The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




一方、列の先頭の若い魔法使いは、その場でへんてこなジグ・ダンスを踊りながら、痛そうな悲鳴の合間に、案内魔女に苦難の説明をしていた。

「問題はこの――イテッ――兄貴にもらった靴でして――うっ――食いつくんですよ――アイタッ――足に――靴を見てやってください。
きっとなんかの――あぁぅぅ――呪いがかかってる。どうやっても――ああぁうぅぅぅ――脱げないんだ」

片足でぴょん、別の足でぴょんと、まるで焼けた石炭の上で踊っているようだった。

「あなた、別に靴のせいで字が読めないわけではありませんね?」

ブロンドの魔女は、イライラとデスクの左側の大きな掲示を指差した。

「あなたの場合は『呪文性損傷』。5階。
ちゃんと『病院案内』に書いてあるとおり。はい、次!」

その魔法使いが、よろけたり、踊り跳ねたりしながら脇に避け、ウィーズリー一家が数歩前に進んだ。
ハリーは食い入るように「病院案内」を見つめるサクヤの隣に並んで、一緒に読んだ。


1階……物品性事故
    大鍋爆発、杖逆噴射、箒衝突 など
2階……生物性傷害
    噛み傷、刺し傷、火傷、とげ埋め込み など
3階……クテリア性疾患
    感染症(龍痘など)、消滅症、巻き黴 など
4階……薬剤・植物性中毒
    湿疹、嘔吐、抑制不能クスクス笑い など
5階……呪文性損傷
    解除不能性呪い、呪詛、不適正使用呪文 など
6階……外来者喫茶室・売店

何階かわからない方、通常の話ができない方、
どうしてここにいるのか思い出せない方は、
案内魔女がお手伝いいたします。

腰が曲がり、耳に補聴トランペットをつけた年寄り魔法使いが、足を引きずりながら列の先頭に進み出て、ゼイゼイ声で言った。

「プロデリック・ボードに面会に来たんじゃが」

「49号室。でも、会っても無駄だと思いますよ」

案内魔女がにべもなく言った。

「完全に錯乱してますからね――まだ自分は急須だと思い込んでいます。次!」

困り果てた顔の魔法使いが、幼い娘の足首をしっかりつかんで進み出た。
娘はロンパースの背中を突き抜けて生え出ている大きな翼をパタパタさせ、父親の頭の周りを飛び回っている。

「5階」

案内魔女が、何も聞かずにうんざりした声で言った。
父親は、変な形の風船のような娘を手に持って、デスク脇の両開きの扉から出ていった。

「次!」

ウィーズリーおばさんがデスクの前に進み出た。

「こんにちは。
夫のアーサー・ウィーズリーが、今朝、別の病棟に移ったと思うんですけど、どこでしょうか?」

「アーサー・ウィーズリーね?」

案内魔女が、長いリストに指を走らせながら聞き返した。

「ああ、2階よ。右側の2番目のドア。ダイ・ルウェリン病棟」

「ありがとう」

おばさんが礼を言った。

「さあ、みんないらっしゃい」

おばさんに従いて、全員が両開きの扉から入った。
その向こうは細長い廊下で、有名な癒者の肖像画がずらりと並び、蝋燭の詰まったクリスタルの球が、巨大なシャボン玉のようにいくつも天井に浮かんでいた。
一行は、ライム色のローブを着た魔法使いや魔女が大勢出入りしている扉の前をいくつか通り過ぎた。
ある扉の前には、いやな臭いの黄色いガスが廊下に流れ出していた。
ときどき遠くから、悲しげな泣き声が聞こえてきた。
一行は2階への階段を上り、「生物性傷害」の階に出た。右側の2番目のドアに何か書いてある。
「危険な野郎」ダイ・ルウェリン記念病棟――重篤な噛み傷

その横に、真鍮の枠に入った手書きの名札があった。
担当癒師たんとういし ヒポクラテス・スメスウィック
研修癒けんしゅうい  オーガスタス・パイ


「私たちは外で待ってるわ、モリー」

トンクスが言った。

「大勢でいっぺんにお見舞いしたら、アーサーにもよくないし……最初は家族だけにすべきだわ」

マッド-アイも賛成と唸り、廊下の壁に寄り掛かり、魔法の目を四方八方にぐるぐる回した。
ハリーとサクヤも身を引いた。しかし、ウィーズリーおばさんがハリーに手を伸ばし、ドアから押し込んだ。

「ハリー、遠慮なんかしないで。アーサーがあなたにお礼を言いたいの。
アラスター、サクヤも連れて行っていいでしょう?もう大丈夫なんでしょう?」

ウィーズリーおばさんがサクヤの背を押しながら、マッド-アイに尋ねた。
マッド-アイは「ううむ」と唸ってから、「お前がそばを離れぬよう――油断大敵だ」と許可をした。

