長い虫のように、ゴニョゴニョ這っていき、ドアの下からくねくねと入り込んだ。
最初は何も聞こえなかったが、やがて、ハリーは飛び上がった。
トンクスの囁き声が、まるでハリーのすぐそばに立っているかのように、はっきり聞こえてきたのだ。
「……くまなく探したけど、蛇はどこにも見つからなかったらしいよ。
アーサー、あなたを襲ったあと、蛇は消えちゃったみたい……だけど、『例のあの人』は蛇が中に入れるとは期待してなかったはずだよね?」
「わしの考えでは、蛇を偵察に送り込んだのだろう」
ムーディの唸り声だ。
「なにしろ、これまでは、まったくの不首尾に終わっているだろうが?
うむ、やつは、立ち向かうべきものを、よりはっきり見ておこうとしたのだろう。アーサーがあそこにいなければ、蛇のやつはもっと時間をかけて見回ったはずだ。
それで今ごろは、『死喰い人』どもを集めて次の作戦会議か?先ほどフェリックスの腕の『印』が反応しておったわ。
ポッターとフェリックスは一部始終を見たと言っておるのだな?」
「ええ」
ウィーズリーおばさんは、かなり不安そうな声だった。
「ねえ、ダンブルドアは、2人がこんなことを見るのを、まるで待ち構えていたような様子なの」
「うむ、まっこと。だが――」
ムーディが言った。
「フェリックスがああなるのは分かる。なんせあの『印』付きだ。
だが、あのポッター坊主には、それが無いにも関わらず、ああだ。やはり何かがおかしい――それは、わしら全員が知っておる」
「今朝、私がダンブルドアとお話したとき、ハリーのことを特に心配なさっているようでしたわ」
ウィーズリーおばさんが囁いた。
「むろん、心配しておるわ」
ムーディが唸った。
「あの坊主は無自覚状態で『例のあの人』の蛇の内側から事を見ておる。
それが何を意味するか、ポッターは当然気づいておらぬ。しかし、もし『例のあの人』がポッターに取り憑いておるなら――」
ハリーは「伸び耳」を耳から引き抜いた。
心臓が早鐘を打ち、顔に血が上った。
ハリーはみんなを見回した。全員が、紐を耳から垂らしたまま、突然恐怖に駆られたように、じっとハリーを見ていた。
>>To be continued
( 143/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]