病室は小さく、ドアの向かい側に小さな高窓が1つあるだけなので、かなり陰気臭かった。
明かりはむしろ、天井の真ん中に集まっているクリスタル球の輝きから来ていた。
壁は樫材の板張りで、かなり悪人面の魔法使いの肖像画が掛かっていた。説明書がある。

ウルクハート・ラックハロウ
1612-1697 内臓抜き出し呪いの発明者


患者は3人しかいない。
ウィーズリー氏のベッドは一番奥の、小さな高窓のそばにあった。
ハリーはおじさんの様子を見て、ほっとした。
おじさんは枕をいくつか重ねてもたれ掛かり、ベッドに射し込むただ一筋の太陽光の下で、「日刊予言者新聞」を読んでいた。
みんなが近づくと、おじさんは顔を上げ、訪問者が誰だかわかるとにっこりした。

「やあ!」

おじさんが新聞を脇に置いて声をかけた。

「モリー、ビルはいましがた帰ったよ。仕事に戻らなきゃならなくてね。
でも、あとで母さんのところに寄ると言っていた」

「アーサー、具合はどう?」

おばさんは屈んでおじさんの頬にキスし、心配そうに顔を覗き込んだ。

「まだ少し顔色が悪いわね」

「気分は上々だよ」

おじさんは元気よくそう言うと、怪我をしていないほうの腕を伸ばしてジニーを抱き寄せた。

「包帯が取れさえすれば、家に帰れるんだが」

「パパ、なんで包帯が取れないんだい?」

フレッドが聞いた。

「うん、包帯を取ろうとすると、そのたびにどっと出血しはじめるんでね」

おじさんは機嫌よくそう言うと、ベッド脇の棚に置いてあった杖を取り、ひと振りして、全員が座れるよう、椅子を7脚、ベッド脇に出した。

「あの蛇の牙には、どうやら、傷口が塞がらないようにする、かなり特殊な毒があったらしい。
ただ、病院では、かならず解毒剤が見つかるはずだと言っていたよ。私よりもっとひどい症例もあったらしい。
それまでは、血液補充薬を1時間おきに飲まなきゃいけないがね。しかし、あそこの人なんか」

おじさんは声を落として、反対側のベッドのほうを顎で指した。
そこには、青ざめて気分が悪そうな魔法使いが、天井を見つめて横たわっていた。

「狼人間に噛まれたんだ。かわいそうに。治療のしようがない」

「狼人間?」

おばさんが驚いたような顔をした。

「一般病棟で大丈夫なのかしら?個室に入るべきじゃない?」

「満月まで2週間ある」

おじさんは静かにおばさんをなだめた。

「今朝、病院の人が――癒者いしゃだがね――あの人に話していた。
ほとんど普通の生活を送れるようになるからと、説得しようとしていた。
私も、あの人に教えてやったよ。名前はもちろん伏せたが、個人的に狼人間を1人知っているとね。
立派な魔法使いで、自分の状況を楽々管理していると話してやった」

「そしたらなんて言った?」

ジョージが聞いた。

「黙らないと噛みついてやるって言ったよ」

ウィーズリーおじさんが悲しそうに言った。

「それから、あそこのご婦人だが」

おじさんが、ドアのすぐ脇にある、あと1つだけ埋まっているベッドを指した。

「何に噛まれたのか、癒者にも教えない。
だから、みんなが、何か違法なものを扱っていてやられたに違いないと思っているんだがね。
そのなんだか知らないやつが、あの人の足をがっぽり食いちぎっている。包帯を取ると、いやーな悪臭がするんだ」

「それで、パパ、何があったのか、教えてくれる?」

フレッドが椅子を引いてベッドに近寄った。

「いや、もう知ってるんだろう?」

ウィーズリーおじさんは、ハリーとサクヤのほうに意味ありげに微笑みながら言った。

「ごく単純だ――長い1日だったし、居眠りをして、忍び寄られて、噛まれた」

「パパが襲われたこと、『予言者』に載ってるの?」

フレッドが、ウィーズリーおじさんが脇に置いた新聞を指した。

「いや、もちろん載っていない」

おじさんは少し苦笑いした。

「魔法省は、みんなに知られたくないだろうよ。とてつもない大蛇が狙ったのは――」

「アーサー!」

おばさんが警告するように呼びかけた。

「狙ったのは――えー――私だったと」

ウィーズリーおじさんは慌てて取り繕ったが、ハリーは、おじさんが絶対に別のことを言うつもりだったと思った。




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